表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傷だらけになった心の隙間を埋めてくれた人  作者: #とみっしぇる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/35

14 友人Sは泣けてきた。修二は何も知らない

土曜日までさかのぼる。


午前9時ジャスト。修二は美佳との待ち合わせ場所に1時間前からいた。


前の日から、いや断られると思ったデートをOKしてもらった瞬間から笑顔が止まらなかった。


学校では誰にも悟られなかった。普段から八方美人のへらへらキャラで良かったと思った。


修二は実家から出たあと、小学校時代の同級生女子サクラコとも連絡を取り合っていた。美佳の志望校を教えてもらい、同じ高校を受験した。


その同級生サクラコは、修二の家庭事情を知っている。


サクラコは修二の頑張りも見ていたから、修二と美佳の橋渡しを頼まれたら引き受ける気だった。


だが、修二が頼んだのは真逆のこと。


美佳が知ってしまったら仕方ないけれど、自分と『チイちゃん』が同一人物だと明かさないでくれとお願いした。


『修二』のことも、単なる同級生だと言って欲しいと頼まれた。


母親に愛されなかった欠陥品の自分が関わってはいけないと言った。


けれど近くにいるくらいは許されたい。3年間だけ、そう言った。


入学式で美佳を見つけた。1週間は我慢しても思いが溢れすぎた。つい声をかけてしまった。


次は美佳の誕生日、7月8日にプレゼントだけ渡しに行った。


あとは美佳から何度か話しかけてくれた。


けれど自分の暗い過去につながりそうな話は徹底的に避けた。


自分が「チイちゃん」だと明かしたかったけど我慢した。


バイトも始めて、色んな人と仲良くなれた。一歩目を踏み出せたのは美佳のお陰だと思っている。



もしも美佳に彼氏ができても黙って見ているつもりだった。


自分は高校卒業後、遠くに消える。


修二は自分が家からいなくなると、両親の仲が元に戻ったことを知った。


現在は両親と、自分を引き取ってくれた父方の祖父母の関係が最悪。


祖父母と同居している叔父家族も、修二から離れた父親に怒っている。


両親を引き裂きそうになったときと同じく、自分がマイナス材料になっていると修二は思った。


それは絶対に修二のせいではない。優しさゆえに、そうとらえてしまう。


同じ人に長く関わると相手を不幸にする。心の奥底に刻み込まれている。



本当は脆い。


けれど、人に声をかけ続けていると誰かが優しくしてくれる。それが癒しになる。


美佳が教えてくれた通りになったから、美佳に感謝しながら頑張れている。


高2になったら美佳と同じクラスになった。選択教科の関係で卒業までクラス替えはない。


それまでと同じように、見ているだけで良かった。



けれど2週前の放課後。


美佳がバカカップルの騒動に巻き込まれてしまった。


助けに入ったとき、修二の奥底にあった本音も漏れてしまった。


美佳の彼氏に立候補してしまった。


恩人の美佳に対する気持ちは純粋な恩人への感謝だと思っていた。いや、思い込もうとしていた。


だから口を突いて出てきた言葉に、自分自身が戸惑った。



その瞬間、自分が父に助けを求めたことで家庭が崩壊しかけたことを思い出した。


間違ってOKされたら美佳を傷付けると思った。



修二が大切にしている過去の美佳の言葉、ムードを台無しにするセリフがミックスされてしてしまった。


『美佳ちゃんの心が傷付いた隙を狙えば、あとは何でもやらせてくれるでしょ』


修二は自分でもやらかしたと思った。


けれど、その言葉が美佳と再び仲良くなるための接着剤になってくれた。


美佳に気負わせない。けれど近くで一緒に笑い合える。


そして冗談に混じらせて本心を言えた。


欲が出てデートに誘ったら、なんとOKだった。


一生の宝物になると思った。


待ち合わせ場所で考えていると、1時間が過ぎていた。


そこに現れた美佳のワンピース姿を見た修二は、心から可愛いと思った。


会話も弾んで楽しかった。


美佳は、7年前の「チイちゃん」のことを覚えていた。


修二が同じ人物なら早く言ってよと、笑いながら怒られた。


何も覚えていないと思ったのに、色んなことを思い出してくれていた。


そして、美佳に教えてもらった大切な歌『大樹』を一緒に口ずさんだあと、目が合った。


心の中に、何かが「すとん」と落ちてきた。


7年前から友達を多く作ったけれど、誰といても味わったことがない嬉しさが込み上げてきた。


その上に、また外で会いたいと美佳に言われて飛び上がって喜んだ。



けれど底知れない不安がある。


自分を生んだ女から理由もなく拒絶された。


例えば悪いことをしたとか、具体的な原因があれば反省して次に生かせる可能性がある。


しかし修二を長く苦しめてきた母親の無関心の理由が、理不尽以外のなにものでもなかった。


母親が精神疾患を抱え、大嫌いな自分の弟と修二の顔が似ていた。


自分は生まれてくる場所を間違えたと思った。


最後は自分の意思で家族を捨ててしまった。


どんな理由でも、親を捨てた人間がまともと思えない。


そんな経験をした修二の心には無数の切り傷が残っている。


それでも歯を食いしばって頑張れる修二の原動力は100パーセント美佳。


美佳に重い気持ちを伝える気はない。


だから、今の適度な距離感がいいと思っている。


それで満足だと思っている。




・・・・・・なにそれ。


無理だよ、修二・・


キミのことを思うと、いつも泣けてくる。


美佳も感じた通り、キミと美佳は誰よりも波長が合うんだよ。


だから小4の春、わずかな時間で仲良くなれたんだ。


大人は肉親も含めて誰も信じられなかった。なのに、美佳の重みの欠片もない言葉が心の奥まで入ってきたでしょ。


美佳の心の中にも、キミなんかとの思い出が残ってた。


あの頃の自分を思い出してごらんよ。


誰よりも目立たなかった上に小汚ない髪してさ。栄養の偏りのせいで変な下ぶくれ。暗かったし、ろくに喋れなかった。


おまけに、ふたりは短い時間しか接してないよね。


仲良くなれた理由を考えなかったの?



キミは心に抱える不安から美佳との接触を避けてきた。だから、ふたりの交流は始まったばかり。


なのに、いきなり7年間の垣根を越えて楽しく話せたよね。


キミは人に親身に接してあげるけど、人の好意を受けるときは浅いところでブレーキをかけてきた。


悲しくても苦しくても、自分の気持ちを圧し殺して笑ってきた。だから知らない。


肝心なことだけ知らない。


キミは小4のときから一途に美佳を想ってる。


その美佳が本当のキミに惹かれ始めている。


そんな想い合えるふたりが教室なんて狭い空間で2年間も関わっていく。


どうなっていくかなんて誰だって分かる。


そんな簡単なことなのに、修二、キミだけが知らない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ