1 助けてくれたのは分かるけど、最低の告白だよ
『美佳ちゃんの心が傷付いた隙を狙えば、あとは何でもやらせてくれるでしょ』
トラブルから助けてくれた男子がいたけど、助けてくれた直後にエロい下心みえみえのセリフを吐かれた。
長髪の修二だ。
高2になった5月の曇った日。
ありもしない罪で断罪される5秒前だった。
私は美佳。164センチのショートヘア。少しつり目。友人による顔の評価は53点。
中学までバスケをやってた私は「劣化王子様」と一部で呼ばれてる。気が強くて、物言いだけはハッキリしている。
私は付き合ってないのに、ヨウタって男子を恋人から略奪したって言われてる。
1週間前に、去年のクラスメイトだったヨウタから人生初の告白された。バスケ部の彼とは共通の話題で仲良く話してたけど、そんなに親密でもなかった。
彼には彼女がいるはずだし、返事は保留にした。
すると、変な噂が流れ始めた。私がヨウタ攻略を狙った悪役になってる。
ヨウタの彼女はバスケ部マネージャーのチハル。最近は喧嘩ばかりしてたらしい。
チハルの身長は153センチ。少し丸顔で可愛いくて胸も大きい。けど自分勝手。
先月、チハルがヨウタに「アンタなんか捨ててやる」って言ったら、ヨウタが真に受けた。そんで、気軽に話せる私のとこに来たというのが真相。
私は縦長で、良く言えばスレンダー。ヨウタはチハルと真逆のタイプに目移りしたともいえる。
あまり話さない知り合いにも、なんでヨウタ程度の男に手を出そうとしてるのかって聞かれた。
警戒してたけど、何の対策もしてなかった。
チハルの情報操作により、いつの間にか私はヨウタに横恋慕した浮気相手に切り替わってた。
『善』の心を持つチハル姫が、『悪』の象徴である略奪令嬢美佳からヨウタ王子を救うらしい。
とうとう本日、月曜日。無実なのに断罪されそうになってる。
放課後になったばかりで教室にはクラスメイトも残ってる。
わざわざチハルがヨウタの手を引いて私の教室に入ってきた。チハルに何やら吹き込まれた義賊女子3人を連れてきてる。
話があるから体育館裏に来て欲しいと言われた。
チハルはドヤ顔で、ヨウタは少し申し訳ないって顔してる。
「けじめ」という名の有罪判決を私に下して、2人が仲直りするためのスパイスにしようとしてやがる。
ヨウタなんていらないけど、惨めなのはゴメンだ。
私が無罪でも、ここで押し負けたら何故か『悪役』と見なされる。
あっちは善悪はともかく、基本は『善玉』として一目置かれる。
私は今後、侮蔑や同情の目を知らない人にも向けられる。
平穏で楽しい高校生ライフが崩壊する。
阻止せねば。
腕を組んで久々に劣化王子様キャラを作った。
「見て分かるよキミたち。お互いが真実の愛だったってことだろう。横入りした訳でもないのに、体育館裏で断罪されに行く必要もないよね」
緊張で語調も強くなった。
「ヒロイン気取りの彼女さん、言いたいことあるんなら、ここで言ってごらん」
チハルが怯んだ。
「早く言いなよ!」
何とか、メンタル的に優位に立ちたかった。だから先手を取った。
ただ劣化なので王子様状態も30秒でMP切れ。次の言葉も出なければ足も固まってる。
誤算なのはチハルとヨウタも義賊女子も、何も言えなくなったこと。
せめて反論してくれれば「勝手に幸せになりなよ、ではボンジュール」くらい言って立ち去るのに・・。
焦りだした。
クラスメイトも黙り、気まずい沈黙。
みんなが、何か言ってくれって目でプレッシャーかけてくる。
冷や汗が出てる。
修羅場を展開させた私が誰より後悔してる。時間は巻き戻せない。
その沈黙を打ち破った男子がいた。
「美佳ちゃんの彼氏に俺が立候補するんだから、アンタら余計なことしないでよ」
「え」「は」「え」
振り向くとやつがいた。
修二だ。
小学校4年生のとき、2ヶ月間だけクラスメイトだったらしい。修二って名前に心当たりがないのに、私のことを恩人と言う。
長い髪をかきあげて普段通り、緊張感のない笑顔で立っている。
「・・なんで?」
「そりゃもちろん、今なら・・」
そして冒頭の最低なセリフ。
「美佳ちゃんの心が傷付いた隙を狙えば、あとは何でもやらせてくれるでしょ」
修二が近付いてきて、笑顔で右手を差し出してきた。
普段なら絶対に、こんな手なんか取らない。
けれど今だけは、この手が救いの手に見える。
軽く手を乗せる。しっかりと握り返された。
「・・修二、告白の返事は保留だけど、いい?」
「オッケー美佳ちゃん。よっしゃ。人に罪をなすりつけるバカカップルは放置プレイに決定。美佳ちゃんと俺は、お試しデートに出掛けよう」
修二が軽く爆弾投下。
チハルとヨウタの顔色が変わった。
「なっ・・」
「・・バカ?」
呆気に取られるバカカップル、義賊女子、クラスメイトを置き去りにして、私と修二は手を繋いで学校を出た。