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学院の凡人は英雄譚を描きたい  作者: (羽根ペン)
第一章 巨人暴走事件
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8.旅の準備

更新です

エイスによる折檻から数十分後、俺達四人は学院前の広場にある市場。通称、学院マーケットまで来ていた。


学院生以外にも、この学院近くに住んでいる人々や教師陣なんかも来る、生活必需品やら武器やらが買える場所だ。


「よし、先ずは日程を決めよう」


開口一番、エイスが切り出す。確かに、食料を買うにしろ、装備を整えるにしろ、まずはそこを決めないと始まらない。


とはいえ、


「実は、そこはもう決めてあります」


用意周到のシャールヴィのことだ、なんとなく既に決めてあるんだろうな。と思ってはいたが、まさか本当に決めているとは思わなかった。


まあこういうのは現地の土地勘のある奴がやった方がいいからな。そこ出身の奴にやって貰えてるのであれば大丈夫だろう。


「馬車で一日かけて王都ミズガルズまで行き、そこから更に2日かけてフィオトレイ辺境伯領へ。領地に着いたら丸3日領内での調査を行って、帰りはまた同じ時間をかけて学院まで戻ってきます」


「調査って言っても、何するんだ?辺境伯領ってことはそれなりどころかかなりでかいハズだろ?丸1日で周りきれるのか?」


「そこについては問題無いです。既に父上が領内の各都市、各村へと騎士達を派遣しており、彼らからの文書を見てそれを判断します」


「・・それだけではあるまい?それだけならば上級生が危険だと断じたことの説明が付かん」


「はい。勿論です。まず大前提として皆さんに知っておいて欲しいのが、辺境伯領がかなり大きいことと、領都フィオトレイがその辺境伯領の最奥にあることです」


「あー、つまり村をいくつか通っていかないと領都に辿り着けないんだね。で、それらの村で既に巨人が暴走してた場合、俺達にはそれが分からないと」


「確かフィオトレイ辺境伯領って神域にも若干接してたよな?」


「はい。概ねエイス君の答えの通りです。付け加えるなら、そういった村は全て、近くに森や、モズ君の言ったように神域があるため、強力な魔物が発生しやすいんです」


「強力な魔物に関しては、多分常駐してる騎士達で何とか出来るんだろうけど・・村内で暴れる巨人と魔物に挟まれたら、そりゃ危険だろうな」


「ふむ・・出てくる魔物はどれくらいの強さだ?

場合によっては冒険者を雇った方が俺達を誘うよりも上手く対処できそうだが。」


「魔物の強さは、冒険者ランクで換算すると・・」


「はい!到着〜!」


話をさえぎって、エイスが俺達に声をかける。どうやら少し話し合いに熱中してしまっていたようで、目的地に着いたことに気づけなかったらしい。


目的地とは今回の場合は冒険者ギルドのことを言う。見上げてみれば、木製の開きやすい両開きの扉と、その上に盾の上で槍と弓、剣が交差する絵が描かれた看板が視界に入る。


「相変わらずでっけえなぁ」


「ちょくちょく来てるけど、それでもココのギルドはまだ見慣れないねぇ。ワルドガイストやラビリンスのギルドよりも建物が大きいから、最初見た時はビックリしたよ。」


「巨人用入口があるからでしょうね。ミズガルズまで行けば、これよりもっと大きいのが見れますよ。」


「・・・周りの迷惑だ。中に入るぞ」


確かに、入口にずっといるのはあまり良い事じゃないからな。他の人達の邪魔にもなるし。


「・・そういや、なんで今日はギルドに来たんだ?確かにギルドでも良い旅道具とか売ってるけど、専門店の方が質がいいのは多いだろ」


「あぁいや、ギルドには何かを買う目的で来た訳ではなくて、ただちょっと依頼の取り下げをしに・・。」


「依頼の取り下げ?」


「これは、さっきのダバーシャ君の質問にも・・」


「ダバーシャでいい。君付けは気味が悪い」


「あ、なら俺も呼び捨てでいいよ。モズって気楽に言ってくれた方が短くて楽だし。」


「俺もエイスって呼び捨てで・・」


「エイス君はちょっと・・本当ならエイス様って呼ぶべき相手ですから・・。」


「そんな・・。モズやダバーシャは率先して呼んでくれたのに・・!!」


俺の場合は初めて会った時にまだ第二王子なんて言う高度な身分だと思わなかったからな。そん時に呼び捨てで慣れちまったから以降も呼び捨てで通してるだけだ。あと様付けするとこの野郎普通にキレるからな。


「で?何が俺の質問と被るんだ?」


「あ、えぇとですね・・元々、学院の先輩方に調査の依頼を出すまでは冒険者ギルドに依頼を貼っていたんですけど・・」


「誰も受けてくれなかったってとこかな?」


「はい。何でも、費用と危険度が釣り合ってないとかで・・」


「費用と危険度が釣り合わない・・か。依頼内容の危険度はさっきの奴でいいとして、費用か・・。どんくらい出すことにしてたんだ?」


「えぇっと・・金貨」


金貨!?


「1000枚を・・。」


1000枚!?


「いや高すぎるだろ!?」


国の調査ならまだしも、たかだか一辺境伯領の調査に、金貨1000枚!?


「そら誰も受けてくれんわなぁ・・」


「てっきり費用が少なすぎるの方かと思ってたけど・・これはちょっと予想外だな」


「赤毛・・貴様、馬鹿なのか?」


「え?いや、でも、うちの領内をそれで解決してくれるなら安いもんかなって・・」


安い!?今金貨1000枚を安いとか言いやがったぞこの馬鹿野郎!


「よ、よく考えてみろ?シャールヴィ。一般の冒険者が一日いくら稼ぐか知ってるか?」


「えぇと・・金貨10枚でしょうか?」


あぁ駄目だ。価値観が狂ってやがる。


「シャールヴィはさ、冒険者ごとに階級があることは知ってるよね?統一言語で言うSからEまでの6つのランクのことなんだけど。」


「はい。知ってます。」


急にそんな話を振られたからか、シャールヴィはキョトンとした顔をし始める。


「一般的な冒険者って言うと、大抵はBランクかCランクの冒険者のことを言うんだ。彼らの一日の稼ぎは、依頼にもよるけど、多くて銀貨10枚。つまり金貨1枚程度。少なければタダ同然の日だってある。」


「っ!?」


やっとこさ事の重大さを理解したのか、シャールヴィの顔が青ざめ、表情が硬直する。


「金貨1枚だって稼げてる方どころか、Bランクでも上の上ぐらいの稼ぎだからな。実際、報酬の平均をとるなら銀貨5~6枚くらいだろうよ」


追い打ちをかけるように俺がそう言えば、シャールヴィは大慌てで飛ぶようにギルドのカウンターに走っていき、依頼の取り下げを要求した。


ていうか、アイツめっちゃ足速いのな。かけっこで本気出したら、ダバーシャでも勝てるか怪しそう・・。


とまあ一悶着あった訳だが、シャールヴィが依頼の取り下げをしに行ってる間に冒険者ギルドの簡単な説明をしよう。


まずギルドとは、同じ職業の者達が集まって利益などを独占し、相互に補助を行う組織の事だ。いや、『だった』だな。あくまで今のは統一戦争前の話だ。


ただ、これらの組織も漏れなく統一戦争の影響をうけているため、現代では独占の形式は薄れており、、相互の補助を目的とした組織になっている。冒険者ギルドであれば依頼の斡旋。魔術師ギルドだったら魔道具や触媒の格安売買とかだな。


そんな組織が数多くある中で、冒険者ギルドとは、いわゆる何でも屋達が集まったギルドと言ってもいいのかもしれない。

所属している者は職業冒険者として都市内の清掃や郊外の村の警備、増えすぎた魔物の退治やダンジョンの攻略、珍しいのだと貴族の専属護衛なんかもあったりする。


彼らは、冒険者としての活動年数やその実力によって六段階に分けられ、それぞれのランクに応じた依頼を受けることが出来る。


依頼を受ける際は、冒険者になると貰える冒険者証明書と呼ばれるカードを読み取り機に挿入したまま、掲示板と呼ばれる、魔術で可視化されたホログラムのようなところから自分のランクかそれよりも下のランクの依頼を選択。


次にギルドカウンターに証明書を持って行き、受付の人から、しっかりと依頼を受注できているかを確認したという証拠の魔力インクの判子を押してもらって受注完了となる。


依頼を取り消したり、より詳しい依頼内容を聞く時にも、ギルドカウンターにいる受付の人に頼めば、手続きを行ってくれたり、依頼内容を説明してくれたりする。


冒険者ギルドは、概ねそんな感じの組織だ。他にも、この学院都市には魔術師ギルドや商人ギルド、鍛治士ギルドや錬金術師ギルド、鑑定士ギルドなんかもあったりするが、その辺の話はまあ、今は割愛しようと思う。ちょうどシャールヴィも戻ってきたし。


余談だが、さっき俺が言った専門店は大抵はこれらのギルドが開いている店だったりする。


「お、お待たせしました・・」


因みに、後で聞いた話だが、シャールヴィはより多くの人に依頼を受けてもらおうと思い、受注可能範囲をCランクからにしていたとのこと。


費用と危険度どころか、危険度とランクすらも釣り合っていないとかいうとんでもない事になっていたそうだ。・・そりゃあ誰もそんな依頼受けたくねえよな。怪しすぎて。


ま、いいや。もう終わった事だし。


「それじゃあ、食糧とか色々買いに行こうぜ」


「うん、そうしよう」


フォグノースは湿気が多く、寒冷な場所だから、食べ物選びは気ぃつけねえとな。足が早い肉類は食えねえと思った方がいいだろ。


「持っていく食糧は3日分でいいと思います。帰りの分は、ミズガルズに着いてから買えるので」


「OK」


「自分の好みもあると思うから1人ずつ自分の分だけ買ってこよう」


「あ、お金のことは気にしないでください。僕の家が持つので」


というわけで、その場は1度解散となった。次に学院の時計台が鳴った時にもう一度学院前に集まろうという約束を交し、それぞれが市場に向かう。









そんなこんなで、料理人ギルドと農家ギルドを渡り歩き、必要な分の食料を揃えた。


持っていくのは乾パンと、魔術で腐りにくく加工された野菜類、干した魔物の肉だな。

・・最新型の再暖機があればまた話も違うんだが。アレがあれば、魔素で時間かかるけど温め直したり出来て、それなりに食材の自由度があったんだけど・・。アイツらに聞いたら無いって言ってたし、そこは諦めるしかないだろう。


「んで、もう鳴ったからアイツらそろそろ来るんだろうけど・・」


「おーい!モズー!こっちこっち!」


視線をめぐらし、市場の方を見れば、手を振ってこちらに走ってくるエイスと、その横で謎の老人に買った物を持ってもらってるシャールヴィ、何か、食糧にしてはとてつもなく大きい物を持ったダバーシャがこちらに歩いてきた。


「それじゃあ皆で買ってきたものを確認しようか」


「ああ、その前に。食糧とか荷物は全部俺が預かるよ。俺の家の倉庫デカイから、そこから召喚魔術で取り出すことにする。そしたら荷物あんま持ってかなくていいだろ?」


「あ、じゃあそうさせてもらいます。持っていく時はセバスに声をかけてください。手伝わせますので」


「じゃあ改めて、皆で何買ってきたか発表しよう!」


「先ずは俺から。まあ無難に干し肉とか、長持ちする野菜とか乾パンとかかな。倉庫の保存性は高いとはいえ、3日も常温のとこに放置するんだったらこんぐらいにしといた方がいいかなって」


うん。無難。普通オブ普通だな。


「じゃあ次は俺だね。俺は・・」


そう言って、エイスが買い物袋から取り出したのは・・果物と肉。それも生。


「は!?生肉!?」


旅だぞ!?冷凍庫なんかないんだぞ!?


「いや、氷魔術使って凍結させるから問題無いでしょ?」


確かに・・。


「それはそうか・・」


果物は・・多分果物も同じように処理するんだろうし、何も言うまい。生肉が出てきた時はビビったけどな。


「次は僕ですね。僕は・・」


隣にいた執事・・セバスとか言ったはずだ・・の持つ袋からシャールヴィが取り出したのは、内容的にはごくごく普通の旅用の食糧セット。しいて問題点を上げるとするのなら、それらを入れている箱がとんでもなく豪華な装飾が施されているところだろうか。


「あ、あの・・シャールヴィ・・さん?こちら、一体幾らしたので・・?」


「金貨で・・2枚程ですかね?」


バッカじゃねえのこいつ!?普通どんだけ大量に買っても金貨なんか行かねえよ!?


と、今にも言いそうな俺の雰囲気を察したのか、ゼバスさんが鋭い目つきで俺を見据え、一言。


「シャールヴィ様には良質なものを食べて頂きたいのです」


「え・・ぁ・・はぃ・・・」


ちくしょう!んな事言われたら何も言い返せねえよ俺!!


もういい!次だ次!


「ダ、ダバーシャは何を買ってきたんだ?」


「俺はこれだな。今話題のレーアの鍛冶師であるファブロが作った、最新の長剣!見てくれ!この神秘的な程に洗練されたフォルムと見蕩れる程に研ぎ澄まされた刃の鋭さ!使い手に配慮された持ちやすい柄!どうだ!この機能美!華美な装飾や無駄な形状をしていないシンプルな形のロングソード!」


「食い物ですらねええええ!!!」


なんなんだよコイツらああああ!!


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