41.オマエハダレダ
更新です。
2週間経っちゃった・・・。
ま、まぁ、もう春休みなんでね!こっから加速しますよ!・・・多分。
「フフッ♪」
声が聞こえた。
撫でるように甘美で、まるで耳元に日差しを当てられているかのように暖かな声が。
「・・・・」
暗闇が晴れた。
世界を覆い、身体を捕らえていた『黒』い何かが、たちまちどこかに消えて行った。
途端、目に映るのは数多の情報。
祖父から譲り受けた焦茶の瞳に映るのは、いつかの朝に見かけた女神と、それを縛り、吊し上げている『黒』い触手。そして、そんな彼女に向けて掲げられた、同じく『黒』い色の刀を握る自分の手。
「「え?」」
困惑が加速する。
何故?どうして?why?何がどうなってこうなった?
「????」
頭の中をクエスチョンマークが埋め尽くす。
確かに俺は首を切られた筈だ。それは間違いない。現に、未だに首に残ってる刃の冷たい感触も、切られた時の激痛も、一瞬見えた、血を吹き出している自分の首元も。その全てが鮮明に、俺が死んだことを証明している。
事実、周囲に飛び散り、図書館棟の11階を地獄絵図に染め上げているのは俺の血だ。俺を中心として放射状に広がっているからまず間違いない。
・・・じゃあ何で、俺は死んでない?
首を落とされ、こんだけ出血していて尚、俺の命は尽きていない。俺の命は零れていない。それどころか体調不良にすらなっていない。なんなら、切られる前よりも調子がいいぐらいだ。
一体何が起こっている?
状況が掴めない。俺の身体に何が起きているのか、今この場で何が起きたのか、そもそも何がきっかけでこうなったのか、何もかも全部分からない。
「「・・・・」」
・・・気まずい沈黙が、目と目が合ってしまった両者の間に流れていく。
知りたいことも聞きたいことも山ほどあるが・・一先ず、彼女を下ろしてから考えよう。
何がどうなってこうなったのかは分からんが、少なくとも、コレが『黒いナニカ』ーー以前、『ヴォイド』と名付けた力(もしくはそれと似たような物)ーーである以上、俺だったら解除できるかもだしな。
と、そう思い、先ずは下ろす準備をするために、声をかけようとした次の瞬間。
「・・・ぁ」
バタン
唐突に、静寂を切り裂いて、扉の開く音が轟いた。
扉の奥から現れたのは、見知った男子生徒が3人と、知らない女性が2人。
男子生徒3人は言わずもがな、エイス、ダバーシャ、シャールヴィの3人のことだが、女性2人の方はてんでわからない。
・・いや、前言撤回。1人は多分、さっき受付の所に居た係員の人だ。俺とダバーシャの話し合いを少し煙たそうな目で見てたから覚えてる。
でも、もう1人は・・・ダメだ。分からん。此処に編入してもうそろ半年ぐらい経つが、その間、一度も、あんな綺麗なプラチナブロンドの髪した女の人を見たことが無い。
ただまぁ、学院の制服ーー若干改造してたり、所々違うところはあるがーーを着ている以上は、学院の生徒だとは思うが・・・。
てか、この状況見られてるのマズくないか?『黒』い触手に吊し上げられてる美少女と、その真正面に立つ、同じ『黒』い色の刀握ってる俺っていう構図は、些か・・っつーか、かなり・・俺側に不利な様な・・。
・・・これは、人生終わったか?
おかしいな。俺、寧ろ被害者側の筈なのに、なんでこんなことになってんだ?
てか、そうだよ。危うくこの状況のマズさで忘れかけてたけど、俺この女神級の美少女に一回殺されかけて・・いや、間違いなく殺されてんだよ。
それなのに、なんでこんな、この場の惨状全部俺のせいみたいな状況に置かれなくちゃなんねえんだ?
というかそもそも、これ、今どんな状況だ?誰か説明してくれよ。今、ここで何がどうなってこうなってんだ?一体、俺の身に・・この学院に、何が起きてるって言うんだ?
ーーーと。まるで、俺の思考に区切りがつくのを待っていたかのように、一人の青年が重い足取りでもって俺達2人の眼前に歩み寄る。
普段であれば飄々とした、それでいて真剣さも兼ね帯びた輝きを放つ碧眼を翳らせ、シワひとつ似合わない秀麗な眉目に困惑と疑念を浮かべたエイスが、俺と美少女を交互に見遣る。
恐らく、今この場にいる誰しもが、冷静さを欠いていた。
正しく混沌とした状況を前に、全員の脳が「?」で埋められるのも納得だろう。
故に、絞り出すように、いつもの軽々しい口調を抑えて放たれたエイスの台詞は、この場に居合わせた人物全員の総意であったことだろう。
即ち、
「・・・えーっと、つまり、これは・・どういう状況?」
ーーー教室棟、最上階『生徒会室』
あれから数十分。奇妙な会合を果たした俺達は、一先ずその場を、駆けつけてきた生徒会の面々と図書館の係員に任せ、改めて状況の整理をしようと、ここ『生徒会室』まで、女子生徒2人に連行されてしまった。
「それじゃあ説明してもらおうか。一体あそこで、何が起きていたのかを」
開口一番に、まだ全員が座り切ったかどうかすら怪しいタイミングで、こちらを向いたエイスが口を開く。
友人とはいえ・・いや、友人だからこそ、疑念と困惑に満ちた瞳で糾弾する様に話されるのは、なんか・・こう・・来る物があるというか・・・。思ったよりショックだな。
・・・とはいえ、そんな目で見られた所で、俺には何一つ・・と言えばまぁ嘘にはなるが、ほとんどそれに近いぐらいの情報しか出すことは出来ない。
何故ならば、最終的に何が起きてあんなことになったのかっていう、所謂核心的な部分に関して、俺は何一つ情報を持ち合わせていないのだから。
本当に、俺は、斬られたと思って目ぇ開けたら目の前にあの惨状が広がっていたことしか分かっていないのだ。
それ以上の事は何一つ知らないし、何が起きていたかも分かっていない。はっきり言って、持っている情報は、途中から入ってきた皆とそう変わらないだろう。
だから、この場で最も「何が起きたか」を知っているのは、恐らく今俺の目の前に座っているこの女性。
いつかの朝に偶然出会ってしまったこの人こそが、この問題の核心を握っていると言っても過言では無いだろう。
そう思い、チラ・・と彼女の方を見てみると・・・。
「っ」
「ぇ・・・」
全力で目ぇ逸らされたんですけど・・・。
え?俺とは目も合わせたくない的な?そんな酷いことしました?俺?いや、触手で縛って吊し上げるとか、その上で刀突きつけるとかやってたから、してはいるのかもしれねえけど、でも、貴女も俺のことぶった斬ってるからどっこいどっこいでは?
てか、そっちが一番情報持ってんだからさっさと話してくれよ。俺何も言うこと無いって。
せいぜい、間違ったとこに置いてある本手にとったら切りかかられたくらいで・・・。
いや、話すことあるやん。そもそもの元凶それやん。何で今の今まで思い出せなかったんだ俺は?
もしかして、コレも首吹っ飛ばされた影響か?首飛んでるから脳への血液循環が上手くいかなくて処理に時間かかってる的な?
はっ!笑えねぇ。何が笑えねぇって、マジでその説が有りえそうだから笑えねぇ。
いや、今はそんなことはどうでも良・・くはねえけど、一旦脇に置いといて、取り敢えずあの本の罠について、皆に共有しとかねえt・・・。
「・・・フーーーーーーーーー・・・」
不意に、長い、長い溜息が、重苦しく降りていた沈黙の帳を押しのけて、その場にあった全ての鼓膜を揺さぶった。
一息。ただそれだけで、全ての視線を否応なしに支配し、奪いとった少女は、覚悟を宿した瞳を輝かせ、意を決したように口を開く。
「・・・じゃあ・・先ずは私から・・・」
瞳に宿る強烈な輝きとは対照的に、おずおずとした、弱気な口調で、彼女は事態の一部始終を話し始めた。
「・・一応、一通りは説明したけど・・」
そう、最後の一言を締め括って、彼女は身体から力を抜いた。同時に、いつの間にか力んでしまっていた俺の身体も、風船の空気が抜けるかのように弛緩していく。
が、これで話が終わりかと言えば、そんなわけは無い。むしろ、ここからが重要だ。今のはただの事実確認でしかないのだから。
なんなら、事実確認をしたことで、より謎が深まったまであるだろう。
なんだよ、首がくっつくって。我ながらキモイわ。スライムかなんかか俺は?
「・・・えーっと、取り敢えず何が起きたかはまぁ、分かったよ?分かったけどー・・」
そう、言葉を濁したブロンド髪の先輩ーーエリザ先輩と言うらしいーーが気味悪そうな表情で俺を見る。
まぁ、言いたいことは分かるつもりだ。首を切られてなお生きている存在なんか、この世界にはそうそう居ない。
居たとして、大抵、それは実態を持たない神や霊的な何かか、もしくは、元々死んでいるとか、死者から生まれたとかそういう性質を持つ魔物だろう。
どの道、人間では無いことには変わりない。
当たり前だ。首を斬られて尚生きている様な奴が化け物でないはずはない。
かくいう俺も、存在としては既にそちら側なのだろう。直感というか、魂というか・・一度死んだからだろうか?そういった感覚が、いつにも増してよく働くからこそ、その考察がすんなりと腑に落ちた。
途端、喉奥から嫌な酸っぱさと嘔吐きが込み上げる。自分の体が、得体の知れない何かに置換され、いつの間にか侵されていたということを自覚した瞬間の気持ちの悪さは・・はっきり言って、言葉に出来るか怪しいほど、苦痛と不快に塗れていた。
「うぶっ・・・」
込み上げる吐き気が限界を迎える。ゆっくりと身体が前のめりになり、もはや自分のものかも分からない手で自分のものかも分からない口を押さえてーーー
「ヲェ・・・」
フラッシュバック。自分と言う存在の崩壊。うるさいほど脳内を駆け回る「自分」という言葉の大合唱。
何か、自らを支える根底的な、根本的なナニカが、合唱が反響する度にゴリゴリと削られていくのを感じる。
「モズ!大丈夫かい!?」
「エ″・・ィ・・ス・・・?」
聞こえてきた救いの声も、差し出された救いの手も、その意味を理解する前に、汚濁の如き不快感に飲み込まれて消えていく。
深い深い穴の底へ、真っ逆さまに落ちていくような浮遊感。揺らぎ、崩れた自分と言う足場ごと、『黒』に落ちる感覚がずっと続いて止まらない。
俺は何者なのか?俺はなんなのか?
生きているのか?死んでいるのか?
俺はーーー本当に、人間なのか?
「ヘェ・・・ソウなるんだネ。キミは」
・・・・・ォエ




