39.嵌められたのは
更新です。
毎回1週間ギリギリ前かちょいオーバーなの、ちょっとどうにかしたいですね。
「『人種論ーー統一戦争後期から今までの人種とその特徴・差別についてーー』・・統一戦争後期からだと、パッと見た感じ無さそうだが・・・あぁ、やっぱりな。基本の5種族と異世界人ぐらいしか書いてねえや」
あの後ーー14階の事だけでなく、図書館での本の借り方等も含めて、一通りの説明を終えた後、俺達は、探しに行ってないことがエイスにバレてドヤされる前に、さっさと目的の本を探しに行っちまおうという事で、早々にその場を離れ、各々の目星をつけた階へと解散していった。
「やっぱ社会科学系だと、そもそも人種関係の本が少ねえか・・・」
無難に、5階の自然科学分野の生物分野から探し始めたダバーシャと違い、俺は、4階の社会科学分野の方から探し始めちまったからなぁ・・・。
やっぱ、この大陸に魔族が居ねえ以上は、人種ごとの差別に関わる控除だとか、法律の歴史遡ってもあんまし目ぼしい物はねえか。
そもそも、現行の法整備がなされたのって、確か統一戦争が終わってからだしなぁ。
世界史の授業で習ったところによれば、『魔族』っつー種族は、統一戦争の直前から統一戦争前期ぐらいの時期には、既に別大陸・・所謂『魔大陸』ーーだったか?に移住してたらしいし・・・。
「いやぁ・・・やっぱり、社会科学系だとどうしても時代がズレちまうなぁ。所々、統一戦争前あたりの記述も有るには有るが・・大体全部、今の七大国の原型になった国家か、そのものの昔の記述だし・・・」
それに、ここじゃあ有っても魔族自体の記述した本だけで、その能力について細かく記述した本は無さそうだしな。
「別の階行くかぁ・・・」
通信機からの連絡によれば、エイス達は皆下の方の階で探してるって言ってたから・・そうだな。時間的にも、そろそろ上の方の階に行くべきか?
「てかまぁ、行くべきだろ。昼過ぎちまったしな」
いつまでもウダウダしてると、修練の時間に間に合わなくなっちまう。
問題は、どこに行くかだが・・・
「ま、行くとしたら11階か12階かなぁ・・・。その辺だったら、人種とか歴史とか、そういう所から責められるだろうし」
11階は1~3階、12階は4~6階の内容の奴が纏められてんだったっけか?
「11階行くかぁ・・。魔族の歴史とかそっち系の観点の奴から探してけば、自ずと見つかってくるだろ」
そうと決まればすぐ行動だな。
この階の本は大体確認したし、忘れ物や見落としも、多分無い・・。俺が人である以上絶対は無いけど、まぁ無いだろう。
第一、そんなこと気にしてたら日が暮れるどころか日が昇ってもまだ終わんねえ可能性だってある。
「こういうのは諦めが肝心だ」
それに、もうそろ昼飯時だ。時間的にもちょうどいい頃合いだろう。
「あー・・昼飯だけ、どうするか聞いときゃあ良かったな」
「はぁ・・はぁ・・はぁ・・」
き、キツい・・・!なんだってこの図書館はこんな縦にデケェのにエレベーターの1つも付けねえんだよ・・!7階分も階段昇らされるこっちの身にもなりやがれってんだ全く。
「き、教室棟・・には、着いてんのに・・何で・・・こっちは・・はぁ・・・ねぇんだよ・・」
ふざけてるぜマジで。使い勝手が悪すぎるだろ。まぁそもそもこの論文エリア利用する奴そんなに居ないだろうから、つける需要があんま無いとか、そういう理由だったら納得できるけど・・・。
いや、文庫とか小説みてえな、皆が借りに来る本が置いてあんのだって9階だぞ?1階からそこまで上がってこいと?高等部の生徒だけが使うわけじゃねえんだぞ?初等部の子供達とか相当キツいだろ上がってくんの。
「今度、生徒会か先生宛に陳情書とか出してみるか・・」
それで改修工事とかされるかどうかはだいぶ怪しいけど、しねえよりはマシだろ。多分。
・・・さて。つーわけで、どうでも良くはないけど、今は関係ない事を考えてる間に着いた訳だが。
「うーん・・どのエリアから探そうか」
11階は手前から奥に向かって、3つのエリア・・総記(辞典)エリア、哲学エリア、歴史エリアの順で分割して本が置かれてる訳だが。
「手前から順当に見てくっつってもなぁ・・・」
辞書エリアってほぼ1階と置いてある本同じなんだよな確か。それこそ、『魔族大全』みたいな辞書でも無い限り、俺の目を引く物は無・・・
「・・・『冒険者ギルド発行!依頼に役立つ魔物大全!ver.5』」
『魔物』・・確かに、『魔族』と『魔物』は共に人類種の敵対者として扱われることは多い。現に、物によっては、百科事典の『魔族』の欄に、『魔物』とほぼ同じ様な内容の記述をしている事もある。
なんなら、世間的な評価としても、かなり曖昧な状態ではあるが、「まぁ、同じようなもんだろ」みてえな扱いをされている以上は『魔物大全』にも載っているだろうと考えるのはまぁ、自然ではあるが・・・。
問題は、ここに『魔族』の使う能力が載っているか否かだ。ver.5ってーと、かなり前。冒険者ギルド立ち上げ初期からちょっと経ったくらいの奴だろう。なんせ今ver.80ぐらいまで出てるからな。
となると、これが編纂された年代も粗方説明が付く。というか、冒険者ギルドの発足が統一歴の最初の方・・えーっと、確か統一歴15~18年頃の出来事だった気がするから・・・。
「ざっと480~460年前くらいの本か」
にしては、装丁とかが全然剥げてねえし、紙の劣化もそんなしてねえ様な・・まぁ、十中八九、魔術加工か魔術を利用した複製だろう。その証拠に、本自体から薄らと魔力が立ち上ってるのが見えるし、最後のページには魔術陣らしき物も書いてあった。
「・・でも、ver.5だけがここに置いてあるってのはいささか変だな」
普通こういうのはまとめて置いておく物だろ?よしんば1冊だけ漏れたとして、せいぜいがver.1かver.80みてえな、最初の巻か最後の巻ぐらいの筈だ。
それが何で5巻だけ・・?
大方、返す場所を間違えた誰かがここに置いたりしたんだろうが・・・
いや、確か学院の図書館は係員がしっかりと番号を照らし合わせて棚に戻す仕組みであり、分校と違って生徒が直接棚に戻すっつーのは採用してなかったはずだ。
まぁ、こんだけの量の本が所蔵されてんだ。生徒に返却させるなんざやらせたら、それこそ返却ミスの多発で本棚ぐっちゃぐちゃになるだろう。
そんなことして、後で直す手間が増えるなら、最初から係員が返しに行って、キッチリと本棚が調えられた状態を維持した方が効率的だ。
故に、返却ミスは滅多なことがない限りは起こりえないと考えて良い。
「余計謎が深まったな・・・」
これを滅多な事と捉えるべきか、それとも故意に置かれた、誰かに向けた罠と取るべきか・・・。
「ま、どちらにせよ、俺には関係ねえ話だな」
言っちゃあ悪いが、こんな辺鄙な場所で俺のことを罠にかける奴なんざ居ねえだろうし、罠にかけられるようなことをした覚えもない。
第一、俺が今日ここに来ること自体が賭けだ。未来視とかでも無い限り、そこに確実性は存在し得ない。確実性の無い罠をはるバカなんざ、この学院には存在しないだろ。
「とりま、中確認してから戻しとくか」
もしかしたら、本当にこの本を借りたがってる人が困ってる可能性もあるからな。
・・まぁこんな古い本借りる奴、いるかどうかは怪しい所だが。
多分居ねえと思う。俺だって、こんな事態にならなきゃ絶対こんな本読まなかっただろうしな。
「んーと、目次目次・・・アレ?こういう辞典って普通、本の手前の方に目次と索引みてえなのが書いてある筈じゃ・・・」
それとも、『魔物大全』だけ違ったりする?
いや、そんなことは無いと思うが・・・ギルドに置いてある最新の奴にだって、しっかり目次と索引はあった気がするし。
・・・もしかしてアレか?あんまし昔の物だとそういうのが書いてなかったりする的な奴か?
だったらまぁ、納得はできるが・・俺、初期の方の『魔物大全』読んだこと無いしな。
「まぁ、そういうもんだと思って読むしかな・・・」
・・・本当に、そんなことありえるのか?目次だけ無いとか、索引だけ無い物ならまだしも、両方が無い奴とか本当にあるのか?だって、これより前の辞書・辞典にも両方とも載ってる物があるくらいだぞ?
例えば世界的に有名な『魔術用語大辞典』なんかは、それこそ統一歴以前に書かれた辞典だが、しっかりと目次も索引も両方が載っていた筈だ。
だというのに、この辞書にそれらが載っていないというのは、いささかーーというかかなりーー不可解だ。
こういう場合、先ず最初に思いつくのは、中身が違う可能性・・つまりは、別の本にこの『魔物大全ver.5』のカバーを取り付けてあるって可能性だが・・・。
「・・・ビンゴ」
思った通りだ。外装のカバーだけが『魔物大全』で、中身は全く別の本になってやがる。
となると、やはりこれは誰かが誰かに対して置いた罠である可能性が非常に高い。
「問題は、誰が誰を嵌めようとして置いたのか・・・だな」
と言っても、なんのヒントも手がかりもない以上、これを実行したのが誰なのか、現時点で特定するのは不可能だ。少なくともこの学院に入ることが出来る全員が容疑者たりうるのだから。
故に、『誰が』の部分はこの際無視だ。多すぎてとても絞れやしねえ。ただ、『誰を』の部分は、ある程度であれば絞れるのではないだろうか?
例えば、定期的に本の位置のチェックをしに来る係員。彼らを嵌めるために置かれた罠だとしたらどうだろう?
あるいは、魔物学に興味がある生徒や、ギルドの歴史に関心がある生徒なんかも、じっくりと読むかどうかは分からないが、手に取って、パラパラとページを捲ったりはするんじゃなかろうか。
そう考えると、まだかなり人数は多いものの、やはりある程度対象を絞ることは出来ると見て良いだろう。
「ま、今んとこ最有力候補は図書館の係員さんかな」
さっき上げた他の二つや、他にも思いつく幾つかの引っかかりそうな人達を引っ括めて、彼らが、恐らく一番かかりやすい・・というか、職業上絶対にかからざるを得ないからな。そう考えるのも当然だろう。
「次にかかりそうなのは・・・」
誰だろうな。まぁ、あとは全員、確実にかかるとは言えないからな。まぁどっこいどっこいな気がするが。
「とりま、それとなく警告的なのはしといた方がいいか?」
この罠をかけた奴がどんな目的でこんなことをしたのかは分からねえが、誰かに対してよからぬことをしようと考えてこんなことをしている筈だ。
となれば、罠をかける対象に対して、これ以外の何かをしないなんてはずが無い。
そもそも、この罠自体、これだけで終わる可能性は極めてひk・・・・
「あ」
そこまで考えて、考え続けて、馬鹿な俺はようやく気付いた。
自分が、もう既に罠にかかっているという事に。
瞬間、一閃。薄暗い室内に差し込む陽光を反射して、一振の刃が頭上を掠める。
避けられたのは全くの偶然だ。あともう5ミリ俺の背が高ければ、あともう1秒気づくのが遅れていたら、両断されていたのは本棚ではなく俺の首だっただろう。
「な、なんだァ!?」
こんなに上擦った情けない声が、まさか自分の喉から出るなんて知りたくなかったが、今はそんなことを気にしている場合では無い。
正しく迅雷の様に迅速な追撃は、既に目と鼻の先まで迫っている。その数、都合・・沢山。
「っ」
もはや声すら上げられない。本来線の攻撃であるはずの斬撃が、面と見紛うほどの数で向かってきているのだから、声を上げている暇どころか、息をつく暇すら無い。
終わった
と、辛うじて回っている脳みそが、諦めの思考を弾き出す。一切の状況を読み取れていない眼球は、十数分割された世界が、自身へと収束していく様を、何をするでもなく見つめ続けた。
そんな所に、突破口など無いというのに。




