31.エピローグ
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「終わった・・な」
「ふぃー・・」
安堵の吐息を吐き出し、俺とエイスは大の字の姿勢で地面に寝転がる。急激に回復させた魔力を再度急激に消費するという、よく考えなくても身体に悪い行いをしたせいか、頭痛と目眩が連続して、とても立っていられない。
だがしかし、そうも言っていられないのだ
やり切った感を出しているが、未だにこの騒動の元凶とされる神ロキは健在であり、巨神・・ではなく、ユミルも気絶こそしているが、その暴走が解決した確証は無い。
故に、警戒するに越したことはなく、気を抜いてぶっ倒れてる俺達と違って、シャールヴィとダバーシャは座り込んだままロキを警戒している。
と言っても、エイスから微量の魔力と冷気が流れてる辺り、こいつも警戒はしてそうだが。
かくいう俺もフィリップによる強化は解いていない。気を抜いているように見え、ガッツリ警戒態勢なのだ。
「クソ!クソクソクソクソクソ!!」
怒号混じりの悪態がまるで空気を鳴動させるかのように木霊する。奴が一言放つ度に地面が揺れ、大気が唸る。
「下等な種別共がよくも僕の計画を邪魔してくれたな!?到底!許される行いでは無い!お前達には・・死を。否、死すら生温い滅びをもって、この罪の償いを受けてもらう!」
宣告と同時に掲げられる少年の細腕。その指先に、虹色の■■が集束し、一変。相反する程の深く暗い黒の点が、まるでカゲロウのようにボゥッと灯る。
「ッ!」
「クソ神が・・!」
「させません・・・!」
「チッ!」
閉ざす者にして終わらせる者。さっき奴はそう言っていた。ならば、その名に相応しい滅びを呼び起こそうとしているのかもしれない。
が、そうはさせない。やっとこさあんだけ強大な敵を倒したんだ。この勝利ムードを、あんな巫山戯た力一発でぶち壊されてなるものか!
四人全員で魔力を振り絞り、満身創痍の身体に鞭打ってその場に立ち上がる。見据える先は、ひたすらに暗く黒い、墨が垂れたかのような黒点。
そこだけ、世界が歪んでいると思える程の、純粋な黒。一片の艶も、欠片程の光も無い、闇そのもの。
「滅びろ人間ッ!」
【■■魔法ーーーラ■■ロ■】
指鉄砲のように構えられた人差し指の先。灯っていた黒点が弾丸のように射出される。
容易く人を殺し、世界を捻じ曲げる暗黒の弾丸が、音を置き去って飛翔する。
受ければ死ぬ。避けても死ぬ。どの道死ぬ。
間近に迫る今日一番の死の気配。それに対し、抗うことも出来ない俺は、死に屈したくない一心で向かい来る闇を見据える。
当然、そんなことで勢いがよわまるわけもない。
雷よりも尚速く、『死』が着弾する。
死ぬ間際に引き伸ばされた感覚で見たのは、過去か、それとも・・・
「皆、よく頑張ったね」
優しい声が鼓膜を揺らす。まるで幻覚のように掴みどころのない長身の男が、金色の神と純白の聖衣を靡かせて、『死』の前に立ちはだかる。
「後は、私に任せてほしい」
【■■魔法ーーー創■のトネリコ】
無防備に右手を掲げ、なんの魔術も、防御もしないまま、男・・始源樹王アスクは『死』の黒弾を受け入れる。
瞬間、その肉体は爆散し、飛び散った目玉が、耳が、鼻の欠片が、草原の上で青空に照らされる。
あまりに唐突な事が連続で起きたため、俺達はわけも分からないままその光景を見つめることしかできなかった。
一国の王が?目の前で?俺達の為に?命を投げ出した?・・・そんなことがありえていいのだろうか?
そんなことが起こって良いのだろうか?
混乱。困惑。混迷。間違いなく、脳は動いているはずなのに、内蔵した歯車が空転しているような感覚が思考を支配する。
「チッ!余計なことを・・!」
「アスク様!」
困惑する中でなんとか事態を飲み込んだシャールヴィが、真っ先にアスクだった物へと近寄っていく。
それを尻目に、忌々しげにロキはそう呟いた後、再度虹をその手に収束させていく。
「お前・・・!!」
「さっきからさぁ!不敬なんだよねぇ?君!・・まぁ良いさ!そこの不死身諸共、吹き飛ばしてあげるよ!ニンゲン!」
そう言って、先程よりも規模を増した黒点を、今度は掌から放ち・・・
「ふむ・・俺が来るまでもなかったか?」
「いえいえ、来てもらえて助かりましたよ。【トール】様」
横合いから伸びた、巨大な掌に掻き消された。
「っ!?」
直後に感じたのは、圧倒的な神性と威圧感。そこにいるだけで人間を圧迫し、心臓を萎縮させる存在感が脳髄に強制的に叩き込まれる。
「さて・・・ロキよ。何か釈明はあるか?」
驚き萎縮する俺達のことなんざ構うことなく、巨漢はロキに話しかける。呼び捨てている辺り、ロキよりも同格かそれ以上の神なのだろう。
「っ・・・!別に、何もないさ!」
「お前の義兄は、今戻ってくるならばお前の所業に対し軽い罰で済むよう取り計らうと仰せだが?」
「・・・・・」
「・・・・・」
宣告に対し、両者睨み合いの形を取る二人。俺はこの時、神々の睨めつけあいが恐ろしく危険な物だと言うことを初めて知った。
まさか睨み合うだけで地面が割れるとは、誰も思わないだろう。
「分かった!分かった!行くよ!行けばいいんだろ?」
「・・・今回は、随分と簡単に折れたな」
「何?なんか文句でもあるの?」
「いや?・・・だが、貴様がそうなった動機は、後で是非とも聞かせてもらいたいものだ」
「チッ!」
「先に行け。俺はまだ【オーディン】の命でやらねばならんことがある」
「ハイハイ了解。途中で逃げたりはしないから、安心してよ」
言った瞬間、ロキは霧に溶けるようにしてその姿をくらました。
「・・それで?トール。君はどうしてここに残ったのかな?」
「オーディンの命令でな。そこな四人に話があるのだ」
そう言って、巨漢の男・・聞き間違えじゃなければトールと呼ばれた神は、俺達を指さした。
「ぼ、僕達に・・ですか?」
雷神トール。フォグノースにおいて、主神オーディンと並ぶほどに有名な、フォグノース創世神話における最強の神。知恵のオーディンと力のトール。そう呼ばれるほどに、二人の神は他の神々と隔絶した力を持つ。
「ああ・・先ずは謝罪を。神々の中で起きた問題に、人類を巻き込んでしまったことに対して、謝らせてもらう」
そう言って、最強の神はいとも容易くその頭を俺達に下げた。
・・はっきり言って、有り得ない事だろう。神が人に頭を下げるなど、あってはならない。
が、事実目の前でそれは起きている。あのトールが、俺達の前で頭を下げている。
・・最近こういうの多いな。一国の王とか、最強の神とか。だからって慣れることなんざないんだが。
「と、とりあえず頭を上げて下さい!神々が僕達なんかに頭を下げるなんて・・そんなこと、してはならないはずです!」
あのアスク様でさえたじろいでいた中で、唯一シャールヴィだけが、真正面からその謝罪を受け止め、返答した。
「ふむ・・だがしかし、オーディンの命だからな。俺はそれに従わざるを得ん。・・今のところはだがな」
「心無い謝罪なんて、受け取っても虚しいだけさ。例えオーディンに本当の謝意があるのであれば、彼が直接私達に謝りに来なければならない。・・そうは思わないか?」
シャールヴィの態度を見て正気に戻ったのだろう。アスク様が平静を取り繕って口を開く。
「なるほど。一理あるな。では、お前達には謝意ではなく感謝を伝えよう。これには、俺自身の本心も含まれている。ならば、問題無い・・そうだな?」
「あぁ。それなら問題ないさ。結局のところ、こういうのは心の有り様が1番だからね」
「では、改めて感謝を。此度は、神々の中で解決すべきであった問題を解決してもらい、非常に助かった。礼を言う・・若き英雄達よ」
礼・・感謝を伝えられ、俺達は黙ってそれに応じる。というか、余りに緊張しすぎて喋ることしか出来なかった。
ついでに握手を求められた時は、喉から心臓が飛び出るほど驚いたが、まあ何とかなった。
どこぞの怪しい宗教家とかが言うように、神に触れたら身体が燃えるとかそういうことは無く、わざわざトールの代名詞とも言えるミョルニルを持つための鉄の手袋を外してまで握らせてもらった手は、ゴツゴツとした、武人のように実直な手であった。
「ふむ・・なるほどな」
「どうかしたのかい?」
「いやなに、シャールヴィ・フォン・フィオトレイ以外の者達が霧に惑わされなかった理由が分かってな。少し興味深かったものだから思案していたのだ」
「あー・・まあ、大体は察せるけど。・・そんなに面白いかい?」
「そこな半裸の・・ダバーシャだったか?という者は中々に面白かったぞ」
「・・まぁ、彼はね。ハーフだもんねぇ」
「ああ。それに、そのエルフ・・エイスと言ったか?も、王族らしく神との交信がしっかりと出来ていたのでな。彼女にも、お主に世話になったことをオーディンから伝えるよう言っておこう。・・もちろん、ガネーシャにもな」
「「あ、ありがとうございます・・!」」
・・・っ!?マジかよ・・あのダバーシャが敬語を使った・・だと?これは大厄災の予兆か何かか?あの始源の王にすらタメ口で行った男だぞ?
「そこの茶髪・・モズ?モブ?は・・そうだな。俺からは気をつけろとしか言えぬ。その力のお陰で今回は免れたが・・・次もそうとは限らんからな」
「・・・わ、分かりました」
やっぱり『ヴォイド』って厄ネタなんだろうな。今までちょっとだけまだ『どっかの神が親切心で渡してくれた善なる物だといいなぁ・・』とか思ってたけど、完全にその希望は潰えたなコレは。
「ふむ・・では、別れの時だ。世話になったお主らの主神に、お主らの活躍を伝えておくことをここに誓っておこう。シャールヴィに関しては、もう少し経てばオーディンより加護が届く筈だ。・・期待して待っているといい」
「は・・?加護?え?あ?・・はい?」
「それではさらばだ英雄達よ。お前達の、これからの活躍を祈っておこう・・神が祈るとは、そこまで滑稽な話にしようとは思っていなかったんだがな」
神・・祈る・・なるほど!そういう事か・・いや、笑えねえよ。どうやって笑えってんだよそのジョークで。
「あぁ、言い忘れていたがもう1つ。」
消えかけの体のままトールが口を開く。
「ここら一帯の霧は俺が晴らしておく故、お前達が憂慮する必要は無い。存分に休息し、英気を養ってくれ」
「はい!」
言った瞬間、トールの姿は完全に消え、俺達5人はひっそりとその場に佇んだまま、霧ごと消え失せるその光を眺めていた。
夕日に照らされ、まるで金色の鱗粉が舞うかのようにしてその場から消滅したトール。衝撃的で、あっという間の出会いだったが、それでも、彼が目の前にいたこと、彼と握手ができたことが夢では無いことが、晴れていく霧の先。
差し込んでくる朝日を目にしてようやく実感できた。
思えば、今日1日・・というか、この連休中。春休みが終わってから色々な事が起きた。
その全てがいい思い出って訳でもないが・・なんならまだ蹴って折られた肋骨そのままなんだが。
まあそれでも、終わってみれば、とても楽しい時間だったなぁと、振り返ることが出来る。
青春・・本来の意味では、こんなに殺伐とはしていなかったと思うが、それでも、この一週間強の時間を一言で表すと言うのなら・・・
「青春・・かもな」
なんて、クサイセリフで良い話風に終わらせたが、実際は満身創痍。ボロッボロの俺である。
気を抜いたら、既に銃の反動とシャールヴィとの戦いで骨が砕けてるかもしれないぐらいの激痛が走ってる右腕の感覚を脳がまともに受け入れ、立っていられなくなるだろう。
それだけは避けーー
「皆、よく頑張ったよ。暫く、眠ってくれて大丈夫だから。・・・ゆっくりお休み」
■■魔術ーーー『誘眠の声音』
甘い声音が背を伝い、鼓膜を震わせ脳を犯す。
瞬間、俺の意識は暗闇に落ちていく。
第一章、巨人暴走事件編、【完】
長らくお付き合い頂き、ありがとうございました!この度、無事第一章を書き切る事が出来ました。ここまで続けられたのは、一重に評価を下さり、毎日読んでいただいている読者の皆様のおかげでございます!
本当にありがとうございました!!
次回は、第2章ではなく幕間のお話となります。前話にでてきた魔術関連の用語について、より詳しく説明出来ればと思っておりますので、期待してお待ちください。
また、Twitterを開設するかを迷っています。参考までに、皆様の意見をお聞かせいただけませんでしょうか?
最後に、いつも拙作を読んで下さり、ありがとうございます!これからも頑張って投稿していきますので、評価・応援・拡散よろしくお願いします!!
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それでは、また次回でお会いしましょう!これからも拙作をよろしくお願いします!




