30.VS巨神andロキ
遅れましたが、更新です
「シッ!」
一目散に巨神の股下へ走っていったのは、後ろで結んだ長い髪を馬の尾のように風に靡かせ、人外の速度で駆けるダバーシャ。
瞬く間にその脚はトップスピードに乗り、先程まで躓いていたシャールヴィと並んで、はね回る球のような起動を描いて巨神の目を、動きを、撹乱する。
「喰らえ」
氷魔術ーーー『氷帝剣』
そこに差し込むように放たれ、隙を着いたのは氷の剣。硬く、速く、威力に優れたソレが巨神の胸元へ、吸い込まれるように着弾する。
轟音を上げ、一瞬の間を置いて氷剣が砕けた。が、鎧には傷1つついた様子は無い。やはり、魔術面の防御もかなり固いようだ。
「・・やっぱ硬いな。あんなんどうやって壊せばいいんだ?オマケに、魔術吸収する霧もあるし」
「・・諦めるにはまだ早いよ。モズ」
「・・どういうことだ?」
「見てよ、アレ」
そう言って、エイスが指さした方向にあったのは・・岩の鎧。そのど真ん中。先程氷剣が無惨にも砕け散った場所である。
「アレっつったって、何処にも・・」
「ヒビだ」
「っ!?」
「何がきっかけで入ったのかも、どんな攻撃で割れ始めるかも分からない・・けど、一つだけ確かなのは・・今、あの鎧には明確な弱点ができているって事」
「ダバーシャ達は・・」
「当然、気付いてるだろうね。じゃなきゃ慎重なシャールヴィがあれほどの勢いで攻め立てることは無いと思うよ」
「千載一遇のチャンスってやつか・・」
ここに来て急激に『勝ち』が見えてきたな。あの岩の鎧さえ剥げれば、ダバーシャの全力と俺の『奥の手』でゴリ押し出来るかもしれない。
「狙わない手は無いね・・!」
「あぁ!今ここで決める!」
覚悟は決めた。俺の・・否、俺達の全身全霊でもって、巨神とあのクソガキをぶっ倒す!
「おい!金髪!あの鎧を壊せ!」
「ナイスタイミングだよダバーシャ!」
丁度のタイミングで前線から、回避によって後退してきたダバーシャが合流。同時に、エイスに勝手に指示を出して再度前へと駆ける。
それに驚きも怒りもせず、応じたエイスが腕を振るう。宙を掻き、展開した陣に乗せられた術式が燐光を放って。
「大盤振る舞いと行こうか!」
氷魔術ーーー『氷帝剣×50』
先程射出されたのと同じ魔術が、今度は50本同時に精製され、空気を裂いて鎧に着弾。その図体故に回避出来なかった巨神の動きが大きく後退・・はしなかった。
「させると思うかい?」
着弾の直前。揺らいだ霧が、本来鳴るはずのない不協和音を奏でて集束する。
まるで蠢く『ヴォイド』のように、集束した霧は瞬く間に氷剣を止め、吸収して最初からその場には何も無かったかのように静寂を広げる。
が、
「今だ!シャールヴィ!」
「はいっ!」
その瞬間を、待ち望んでいる者が居た。鎧を壊そうと魔術を放てば、ロキは確実に霧を前面に押し出してくる。・・それ即ち霧の密集。
「荒れろ大嵐!其は碧緑の風にして世界を飛ばす物!」
例えどれだけ魔術を吸い込もうと、例えどれだけ神聖な霧だろうと、霧は霧だ。
故に、
風魔術ーーー『吹き荒れろ風神の息吹』
本日2度目にして、シャールヴィがその身に宿る全魔力を捧げて放った大嵐。
叩きつけられんとしていた大剣すら巻き込んで、空高く大竜巻が渦を巻く。
「これで・・・!」
一瞬、白く染まっていた世界に色が付く。眼前を覆う神の霧にして幻惑の靄は、今度こそ完全にその存在を吹き散らされた。
霧を晴らされ、剥き出しの鎧だけをその身に纏った巨神の体が泳ぐ。先の大嵐の影響を受けるのは霧だけでは無い。当然、その周辺にいた全ての者達は、身体が持っていかれそうな風圧に耐えねばならなかった。
・・そして、それは彼の巨神と言えど同じこと。
「迸るは迅雷!駆け巡るは稲妻!其は集束し、天を衝く霹靂也!・・・故に、雷よ!我が前の一切を滅却せよ!!」
雷魔術ーーー『剛槍を放つは天雷の鳴神也』
高らかに詠唱が捧げられる。魔力の乗ったその言葉と、溢れんばかりに術式へと注ぎ込まれた膨大な量の魔力によって、完成したのは、ほとんど魔法に片足を突っ込んでいる雷の砲撃。
「OOOOOOOOOOOO!!!??!??!」
流石に2連続で最高位の魔術を喰らうとキツイのだろう。いくらその身に鎧を纏っていると言えど、身体に到達するダメージは無視できない物がある。
それに・・
「っし!!」
シャールヴィと同じく、全魔力を今の魔術に注ぎ込んだエイスはかなり顔色が悪いものの、それでも確かに、アイツはやるべきことをやり遂げた。
「ははっ!やりやがったぞ!エイス!」
「滾るなぁ・・!!」
それ即ち鎧の破壊!完璧に芯を食い、中央へと吸い込まれるように命中した雷撃は、いとも容易くそのヒビ割れをこじ開けて、岩鎧をぶち壊した。
「合わせろ、モズ!」
「了解ッ!」
今の二撃で相当なダメージを負ったのだろう。たまらずといった様子で、巨神は地面に膝をつき、息を切らせたように思い呼吸を開始する。
が、当然そこで回復なんざ許さない。折角シャールヴィとエイスが命懸けで作ってくれた、これ以上ないほどの完全な隙だ。正に奥の手を出すのに絶好の機会。
ここで出さないで、いつ出すんだよ?
「召喚魔術ーーー召来:複合銃」
金に輝く腕輪に展開した魔術陣より、取り出しましたは漆黒の銃。世界を渡り、偶然にも俺の手に渡ってきた、正真正銘、異なる世界の産物。
元の世界では、恐らくかなり使い込まれていたのだろうこの銃も、今では本来の用途である、『弾を発射する』ことは出来ず、魔力伝導率が悪いためにガラクタ扱いとなってしまった産廃だ。
それでも一応は加工され、高価な魔導銃に一歩劣る性能を持った複合銃として、俺の手元に残り続けている。フィリップとは違うタイプの、俺の相棒だ。
「すまねえ相棒!頼む!保ってくれよぉ!!」
叫びながら魔力を放ち、俺の持ち得る技術の全てを利用して、これでもかと刻み込んだ召喚速度加速術式を魔術陣として圧縮し、銃身内部に展開。
もうこの時点で信じられないぐらい複合銃から悲鳴が上がり、陣がはち切れそうな程の閃光を銃口から放っているが、まだ我慢だ。
続けて、銃身内部に展開した魔術陣にありったけの魔力を注ぎ込み、更に閃光を増していく。銃を持っている手ごと相棒が震えてるが、関係無い。まだ我慢だ。
そして、この複合銃を拾ってから今までに、この銃に貯めてきた魔力。およそ俺のいつもの魔力量の3倍はあるだろうソレを解放し、複合銃の耐久値と一定期間の機能停止と引き替えに任意の魔術陣(この場合は単純な物質の加速術式を刻んだ物)を銃口に展開。
腕どころか肩まで震え始め、複合銃の原型が崩れ去りそうなほどヒビが入ってきてるが・・まだ我慢だ。
「またせたな相棒・・今、その苦しみから解放してやる!」
既に、両方の魔術陣に魔力の充填は完了した。後は、最後のひと押し・・詠唱による魔術効果の底上げで、フィナーレと行こうじゃないか!
『充填完了。弾道を刻み、強者を穿つ備えは終わった』
銃を握る手に力を込める。
『これより放つは、世界に閃光を刻む道にして、全てを穿つ最速の槍』
ギシギシとグリップから悲鳴が上がり、甲高い音が銃身から鳴り始める。
・・頼むぜ相棒。もうちょっとだ。
『今ここで、万象を射抜け』
祝詞を捧げ、一言一句違わず自己流詠唱を言い放つ。
トリガーにかかった指が、もう後戻り出来ないことを教えてくれた。
「フン!合わせろと言っただろうが、戯け」
「・・掛け声なんざ、今更必要か?」
「・・・要らんな」
俺の準備が完了したのを見てとったのだろう。発されるあまりの量の魔力に頬を歪ませ、狂犬のように笑うダバーシャが声を掛けてくる。
が、そんな問答すら、今の俺達には不要だった。
両者が巨神を見据えたのは全くの同時。
そして、魔術を発動したのもまた、同時。
召喚魔術ーーー『特殊多段加速召喚術式』
炎魔術ーーー『三叉振るうは蒼金の神躯』
白い術陣が。蒼い神躯が発光する。
純粋な強化と膂力によって投げられた黄金の三叉槍が、未だ滞留する嵐の残滓と雷の残光を切り裂いて、代表を覆う霧の中へと入っていく。
金色の尾を引き飛翔する槍の後ろを、まるで雷の如き速度で追随するのはモズがこの奥義を撃つ為だけに購入した、特殊に加工された純白の幻緋鉄鉱製物質弾。
魔術陣の圧縮、術式の多重書き込み、詠唱、本来する必要のない行為(トリガーを引くなど)をする、複合銃が一撃で跡形もなく壊れ、自身の右腕も骨折するほどの反動を受けるという多岐に渡る縛りを経て、ケラヴノスは放たれた。
ソレが描く弾道は正しく道のようで。
純白の、一本通った線が前を進む黄金の槍の光を受け、煌いてーーー
一秒どころか刹那にさえ満たない程の圧縮された時間の中。神のみぞ知る、時間と時間の狭間の時間。
その一瞬で、勝敗は決定した。
VS巨神andロキ。決着。
次回エピローグで一章終わりとなります!もう少し付き合ってください!




