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学院の凡人は英雄譚を描きたい  作者: (羽根ペン)
第一章 巨人暴走事件
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3.自己紹介


あれから少し時間が経ち、食堂まで来た俺達は、『アイツら』こと、エイスとダバーシャという2人の友達を探す事にする。


二人の特徴をあげるなら、エイスは金髪碧眼のイケメンエルフ。ダバーシャは紺色の髪を雑に後ろで纏めた、褐色肌の美丈夫だと言えるだろう。


2人とも有名人だし目立つので、幸いすぐに見つけることが出来た。

まぁ、アイツらの周りだけ不自然に人が離れてて居ないからな。そりゃ目立つだろ。


「貴様、逃げたな?」


「流石に許さないよ?」


開口一番、二人から、そんなふうにこちらを非難する言葉が聞こえてきたが、反論させてもらう。

こっちにだってお前らを避けた理由があるんだ。


「いやホント、ね?お前らの訓練キツイんだよ。だから今日ぐらいさっさと帰りたかったって言うか・・」


「言い訳は要らん」


「そんな幼稚な理由が通ると思ってるの?昼ご飯食べたら即、修練場直行だからね」


「うへぇ・・・」


ま、うだうだ言っても仕方なし。分かりきってたことではあるし、実際、あの言い訳にはかなり無理があったからな。切り替えていこう。


「・・で?君の隣にいるのは誰なのかな?俺の見間違えじゃ無ければ、シャールヴィ君だったと思うんだけど」


一瞬で気付くとは、流石優等生なだけはある。まだたった3ヶ月しか同じクラスのクラスメイトとして活動してないのに、もう同級生の名前を覚えてやがる。おかげで、自己紹介の手間が省けた。


「そうです。僕の名前はシャールヴィ・フォン・フィオトレイ。巨神国家フォグノースの、フィオトレイ辺境伯爵家の嫡男です。これからよろしくお願いします」


「おっと、これはご丁寧にどうも。もう知ってるとは思うけれど、俺はエイス・ドンナ・ワルドガイスト。神樹国家ワルドガイストの第二王子だよ。エルフだけど、種族差とか身分差とかは無視して、気軽に接してくれると助かるな」


いや結局自己紹介すんのかよ。嫌なんですけど。だって全員俺の名前知ってるし、今更感が半端ないというか。


「え?これ俺も自己紹介する流れ?さっき俺の名前わかってたし別に良くね?」


「モーズー?」


どうやらしなければならないらしい。こうなったエイスは怖い。


「うぃ。というわけで、俺はモズ。モズ・ヘカーテだ。どっからどう見ても普通の平民。エイスのコネというかなんというかでこの学院に入れた凡人だ。よろしく頼むよ」


エイスが少し嫌そうな顔をしたが、さっき睨まれた意趣返しだ。これくらいの仕返しは許して欲しい。


「おい、ダバーシャもやれよ」


「俺には自分の名をひけらかす趣味は無い」


「ダバーシャ・・・。頼むよ・・」


「チッ!」


「ダバーシャ・・!!」


「ム・・・はぁ、仕方がない」


やっぱりダバーシャもエイスには弱いらしい。


「俺はダバーシャ・バラカ・クシュラパトラ。饗祭国家ガネーシャの人間だ。・・・よろしく」


ぎこちねぇ。つか簡潔すぎんだろ。・・でも、まぁいいだろ。とりまこれで全員分の自己紹介は済んだわけだし。


「よし、じゃあ早速本題に・・・」


「うん、ちょっと待ってねモズ。・・話に入る前に、何か食べようか?皆んなお昼まだ食べてないでしょ?」


・・あぁ、そういやそうだったな。早く帰りた過ぎて忘れてたぜ。言われてみれば、さっきから腹の虫が大音量で喚き散らしてやがる。


というわけで、一先ず、全員がエイスの言葉に習って昼飯の注文を行い、日替わりの学食メニューを受け取っていく。因みに俺はリュウセン産の米とガネーシャ産の豚肉をふんだんに使った、特製カツ丼を食べた。美味かった(語彙力喪失)。


全員で飯を食いながら、シャールヴィから詳しい依頼の話を聞くことに。


「ふむ・・フォグノースで・・」


「巨人の暴走か・・」


「シャールヴィはそれを止めるための手助けをして欲しいって訳だ」


「どうかお願いします。僕の国を助けてください!」


それは依頼と言うよりも懇願に近かったと思う。縋るような目で俺を、エイスを、ダバーシャを順繰りに見るシャールヴィの様子は俺達の心を動かすのに十分な力を持っていた。


「その以来・・任された!!」


「・・・っ!ありがとうございます!!」


代表してエイスがそう言い、シャールヴィの眼から感激の涙が流れ出る。恐らく、この1ヶ月間、1人でその問題を抱え続け、助力を願っても断られる日々を続けていたのだろう。


了承された瞬間、泣いてしまうのも当然だ。


よし!これで俺の役目は終わったな!じゃあ、後は2人に任せて、俺は寮の部屋で休・・・


「暴走ってことは多分、現地で戦闘になることもあるとよね?だから、これから4人でそれぞれの戦い方を確認するために修練場に行こう」


え・・・


「あぁ、賛成だ。赤毛、貴様の戦い方に興味がある。・・それに、サボろうとした愚か者に罰を与えねばならないからな」


あ・・・


「全くもって同意見だよダバーシャ」


えぇと・・・


「お、お手柔らかに?」


「「容赦はしない」」


マジかぁ・・・。






と、言うわけでやって来ました修練場。


修練場ってのは、学院の生徒が気兼ねなく己の力を発揮して全力で戦えるよう整えられている、一種の修行場のことであり、学院の敷地内に七箇所用意されている。


俺たちはそのうちの一つ。食堂に1番近い修練場に4人で集まっていた。俺以外の3人がイケメンだし学院の有名人だしで移動の時にちょっとした騒ぎになったが、長くなるのでそれは割愛。


「じゃ、取り敢えずサボろうとしたクズ野郎に罰を与えようか」


「賛成だ」


開口一番、そんなことを宣いやがる二人に突っ込みたい気持ちが沸々と湧き上がってくるが、すべて俺が悪いので、突っ込めない・・これがジレンマか・・・。


「えぇ?お前ら相手に2対1しなきゃなの俺・・・」


「サボった君が悪いよね?」


「赤髪と混ざって2対2でも俺は構わん」


・・ありがてえ!流石ダバーシャだ!いつも俺に必要なことを言ってくれる!

エイスがなんか言おうとしてるがそんなもん無視だ無視!喜んでシャールヴィに協力を願おうじゃないか!


というわけで、俺は助けを乞うような目でシャールヴィを見つめ始める。それはもう可哀想なハムスターぐらい潤んだ瞳で、奴の赤い瞳をじっっ・・と。


「・・わかりました。協力しましょう」


よし!これで2対2だ!理不尽に蹂躙されずに済む!


てな感じで、即席タッグとして俺andシャールヴィVSエイスandダバーシャの戦いが始まった。


審判をすぐ近くにいた通りすがりの女生徒(多分食堂からストーキングして来てた人)に頼み、向かい合う。


「それでは行きますっ!用意・・始めっ!!」


「先制は俺から行かせてもらうよ!」


雷魔術ーーー『雷閃芒』


開始の合図と同時にエイスが指を振ると、中空に描かれた黄色の魔術陣からいかずちが迸り、雷の光芒が俺たちに向けて放たれる。


「行きます!」


風魔術ーーー『追疾風』、『健脚の清風(テイル・ウィンド)


それに対し、緑の魔術陣を両足に展開したシャールヴィが駆ける。雷速で迫る光芒を、所詮一直線にしか飛ばない雑魚魔術とでも言うかのように、かがみ込むことで回避し、踏み込んで爆発的な加速をする。


回避と踏み込みを両立させた高度なテクニックを当たり前のように行い、シャールヴィは手元に構えた木剣を振り上げ、エイスへ切り付ける。


「シッ!」


そこにすかさず割って入ったのはダバーシャ。持ち前の身体能力で地面が割れるほどに踏み込み、握りしめた訓練用の木の槍を、超速で振るわれた木剣に合わせて止める。


合わせた直後に身体を回し、流れるように穂先を旋回させてシャールヴィに向けて薙ぎ払いを敢行。

防御の体制を取れていないシャールヴィはそれを防げないかに思われたが、一瞬。


「させねえよ」


召喚魔術ーーー『高速召喚:木剣』


指を振る。脳内で術式を組みたて、魔力でそれを魔術陣の形に形成し、腕輪の中に展開。

直後、射出とでも言うべき速度で召喚された木剣が、穂先とシャールヴィの間に滑り込む。


「むっ・・」


一瞬、ダバーシャはそれを振り払うのに時間を取られ、その間にシャールヴィはバックステップで距離をとる。


「・・準備運動は」


「これで終わりですね・・」


「!?」


え?今の準備運動だったの?俺結構ついて行くのギリギリだったんだけど。


「行くぞ!」


炎魔術ーーー『飛炎脚』


「グッ・・!」


間髪入れずに踏み込みの音が炸裂した瞬間、眼前にダバーシャの蹴りが迫る。それを元から構えていた木剣で何とか防御し、繋げる動きで腕輪からスクロールを取り出して。


「発動!空間魔術ーーー『ア・ポート』!」


5メートル。本来決して長いとは言えない距離だが、しかしこの場合において、その意見には否と言わざるを得ないだろう。


なにせ、達人級のダバーシャの間合いから離れ、同時に『高度的な優位』にも立てるのだから。


青い光に包まれ、次の瞬間に俺が現れたのは・・空中。


召喚魔術ーーー『憑依召喚:フィリップ』


オクドラゴフライのフィリップ。翼竜の血が混じった、八本足の巨大な蜻蛉の魔物。その四枚翅と複眼がそれぞれ俺の背中と眼に召喚される。


これにより、飛行が可能となった俺は空中に大量の魔術陣を展開。


召喚魔術ーーー『高速多重召喚:木剣、木槍、木斧』


修練場の入り口から一瞬で訓練用の武具が消えると同時、俺の展開した魔術陣からそれらが次々とエイス達に向けて射出される。


周りに人がいたらできない芸当だったが、始まる前に彼らは観客側に回ってくれていたからな、存分に撃ち放てる!


これならアイツらだって足止め出来・・


「弾幕が甘いよ、モズ」


「低空飛行しすぎだ愚か者」


氷魔術ーーー『氷千剣』


炎魔術ーーー『飛炎脚』


俺の展開した魔術陣の数倍の数の陣が瞬く間に展開され、それらから大量の氷の剣が俺に向かって射出される。

同時に、炎を両足に纏ったダバーシャが氷の剣と木剣の弾幕がぶつかり合う狭間を器用に通り抜けて肉薄。槍の穂先が顔面を穿たんと襲い来る。


「させません!」


風魔術ーーー『断裂風』、『堅固風』、『追疾風』


そこに割って入ったのは、俺と同時に氷の剣の標的にされていたシャールヴィ。目の前の氷剣を全て叩き折り、穂先と顔面の間に向けて、ぶん投げた小盾を風を利用して滑り込ませ、風の結界を同時に小盾に付与する。


直後に槍と盾が激突し、衝撃波が散った。


「いいなぁ!赤毛!」


槍を風で搦め取られたことすら構わず、瞬時に武器を見限ったダバーシャが着地と同時に拳を唸らせシャールヴィに肉薄。


「くっ・・!」


それに対抗したシャールヴィの右足がブレ、蹴り上げと拳がぶつかり合う。

そのまま激しい格闘戦に移行した2人を尻目に、訓練武器を全て撃ち終わった俺は、未だに氷剣を射出し続けるエイス目掛けて、上空から奇襲を仕掛ける。


例えるなら翡翠が獲物を摂るときのように、氷剣の合間を縫って落下する俺が腕輪を腰だめに構えるのと、雷の槍をエイスが構えたのはほとんど同時であった。


「ふふっ!」


「何笑ってんだぁ!!」


氷剣の嵐を抜け、彼我の距離が2メートルに迫る。同時に突き込まれた槍を横に回転して身を翻すことで躱し、上体を思いっきり捻じることで完成した抜刀の構えから、槍を突いた体勢故に回避できないエイスへ向けて、木刀を抜刀する。


弍式変則抜刀術-抜閃-


腕輪に展開した魔術陣を鞘に。木刀が、『エイスがいたはずの空間』を、音を鳴らして薙ぎ払う。


「っ!?」


異変を感じた時にはもう遅く。複眼によって広くなった視野がエイスを捉えた頃には、俺は既に詰んでいた。


「その技は隙が大きいって言ったよね?」


「油断したな。愚か者め」


雷魔術ーーー『纏雷速攻』


炎魔術ーーー『飛炎脚』、『烈赫掌』


一瞬でシャールヴィを出し抜いたダバーシャの拳と、雷を纏い加速したエイスの蹴りが俺の鳩尾を的確に穿つ。

どうやらサボり魔を許すつもりはサラサラなかったらしく。一切の容赦が無い二発の痛みが鳩尾から脳を味噌へ駆けあがる。


あまりの威力に、一直線に修練場の壁まで吹き飛ばされた俺は、壁に激突してその意識を手放した。最後に見えたのは、エイスの魔術を防ぎつつダバーシャのスピードに対処する、器用な立ち回りを見せるシャールヴィの姿。


巻き込んでスマンと心の中で謝りつつ、思考は暗闇へと溶けて行った。


以下、今回でてきた魔術の簡単な解説となります。


召喚魔術ーーー『召来』

・・・離れた場所にある物体や霊体を、魔術陣を通して文字通り召喚する魔術。


召喚魔術ーーー『高速召喚』

・・・召来を応用し、術式の中に『召喚速度加速』を刻んだ魔術。その名の通り物体が召喚されるスピードを速める。慣れれば射出と呼んでも差し支えないほどの速度で召喚できるようになる。


召喚魔術ーーー『高速多重召喚』

・・・読んで字のごとく、『召喚速度加速』と『多重召喚』の術式を刻むことで多数の物体を高速で射出召喚できるようになる魔術。


召喚魔術ーーー『憑依召喚』

・・・契約した魔物の霊体を召喚し、身体の一部をその魔物の身体的特徴に置換する。今回の場合は翅と複眼。飛行能力を得て、視野が広くなり、反射速度が上がる。


雷魔術ーーー『雷閃芒』

・・・名前の通り、雷の光芒を放つ魔術。


雷魔術ーーー『纏雷速攻』

・・・雷を体に纏い、加速力を上げる魔術。


氷魔術ーーー『氷千剣』

・・・多数の氷の剣を展開した魔術陣から射出する魔術。1本1本はそこまで大した速度も威力もないが、エイスの場合魔力量で数のゴリ押しが出来るため愛用している。


炎魔術ーーー『飛炎脚』

・・・両足に炎を纏い、脚力を上昇させる強化魔術。


炎魔術ーーー『烈赫掌』

・・・両手に炎を纏い、膂力を強化する魔術。


風魔術ーーー『追疾風』

・・・風による加速を付与する強化魔術。倍率高めなため、シャールヴィは愛用している。


風魔術ーーー『断裂風』

・・・自身の武器を潜らせるように展開した魔術陣から、鎌鼬のような鋭い斬性を付与する魔術。


風魔術ーーー『堅固風』

・・・風による一方向への結界を形成する魔術。強度はそこまで高くないが、熟練すると相手の武具を風で巻き取れるようになる。


風魔術ーーー『健脚の清風(テイル・ウィンド)

・・・脚の側面にタイヤのような感じで魔術陣を展開し、一時的に驚異的な脚力を付与する魔術。「追疾風」に次いでシャールヴィが使うことの多い魔術。

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