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学院の凡人は英雄譚を描きたい  作者: (羽根ペン)
第一章 巨人暴走事件
27/40

27.ロキ

更新です。

昨日は更新できなくてすみませんでした。自動車学校や大学準備が忙しくて、とても小説まで手が回らず・・。

今後はなるべくこのようなことがないようにしていきたいと思っておりますので、変わらず拙作をご愛読して頂けると幸いです。


では、本編をどうぞ

「行くよ!ダバーシャ!」


「了解」


まず先んじて動いたのはダバーシャとエイス。ユミルの視線を自分に縛りつけようと、ダバーシャは未だ蒼炎に包まれた身体を駆動させ、肉薄。


三叉槍を振るい、比較的防御が薄いであろう左腕の関節部向かって薙ぎ払う。


「チッ!」


しかし、効いた素振りを全く見せないまま、ユミルはダバーシャ目掛けて大剣を振るう。まるで意趣返しかのように横向きに薙ぎ払われた大剣を、ダバーシャは間一髪、空中で身を翻すことで回避する。


「先ずはココだね」


氷魔術ーーー『氷千剣』


ダバーシャが回避したと同時、放たれたのは数多の氷剣。1本1本がモズの射出よりも高威力で速く、精度も高いそれらが、ユミルの顔面へと飛来する。


剣は既に引き戻せない位置まで振るっており、重心の位置はそちら側に泳いでいる。であれば、氷剣群が当たるのは必然だろう。


だがしかし、エイスのその読みは外れた。


ユミルが、咄嗟に掲げた手甲表面で氷が砕ける。鎧が硬いのならば、当然のように、同じ素材の手甲も硬い。初級の魔術とは言え、それなりに魔力を込めたエイスの魔術で綻び1つ出来なかったのだ。


「参ったなぁ・・・あんだけ物理に対して硬いから、魔術にはそうでも無いとか思ってたけど・・・そう上手くは行かない・・か!」


「OOOOOOOOOO!!!」


防いだとはいえウザイはウザかったのか、エイス目掛けて剛剣が振るわれる。

咄嗟の判断で雷を纏い、その場から退避。再度距離を取り、取り敢えず魔術を放とうとした所で・・気付く。


「え?速っ・・!?」


振るわれた大剣が戻され、再度エイスへ向けて叩きつけられる。その速度はまるで落雷。達人級の腕前の者が行う、最大限無駄を排した動きでの振り下ろし。


それに対し、エイスは為す術もなく立ち竦んでしまった。結界を張っても、攻撃を放っても、意味なんか無いとそう思ってしまった。


ーー山が降る


「シッ!!」


その横を蹴り抜き、先程エイスがやったようにして刃を逸らさせたのは、蒼炎を燻らせ、三叉槍を握りしめた半神の英雄。


「もっと下がれ!金髪!」


「わ、わかった!」


指示に従って後退しつつ、エイスは思考する。


認識が甘かったと言わざるを得ない。相手は一国の王を支え、一種族の頂点に君臨する者。それが達人でない筈がない。それが常人であるわけが無い。


踏み込み一度での移動距離、剣の間合い、斬撃の範囲。その全てを再定義し直し、適切な距離から撃ち続けなければ、ダバーシャも自分も死ぬ。


「・・凄いなぁ」


先の視点が、剣士の視点。あの一瞬で命を散らすかそれを防ぐかが瞬時に決まるのが近接を主とするダバーシャやシャールヴィの視点。


自分には、とても真似出来ないだろう。幾ら雷を纏えたところで、幾ら速くなったところで、結局のところ自分の動体視力が良くなったわけでも、反射神経が良くなったわけでもないのだ。


とは言え、今そんなことを考えている暇は無い。もう一度、チャンスがある内に、可能な限り攻撃を叩き込む。・・でなければ死ぬ。全員が殺される。


「それは嫌だなぁ・・・すごく嫌だ」


だから、


「今のありったけを叩き込む!」


彼我の距離は100メートル離れているかどうかと言ったところ。ユミルの剣は届かず、エイスの魔術は何の支障も無いまま届く。


霧があるとはいえ、この場所が平原であることが幸いした。障害物も何も無い今の状態は、後ろから前衛の支援攻撃を行うことを主とするエイスにとってはこれ以上無いほどベストな立ち位置。


それ即ち、ユミルにとっては最悪の立地となる。加えて、エイスを仕留めようにも目の前には先程まで自分と拮抗し、今尚倒れず攻撃を避け続けているダバーシャがいる。


これを無視するのは容易ではないだろう。鎧で身体を覆っているとはいえ、兜などはつけていないため顔は無防備。そんな所に槍を突き立てられたならば、一溜りもない。


故に、今のユミルには大魔術の用意をしているエイスの元へ向かうことは出来ない。


これが本当の意味での暴走状態であれば、問答無用でエイスに向かって走り、また別の状況が作れたかもしれないが、今回に限って言うのであれば、『操るのに際して論理的な思考力が残されていた方が都合がいい』ために、元来、無駄に詳しく状況判断をしてしまう性格のあるユミルはそこまで自暴自棄に動くことが出来ない。


故にこの場で彼がとった行動は受け一択。


「どいて!ダバーシャ!!」


「あぁ!!」


懇願と同時。魔術陣を展開した時点での気温の低下から、エイスの本気の魔術が放たれることを確信したダバーシャはその場から速やかに離脱する。


「喰らえ・・!」


氷魔術ーーー『切り開く(ソード・オ)は氷(ブ・)王の(アイス)鋭剣(キング)


展開した極大の魔術陣から射出されたのは巨大な氷剣。王の名を冠する高位の魔術に、エイスの残存魔力の3分の2を注ぎ込んだことによって生まれた絶対零度の剣である。


そこにあるだけで空気の温度を低下させ、周囲の霧すら凍てつかせる程の大魔術。当然の如く手に持って振るうことなど不可能であるが、幸いにして手に持てる大きさでは無い。


本来であればロングソード程度の大きさしかない剣も、天才(エイス)の手にかかればユミルの岩剣と同じかそれ以上に巨大な物へと様変わり。


当然、その射出速度も尋常な物では無い。


正しく天を切り裂く雷の如く。周囲を凍てつかせ、神の霧すらも氷に変えるその剣は、風切り音を置き去りにする速さでユミルへ肉薄。


焦り、高揚してしまったために狙いの精度が落ちてしまった故、顔ではなく胴に向けて放ってしまったが、幾らあの岩鎧と言えど、この一撃は一溜りもないだろう。気絶までは行かなくとも、鎧の一部が欠けたり穴が空いたりはしているはずだ。


・・・そうなる、はずだと言うのに。


「・・音がしないな」


この異常事態において、ダバーシャは冷静であった。冷静に、事態を分析していた。故に、最初にソレの被害にあったのもまた、彼であった。


「まぁ、そう甘くは行かないよねぇ?普通はさ」


「OOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!」


少年のような軽やかな声と、巨人の雄叫びが耳朶を打つ。


「ッ!?」


ダバーシャが気付いた時にはもう遅く。一段と濃くなった霧を裂き、左手側から迫ってきたのは・・・山。


それは確かに晴らし、凍らせた神の霧。それは確かに倒し、無力化した巨人の剣。だと言うのに、何故かそれらが目の前にある。


「じゃ、おやすみ♪」


咄嗟に三叉槍を構えたが、既に遅い。受け止めきれず、流しきれず、ダバーシャの身体は右に向かって信じられない速度で吹き飛ばされ、霧の奥に消えた。


「・・・お、お前は・・!!」


今目の前で起こった事象に対し、エイスは困惑する。ダバーシャが吹き飛ばされたことも、ユミルが倒れていないことも、霧が戻っていることも、魔術の衝突音がしなかったことも。確かに十分に困惑する内容であり、混乱しても仕方がない状況だ。


が、まずその前に。|目の前のコイツは誰だ?《・・・・・・・・・・・》


「神に向かって『お前』とはねぇ・・・?少々不敬が過ぎるんじゃないかい?」


「神?・・・ッ!?」


思い至ったのは、ごくごく最近聞いた、始源樹王アスクの言。イタズラ好きの神にして、地獄の番人と神殺し、世界蛇の父神。しっちゃかめっちゃかが大好きな愉快犯。


目の前の、道化師と古の文献にある魔法使いを混ぜたかのような服を着た、灰色の髪の美少年。


彼が、その神、【ロキ】だとでも言うのだろうか。


「・・ふふん♪ 思い至ったかい?そうだよ、僕がイタズラ好きの神にして愉快犯。オーディンの義兄弟にして、巨人と神の子。閉ざす者にして終わらせる者。その名も・・・【ロキ】さ♪」


「で、でも見た目が・・・!」


まるで威厳が感じられない。神を名乗ることすらおぞましいような、不格好で不器用な道化師が見栄を張っているようにしか見えない。


「あっはっは♪・・・そこまで見た目が重要かい?」


そう、至極愉快そうに笑い、不愉快そうな目で神はエイスに問いかけた。

思わず、身が竦むような圧が彼を抑える。


「いいよ?なんにでもなってあげよう♪ 君にとっての神は・・・ひょっとしてコレ?」


そう言ってロキが返信したのは大きな、大きな樹木。霧すらつきぬけ、空の向こう。星々までその枝葉が届くように見えるほど大きな樹。


「・・それともコレ?」


ドロリと樹木が溶け、粘性の高い液体となった次の瞬間、そこに立っていたのは泥を押し固めて作った土人形。


人形の顔が徐々に変形し、鼻が、目が、耳が作られ、最後にボサボサの髭が生える。そうして完成したのは、黒く巨大な帽子を被り、その手に光り輝く槍を持った長身痩躯の老人。


片目は潰れ、槍を握る手は枯れ枝のようだが、先程の世界樹と同じ、どこか見とれる、威圧感のような物がその眼光から放たれている。


「もしかしてコレだったり?」


またもドロリと老人の身体が溶ける。ゆっくりと溶けていくその顔は、吐き気を催すほどに醜く、胃の中の内容物がフツフツと煮えたぎるほどに気持ち悪かった。


そうしてエイスが耐えているうちに再度泥から作られた顔は絶世の美女。


この世の物とは思えない、宝石のように綺麗な瞳に、整った、美しい曲線を描く眉。プリっとした弾力と、しっとりとした潤いを兼ね備えている魔性の唇や、白磁の陶器のように白く、そして艶めかしい肌。


極めつけは一切の不快感を相手に与えない、完璧な形として完成された芸術作品のような鼻と、果実のように豊満な胸とそこから繋がる腰から尻にかけての曲線美。


神々が利き手を使い、余すことなく持ちうる技術の全てを使った人形のような・・・否。美を表す神そのもののような女性がそこに立っていた。


「んなっ!?・・・なんっ!?」


「あらら、見蕩れて声も出ない感じ・・・?」


甘露のようなその声が耳朶を打ち、鼓膜を震わせる音の振動さえもが美しく感じられる。


国が傾くどころか、その存在がいるだけで世界が絶たれる程の金髪の美女・・・否、女神は挑発するようにエイスへとそう声を掛けた。


途端、エイスの頭を、破裂するほどの幸福感と興奮が襲う。この声を聞けているだけで、この身体を見ているだけで幸せ・・否。否。この身体を手に入れたい。ドロドロにこの身体と混じりあってそして・・・。


そこまで考えたところで彼の頭はショートし、酒を飲みすぎた後のように顔を真っ赤にして倒れてしまった。


「あらら・・まさかの童貞君だったとはね・・・。これは悪いことをしちゃったかなぁ♪ ま、それなら何よりなんだけどね♪」


歓喜の言葉を、元に戻った少年の喉から発した後、「とは言え」とロキは続ける。


「邪魔者は・・排除しないと・・ね?」


誰に話しかけるでもなくそう言って、少年は手を上へと掲げる。

それに呼応して、赫黒の山が振り上げられ、大上段に構えられる。


「それじゃあ、初心(ウブ)なエルフ君・・・さようなら♪」


機嫌よく、愉快そうに、イタズラ好きの神はそう言って。嗤いながら、掲げたその手を、一直線に振り下ろした。










【■魔法ーーー影■り】


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