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学院の凡人は英雄譚を描きたい  作者: (羽根ペン)
第一章 巨人暴走事件
26/40

26.モズVSシャールヴィ

更新です

「ぅ・・・!」


「・・・ぁ!」


呻き声と呻き声で非常に混乱するかもしれないが、一応言うと前者が、体の半分を黒い何かに飲み込まれたシャールヴィで、後者がそれに胸を踏みつけられている俺だ。


「シャー・・ルヴィ・・・テメェ・・!」


踏みつけてくる足をどかそうと格闘するが、俺の腕の筋肉と奴の脚の筋肉では当然奴の足の筋肉の方が強いため、どれだけ掴んで揺すろうと奴の足が外れることは無かった。


「・・・っ!」


その代わりに揺する度にすげえ勢いで踏みつけが強くなるもんだから、そろそろ俺の背中が地面に埋まりそうだ。


酸素が肺に行きにくくなってるから頭痛と視界不良が起き始めてるし、意識もだんだんと遠のいてきてる。

・・・コレは不味い・・が、手が無い訳でもない。


召喚魔術ーーー『召来:使い捨て魔術陣(マジックスクロール)


「発動・・・マジック・・スクロー・・ル!・・空間・・魔術ーーー『ア・ポート』!」


俺と、俺に触れてるシャールヴィが蒼い光に包まれる。ヴォン!という救いの鐘の音が聞こえてきたと同時、俺達はさっき踏みつけられて(踏みつけて)いた場所の5m上空まで転移していた。


「っし!成功″!・・ゲホッ!」


「・・・っ!?」


背後の空間に余裕が出来たことにより、踏みつけの圧迫感から身体が開放される。

足の裏と自分の体が離れ、俺の翅が羽ばたく余地が生まれる。


瞬時に翅を動かし、もう踏み付けられまいとシャールヴィの上を取る。

奴が俺を見失っているうちに、地面まで奴をたたき落とす!


腰だめに腕輪を構え、そこから鉄刀白鞘を召喚。重力による落下速度加速と全力の羽ばたきによる加速により、俺の体は一時的に音に近い速度まで上昇する。落下してんのにな。


構えた腕輪を左腕ごと持ち上げ、上体を捻じって勢いをつける。引き絞られた弓弦のように今にも身体が抜刀を開始しようとした所で、シャールヴィを射程圏内に捉えた。


「・・・!?」


「遅せぇよ!」


まさか俺がこの言葉をシャールヴィに言う日が来るとは夢にも思わなかった。人生とは不思議で数奇な物だ。


風魔・・


「空中じゃ身動き取れねえだろ!」


弐式変則抜刀術-抜閃-


いくら風魔術使いと言えど、この一瞬で人一人分宙を泳がすほどの風を吹かせる魔術を使うことは不可能に近い。故に、奴に俺の抜刀が当たるのは確定事項ってわけだ。


抜き放たれた鉄刀が、いつの間にか晴らされていた霧の合間を通る陽光を反射して煌めきを放つ。


鉄刀と蛮刀が激突し、火花を散らす。耳障りな金属音が響き渡り、防御に回ったシャールヴィの身体が下へ下へと押し込まれ・・着地。


奴の両足が抜刀の勢いに押されて地面を踏む。これで確固たる足場を得た奴は俺を押し返そうと蛮刀に力を込めて鉄刀を弾こうとするが、


「させるかよ!」


当然、俺がそんな力技を許すわけ・・許すわ・・クソが!弾きやがったコイツ!


「・・・ぁ!!」


「チッ!」


弾かれた瞬間に鉄刀を引き戻し、前方に構えて防御に回るも、待っていたのは背後からの奇襲。

旋回してきた小盾を間一髪で視界に捉え、追撃に回ろうとしていたシャールヴィの蛮刀を蹴り抜いてその軌道を逸らさせる。


トップスピードで旋回してきた小盾を、鉄刀を犠牲にすることでいなし、その隙に羽ばたいてその場から距離を離す。


「ははっ!・・すげぇ!」


俺がここまで戦闘において上達してきてるのは、多分アイツら・・特にダバーシャとの鍛錬のおかげだろう。


「後で感謝しとかねえと・・なっ!」


召喚魔術ーーー『高速召喚:鉄刀白鞘×30』


採算度外視の大盤振る舞いだ。都合30の魔術陣を展開し、そこから高速で鉄刀をぶっ放す。

流石のシャールヴィも一溜りもないだろうと、そう思ったが、奴は雨のように降り注ぐそれらを的確に見切り、容易く弾いて回避していく。


「・・ま、本命はコッチだ。」


召喚魔術ーーー『高速召喚:擲弾』


遠く。シャールヴィを挟んで俺の真反対。奴の背後の地面に落ちているのは、木製の『腕輪』。

俺が今、左手に持っている腕輪と全く同じ形状のソレに、魔術の燐光が灯る。


展開された魔術陣は、俺がよく使う射出の魔術陣。

そこから、火属性の魔石をふんだんに詰め込んだ布が射出される。


既に魔術陣を通すことで、魔石が反応する程度の魔力は流してある。


「俺も似たようなこと出来るんだぞ・・・ってな?」


爆砕。シャールヴィの丁度背後2メートルの地点で魔石が輝き、奴の背中を爆炎が舐める。


「さて・・やり返してやるよ」


翅をはためかせ、接近。爆煙と土煙を身体で切り裂いて、爆発地点に急行する。


着地した先で、小盾を背負ったままぐったりとしていたのは、3分の1が『黒いナニカ』に覆われたシャールヴィの体。


さっきは半分程だったところを見るに、今の爆発で黒いのがちぎれ飛んだのだろう。何にせよ、これでひとまずゆっくりと話が出来る筈だ。


召喚魔術ーーー『召来:縄』


腕輪を通して取り出したロープでシャールヴィの手足を縛って放置する。

後は、コイツが目覚めるのを待つだけだ。・・さっきからあっちの方で轟音がしょっちょう鳴ってるから心配なんだが・・まあ今は考えないでおこう。


「ぅ・・・ぐ・・!」


と、呻き声を上げてシャールヴィが目を開いた。相変わらず持ち前の赤い目が爛々と輝いている辺り、未だ正気には戻ってないようだが、それでもこうして会話できる体制に無理にでも持ち込めたのは上々だ。


「おい!シャールヴィ!聞こえるか!」


先ずは兎にも角にも呼びかける。正気じゃない人間を正気に戻させるには、こっち側からアプローチをかけてやらなきゃならない。


「聞こえてるなら、返事を・・・!」


「ぼくは・・ぼくはっ・・!!」


まず最初に漏れ出たのは慟哭。滂沱の涙で頬を濡らし、悲しみの奔流がその心を蝕んでいく。


「ぼくはダメな人間だ・・!どうしようもない!人として・・人間として・・・終わっているッ!」


次々にその口から溢れ出る自己嫌悪と罵声。それらを聞き流しつつ、縛り上げて座らせた奴の背中をそっと撫でてやる。


というか、呼びかける以外にすることが無いため、そうしている。少しでも、コイツの精神が戻ってくることの一助になればと、そう考えて。


が、続く言葉のせいで、俺はそれを中断せざるを得なくなった。


「ぼくは・・モズ君に比べたらゴミ以下だ・・・。あんなに蔑まれて・・妬まれても・・・『彼ら』と一緒に居られるなんて・・・僕には無理だ」


「え?」


コイツ、今、なんて言った?俺と比べてゴミ以下・・?急に何を言って・・っつーか、俺そんな皆から蔑まれてたの?妬まれてたのは何となくわかるけどさ。蔑まれてたってマジ?


「真正面から・・正直に、対等に、あれだけ凄い人達と・・あんなに親しく話すなんて・・・」


・・・対等か?


「・・・だから、ぼくは彼のことが妬ましい。妬ましくて・・羨ましい。正直になんでも話せる彼が・・上辺だけのぼくとは違って、本音でなんでも語れる彼が・・・たまらなく妬ましい」


「・・いや、それは・・・」


俺だって常に本音で話してるわけじゃない。なんでも正直に話す訳でもない。・・アイツらに隠していることだって有る。


そう言おうとして、しかし俺はその先の言葉は紡げなかった。何故なら、食い気味にシャールヴィが言葉を重ねてきたから。そして、俺自身、それを言ったことでシャールヴィの心が沈んでしまう可能性に思い至って怖くなってしまったからだ。


「彼が・・彼こそが英雄だ・・・!ぼくと違って!彼こそが・・・!惰眠を貪り、暴食を隠し、性欲を抑えきれないぼくなんかとは断じて違って・・英雄なんだ!!英雄なのに・・なんで、なんで彼は・・・?」


英雄・・・。正直、予想だにしなかった言葉だ。だが、その言葉と俺という存在を同列に扱った時点で、俺はシャールヴィに自然とつかみかかっていた。


「聞け!シャールヴィ!」


自分でも驚く程の声量。胃液で焼けただれた喉が引くほど痛くなったが、何とか我慢して大声を張り上げる。今だけは、例え狼の王だろうと、俺よりもでかい声は出せないだろう。


「俺は英雄じゃない!英雄という器に!俺は足りない!」


結局のところかなり適当に喋ってしまうことにはなるが、今この胸にある気持ち。この思いだけは、適当でも口から出任せでもなく本当の物。


純粋な、怒りだ。


「俺という存在と英雄を並べるな!!俺を英雄と呼ぶな!!俺は!ただの卑屈で捻くれた、卑怯者の観測者でしかない!」


ここまでは前段だ。正直、俺の話なんざ今はどうでもいい。どうしても、卑怯者の観測者でしかない『俺が』英雄で と呼ばれることを否定したかっただけだ。


故に、この先。ここから先が、俺が本当にシャールヴィに伝えたい言葉となる。


「聞け!耳をかっほじってよぉく聞け!いいかシャールヴィ!英雄はお前だ!お前こそが英雄なんだ!」


「ぼくは・・ぼくは英雄じゃない!あんな人達に!『彼』みたいにはなれない!」


『彼』・・?誰だ?まあいい。今はそんなことに構ってる暇はねえ。

つまるところ、シャールヴィ・フォン・フィオトレイは自己肯定感が低いんだ。だから俺みたいなやつを英雄視するし、自分のことをゴミ以下だと罵る。


それが、コイツの悪感情の根幹だ。だから、そこを取り除くように言葉をかければ、いつかはこっちを見て話してくれるはずだ!


「あの時!自分の領地を!国を思って行動を起こしたのは誰だ!何度他の生徒に断られようと!めげずにエイスとシャールヴィまで辿り着いたのは誰だ!・・お前だろ!!」


「あの時!彼らを!あの街を!見捨ててしまったのは僕なんだ!助かる命だって、助けられる命だってきっとあったはずなのに!僕は救えなかった!あそこで逃がされて、折れた時点で、ぼくは英雄にはなれないんだ!」


「逃がされたんなら!逃がしてもらったんなら!尚のこと自分を肯定しろ!シャールヴィ!お前が自分を罵る度に!自分を嫌悪する度に!お前はお前を逃がしてくれた人達を軽んじていることになる!そんなこと、お前自身は耐えられないだろ!」


「ぼくは・・ぼくはぁっ!!!」


手足を縛っていたロープが弾ける。シャールヴィの感情のままに暴風が吹き荒れ、嵐が、また俺達を覆おうとしていた霧を吹き裂いて荒れ狂う。


奴の周りを風が囲み、結界のように外界よりの干渉から奴を守ろうとする。


「くっ・・!!」


天へと渦巻いて登っていく竜巻の中心点。そこにいるシャールヴィに、俺は近づくことが出来ない。落ち着かせようと奴の背を擦ることも、奴に言葉をかけることも出来やしない。


・・・こんな時、『アイツら』ならどうするだろうか。


エイスはきっと、自分の身を顧みずに竜巻の中に突っ込んでいくだろう。王都の時、真っ先にシャールヴィを助けようと駆け出したのはエイスだった。


ダバーシャも、恐らく助けようとするだろう。口ではあんなに冷たいことを言っているが、奴の根っこは『善良』だ。自他ともに認める『英雄』である奴が突っ込んでいかないはずがない。


であれば、英雄でない俺はどうするべきだ?神域の奥まで行き、エイスたちを呼ぶか、シャールヴィが落ち着くまで遠くで待つか、自分で助けるか。


きっと、手段は幾らでもあるのだろう・・・が、俺は俺が1番後腐れなく後悔しない手段を選びたい。


・・さぁ、(おまえ)はどうしたい?


「返事はいるか?・・・いや、要らないな」


答えは、最初から決まっている。


「『今、ここに・・・英雄を刻む』」


それは英雄譚の一節。龍を打倒し姫を救った、1人の蒼い騎士の言葉・・・の、改変(オマージュ)

本来の意味は、立ち塞がる黒龍に対し、自分はここでお前を殺すとそう宣告するための言葉。


だがしかし、この場において、俺が使う場合において、この言葉は全く別の意味を持つ。


俺が、いつか描きたいとそう思っていた、英雄譚の第一節。この戦いを、それに捧げるという覚悟の宣言。


即ち・・絶対にお前を助けるぞと、そう誓ったということに等しい。


「・・・行くか」


足を動かし、手を振って。風に巻き取られるだろうマントを脱ぎ捨て、俺は竜巻の中(死地)へと飛び込んだ。


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