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学院の凡人は英雄譚を描きたい  作者: (羽根ペン)
第一章 巨人暴走事件
22/40

22.シャールヴィ・フォン・フィオトレイ

少し短めですが、更新です

「ぐっ・・!」


轍のように地面に2本の線を刻み、蹴撃の威力と剣撃の勢いを何とかして殺そうと両脚に力を込める。


初撃の蹴り分の威力は、体感だが受け切ったと思って良いだろう。問題は、絶賛繰り出され中の蛮刀による幾重もの斬撃。


「・・・!!」


今俺がそれらを全部防ぎきれているのは、あくまでも偶然の産物。噛み合いとそう呼ばれる現象でしかない。故に、拮抗状態は長くは続かなかった。


「チッ!」


風によって急激に加速しながら振り下ろされる蛮刀に対し、再度噛み合せるように鉄刀を振り上げる。

正面からぶつけ合った場合、武器の耐久力という面において、俺の勝機は皆無と言っていい。


より肉厚で重い、叩き切ることを前提とした蛮刀は、当然薄く鋭い代わりに折れやすい鉄刀と比べるべくもないほどに頑丈だ。


つまり、何が言いたいのかと言うと。


「っマジかよ!?」


「・・・!!」


風の勢いを上乗せした強引な振り下ろしが連続で2回、真っ向からそれを受け止めようとした鉄刀と火花を散らして激突する。・・・1度目は。


2度目、叩きつけた蛮刀を支えにして地を蹴り、空中で一回転したシャールヴィは再度鉄刀へ蛮刀ごと風圧を叩きつけ、重力と併せて完璧にその刃を断ち折った。


「・・・くっ!」


ショッキングな出来事が目の前で起きたが、残念ながらそれに対し呆けたり突っ込んだりする余裕は、俺には無かった。


出来たことは直ちにその場で身を翻し、身につけた外套を目くらましにして腕輪から鉄刀を取り出すことだけ。


が、その目くらましすら、身を翻したのと同時に吹いた風によってその意味を失わされたため、この一瞬での俺のモーションは、ただ抜刀のために特大の隙を晒しただけという、何とも情けないものとなってしまった。


「うぁっ!?」


その隙を、的確に、これ以上ないタイミングで右脚が襲う。先程その足で蹴り飛ばした場所と同じ場所。即ち土手っ腹に、風穴を開ける勢いで押し出すような蹴りが直撃。


「ごっ・・!?」


視界内で火花が散り、喉の奥から再度血液と胃液が込み上げてくる。激痛が、臓腑を穿った。


「んのっ・・!!」


召喚魔術ーーー『憑依召喚:フィリップ』、『高速召喚:鉄刀白鞘×10』


が、おかげでシャールヴィに隙ができたのもまた事実。その瞬間に、唯一の取り柄と言っていい程には早い術式構築と魔術陣の展開により、11の出口が現出する。


背中に翅を、その目に複眼を召喚し、反応速度の向上と視野の拡張、三次元起動が可能となる。

強化が終わり、放った刀群の方を見れば、そこにあったのはシャールヴィの死体・・ではなく刃の中心から断ち切られた10本の刀。


「・・マジかよ。殺す気で撃ったのにどんな身体能力してやが・・ん・・・だっ!?」


不意に、ユラ・・と赤毛が揺れて。すぐさま殺気が首裏を刺す。

いつの間にか消失していたシャールヴィの蛮刀を目で捉えられた時にはもう遅く。


「がっ!?」


そちらばかりに意識が向かっていたせいで気付けなかった小盾という存在が、ものすごい速度で旋回して後頭部へと叩きつけられ、俺の小脳を鈍痛が襲った。


瞬間、首裏に感じた殺気が消失し、浮遊感が思考を支配する。小盾の痛みと勢いに押されて前に出てしまったのが失敗だった。


崩れた体幹では、シャールヴィの豪脚に耐えることなど到底不可能であり、俺は為す術もなく地面に転がされて胸を踏みつけられる。


「ぐ・・ぁ・・が・・!!」


ギリギリと、本来人から鳴っていい筈の無い音が俺の身体から発せられ、ビシり・・と、骨にヒビが入る音がした。


先程までとは打って変わって、ジワジワとこちらを苦しめる為だけに行われる拷問のような攻撃。


「ぁ〜〜〜ッ!!?」


声にならない悲鳴が胃液で焼け爛れた喉から漏れ、噴水のように冷や汗が額や背中から流れ出る。


「・・・」


それを、何も感じていないかのような表情で、黙って見つめる目の前の青年。


その様相に、俺は酷く腹が立った。








シャールヴィ・フォン・フィオトレイは、産まれながらの英雄でもなければ天才でもない、他人より少しできることが多いだけの一般人である。


その心根は、普段は隠しているものの欲望に溢れ、隙あらば惰眠を貪り、多量の食事を喰らい、異性の肉体を見つめてしまう程に醜い物である。


家族や使用人達はそんなシャールヴィを指して普通の子だと、良い兄であるとそう言うが、彼はソレが許せなかった。


普通の人間とは公明正大で自信に溢れ、後暗いことなど何も無い、自分とは真反対の人間であり、良き兄とは弟妹に正しい道を示して彼らを導く存在であるべきだ。


自分は、そこからは程遠い。不器用で、不格好で、いつも上っ面だけの浅い言葉で会話してしまう。


故に、『彼』のことが羨ましかった。学院内において、『凡愚』だの『凡俗』だのと言われ、蔑まれながらも自分の生き方を貫いて。


人としてこれ以上ないほどに優秀な親友2人と対等な目線から語り合い、劣等感すら抱かずに自分の出来る精一杯をやり切った後に必ず成功を掴む。


その生き方が、羨ましくて・・・妬ましかった。


本当は、こんな嫉妬は筋違いな物であり、全て自分が悪いのだということも理解している。


・・それでも、上辺では無いその会話が、親しげなその表情が、どうしようもなく『お前は劣っている』と、そう突きつけて来ているようで・・・。


どれだけ剣術が上手かろうと、どれだけ勉強が出来ようと、精神(ココロ)の面で、シャールヴィ・フォン・フィオトレイはモズ・ヘカーテに劣っている。


たったそれだけの差で、それ以外の全ての差が覆る。


詰まるところ、シャールヴィはずっと怒っていたのだ。家族に、セバスに、エイスに、ダバーシャ、モズに、■■に・・そして、自分に。


さも努力していますよと周りに見せつけるかのように、醜い部分を隠して良い子ぶる自分が嫌いで、そんな自分を見て褒める他人に苛立った。


賞賛は時に凶器となる。凶器となって、狂気を呼ぶ。そんな下らない言葉を、シャールヴィは思いだした。


だからといって、胸の内の自己嫌悪が消える訳では無いし、靄のように思考を侵す他者への怒りの感情が霧散する訳では無い。


そう簡単にこの感情が消えないからこそ、自分はシャールヴィ・フォン・フィオトレイなのだから。









さも『自分は被害者ですよ〜』みたいなツラしやがって。何が被害者だ。今俺の肋骨を踏みにじってるのは誰だ。俺の後頭部の鈍痛と腹部の激痛の生みの親は誰なんだよ。


てめえだろうが、シャールヴィ・フォン・フィオトレイ!!


人形みたいな無表情しやがって。『今のこの行動は操られてるからしょうがないんですよ』ってか?ふざけんじゃねえぞこのクソバカ野郎。


「・・・・」


「っ!!ふ・・ざけ、やがって・・!!」


たった今決めた。もう手段なんざ選ばねえ。これまでは万が一にも、殺しちまわねえよう加減もとい調整してたが、もうそんなことには構わねえ。


使えるもんはなんでも使う。そんでもって、最後に俺が勝ったあかつきには・・・


「死ん・・でも、謝らせて・・やる!」


だから、俺より先に死ぬんじゃねえぞ。


「・・・・」


相変わらずの無表情だが、それでも確かに、俺は瞳の奥に輝きを見た。普段のシャールヴィらしい、誰に対しても丁寧に接して、心に一本芯が通っている、強く煌めく意志の光。


・・これなら、大丈夫そうだ。


「・・正直、二度と・・・使いたくは・・ゴボッ・・ナカッタが・・!今は・・・これが・・ゲンカイ!」


【■■魔法ーーー影■い】


手を掲げることも無く、その場に仰向けに倒れたまま、俺は『アレ』を行使する。


いつもはおぞましく感じる、背筋を這うような気持ち悪さも、今だけは痛みを抑えてくれる緩衝材に早変わり。なんて、余裕ぶっていられたのは今の内だけ。


「っ・・!!」


接続したと、そう理解した瞬間に、後頭部の鈍痛を何百倍にもしたかのような痛みを伴って、情報の奔流が思考を穿つ。


明らかなキャパシティオーバーに脳みそが悲鳴を上げ、思考の歯車が不協和音を奏でる音がする。


が、それら全てを捩じ伏せて、目を見開いた先。先程までとは打って変わって、俺の身体を踏みつけるシャールヴィの姿を真横の視点から捕捉した。


「チェッグ・・・!」


かつて読んだ英雄譚に(なぞら)えて、詰みの状態に相手を追い込んだ時の台詞を言い放つ。


自分とは別のモノの視点から、自分が喋っている光景を見るという情報だけで、気が狂いそうなほどの違和感を覚える。


しかし、いまこのタイミングにおいて、俺のそんな感情にはなんの意味もない。


友達(ダチ)が酷い目に合わされてるってのに、そんなことを考えてる暇も、隙も、存在してはならないからだ。


故に


「メ″ィトダ!!」


俺の意思に呼応して、『黒いナニカ』が蠢いた。


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