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学院の凡人は英雄譚を描きたい  作者: (羽根ペン)
第一章 巨人暴走事件
20/40

20.喪失

更新です


かなり遅れた上に短くて大変申し訳ありません。


前話に入れれなかったので補足説明を1つ。

王城に行く前の3日間のうちに、エイス達3人はモズの『黒いやつ』の相談をモズから受けています。アスクの前でソレを出して彼らが驚かなかったのはそのためです。

フィオトレイ辺境伯領・・を目指すことは決まったものの、まだ俺達には王都でやるべき事がある。

それ即ち旅の準備だ。フィオトレイ辺境伯領は、霧と位置している地点のせいで、かなり気温が低い。


もちろん、その道中も山々を登ったりなんだりするため、最悪凍傷で死ぬ人もいるほどだ。


故に、防寒対策をしっかりとしておかなければならない。学院近くの商店では、王都ミズガルズまで用の防寒服しか用意されていなかったため、俺達は旅程に防寒服を王都で再調達するという行程を組んでいたのだった。


ついでに食糧とかも買い直さないと行けない。残念なことに、今日の朝ご飯で俺達が途中の交易都市で補充した食糧は尽きてしまった。


まあ、その辺の商店とかギルドとか、ひっくるめて全部建物がひしゃげたり吹っ飛んだりしていてとても商品なんか売ってる場所なんかないんだがな。


「困った・・非常に困った」


「フィオトレイ領に行く途中で調達しようにも、王都から北西方面の街道は、山越えしないと街がないもんね・・」


「僕やセバスは自分の物がありますけど、皆さんはどうしましょうか・・・」


「俺は寒くない」


強がっているように見えるが、その実体温この野郎本当に体温高いから、多分この辺りの山々になら防寒具いらないんだよな・・こいつ。


「それでも一応買っておいた方がいいだろうし・・どうしようかな?」


「・・・うーん」


やっぱ店が軒並み営業停止しちまってるのが痛いよな。食糧系は辛うじて最優先で仕入れられてるから、今はまだそこまで困って無さそうだが・・。高いんだよな。値段が。


旅のために買い占めるなんてことしたら、行き消費分だけで俺の手持ちの金がなくなっちまうよ。


っかしぃなぁ・・学院出る時はかなり多めに用意してたんだが・・。やっぱり交易都市で色々買っちまったのがマズかったか?でもあの片刃剣、多分かなり歴史的価値があるモンなんだよな。ダバーシャと折半して買ったんだが、それでも結構高かったし。


しょうがないじゃん?こんなことになるなんて誰も思わねえよ!王都で暴走事件が起きて商店が軒並み嵐で吹っ飛んだとか、一体どんな予知能力があったらそんなこと予想出来んだよ。


「・・・あー、マジでどうしよっかなぁ」


頑張って一晩かけて次の都市まで行くか、王都の商店がある程度復興するのを待つか・・。でもそろそろ出発しないと、学院の連休明けに間に合わないんだよな。それだけは・・それだけはなんとしてでも避けたい。


・・新年度始まってスグにそんなに休むと、最悪教師からの印象だだ下がりになる可能性がある。授業はテストの点に直結する。頭良い奴(エイス)がそう言ってたんだから、まず間違いない。


くっそ、魔力稼働式の暖房器具さえ持ってきていれば・・!でもアレはデカすぎて召喚するのにかなりの魔力が必要になる・・まだ今日という日は長いのにそれはマズイ。それに、いくら暖房器具を召喚したところで、雪山の中、魔力枯渇でぶっ倒れるのは怖い。かなり怖い。


せめて周りを暖めることが出来る、それこそ暖房器具みたいな魔術を使える奴、ないしは体温が馬鹿みたいに高くて周りの人間を暖めることすら出来るやつが居れば・・・。


「「あっ・・・」」


俺とエイスの声が同時に重なる。どうやら、奴も同じ結論に至ったようだ。


「なぁ、エイス」


「なんだい?モズ」


ゆっくり・・とてもゆっくり、俺達はアイツの

方へと視線を向ける。


「・・・む?何だ?」


嫌な予感がしたというような露骨な表情を隠そうともせず、ダバーシャは自身を見据える俺達2人を睨み返した。


が、奴の眼力なんぞ、俺達にとっては既に慣れたもの。今更そんな事で怯むような仲では無い。


「や、やめろ・・!俺は・・!俺は絶対にしないぞ!!」


「ダバーシャくぅん?」


「嫌なことはしないから、ちょぉっとこっちに来ようかぁ?」


「っ!!た、助けろ赤髪!このままだと俺は・・!」


「・・・・諦めて下さい」


「「うおおおおおお!!!!」」


「うわぁぁぁああ!!!」


無慈悲にも宣告は下る。極めて諦めの悪いダバーシャの野郎は、その後もかなりの抵抗を示したが、結局俺達の暖房として扱われることに落ち着いた。


・・代償として、今後1年間奴の欲する武具を全て買うことになったが。

俺の財布が・・・。








「あったかぃ・・・」


「離れろ。迷惑だ」


「そんな事言うなよぉ・・・」


ガタガタと揺れる馬車の中、寒がりな俺とエイスはダバーシャに擦り寄って両手を翳し、暖をとっていた。


「チッ・・!」


至極当然の事ながら、暖房扱いされてイラついているダバーシャを除き、驚くべきことに、旅程は順調に進んでいる。


王都からの山越えはおろか、そこから辺境伯領に至るまで、更には至ってからも、一度も魔物との戦闘や各村での巨人の暴走が起きていないのだ。


『何かがおかしい』と誰もが思い、何かの『予兆』なのではないかと全員が疑ったが、特に何事もなく俺達は領都フィオトレイに到着した・・否、してしまった。


王都ミズガルズ程ではないにろ美麗な街であり、驚くべきは王都に引けを取らないほどにキッチリと整えられた区画だろう。


分かりやすく屋根や壁の色で各区画ごとに色分けをしており、人々が迷いにくいように配慮された、とても過ごしやすい街であることが見て取れる。


正門から領主の館に繋がる大通りには多種多様な酒場や商店が並んでおり、普段ならば多くの人で賑わうのだろう。・・・そう、普段ならば。


「な、なぁ、コレって・・・」


今、その大通りは、かつて多くの人々が行き交っていた、賑やかな様相など見る影もない、人っ子一人居ない不気味な静寂に支配されている。


まるでゴーストタウンや廃墟に来たかのような不気味で怪しい、不吉な雰囲気を醸し出すその様子は一言で片付けるのならば『異常』そのものであった。


「・・・っ!!」


その光景を見た瞬間、突風が吹き荒れる。声にならない慟哭を上げ、シャールヴィは疾風となって一目散に大通りを駆け抜ける。


普段の冷静さなど欠片も感じられない、ただ荒れ狂うだけの暴風をその身に纏い、向かう先は領主の館。

自身が産まれ、育った心の原点。


扉を開ければ、その先に家族がいる。自身を可愛がってくれる使用人や騎士、生意気で可愛い弟妹、厳格だが優しく、先達として自分を導いてくれる父。

その全てが、今自分が立つ玄関の、その先にいるのだと信じて。


「お願いしますお願いしますお願いしますお願いします」


果たして、扉を開いた先。余分な魔術すら使用して強引に押し開けた扉の奥には・・・誰もいなかった。


普段なら出迎えてくれる使用人も、共に戯れながら現れる弟妹も、執務室の窓からわざわざ身を乗り出して挨拶してくれる父も。


誰も彼もがまるでイタズラのようにその姿を晦まして、最初からそんな人々なんて存在しないかのように掻き消えていた。


「そん・・・な・・」


崩れ落ちる。強かに床にうちつけた膝の痛みも、自分が今何を言ったのかも、地面に着いた手にくっつく砂利の感触も、全てがシャールヴィの思考を掠りもしない。


あるのは、莫大な喪失感と虚無感のみ。


が、そこでシャールヴィは思い出す。思い出してしまう。

自分が一体、なんのためにここに来たのか。誰と共にここまで来たのか。

思考した瞬間、身体は自然に動き出す。セバスを、エイスを、ダバーシャを、モズを思い出し、自分が置いてきてしまった仲間の方へと顔を向ける。


・・・そしてまた4人。霞のごとく、彼らはその姿を消していた。


「う・・そだ・・」


ただそれが真実だと認めたくなくて。ただそれを虚偽だと思い込みたくて。今にも萎れそうな朱色の毛髪に包まれた脳内は、周囲の皆が掻き消えたという事実を拒絶した。


「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ」


ただ真実を拒絶する言葉を延々と紡ぎ出す。


頭に靄がかかっても、霞が視界を侵しても、濃霧が思考を埋めようとも、その否定が止まることだけは、ついぞ無かった。


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