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学院の凡人は英雄譚を描きたい  作者: (羽根ペン)
第一章 巨人暴走事件
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2.出会い

「・・・で、あるからして。君達学院生は新学年での・・・」


「・・・」


長い。長すぎるぞ教頭先生。校長が引きこもりでこういう行事にも挨拶しに出てこないからって、この長さはあまりに横暴だ。


「英雄とは・・・」


話が横道にそれまくってる癖に1ミリも面白くない。先生人前で発表とかすんの向いてないよ。うん。

直接話すとまた違った雰囲気で話しづらいし、あの人と対等に話せんの校長先生ぐらいなんじゃね?


「平民も、貴族も・・」


そう、平民。平民だよ。俺の身分は正真正銘ただの凡人の平民でしかないのに、なんでこんな長ぁぁぁい、しょうもない話を聞き続けなきゃならねえんだよ。


ラビリンスの分校の校長は良かったな・・話は簡潔にさっくり纏めるし、言っていることもわかりやすい。ホント、良い先生だった。まあ、教頭先生が悪い先生かって聞かれるとそんなことは無いんだけど。


「これにて、終わりと・・・」


やっと終わったぁ・・。長かったァ・・。結局あの人だけで30分近く話してたぞ。







始業式が終わったところで生徒は三年生から順番に教室へ戻る。俺も例に漏れず、そんな生徒たちの流れに身を任せて教室へ戻った。

戻ったところで特に何かある訳でもなく、事務連絡のような担任の話を左から右へ聞き流し、春休みのうちに出されていた課題を提出してその日は解散となる。


この学院はクラス替えとかは無いため、担任も昨年度と変わらず同じ人である。去年の三学期から編入した身としてはクラス替えをして心機一転。初めて同士で交流とかしたかったのだが、致し方ない。校則は校則だ。


「それじゃあ、お前ら。明日からも授業あるからな。きっちり来いよ」


「「「はい!」」」


さて。学院が終わったら何をしようか。帰って二度寝してもいいし、偶には自炊なりなんなりして少し贅沢な昼飯を食ってもいい。

と、思考を巡らせたところで、授業終わりのチャイムが鳴る。


「「「「さようなら!」」」」


大半が気怠げに礼をして、教師と学院に別れを告げる号令が済んだところで、俺は何も入っていないかのように軽い鞄を持ち、教室の外へ駆け出した。


「チッ!逃げたか!」


背後からそんな声が聞こえてきたが、気のせいだと頭の中で処理して、向かうのは窓。廊下の突き当たり。換気のために開け放たれている、素晴らしい装飾を施された窓へぶつかる勢いで走る。


「「待て!!」」


背後から迫る二人分の声と『バチバチという雷の音』。加えて鼓膜を揺らす『床を抉るような踏み込みの音』を無視して窓枠に手をかけ、軽やかに外へと飛び出していく。


「あばよ!!」


後ろを振り返らずに追ってきた奴らに別れを告げて、俺は左手に持つ腕輪の中に右手を突っ込む。


召喚魔術ーーー『召来:使い捨て魔術陣(マジック・スクロール)


腕輪の中に、白い魔術陣が形成され、同時に俺の手が魔術陣の中で『何か』を掴んだ。引き抜いてみれば、手の中にあったのは、少し黄ばんだ小さめの羊皮紙。そこに描かれているのは、奇妙な形の術式を刻まれた、青色の魔術陣。それに・・魔力を通す。


「発動!マジック・スクロール!空間魔術ーーー『ア・ポート』!!」


直後、4階の窓から跳び立ち、中空に身を躍らせた俺の体が青色の光に包まれて消える。追っかけてきていた『アイツら』から逃げ切ったことにほくそ笑みつつ、手元で消えていく魔術陣を見れば、そこに書いてあるのは『ア・ポート』ではなく『ランダム・テレポート』の術式。


やらかしたと、そう思った頃にはもう遅かった。


本来、ア・ポートはマジック・スクロールで使う場合、上下左右前後のどの場所にも、5mまでの距離ならば、一瞬で移動できる魔術である。


俺はこれを使って、地上まで一瞬で転移し、アイツらから逃げおおせるつもりだったんだが・・・。


しかし、今回俺が使ってしまったランダム・テレポートという魔術は、使用者を一定範囲の中でランダムな場所に転移させるという魔術なのだ。


つまりは、俺はとんでもなく変な場所に飛ばされる可能性がある。


じゃあなんでそんな魔術のスクロールを俺が持っていたのかと言うと、後になって思えば、師匠に言われてスクロールを自作する時にア・ポートの術式を書くのを失敗してしまったからだろう。


使用する前の時点ではア・ポートだと思っていたからこそ、召喚魔術で召来させたら間違って出てきてしまった。要はそういうことなのだろう。








故に、今現在、俺は絶賛自由落下中であった。


「うおわぁぁあああ!!??」


当然、この時点ではまだなんで召喚したのがランダム・テレポートのスクロールだったのかわかっていなかった俺は困惑し、情けない悲鳴をあげて学院の・・どこか分からない木々の枝に激突しつつ、衝撃を緩和させて地面に落ちた。


「痛つつ・・どこだここ?」


まだ編入して来てから3ヶ月も経ってないんだぞ?ここがどことか分かるわけないだろ!てか何でランダム・テレポートのスクロールが出てきた!?

とキレ気味に状況把握に勤しんでいた所。


「お願いします!!先輩!」


唐突にそんな台詞が鼓膜を震わせた。


「ん?」


気になったので声のした方を見に行くことに。あわよくばここが学院のどこに位置していて、どうしたら正門に戻れるのかも教えて貰おう。と、そう思考を巡らす。取り敢えず、自分の現在地が分からないとどうしようもないし、『アイツら』からも逃げられない。


「先輩!」


草木を踏み分けて遂に開けた場所に出た。そこでもう一度さっきの声が聞こえてきたため、そちらを見ると、そこには、燃えるような赤毛を持つイケメンの青年と、その青年に懇願されている金髪の女性がいた。


「ごめんだけど・・断らせてもらうわ・・」


告白か?だとしたら、ちょっとマズイ場面に遭遇してしまったかもしれん。

などと邪推し、何となく気まずさを感じて木々の影に戻ろうとした次の瞬間。


「だって、あなたの依頼は危険すぎるもの・・私達では無理だわ。」


依頼?危険?てことは告白では無い・・か?いや、だとしても頼み事を断られるっていう場面を人に見られるのは中々に気まずいは・・・ず・・・


「え?」


気付けば、赤毛の青年がこちらを見つめていた。瞬間、疾風よりも尚早く、青年がこちらに接近してくる。


「き、君!モズ・ヘカーテ君ですよね!?」


「え?・・あ、いやぁ・・そうだけど・・・」


おいこらちょっと待て先輩。あんた何どさくさに紛れて逃げようとしてんだよ。つーか、ネクタイの色で思い出したわ。

赤毛、イケメン、丁寧な口調、そして俺と同じ学年を意味する赤のネクタイ。


こいつの名前はシャールヴィ・フォン・フィオトレイ。列記とした貴族だ。

確かフォグノースだったかの辺境伯爵家の嫡男だったはず。


・・で?そんな奴が何で俺なんかに話しかけてきた?クラスも違うよな?


「君に、お願いしたいことがあるんです!!」


うわ近い!?食い気味にイケメンが急接近してくる!?


「な、何かな?」


面倒事は嫌だ面倒事は嫌だ面倒事は嫌だ面倒事は嫌だ!俺はさっさと部屋に戻って二度寝するんだ!もうそう決定した!だから!早く肩を掴むその手を離せ!!


そう言いたい気持ちをグッと堪え、一先ずは事情を聞くことにする。

俺が聞く体勢になったのを確認して、シャールヴィが話し始めた。


「実は・・・」


曰く、ココ最近。特にここ1ヶ月で、急激に巨人族による暴走事件が多発してきているらしい。

巨人族とは、巨神国家フォグノースにいる固有種族であり、彼の国における力仕事などを任されている種族のことだ。


その性格は、個人差はあれど非常に豪快で温厚であり、滅多なことでは怒ったりせず、祭りや行事が大好きな者達だ。


そんな彼らが、巨神祭(ラグナロク)の時期でもないのに唐突に暴れ出したりすることが増えてきているらしい。その問題の原因を探り、解決したいというのがシャールヴィが先程先輩に依頼していた内容であった。


「なるほどな・・」


ついでに言うなら、フィオトレイ辺境伯領は巨人による鉱産資源の採掘が主産業らしく、故に今回の暴走事件で最も被害を蒙った領地の1つでもあるそうだ。


とは言え、そんな国絡みの事件は俺みたいな凡人に助けを乞うたところで解決出来ないだろう。

それこそ、『英雄』でも無い限りは。


そして、それくらいの事を目の前のイケメンが分かっていないとも思えない。であれば、次に飛んでくる台詞は・・


「「君の友人の手を貸して貰えますか?」だろ?」


「え?何で・・」


「何でもなにも、俺にそんな国を巻き込んだ事件の解決なんか助けを請われたところで出来ないからな。そして、そんなことはお前なら百も承知だ」


そう言い放った瞬間、シャールヴィの顔が曇る。当然だろう、暗に、俺に対して『お前では力不足だ』と言っているようなもんだからな。


まあ今更そんなこと考えられたところで気にもしないから別にいいが。


「後はまあ勘だな。俺では力不足なんだから、俺と近しい奴だったり俺と関係のある奴に用があると考えていけば、自ずと分かる。俺の友達は2人とも『英雄』と呼ばれるに相応しい奴らだからな。アイツらの力目当てで、お前が助けを願うのも当然ってわけだ」


「・・・」


「んで、さっきの質問だが・・別に良いぜ」


「!!」


そう言うと、シャールヴィは驚いたというような顔をした。


「何で驚いたような顔してんだよ?」


「いや、断られると思ってたので・・」


「同じ学年の奴が困ってんだ。それを助ける手段が俺の中にあるのなら、断る理由は別に無いだろ」


それに、ここに居たのが『アイツら』でも、多分助けるって言ったと思うからな。


よし、後は『アイツら』に話を通すだけだ。さっき逃げてきちまった分、こっちから会いに行くのはだいぶ気まずいが・・まぁ、俺の気持ち程度でシャールヴィの邪魔をするわけにもいかないからな。

きっちりやってやる。


「今の時間なら、『アイツら』は多分食堂に居るだろうから・・・」


と、そこで思い出した。


俺、現在進行形で、絶賛道に迷い中なんだった。


「スマン、シャールヴィ。食堂の行き方、教えてくれ。」


折角さっきカッコイイこと言ったのに。あーあ、台無しだよ全く・・情けねぇなぁ・・・。



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