19.会談
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「・・君はどういう存在なんだ?私と同じか?・・いや違うな、もっと直接的に『血』が関係してるような気がする。・・まさか子供?いや、それこそ有り得ない・・。」
「いや、そのまさかだ。俺は饗祭国家ガネーシャのとある神と、偉大なる人族の母から生まれた、半人半神のハーフ。ダバーシャ・バラカ・クシュラパトラだ、」
「っ!?嘘だろ?」
敬語すら使わずに、ダバーシャは余裕綽々という態度でアスク様と相対する。個人的には敬意ぐらい払ってて欲しかったのだが、それはどうやら叶わぬ夢だったらしい。
それに対するアスク様も、楽しんでるような態度を隠そうともせずに驚きの表情を浮かべている。
「まさかそんな事が起こり得るとは・・。いやでも、あの国で、それもあの神なら、そういうこともある・・のか?」
「さあな。父と母がどう出会ったかなど、俺は興味が無い。俺が物心ついたころには、既に父は居なかったのだからな。」
「・・・そうか。なら、君はそういう存在なのだと納得しよう。神と人との距離が近いこの世界ならば、そういうこともあるだろうさ。・・それで?君は何を求める?今回の事件についてでもいいし、それ以外のことでも構わないよ。」
「・・そうだな。では、お前の憂慮、その原因を教えろ。先程から妙な所で眉をひそめたり目がつり上がったりしている。それは、イラつきや不安の表れだ。ならば、そのような感情を抱く原因があって然るべきだろう?」
「・・は?」
・・・え?そんなことわかんのお前?しかもアスク様自身が『は?』って言ったってことは、彼自身が無意識にそうしてしまってたってことだろ?無意識の微弱な動作すらわかんのお前?
「・・どうやら、かなり良い『目』を持っているようだね。フォーセやレイトイにもバレなかったんだが・・。」
「あまり俺の目を舐めるなよ。・・それに、不可思議な『魔眼』などと一緒にするな。俺のはただの肉眼だ。」
「肉眼でそんなに見えるのかい?・・まぁ、半神ならそういうこともあるのかな?」
「それで?お前の憂慮は何だ?質問に答えろよ始まりの王。」
挑発的に笑い、ダバーシャがアスク様に問いかける。
「・・これはまだ誰にも言ってないから、皆には隠しておいて欲しんだけど・・・今から7日前、副王、ユミル・フォウ・リサストルが、失踪したんだ。」
「っ!?」
副王。それはフォグノース独自の存在のこと。人族の王であり、人としてフォグノースの頂点に位置するのが、永遠不変の存在、始源樹王アスクならば、巨人族の王であり、巨人としてフォグノースの頂点に位置する者がいて然るべきである。
という考えの元、統一戦争前の20年間、フォグノース内で両種族が激しく対立した末に、始まりの巨人の名にあやかって、誕生したのが『副王ユミル』という存在だ。
代々の副王は『ユミル』という名を継承し、アスク様の補佐兼対等な存在・・時には友としてその傍にあり続けてきた。
そんな副王である当代のユミルが、王都暴走事件の4日前に失踪したと。アスク様は宣った。
「この7日間、できる限りの手を尽くして調べたんだけど、未だに原因も、その手がかりも不明のままでね・・今代の彼とはとても良好な関係が築けて居たから、心配でならないんだ。」
心の底から当代のユミルを心配する声音で、アスク様は自身の憂慮を俺達に語った。その様は、これまでかなり人間離れしていた彼が、初めて見せた人間らしい表情と態度だった。
「・・分かった。ならば、お前のその憂慮、俺達が解決に手を貸してやろう。」
どこまでも傲慢に、ダバーシャは王に向かって言い放つ。
どこまでも傲慢だろうと、どれだけ上から目線だろうと、生来の彼の気質がある故に、『英雄』は目の前で困っている『人』を助けないことは出来ないのだ。故に、ダバーシャも、シャールヴィも、エイスも、眼前の『人』の心配事の解決には、率先して助力する。
「っ!!・・良いのかい?君達の時間だって、有限のはずだろう?」
「良いに決まってますよ!目の前で困ってる人がいたら助ける!当たり前のことでしょう?」
力強くエイスがそう言いきると、少し救われたような、安堵したような表情で、アスク様は軽く頷いた。
「なら・・お願いしようかな。・・それでも、無茶や無謀はしないで欲しい。コレは、本来君達が背負う必要のない問題だからね。それに、無理に国中を探しに行く必要は無い。・・恐らくはこれもロキの仕業だろうからね。もしそうなら、多分だけど奴は神域にいるだろうし、ユミルも同じ場所にいる可能性が高い。」
「俺達は神域に行けばいいと・・そういうことだな?」
「相手は神だ。くれぐれも用心してくれ。」
「分かった。」
固く覚悟を決めた顔でアスク様とダバーシャ達で頷き合い、ダバーシャのターンは終わった。
・・よし、やっとコレでこの窮屈な執務室から出れる。結構興味深い本も、皆が話してる間に見つけたからら後で書店とかで買えたら買おう。幸い、春休みあんま金使ってないから、貯金の余裕はある。
そう考え、身体を横に向けてドアの方へ向かおうとしたその時。
「・・・。」
ジッ・・・と、コチラを見てくる視線に気付く。
視線を気にし、振り返ると、そこには真っ直ぐこちらを見つめる五対の目が。
「ひっ!?」
自分よりも圧倒的に存在感が強く、強者である彼らからの視線に、身体が竦む。
喉が引き攣って、声にならない声が漏れた。
「・・さぁ、君は何を求める?」
甘い甘い声音と、対照的に威圧感マシマシの眼光が同時に俺の脳を刺激する。
てか何で俺!?俺何もしてな・・とは言わないけど、身分違いすぎるから自主的に喋らないようにしてたのに、そっちから話しかけてこられたら答えるしか無くなっちまうんだが!?
「えっ、えぇっとぉ・・・」
何を聞けば良い?・・ロキとかいう神様の詳しい情報?それともその神様の詳しい居所?ユミル様の性格?問題解決の方法?・・具体的に何を聞けばいいのかが分からねえ・・・。
「何でもいいよ。・・事件のことでも、それ以外でも・・ね。」
「じ、じゃあ・・」
・・・よし、決めた。『アノコト』を聞こう。
「・・・アスク様は、この力を見た事がお有りでしょうか?」
「・・力?」
「今、見せますね。」
【■■魔法】ーーー『影■り』
一瞬の内に逡巡を終わらせ、意を決した俺は、立った状態で手を前に翳し、身体に力を込める。
あの時と同じように、脳内で「出ろ」という声を痛いほど叫び、繰り返した所で・・・
影が這い寄る
ゾワッ・・と空気が揺れ、不快な感覚が背筋を這い回って脳を蝕む。瞬間、脳内に莫大な量の情報が流れ込んだ。・・あの時と同じ感覚に、確かに繋がったとそう理解して。
視界が暗転する
次いで見えたのは何かの下。恐らくは俺の履いてる靴の真下なのだろう。眼前に、手を前に翳したままの俺が見える。
気持ち悪い
自分では無い視点で、ジブンジシンを見つめるオレに、吐き気を催す程の不快が襲う。
ソレを強引に押さえ込み、自分の身体に這い寄るように、リョウテを前へ。
囁きが、鼓膜を揺らした
直後、身体が縛られたかのように動かなくなり、その驚きで視界が戻る。元の、見慣れた短い手を翳し、確固たる自分のモノと理解出来る短足を肩幅に開いた、ジブンの身体にオレは戻ってきタ。
「っは!?・・はぁー・・はぁー・・」
大きく息を吸っては吐き出し、吸っては吐き出す。脳に十分な酸素を送ったところで、視界の端を染めていた黒いナニカと、思考を蝕んでいた気色の悪いナニカを追いやり、俺は完全に元の状態に回帰した。
「力・・っていうのは、今君を捕らえているその黒い奴についてでいいのかな?」
「はい。」
唯一、意識が暗転する前と後で、俺に違う所があるとするのなら、ソレは体表を覆って俺をふん縛っている黒い影が存在していることだろう。
「この黒い影について、何か分かることを、教えて欲しいんでス。」
「・・成程ね。取り敢えず、一旦その黒いのを解除することは出来るかな?」
「・・はい。可能です。」
「戻れ」と、一言そう念じた瞬間、黒い影は俺の影の中に吸い込まれて消えていった。
「OK。・・で、その黒いのについての話だけど・・・。残念ながら、私にも詳しいことは分からない。ただ、何らかの『魔法』の類であることと、出てきた黒い奴が『影』では無いナニカ別の物であることは分かったよ。・・正直、見てるこっちも気分が悪くなる様なシロモノだから、あまり多用はするべきじゃないだろうね。」
「そう・・ですか。分かりました。不快な思いをさせてしまい、申し訳ございません。・・今後使う時は気をつけたいと思います。」
「うん。それがいいと思うよ。」
珍しく、恐らくは初見の現象に対して、好奇心たっぷりの瞳や面白がっている口調をせずに冷静なまま忠告をしてくれた姿は、俺たちの目に、逆に新鮮に写った。
・・・にしても、『影じゃない』か。じゃあ、一体この『黒いの』は何なんダ?
言い知れぬ不快感が背筋を這い、あの時感じた『ナニカ』が耳元で囁いたような、そんな気がした。
その後、アスク様はセバスさんにも礼を渡そうとしたが、セバスさんの方から、『自分は何もしていない』と、謹んで辞退されたため、それで話は終わってしまった。
そのまま、しばらくの間世間話をした後、リダラさんに呼ばれて、俺達は退室となった。なんでも、王都以外にいる、領地を治める貴族達や他国お偉いさん方、巨大商会のトップなどが雁首揃えてやって来ているらしい。
このままだと執務や外交面で支障をきたしてしまうため、早々に俺達はアスク様の執務室を退室した。
「じゃあ、ユミルのこと、頼んだよ。・・私はしばらくここから動けなさそうだからね。もし何かあったら、王城に来てリダラに言ってくれればそのまま私まで話が通るからさ。その時は、よろしくね。・・・くれぐれも、無茶や無理はしないように。」
「えぇ。了解しました。・・必ず、ユミル様失踪の手がかりを掴んでみせます!」
「うん。・・頼んだよ。」
少し悲しそうな顔でそう言って、アスク様は扉を閉めた。
同時に、扉が閉まるまで一礼を継続してから踵を返し、俺達は王城ミッドガルズを去って城下にある貴族区画へと足を進めた。
次の目的地はフィオトレイ辺境伯領。シャールヴィの故郷にして、神霧に接する唯一の場所だ。




