17.登城
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「っっ!!」
大嵐がミズガルズを席巻する。恐らくはシャールヴィの放った魔術だろう。
体が風に持っていかれそうだ。あのシャールヴィがこんなモンを放つほどに追い詰められているということは、ワンチャンこの嵐を出してもその相手を倒しきれてない可能性がある。
「行くよ!モズ!」
形振り構っていられなくなったエイスが風でところどころ切り裂かれた服をなんとも思わずに、爆心地へと駆けていく。
それに追従するように、俺とダバーシャも出来うる限りの全速力で、シャールヴィの落下地点へと急行。
到着した後、視界に入った惨状は酷いものだった。推定冒険者ギルドと思われる建物やその周囲の商店、少なからず住宅街さえもひしゃげてしまい、元の形など見る影も無い様子となっていた。
「っ!」
そして、そんな惨状の中心点に、うつ伏せになって意識を失っているシャールヴィと、頭が吹き飛ばされ、身体もズタズタのめちゃくちゃになった銀色の魔物が倒れていた。
「・・こいつと戦ってたのか」
「銀色の体毛に、狼や犬に近い足・・神域の銀狼だな」
「デカイね・・・」
何故あんな大技を放つことになったのかは未だ不明のままだが、取り敢えずの脅威は去ったと考えていいだろう。霧も先の嵐で全て吹き飛んでるし。
「・・とりあえず、一件落着って感じかな?」
「そのようだな」
「ふぃー・・疲れた」
倒れているシャールヴィを仰向けにしつつその隣に腰を下ろしてしばしの休息。流石にここまでの道中で慣れないことをしすぎたのか、腰を下ろした瞬間に疲れを身体から吐き出そうとため息が漏れていく。
「・・この後は王城まで行って馬車を回収。出来れば王様と謁見したかったけど・・流石に無理かな。復興とかもあるだろうしね」
「とりま、王城までシャールヴィを運ぼう。あそこなら腕のいい治癒魔術師もいるだろうしな」
「赤髪は俺が背負おう」
「わかった。まずはそうしようか」
王城に着くと、ちょっとした騒ぎになっていた。さっきの嵐が何によって起こされたのかとか、何故急に巨人の暴走がここまで活発化したのかとか、人々が我先にと城の騎士に詰め寄っているのが見て取れる。
そんな彼らを一瞥しつつ、シャールヴィを治癒魔術師に預けた俺たちはガマルさんたちと合流することにした。
「おお!坊主!馬車貸してくれてありがとうよ!」
「いえいえ。礼には及びませんよ。こちらこそ、皆さんに何度も助けてもらいましたし、避難する方々の護衛もやってもらって、感謝しかありません」
「おぉ・・そう言われるとちょっと照れるな・・。大したことはしてないんだが・・・」
「ガマル殿。少しよろしいですかな?」
ガマルさんとお礼の言い合いをしていると、少し前に目を覚ましたのだろう。セバスさんが会話に加わってきた。
「モズ殿、エイス様、ダバーシャ様、ご無事で何よりでございます。それで・・坊ちゃんは無事ですかな?」
純粋に俺達を、そしてシャールヴィを心配する声音で、セバスさんが問いかける。
「えぇ。大嵐を放ったりして疲れてますが、命に別状は有りませんよ。ホント、よく頑張ってくれました」
「まさか単独で神域の銀狼を倒すとは思わなかった。・・俺は、赤髪に戦士として敬意を表する」
「今、シャールヴィは治療を受けてるところだから、それが終わったらまた皆でお礼を言いに行こうね」
「ああ。それまではここで待ってよう」
「・・・皆様。本当に、なんとお礼を言っていいやら・・儂には、分かりませぬ・・・」
滂沱の涙を流し、素に戻ってしまった口調でセバスさんが礼を言う。俺達は真正面からそれを受け止め、ただ英雄の目覚めを待った。
2時間ほど経った頃だろうか。既に日は沈みかけ、真昼の青空から一転、紅く染まった空から白い峰々の合間に沈んでいく太陽が横からミズガルズを照らす夕方。
「う・・・ん・・」
幻想的な王都の景色にボーッと見蕩れていると、上体を起こし、目を擦りつつ、シャールヴィがその目を覚ました。
「ここ・・は・・」
「ミズガルズの王城だ。嵐呼んだあと、お前はぶっ倒れてたからな。皆でここまで運んできて、治療してもらってたって訳だ」
「・・・・そう・・ですか」
あのシャールヴィも、寝起きだとここまでボケーッとしてるんだな。・・なんか、見てはいけないものを見てしまったような気がする。
「今の内にみんな呼んどくか・・・おーい!皆ー!シャールヴィが起きたぞー!」
途端、ゾロゾロと奥から歩いてくる足音が響き、ガチャリ、と病室の扉が開かれる。
「シャールヴィ!目が覚めたんだね!」
「坊ちゃん!良かった・・本当に良かった・・!」
「・・意外と丈夫だな。赤髪」
若干1名喜んでるのかどうか分からんやつもいるが、他2人・・セバスさんとエイスは喜びとお礼を口々に放ちながらシャールヴィを労っていく。
「・・あぁ、そうだ。僕は・・」
徐々に意識もはっきりしてきたのか、ボケーッとしていた顔が引き締まり、いつものシャールヴィが形成されつつある。
「坊ちゃん!改めて、よくご無事で!」
「ちょ、やめてよセバス!近いから!それに、皆さんにはぐれた後どうなったか一応報告しないとなんだから、ちょっと離れて!」
号泣を何とか押さえ込み、無事に暴走を鎮圧できたことを喜ぶセバスさんに呆れつつ、シャールヴィはエイス達とはぐれた後の状況を説明する。
「やはり銀狼だったか。あの魔物は」
「はい。空に投げ飛ばされた時は、本当に困惑してしまって、どうしようどうしようって頭がいっぱいになっちゃったんですけど・・でも、結果的に上手くいって、良かったです。もし着地に失敗してたりしたら・・考えたくもないですね」
「そうなってたら、今頃ギルドの床でただの肉塊になっててもおかしく無かったからな。・・ホント、生きててよかった」
そうしてしばらく談笑し、病室で笑い声が木霊するようになった頃。
コンコンコン
とノックの音が響く。
続いて、ハキハキとした大声で外にいる何者かが話し始めた。
「私はフォグノース第一人族騎士団所属のリダラ・フォン・ヘストゥルと申す者であります!失礼ですが、
シャールヴィ・フォン・フィオトレイ様の病室はここで間違いございませんでしょうか!!」
リダラと名乗ったその騎士は、高らかに自身の所属とシャールヴィへ用事があることを宣言する。
「は、はい!間違いありません!」
「では、失礼します!」
セバスさんが扉を開けると、そこにはまだ年若い、騎士甲冑に身を包んだ青年が立っていた。
またも朗々と入室を宣言し、彼は扉のヘリを跨いで病室に入ってきた。
「・・それで、騎士団の方が、僕に何の用でしょうか?」
「先ず、フィオトレイ家の皆様が、我らに代わって今回の王都での巨人暴走事件の鎮圧に一役買って頂いたことを深く御礼申し上げます。また、用事もそれに関するもので御座います」
「はい・・!」
「これより私めが話すことは全て、国王、始源樹王アスク様の言葉となります!謹んでお聞きして頂きたい。」
国王様の言葉?どういうことだ?知らず知らずのうちに俺達が問題を起こしてたってことで処罰されるとかか?
「あ、アスク様の!?・・・はい。分かりました」
いつになく緊張して、シャールヴィはリダラの放つ言葉に耳を傾ける。
「『王命である。3日後の朝。日の出から3時間経ってから、供の者を連れて王城へ登城せよ』」
沈黙。数秒どころか数十秒の沈黙により、それで、たったそれだけで、国王様の言葉が終わったのだと全員が理解した。
「・・・は、え?それだけ?・・・ですか?」
「ええ、それだけです」
あまりの短さに、シャールヴィが疑問の声を口にする。当然だろう。国王の言葉とはもっと重くて長いものだと誰もがそう思っていたはずなのに、予想を裏切る形で、なんというか、すごい適当というか・・いや、あんな事件もあったししょうがないと言えばしょうがないんだろうけどさ。
にしたってもっとこう、なんか・・あるだろ!手紙とかでやる文頭に季節の言葉入れるとか・・・いや、そういえばこの国一年中冬だったわ。・・じゃあしょうがないか?
エイスとかダバーシャみたいな、普段王様と接したりする奴らは特になんとも思って無さそうだし、もういいか。それに、国王ってのは案外こんなもんで良いのかもしれないし。
「では、特に何も無いようであれば、3日後にまた王城の正門前で会いましょう。では・・・」
「あ、はい・・・」
そんな微妙な空気感のまま、リダラさんは病室の扉を自身で開けて外へ出ていった。
「・・・で、どうする?」
「どうもこうも無いでしょ。王命なんだから、行かないとダメだよ」
「ここで行かなかったら、最悪シャールヴィとその家族の首が飛ぶ可能性だってあるわけだしな・・」
「さ、流石にそんな暴挙をする人ではないですから、大丈夫だとは思いますが・・・」
「何はともあれ、コレはチャンスですな。もしかしたら、王都に来る前に話していた、神の魔法について、聞けるやもしれません」
・・確かに、それはそうかもしれない。
ーーーそんなこんなで3日後
粗方王都の修復作業も終わり、住民達がやっと自分の家に帰れると安堵している頃。
俺達は王城の正門前でリダラさんと再会した。
あの後、去る前にリダラさんがセバスさんに渡していたらしい呼び出し証明書なる物をセバスさんがしっかり持っていることを再度リダラさんに確認してもらい、俺達は門を通り抜け、王城へと足を進める。
「・・その後、具合はいかがですかな?シャールヴィ様」
「え、えぇと・・今のところ、順調に回復してきてますね。・・もう少ししたら、前の感覚を取り戻せそうです」
「そうですか。・・それは良かった」
えぇ・・何このぎこちない会話。場の空気が凄い微妙になっちゃったけど、どうすんのコレ?
「・・・到着です」
その後、会話らしい会話もなく、俺達六人は縦50メートル、横30メートルはあろう巨大な扉の前に到着し、その扉を見上げていた。
金属製の、かなり分厚く頑丈に作られた扉だ。こんなモン本当に開けられるのか?・・いや、開けれるからこのまま機能してるのか。
「フィオトレイ家一行様の到着です!!」
そんな事を考えていると、リダラさんの大音量での第一声が大扉の前のホールに爆音で響き渡る。
思わず耳を塞ぎそうになり、何とかそれを堪えた所で・・俺はそうしなかったことを心底後悔した。
ギギィ・・!
と、金属の軋む音が響き渡り、次いで鎖のジャラジャラと鳴る音が鼓膜を揺らす。
鼓膜が破裂するかと思うほどの爆音で鎖が引かれ、徐々に徐々にギシギシと大音量の不協和音を奏でながら、扉が左右に開かれていく。
ガシャン!と、完全に開ききった扉の奥には、部屋を支える大柱が都合八本、等間隔に並び、その真ん中をバカでかい赤のカーペットが通っているという、なんともシンプルな大部屋を超えた巨大部屋が存在していた。
赤いカーペットを辿り、目線を更に奥へ奥へと進めて行けば、そこに居たのは、白い聖衣をその身に纏い、長い金の髪を後ろで結って前へと流した、信じられないほどの美丈夫であった。
「ようこそ、王城ミッドガルズへ。歓迎するよ」
俺達よりも何メートルも高い位置の玉座の上で、『作り物』のようなその美丈夫・・始源樹王アスクは微笑んだ。




