15.神域の霧
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「エイスっ!」
未だに身体に稲光を纏い、黄金の髪を輝かせるエルフは、驚いたような顔でその呼び掛けに対し振り向いた。
「モズ!着いたんだね」
「あぁ。着く前に色々あったから後で説明するが、一先ず、お前が無事で良かった」
「それはこっちのセリフだよ。よく一人であの数の人々を逃がしてくれた。おかげで、周りへの配慮をせずに済んだよ。・・ところで、ダバーシャとシャールヴィは見なかったかい?」
「いや、見てないな。・・とりあえず、移動しながら話そうぜ。まだあちこちで悲鳴が上がってるし、その救助に行かないとだ」
「そうだね。了解だ。じゃあ、さっきの馬車と一旦合流しよう」
「あぁ」
走りながらエイスの持つ情報と、こちらの情報を簡潔に交換していく。影の力のことは一応まだ伏せることにした。余計な心配をかけたくは無いし、それで混乱されても何の得にもならないからな。
「つまり、北の工業区画まで行った後、やたら強い巨人と戦ってるうちにダバーシャ達とはぐれちまったってわけだ」
「そうなんだよ。その巨人、速さと防御力が尋常じゃなくてさ。体格も大きかったし、とりあえず引き撃ちし続けて倒しはしたけど、倒した時にはどこ?ここ?状態になってたんだよね」
「それ以降ダバーシャ達の知らせは聞いたりしてない感じか?」
「うん。さっきモズの助けに入る直前までその巨人と戦ってたからね。・・あぁでも、別れ際にシャールヴィとダバーシャの方にもやたら強い巨人が居たような・・・その時は俺、回避に集中してからよく覚えてないんだよねぇ・・」
「とりま状況は把握した。ここからは2人で動く感じで行ったほうがよさそうだな」
「・・確かに、他の冒険者や騎士達まで俺たちの人探しに付き合わせる訳にはいかないよね」
「そういうこと。もっと言うなら、大勢で動きすぎてそろそろ統率というか、勝手な行動に入る人が多くなってきてる。だから、より早く街の外か街の中の避難所に行かせて、そこに防衛線を作ってもらった方が安心できる」
「じゃあ、そうしよっか。話を付けるのはモズに任せたよ」
「分かった。エイスはその間、巨人の警戒をしててくれ」
「勿論」
「おーい!坊主ー!」
と、ちょうどのタイミングでガマルさんがこちらに気づいてくれたため、それに応じるように手を振りつつそちらへ向かう。
「ガマルさん!ちょうど良かった!話があるんです」
「おう!俺もちょうどお前さんに話があってな」
「・・じゃあ先にガマルさんからどうぞ」
「あぁ。じゃあ遠慮無く言わせてもらうぜ!良い知らせだ!王城の騎士団が本格的に動き出してくれた。なんでも王様の指示で、王城が避難所として使えるようになったらしい。・・だから、俺達はこれからそこに向かおうと思うんだが・・坊主達、一緒に来るか?」
「・・・成程。そういうことだったら、皆さんは先に行って下さい。俺はまだ、俺の仲間を探さなきゃならないので」
「・・・分かった。それじゃあ悪いが、俺達は先に行かせてもらうぜ」
「市民の人達の護衛、頼みましたよ」
「ああ!任せとけ!坊主達も、無事を祈ってるぜ。また生きて会おうな!」
「はい!それじゃあ、また後で!・・あ、馬車のことは、馬車の中で気絶してる執事のセバスっていう人に聞いてもらえれば大丈夫なんで!」
「分かったぜ!」
そう言って、ガマルさん達は馬車に乗り、王城へ向かって大通りを駆けていった。多分彼らならば、無事に王城まで避難できるだろう。
後は、俺たちのやることをやるだけだ。
「エイス!なんか来たりしたか?」
「いや、特に何もなかったね。煙とか悲鳴も、徐々に収まりつつあるし・・これなら、あと少ししたら鎮圧が終わるかもしれない」
「・・よしっ!それじゃあダバーシャ達を探すとしようか。王都の地理を知ってるシャールヴィはまだしも、ダバーシャが心配だ」
「2人が一緒にいることを祈っとこうか・・っ!?」
突如、轟音が幾度と無く響き渡る。爆発音とも金属音とも違う、肉と肉がぶつかり合うような衝撃音が王都中を席巻する。
「これは・・!」
「あぁ、間違いない!ダバーシャの殴り合いの音だ!音の数からして、相手の巨人も相当な手練だぞ・・!」
「急ごう!モズ!」
「ああ!エイスは先に行ってくれ!俺もすぐ飛んで行くから!」
「分かった!」
雷魔術ーーー『纏雷速攻』、『閃くは迅雷』
その身に雷光を纏い、黄金の稲妻が音のした方向へと踏み出して・・消えた。
「っし!俺も行くぞ!」
召喚魔術ーーー『憑依召喚:フィリップ』
その背に蜻蛉の翅を背負い、その目に蜻蛉の視界を得る。人1人持ち上げることなど造作も無いと羽ばたいた翅により、俺の身体は大地という土台を離れ、王都を一望出来る高さまで舞い上がる。
「・・あそこだな」
未だに衝撃波と轟音が撒き散らされている、爆心地とでも言えるような地点で、赤い4つの点が縦横無尽に駆け巡っているのを視界に捉えた俺は、一目散にそこへと飛翔する。
真下を見れば、瞬く間に雷が駆け、ダバーシャと戦っている何かの眼前へ肉薄。雷速の蹴りが放たれる。
「Gu!?」
吹き飛ばされたソレが衝撃波によって巻き起こっていた土煙を抜け、ダバーシャの戦っていた相手の全貌が露になる。
「GRRRRRRRRRR!!!」
それは獣のような唸りを上げた。ソレは身体に紫のオーラを纏っていた。・・それは明らかに、人間からは逸脱していた。
見た目は巨人。それは確かだ。が、見た目以外の何もかもが人類種ではなく、まるで・・そう、まるで魔物のような何かと化してしまっている。
「いくら暴走してるからとはいえ、こいつはちょっとおかしいな」
「全力で仕留めるよ」
「最悪、殺しても構わん」
眼前の魔物もどきを注視しつつ、エイスとダバーシャの近くに降り立ち、俺は腕輪から鉄刀白鞘を抜き放つ。
同時に、エイスは陣を展開し、ダバーシャは再び呼び寄せた黄金の槍を握りしめて、ゆったりとした構えをとる。
「GRRRRRRRRRRAAAAAAAAAAAAAAA!!!」
特大の咆哮を上げ、魔物もどきが彼我の距離を一瞬で潰す。それは、ダバーシャ達がよくやる超加速。一瞬にして距離を縮められたかと錯覚するほどに速い、脱力から全力へのシフト行為。
「散々見てきたんだ」
もはや見なれた物だと笑い、屈むことで振るわれた剛腕を回避する。
「掠りもしねえよ!」
弐式変則抜刀術-抜閃-
しゃがみこむと同時に最大限捩った身体のまま、前・・ではなく上へと踏み込む。どうせ前へ行ってももう片腕で叩き潰されて終わりだ。だから・・
「・・片腕、貰うぜ」
ズブリ・・と、刃が肉に食い込む。毎日毎日研ぎを欠かしたことの無い鉄刀の刃は、気味の悪い感触とともに、その腕を半分まで切り裂いた。
「GAAAAAAAAA!!!!??!」
「俺達のことを」
「忘れられちゃうと困るなあ」
突然の痛みによって悲鳴を上げた魔物もどきの顔面へ、今度はこちら側から、雷と炎が肉薄する。
炎魔術ーーー飛炎脚、烈赫掌、火竜瞳
我流撃槍術-貫-
氷魔術ーーー『帝氷閃剣』
全身の筋肉を余すことなく駆動させ、黄金の槍が閃く。的確に狙われた魔物もどきの急所。身体の正中線のど真ん中にある鳩尾へ、光が吸い込まれるかのごとく槍が放たれる。
同時に、雷で急接近したエイスの掌が輝いて。超超至近距離から、氷の剣が射出される。いつもより何倍も大きく鋭い剣は魔物もどきの顔面を的確にぶち抜いて、木っ端微塵に吹き飛ばした。
「・・終わりだな。」
そう言った直後、魔物もどきは倒れ、光の粒子となってそこから消えた。残った物は何も無く、ただ後味の悪い何かがしこりとなって、胸につかえる。
「・・結局、なんだったんだ?コイツ。」
「恐らくは神域の魔物に取り憑かれた者だろう。とっくの昔にその精神を殺された、哀れな獣だ。」
神域・・?神域の魔物がどうしてこんな所に?ここからフォグノースの神域まではまだだいぶかかるはずだが。
と、そんな疑問符を浮かべる俺達を見て、ダバーシャは溜息を吐き、やれやれと言った様子で説明を始めた。
「気づいて居なかったのか・・?この王都は、とっくの昔に霧に囲われている。・・分かるか?ここは既に神域と化している。故に、神域の魔物がいつ何時出てきてもおかしくは無い」
「え?それって・・」
「うん、かなりマズイことになったね。まだまだ数は少ないとはいえ、これから霧が晴れる保証も無い以上、魔物は恐らく現れ続ける。それも、際限なく」
「しかも・・だ。今回は憑依するタイプだったからまだ何とか太刀打ちできたけど、コレが正真正銘、自分の肉体を持っている奴等だったら・・」
「滾るな」
「いや滾んねえよ馬鹿なこと言ってんじゃねえ」
この戦闘バカが。強い相手が出るかもって分かって興奮してやがる。
「い、今はとにかくシャールヴィを探そうよ。彼が居れば、この霧を何とか出来るかもしれないし・・」
「シャールヴィが・・?」
「ふん、成程な。風を使うというわけか」
あぁ、成程。合点がいった。確かに、風があれば霧を散らせる。なら、シャールヴィ程の風魔術の使い手が居ればこの霧を晴らせるかもしれない。
「そういうこと。それじゃあ、さっさと探しに行くよ、2人共」
「了か・・」
「・・どうやらその必要は無さそうだ」
「え?」
何言ってんだこいつ。
「見つけた。・・赤髪が居たぞ」
「っ!?何処だい?」
「何処もクソも無い。今打ち上がったアレが赤髪だ」
打ち上がったって、そんなモン何処にも・・いや、アレか?
遠く。ここから王都のほぼ真反対の地点で、何か、豆のような点が空に浮かんでいる・・否、落ちて来ている。
徐々に輪郭がはっきりし始め、焦点が定まり、点の正体が、蜻蛉の視界でくっきりと捉えられた。
まるで赤い流星のように。燃え上がるような赤髪を風に靡かせ、青年が降ってくる。
その身に風を纏い、蛮刀を振りかざした青年・・シャールヴィは、確かに王都の直上、雲よりも少し低い地点から、王都へ向かって急降下してきていた。
まるで空から飛来して獲物を狩る海鳥のように、彼は猛スピードで地面へと突っ込んで行く。
「は!?何してんのアイツ・・ッ!?」
思わず素に戻ってしまっているエイスの声が鼓膜を揺らしたのと同時。家屋の影にシャールヴィが消えたのが見えた瞬間。
風魔術ーーー『吹き荒れろ風神の息吹』
嵐が、ミズガルズを席巻した。




