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学院の凡人は英雄譚を描きたい  作者: (羽根ペン)
第一章 巨人暴走事件
11/40

11.暴走

更新です

「あー・・体が痛え・・」


やっと降りれたぁ・・。学院を出発してから8時間ほど。誰かさんのせいで穴ぼこだらけになり、冷たい風を常時浴びるようになってからは2時間ほど経過し、俺達はフォグノースのとある都市に降り立っていた。


「急いで宿屋探さねえとだなぁ・・」


もうそろ日が沈むから、急いで探さないと現地の冒険者とか商人に部屋取られちまうな。


「あぁそれなら多分大丈夫だと思いますよ」


「・・ほう、その根拠は?」


「この都市の名前は交易都市ヴィオスキプティ。フォグノースでも五指に入るほどには有名な貿易都市ですから、余ってる宿は沢山あると思いますよ」


「あー、確かに聞いたことあるなヴィオスキプティ。確か統一戦争後初の魔石市場を作った都市だよな?・・でも確か、10年ぐらい前に闇組織の襲撃にあって壊滅的な被害をこうむったとか言われてたような・・」


「そうですね。大体その認識で合ってます」


「襲撃されたってのが事実なら、良く十年でここまで持ち直したよな?」


「いえ、まだまだですよ。まだ街の一角は未だに焼け焦げた建物がいくつか残ってますし、あの時のことがトラウマになって精神病にかかってしまった人もいる。・・それに。いえ、これは話すべきじゃないですね」


そう意味深な発言をしたシャールヴィの顔は、なんとも言えない、憎しみのような何かで覆われているように見えた。


まあ多分、コイツ自身10年前の襲撃事件に何か思うことがあるんだろう。もしくは、襲撃にあった当人達のうちの1人か。

よく様子を伺えば、セバスさんも暗い顔をしている。


それに対して、俺は慰めの言葉をかけるくらいしか出来ない。が、彼らにとってそれが正しいことなのかどうかも分からん。無論、慰めというか、励ましをするべきだとは思うが、あまり深いところまでは立ち入らない方が・・


「おい!モズ!これを見てみろ!!」


どことなく気まずい沈黙を割いたのはダバーシャの普段の態度からは考えつけないほど無邪気な声。


「ん?どうした?」


気まずい空気を打ち破ってくれたダバーシャに心の中で感謝しつつ、エイスたちの元を離れて俺はダバーシャの元に駆け寄る。


「さすがは交易都市!質のいい物が集まっている!特に見ろこの剣!片刃とはいえ肉厚の折れにくい刃に、恐らく山間部で取り回しのしやすいよう加工されたのだろう短さ!更にはある程度雑にも扱えるようにと、純粋な鍛冶師の技量によって丈夫に作られた柄と刃の結合部!装飾も華美すぎず質素すぎない絶妙な塩梅で・・・」


「はいはい。凄い剣だな・・・って、これは!?」


まぁた始まったよいつもの奴がと思いつつダバーシャが持ち上げた剣・・片刃の片手剣で、鉈のように分厚い刃を持つ・・を眺めた俺は、その凄さに気付く。さっきダバーシャが言った所も勿論素晴らしいのだが、俺が驚いたのは柄頭に刻印された、炎を吐く龍の紋章だ。


コレはリュウセンの貴族家・・それも高位貴族に代々伝わる家紋。武器の古さからしてそこまで前のものでは無いだろうが、ダバーシャに聞いたところ百年以上前の製法で作られている(現代だと魔術加工されていない武器はありえない)らしく、それが事実ならば、この武器は骨董品と言ってもおかしくない代物だと言えるだろう。


「すげえぞこれ!ダバーシャ!」


「だろう!?」









少年のように、否、見た目だけ言うならばモズは少年だ。が、まあ年齢的には青年だから今更そんな表現で揺れなくてもいいかと脳内で修正を修正しつつ、エイスは隣を歩くシャールヴィに向き直る。


「せっかく真面目な話してたのにすぐこんな感じになるんだからさ。ホントありえないよね?」


「いやいや、気まずい話を振った僕が悪いですから」


「そんなことは・・無いとは言えないけどさ。それでもああいう態度はどうかと思うよねえ?普段からノンデリなダバーシャはともかく、モズなんか絶対分かっててやってるよアレ」


「あはは・・ちょっと僕はなんにも言えないですね」


「まあいいや。それよりも・・聞かせてくれるかな?さっきシャールヴィが何を言いかけたのか」


「・・・そう・・ですね」


「シャールヴィ様・・ご無理をなさらずとも・・」


「・・いや、セバス。これは僕が言わなきゃいけないことだ。だから・・だから、今だけは手伝わないでくれ」


「シャールヴィ様・・・」


主の成長を見て感涙するセバスを尻目に、エイスはシャールヴィから事の次第を聞いた。


雑踏に消えそうな声であっても、それは確かにシャールヴィの口から放たれた言葉であり、とてつもない憎悪を孕んでいることが理解出来るほどの悔恨を含んでいた。


「僕には、兄と呼んでも良いくらいに仲の良い友が居ました。けれど、10年前。彼はこの街で、目の前で、その命を失った。襲撃犯から僕を庇って、瀕死の重症を負って。それでも、僕を逃がそうと、街の外まで走って、走って、走って。最後に、泥まみれの顔で、『守れてよかった』って・・そう言ったんです。恨み言でも、苦しみの言葉でも無い、ただただ、僕のことを、僕のことだけを案じて・・最後まで・・そう言って・・笑って・・・」


慟哭・・では無いだろう。とっくのとうに、それこそ、その『彼』が目の前で死んでしまった時に、その為の涙も喉も枯れてしまっているのだろうから。


恐らく、今のシャールヴィを表す最も適切な言葉は『啜り泣き』では無く『悔し泣き』だろう。

あの時、あの場で・・なんて、何度も考え、その度に泣いてきたはずだ。


「だから、僕はアイツを・・あの男を許さない!絶対に、絶対に!!」


「あの男・・ね」


一国の重要交易都市を襲撃した人間が無名のはずが無い。その当時は無名であっても、ギルドや騎士団がそれを許すはずがないだろう。少なくとも、指名手配はされている筈・・と、そう考えたエイスは問いをかける。


「因みに、その襲撃事件の主犯格の名前は知ってるかい?」


「奴の名は・・・」


と、そこまでシャールヴィが言いかけた時。


「VOOOOOOOOOOOO!!!!!!」


「は!?」


「親方っ!!」


「マジかよ!?」


ちょうど2人の真横にあった工房が爆散した。中から飛び出してきた金槌や金床をエイスが張った結界で防ぎ、覗き込むように爆煙の中を伺った。


次の瞬間、飛び出してくる巨大な影と拳。体長5メートル以上はある大男から放たれたソレがやたらめったらに振り回され、氷の結界にヒビを入れる。


「っ!?そんな薄い作りにはっ・・!」


「エイス君!あと1秒耐えて下さい!」


「1秒も要らん」


炎魔術ーーー『飛炎脚』


「一瞬あれば十分だよなぁ!」


召喚魔術ーーー『高速召喚:鉄刀白鞘』


エイス達のわずか後方。店頭の刀を見つめていたはずのダバーシャが、炎を踏み込んで巨人へ向かって駆け出した。

瞬間、同時に腕輪から射出されたのはエイスたちもよく知っている鍔無しの鉄刀。


巨人に着く七メートル前。意図的に調整したスピードにより、ダバーシャに刀が追いつく。


6メートル前。それを掴み、強くその右脚を地面へと叩き付け。


3メートル前。再加速した身体を捻り、腰だめに鞘など付いていない鉄刀を構える。


直前。クルリと手の内で返した刃が振るわれる。


通り過ぎ、一言。


「抜刀とは、こういうものだろう?」


その一瞬で、巨人は活動を停止した。









あれから2時間後。昏倒していた巨人のおっさんは、側頭部に大きな刀の跡とたんこぶを作りつつも起き上がり、痛がってはいたものの、ダバーシャに感謝して、とりあえず事態の幕は降りた。


事情を聞いたところ、工房で作業をしていた時に弟子の一人が発注をミスったのを聞いてから記憶が飛んでいるらしく、何故あんな風に瞳を赤く光らせて突然暴れだしたのかは分からないらしい。


一先ず事情説明に対するお礼と事態収拾のためとはいえ暴力を振るってしまったことの謝罪をしつつ、俺達は、とっちらかってしまった工房を出る。


「分からずじまい・・か」


「ホント、何が原因なんだろうね?」


「むぅ・・・」


「彼に怒り始めて以降の記憶が無い事も関係してるのでしょうか?」


「どうだろうね?その部下の人がミスするのは良くあることみたいだったし、溜まりに溜まった物が今日爆発した・・・って考えることもできるけど・・」


「流石にそれだけで瞳が赤くなるほどブチ切れたりはしないよな」


「ですよね・・」


4人でそんな風に会話しつつ、街の一角。貴族や身分の高い商人の家が建ててある区画へと歩を進める。


何故そんな所に向かっているのかと言うと、セバスさんの提案で、今はもう空き家となっているこの街でのフィオトレイ家の持ち家がそこにあるため、今日はそこに泊まろうと言うことなったからだ。


「流石に悪い」と断ろうとしたのだが、仮にもどころか正真正銘の王族を野宿させる訳には行かないと返されてしまっては、俺達にはそれに抗う術はなく。もうすっかり遅い時間になってしまったため宿もほとんど満杯であったため、その提案に乗ることにしたのだ。


「・・・むぅ」


と、言うわけで家の前まで着いた訳なのだが。着いた直後に全員の鼓膜を揺らしたのはエイスの軽口でもシャールヴィ丁寧な言葉でも、先に着いているはずであるセバスさんの歓迎の言葉でも無く、ダバーシャの唸り声とも言えるものであった。


「どうしたんだ?ダバーシャ」


「さっきもあまり話していなかったようだけど、何かあったのかい?・・もしかして、事件について何か分かったとか?」


俺とエイスはそんな奴の態度を見て問いをかける。ダバーシャがここまで悩むのを見るのは珍しい。それこそ春休みのあの時ぐらい悩んでるんじゃないだろうか?


「・・・いや、何でもない」


が、そこまで悩んでて尚、ダバーシャははぐらかした。これもまた珍しい事だ。本来ならズバズバと直感的に何でも言うくせして、こういう時だけは何も言わない。


無口は美徳の場合もあるが、この場合においてはただ厄介なことにしかならん。


「おいおい、そこまで見せつけるように悩んどいてそれは無いだろ?俺達もう友達だぜ?悩みは共有してくれよ」


「そうだよダバーシャ。それに、君のその悩みが事件の解決に繋がるかもしれないじゃないか。曖昧にはぐらかすことはいい結果には繋がりにくいよ」


「・・・そうだな。貴様ら・・いや、お前達はそういう奴らだった」


高揚したのか、少し楽しげにそう言って。どこか遠くを見るように目を細めた後、再度ダバーシャは口を開いた。


「故に話そう。先程あの場所で、俺が何を感じたのか」


謹聴。恐らく、扉の前にいるだろうセバスさんも耳を傾けているためか、その場を沈黙が支配する。


永遠のように感じる一拍の後。沈黙を最初に破ったのは、ダバーシャの落ち着いた声音だった。


「【魔法】だ」


「へ?」


「あの巨人からは、【魔法】の気配がした」


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