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東京ダンジョン学園  作者: 叢咲ほのを
第七章 森林に眠る宝 -Legacy in the Forest Cave-
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第95話 第五階層へ

 俺は第四階層主を倒して、第五階層へとやってきていた。


 第四階層主、ヴェノム・ヘアリーキャタピラー。前回は慎重にヒットアンドウェイで戦って敗北した。だが今回は違った。左手に毒消し薬を握りしめ、どんどん前に出て戦った。

 攻撃を当てないことには倒せない。長引くほど危険だ。ならば短期決戦で畳みかけるしかない。

 結果、三回も毒を喰らった。毒針が刺さるたびに、あの激しい痺れが全身を襲う。指先の感覚が消え、足に力が入らなくなる。その都度、山下さんからもらった毒消し薬を口に放り込んで回復した。

 もうあんなに毒を喰らうのは嫌だ。

 毒を受けるたびに死の恐怖を感じる。意識が遠のいていく感覚。体が動かなくなっていく絶望感。あれを何度も味わいたくない。

 だが、第四階層を飛ばすには第六階層を突破して第七階層のポータルを解放しなくてはならない。それまで何度もあの毒を持った毛虫と戦わなければならないのだ。

 そうは言っても、キュアポーションを入れても手持ちの毒消しはあと三個しかない。今回三個使ったため、同じ条件で戦うとなると次回で使い切ってしまう。せっかく山下さんからもらった貴重なものを、あっという間に消費してしまうのはもったいない。

 そうならないためには、この第五階層でレベルアップするしかない。

 レベルアップすれば体力も攻撃力も上がる。ヴェノム・ヘアリーキャタピラーをもっと簡単に倒せるようになるはずだ。毒を受ける前に仕留められるかもしれない。

 そう考えた俺は、レベル5になるまで連戦する覚悟で迷宮を進んだ。


 第五階層は第四階層と同じ森林ステージだ。登場する魔物は狼や猪などの四足歩行の動物系モンスター。メイリスで調べた限り、毒などのギミックはないため、第四階層よりは戦いやすいはずだ。

 そう考えながら進むと、いきなり三匹の狼――グレイウルフと遭遇した。

 いきなり三匹か。できれば一匹ずつ戦いたかった。

 三匹のうち一匹がまっすぐ突っ込んでくる。他の二匹は左右に走り出した。俺を囲んで死角から攻撃しようとしている。狼のくせに頭がいい。

 正面のグレイウルフが俺に跳びかかる。俺は左手に持ったバックラーでそれを叩き落とすと、すぐに右手の木刀を振り下ろした。グレイウルフの頭に木刀が当たり、鈍い音がする。

 だが、左右から残りの二匹がそれぞれ跳びかかってきた。最初の一匹への追撃を諦め、俺は後ろへ跳んで避ける。その際、右側のグレイウルフに木刀で一撃を入れておくのを忘れなかった。

 俺が構えると、三匹のグレイウルフはこちらを向いて唸り声を上げる。さきほどの俺の攻撃にはあまりダメージを受けていないように見える。立ち上がるのも早い。

 第四階層の魔物よりも明らかに一段階強くなっている。

 三匹は順番に俺に跳びかかってくる。俺はバックラーで受け、木刀で叩き、体をひねって避ける。何度も何度も攻撃を繰り返すが、なかなか倒れない。

 一方的に攻撃しているはずなのに、じりじりと後退している。息が上がってきた。腕が重い。

 このままでは体力が持たない。

 階層が進むほどに確実に魔物が強くなっている。さらに今回はいきなり複数の魔物が相手だ。連戦どころか、いきなり大ピンチだ。

 一匹を確実に仕留めなければ。俺はそう判断すると、最初に攻撃を入れた一匹に狙いを定めた。

 だがその時、突然四匹目のグレイウルフが木々の間から飛び出してきた。反応に遅れた俺は慌ててバックラーでカバーしようとしたが間に合わず、右太ももに噛みつかれてしまう。

 激痛が走る。と同時に、俺の劣勢に気づいた目の前の三匹も同時に向かってきた。

 太ももに噛みつくグレイウルフに攻撃したいが、近すぎて木刀では当てにくい。鞘の中のナイフを取り出すか――いや、待てよ。

 俺は最適解に気づいた。

 木刀を持った右手の人差し指を立て、グレイウルフの首に向ける。


「カッター!」


 水魔法ウォータージェットカッターを発動する。超近接戦闘にしか使えないが、非常に強力なその魔法はグレイウルフの首を切り裂いた。

 鮮血が飛び散ると、一撃でグレイウルフは死んだ。

 続けて飛びついてくる三匹。俺はよけきれず順番に噛みつかれたが、同じようにウォータージェットカッターを連続で発動し、四匹全てのグレイウルフを倒した。

 グレイウルフの死体はマジックジェムに変わり地面に転がる。俺は周りを見て、他に敵がいないことを確認した。

 全身が痛い。太もも、左腕、左太もも、右足のすね――噛みつかれた箇所から血が流れている。

 俺は治癒魔法を使った。


「ヒール」


 最初に噛みつかれた右太ももにヒールをかけると、キラキラ輝く魔法陣が発動し、痛みが和らいだ。だが完全には治っていない。まだじんじんと痛む。

 他の部位も順番にヒールをかけていく。左腕、左太もも、右足のすね。一つずつ治療するたびに痛みは減っていくが、どれも完璧には治りきらない。

 治癒魔法のレベルは2に上がっているのだが、まだ効果が不完全だ。マイカの治癒魔法と比べると、明らかに劣る。

 だが不満を言っている場合ではない。治癒魔法が使えるだけでも、単独探索では大きなアドバンテージだ。

 それに、ウォータージェットカッターの威力はすごかった。木刀で何発も叩いても倒せなかったグレイウルフを、全て一撃で倒してしまった。首筋という急所を切ったことも大きかったのだろう。

 射程距離が短いのが欠点だが、噛みつかれた時や組みつかれた時には抜群の効果を発揮する。ナイフでも同じことができるかもしれないが、ナイフを落としたり食い込んで抜けなくなったりするリスクを考えると、ウォータージェットカッターの方が使い勝手がいい。

 この魔法を使い続けていけば、そのうち水魔法もレベル2に上がるかもしれない。

 怪我も一応治ったことだし、もう少し頑張ろう。


        *


 その後、俺は同じ戦法を繰り返した。

 グレイウルフと遭遇する。噛みつかれる覚悟で接近戦に持ち込む。ウォータージェットカッターで確実に一撃で倒す。噛まれた傷を治癒魔法で治す。

 正直、痛い。毎回噛まれるたびに激痛が走る。できれば避けたいが、木刀だけでは倒しきれない。かといって長期戦になれば体力が持たない。

 それでも、この戦法が今の俺にとって最も効率的だ。痛みを我慢すれば確実に倒せる。治癒魔法があれば回復できる。

 痛みを伴う戦いを続けた結果、俺は無事にレベル5に上がることができた。


 ここまで苦戦したのは、怪我をした状態で戦ったアシッドスライム以来じゃないだろうか。

 そういえば、新宿でゴブリンの群れに襲われた探索者たちを助けに行った時も怪我をしたっけ。

 これまであまり怪我をすることはなかったが、最近は少しずつ、ダンジョンの恐ろしさを感じ始めている。

――それでも、楽しい。怖さよりも楽しさのほうがずっと大きい。

 レベル5になった達成感と、戦い疲れた体の重さを感じながら、俺は今日はこの辺で帰ろうと決めた。

帰ると決めた途端、急にお腹が空いてきた。

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