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東京ダンジョン学園  作者: 叢咲ほのを
第七章 森林に眠る宝 -Legacy in the Forest Cave-
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第94話 水辺の碑文

 俺は木々の間を慎重に進んだ。

 すぐに蜘蛛の糸を発見した。木と木の間に張られた、白く光る糸。俺はナイフを取り出して切る。パチンと音を立てて糸が切れた。

 近くに蜘蛛がいないか確認する。見上げると、木の上にいた。

 ジャイアントスパイダー――巨大な蜘蛛の魔物だ。

 でかい。そして見た目が恐ろしい。八本の足、複数の目、毛むくじゃらの体。正直、虫の中でも蜘蛛は特に苦手だ。それが人間サイズになっているのだから、背筋が寒くなる。

 ジャイアントスパイダーは俺に気づいたようで、尻から糸を出して上から降りてきた。

 俺は少し下がって、水魔法を発動した。ウォーターボールを一撃食らわせる。しかしやはりダメージはなさそうだ。ジャイアントスパイダーは降下を止めず、地面に着地した。

 仕方ない。接近戦だ。

 俺は木刀を構える。ジャイアントスパイダーは前足を振り上げて攻撃してきた。それをかわしながら木刀で反撃する。甲殻が硬い。何度か攻撃を加えるが、なかなか倒れない。

 確かこいつも毒を持っているはずだ。前足での攻撃と噛みつきに気を付けながら戦う。

 と、前足と噛みつきにだけ注意していたら、突然口から糸を吐き出した。

 糸って尻から出すんじゃないのか?

 油断していたため避け損ね、足に糸が絡みつく。体勢を崩して転倒しかける。

 まずい!

 俺は急いでナイフで糸を切り、すぐに立ち上がった。直後、俺がいた場所にジャイアントスパイダーが覆いかぶさってきた。危機一髪だった。

 その後も俺は吐き出す糸にも注意しながら攻撃を続け、ようやくジャイアントスパイダーを倒した。

 第四階層の探索は何日か続けているが、さっきのサワガニといいジャイアントスパイダーといい、まだ初めて会うやつも多い。おそらく生息域があるのだろう。新宿ダンジョンでは出会わなかった魔物たちだ。

 ジャイアントスパイダーはなかなか厄介だ。俺は蜘蛛の巣が見えたら迂回して、なるべく戦闘にならないように先へと進んだ。木の幹についた白い糸を目印に、慎重にルートを選ぶ。


 しかし、蜘蛛の巣を完全に避けることはできなかった。


 頭上から何かが落ちてくる気配。俺は反射的に横に飛びのいた。ドサッという音と共に、新たなジャイアントスパイダーが俺のいた場所に着地する。

 上から奇襲か。厄介だ。

 本日二匹目のジャイアントスパイダーは、すぐに攻撃態勢に入ってきた。前足を振り上げて突進してくる。

 俺は木刀で前足を受け止めながら後退する。一匹目の戦闘で学んだ。こいつは口から糸を吐く。そして前足の攻撃にも毒がある。

 ジャイアントスパイダーが再び前足を振り下ろしてくる。俺はそれをかわして横に回り込み、脇腹に木刀を叩き込んだ。

 俺の攻撃を受けたジャイアントスパイダーは素早く体の向きを変え、口を開いた。来る!

 俺は即座に飛びのいた。次の瞬間、白い糸が俺がいた空間を通過する。間一髪だった。一匹目の時は食らってしまったが、二度目は避けられた。

 糸攻撃の後には隙ができる。俺はその隙を突いて接近し、連続で木刀を叩き込んだ。一撃、二撃、三撃。ジャイアントスパイダーの動きが鈍くなる。

 最後に頭部を狙って思い切り振り下ろす。ジャイアントスパイダーは動かなくなった。

 俺は息を整えながら、死んで消滅したジャイアントスパイダーが落としたマジックジェムを拾った。二匹目との戦闘で、だいぶこの魔物の動きが読めるようになってきた。経験を積むというのは、こういうことなのだろう。

 それでもやはり蜘蛛の姿は生理的に受け付けない。これ以上戦いたくはない。

 俺は周囲の木々を注意深く見回しながら、蜘蛛の巣が少ない方向を選んで進んだ。


 しばらく進むと、進行方向からザザザザという音が聞こえてきた。

 何の音だろう。水の音のようにも聞こえる。俺は蜘蛛の気配にも気を付けつつ、音の方向へ進んだ。

 そして再び開けた場所へと出た。

 そこにあったのは、岩壁から流れ落ちる滝だった。

 滝壺は池になっており、水は小川へと続いている。さっきの小川の源流がここだったのか。水しぶきが舞い、ザザザザという音が周囲に響いている。

 そして池の手前に、再び碑文があるのを発見した。

 俺はそれに近づき、書いてある文を読む。


《裏を見ろ》


 裏?

 俺は碑文が書いてある岩の後ろ側に回った。岩の後ろにも文字が彫られていた。


《安全第一》


 なんだそりゃ?

 これで終わり?

 俺は滝壺を見つめた。激しいしぶきを上げながら水が流れ落ちている。ダンジョンの中とは思えないような景色だ。周囲は静かで、木々に囲まれた秘境のような雰囲気がある。

 辺りに他の碑文も見当たらないし、先に進める道もない。どうやらここがゴールのようだ。だが、滝以外に何もない。

 斎藤さんはこの滝で、毒消し草を取りに来た探索者たちの安全を祈願したということだろうか。「安全第一」という言葉には、そんな意味が込められているのかもしれない。

 何かあると思って進んできたが、こんな終わり方で煙に巻かれたような気分になった。

 俺はため息をついて、滝をもう一度眺めた。確かに景色は綺麗だが、それだけのために碑文をいくつも残すだろうか。

 何か見落としているのだろうか。それとも本当にここで終わりなのだろうか。


「ふぅ」


 俺はため息をつく。

 いや、横道にそれ過ぎた。俺は階層主を倒して第五階層でレベルアップを目指すのだ。碑文の調査などしていたらGW中にランク4ポーションを手に入れることができなくなってしまう。

 俺は来た道を戻り、そして階層主の部屋へと進んだ。

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