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東京ダンジョン学園  作者: 叢咲ほのを
第七章 森林に眠る宝 -Legacy in the Forest Cave-
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第93話 サワガニ

 小川に沿って上流へ進んでいると、突然水面から何かが飛び出してきた。

 カサカサカサッ!

 猛スピードで横移動し、俺の目の前に立ちはだかる。

 俺の目の前に現れたモンスター、そいつの見た目はサワガニそのものだ。だがデカい。ロボット掃除機くらいの大きさがある。サワガニは両方のはさみを掲げ、俺を威嚇してきた。両手を広げると、ロボット掃除機よりもさらに大きく見える。

 俺は木刀を構えて様子を見る。しかしサワガニはなかなか攻撃してこない。威嚇するだけで、じりじりと横移動を繰り返している。

 仕方なく俺から攻撃を仕掛けることにした。

 木刀で頭を思い切り叩く。カキンッと硬い音がした。甲羅が硬い。

 サワガニははさみで俺の木刀を掴もうとしてくる。俺は素早く木刀を引き戻した。サワガニははさみをわしゃわしゃと動かすが、なかなかこちらに向かってこない。

 なので俺は再び攻撃する。またカキンッという音。サワガニは同じように反応するが、俺に直接攻撃してこない。前進してくることもない。ただ横移動でこちらを牽制するだけだ。

 そんな攻防を何回か繰り返した後、サワガニはわしゃわしゃと足を動かしながら再び横移動で小川へ逃げて行った。

 俺は呆然として、そして一つの結論に辿り着く。

 あいつ、横移動しかできねえんだ。

 硬くてなかなか倒せなかったが、少し離れて正面に立てば特に恐れることはないだろう。碑文に「サワガニに注意」とあったから身構えていたが、思ったより危険ではなかった。

 ちなみに何という名前のモンスターなのだろう?俺はメイリスに聞いてみた。


『サワガニです。英語名はジャパニーズフレッシュウォータークラブといいますが、日本特有種であり、ダンジョンにいる巨大サワガニも日本のダンジョンにしか確認されていないため、日本名サワガニがそのまま使われています』


「正式な魔物名としてもサワガニか……」


 もうちょっとひねってかっこいい名前をつければいいのにと思うのだった。ジャイアントサワガニとか、クリムゾンクラブとか。

 俺は小川に沿ってさらに上流へ進んだ。サワガニがもう一匹現れたが、正面を避けて通り過ぎた。相手も追ってこない。

 少し進むと、開けた場所に出た。

 そこには碑文があった。


《毒消し草は新芽だけ取ること、根から抜くと再生しない》


 毒消し草。山下さんが話していた、斎藤さんが採集していた薬草だ。

 俺は辺りを見渡した。しかし、見渡す限り地面は土が見えており、植物らしきものは生えていない。枯れ草すらない。


「メイリス、毒消し草の画像はある?」


『あります。表示します』


 スマートウォッチに表示されたのは、濃い緑色の葉が付いた植物だった。葉の形は少しギザギザしていて、高さは20センチくらいだろうか。

 しかし俺の目の前に、その毒消し草はどこにも見当たらない。

 もしかして、乱獲で取りつくされた場所というのがここだったのだろうか。

 斎藤さんはきっと毒消し草を取りに来た人のために、ここに辿り着くまでの注意を書いた碑文を設置したのだろう。「落とし穴に注意」「頭上注意」「サワガニに注意」……すべては毒消し草採集者を安全に導くためのものだったのだ。

 だが毒消し草が取りつくされた今、碑文だけがむなしく残されていた。

 なんだか悲しい気持ちになった。斎藤さんの親切心が、誰の役にも立たなくなってしまった。山下さんが遠い目をしていた理由が分かった気がする。

 俺は少しその場に立ち尽くした。斎藤さんという人物に会ったことはないが、その人柄が碑文から伝わってくるようだった。

 その時、広場の先にも碑文があるのが目に入った。

 今度は何が書いてあるのだろう。俺はそこに近づいた。


《この先蜘蛛の巣に注意》


 この先?ここがゴールじゃないのか?

 この先にまだ何かあるのだろうか。毒消し草の群生地が終点だと思っていたが、どうやら違うらしい。

 俺は碑文が指し示す方向を見た。木々の間に、細い道が続いている。

 気になる。行ってみるべきか。

 しかし蜘蛛の巣……第四階層に蜘蛛型のモンスターがいるという情報は聞いたことがない。ただの蜘蛛の巣なのか、それとも何か別の危険があるのか。

 俺は少し迷ったが、ここまで来て引き返すのももったいない。毒消し薬も持っているし、キュアポーションもある。万が一の時は逃げ戻ればいい。

 俺は覚悟を決めて、その先へ進むことにした。

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