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東京ダンジョン学園  作者: 叢咲ほのを
第七章 森林に眠る宝 -Legacy in the Forest Cave-
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第85話 億本伯爵

「なあ、本当に俺も会わなきゃダメなのか?」


 俺は億本に尋ねた。


「なんだ今さら。緊張してるのか?」


「緊張っつーか、俺関係ないだろ?それにお前の親父さんって伯爵なんだろう?俺貴族に対しての礼儀作法なんて知らねえし……」


「そもそもあながたランク3ポーションを手に入れなかったら億本さんの妹さんを助けることができなかったのだから、堂々としてればいいのよ」


 一緒にいるヒカルからそう言われて、俺は覚悟を決めた。

 先日俺がヒカルに譲ったランク3ポーションを、怪我で歩行困難になっていた億本の妹のためにヒカルから億本に譲ることになった。

 おかげで億本の妹は無事に怪我が治って歩けるようになり、再び普通の生活を送れるようになったという話だ。

 それは良かったのだが、そのお礼を言いに、億本の親父である億本伯爵が直々にこの東京ダンジョン学園にやってくるというのだ。

 ポーションを譲ったヒカルだけ会えばいい話だと思うのだが、ランク3を手に入れた俺にも礼を言いたいということで、俺まで呼び出されている。

 一般家庭で生まれ育った俺が貴族と会う時の礼儀作法など知るわけもなく、億本の親父とどう接していいやら……。

 まだ困った顔をしていた俺に、億本が話しかけてくる。


「きみは僕たちに対してだって遠慮したことなんてないだろう?いつも通りでいいじゃないか」


「いや、おまえらは貴族の子供で、まだ爵位を継いだりしてねえじゃねえか。親父さんって本物の貴族そのものじゃねえか。無礼だとか言われて気を悪くされたらどうすりゃいいんだ?」


「ははは、妹の恩人に怒るはずがないだろ。父はそんなに短気な人じゃないよ」


「本当か?信じるぞ?」


「ははは」


 億本は笑いながら俺の心配をスルーする。

 しばらくして城之内先生が俺たちを呼びにやってきた。


「億本伯爵がいらっしゃったわよ」


 ・・・・・・・・


 城之内先生が応接室のドアをノックすると中からどうぞという声がし、城之内先生はドアを開く。


「失礼します。億本さん、九条ヒカルさん、一ノ瀬シロウ君をお連れしました」


 城之内先生に紹介されながら俺たちは応接室へ入る。

 そこには億本の親父、億本伯爵とその対応をしていた学園長がいた。

 億本伯爵は立ち上がり、俺たちを迎える。


「おお、お久しぶりです。ヒカルさん。以前あなたのお兄さんの誕生会でお会いしたことがあるのですが、覚えていますか?」


「ええ、お久しぶりです億本伯爵」


 ヒカルはスカートの左右を軽く摘まみながら会釈をする。なんか所作がすごく洗練されている。


「おお、カーテシーも様になって、立派なレディになられましたね」


「まあ。子ども扱いしないでくださいませ」


「ハハ、これは失礼しました。そして君が一ノ瀬君だね。二人とも今回は本当にありがとう」


「あ、どうもっす」


 ダメだ。敬語が上手く使えない。恥ずかしい。


「まあ、立ち話もなんだから、どうぞ座って」


 俺たちは億本伯爵に促されて、それぞれ着席する。

 つーかこのソファ高級だな。教室の木製の椅子とは大違いだ。


「ダイキから聞いていると思いますが、おかげさまで娘の足は完治して普通に歩けるようになりました。二人とも本当にありがとうございます」


 億本伯爵は深々と頭を下げる。


「無事に治ったと聞いてほっとしていますわ」


 ヒカルが対応してくれるようなので俺はおとなしくしてればいいだろう。


「ヒカルさんには御父上とは違う派閥である私に融通をしていただいて、御父上から注意を受けていませんか?だとしたら本当に申し訳ないです」


「いいえ、父に報告したところ、私が手に入れたポーションなら私の判断で使えばよいと言っていただきましたわ。ご心配なく」


「おお、そうですか。そう聞いてほっとしました。それにしても昨今は高ランクポーションが入手しづらくなってきました。一昔前ならお金さえ出せばランク3くらいならすぐに入手できたものなのですが」


「そんなにですか?」


「ええ。相場の10倍出すと言って探してもらったのですが、それでも見つかりませんでした。いくつかの大病院には在庫があったのですが、娘は命に係わる状態ではないということで譲ってもらうことはできませんでした。消耗品ですし需要も多いですから。でもそれだけでなく、最近では投資目的で集めている者も多いのだとか。特に海外流出が増えているらしいのです」


「まあ!人の命に係わるものなのに、外国人のお金儲けの道具にされては溜まりませんわね」


「おっしゃる通りです。取引を制限できれば良いのですが、いかんせん探索者同士の個人売買がメインですので、取り締まるのも難しいらしくて」


 億本伯爵は困った表情を浮かべる。

 政治的な話になって付いて行けず困っているのは俺の方だ。


「話がそれてしまいました。今日はお二人にお礼の品をお持ちしたので、ぜひ受け取ってください」


「え?俺は関係ないのでは?」


 譲ったのはヒカルだ。俺は何なら億本に譲るのを断っているのだ。お礼の品をもらう理由がない。


「何を言うんだ。そもそも君がランク3を入手しなければ、私の娘のところに回ってくることはなかったんだ。それに君は少し前にもランク4を手に入れたことがあるらしいじゃないか?そんな優秀な探索者ならぜひお近づきになりたいのでね」


「いや、ランク4は完全に偶然で……」


「おや?それじゃランク3は偶然ではないということかな?」


「いや、それは……」


 俺がランク3を安定的に入手することが可能なことは隠しておきたい。……のだが、俺のリアクションでばれたかもしれない。


「ハハハ。まあ娘の怪我が治った今、すぐに必要なわけじゃない。もし何かあった時にはよろしく頼むよ一ノ瀬君」


「は、ハハハ……」


 気づかれてるけど、詮索しないでいてくれるようだ。良かった。


「それでお礼の品なのだが、ご存じかもしれないがアミュレットを用意させてもらったのだけれど、使い方をご存じでしょうか?」


「まあ、ありがとうございます。もちろん存じておりますわ」


 ヒカルがそう答えると、伯爵は今度は俺の方を見る。

 当然俺はそんなもののことは知らない。


「いや、俺は知らないです?」


 敬語になれないために語尾が疑問形になってしまった。恥ずかしい。

 すると伯爵は小さな箱を二つ取り出した。


「どうぞお受け取りください。一ノ瀬君も。どうもありがとう」


 そう言って俺とヒカルは小さな箱を受け取る。

 俺は億本伯爵に尋ねる。


「あ、開けてみても?」


「もちろん」


 億本伯爵は笑顔で頷くので、了承を得た俺は箱を開ける。

 そこにはガラスのような透明な石が一個入っていた。

 俺は箱の中からそっとその石を取り出した。


「それが魔除けの石、通称アミュレットだ。魔力を込めておくとその身に襲い掛かった魔法を一回だけ無効化する。魔法を使う魔物は10階層以降にしか出てこないからすぐに必要になることはないかもしれないが、もしもの時のために持っておくといい。ヒカルさんはそのネックレスも?」


「ええ、これもアミュレットですわ」


 ヒカルは首から下げた小さな石を見せる。

 ヒカルは二つのネックレスをしており、一つはポーションを入れていたロケット、そしてもう一つはこのきれいな石、アミュレットだった。


「すでにお持ちの者を差し上げてしまって申し訳ないです」


「いいえ。アミュレットは消耗品ですし、これもまた貴重なアイテムです。ありがたいですわ」


「いえいえ、ポーションと違ってお金さえ出せば手に入るもので申し訳ないです。それでも迷宮探索者のお二人には役立つと思いまして」


「もちろんですわ。ありがとうございます、億本伯爵」


 ヒカルが礼を言うのでよくわからないが俺も礼を言っておく。


「あ、ありがとうございます」


 売るといったいいくらになるのだろうか?


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