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東京ダンジョン学園  作者: 叢咲ほのを
第五章 希望の光 -Dawn of Hope-
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第84話 新たな約束

 なんだか俺が思っていたのと違う結末になってしまった感がぬぐえない。

 俺はこの億本っつうやつが気に入らないので、泣いて謝るくらい悔しい目に会わせてやり、ざまあ!ってあざ笑ってやりたいと思っていたのだが、なぜかヒカルと和解して良い感じになってしまった……。

 賭けに勝ったのは俺のはずなのだが。

 あれか?俺たちが勝ったらヒカルと仲直りしろって言ったのがいけなかったのか?

 俺としては、もっと億本が仲直りなんてしたくない……悔しい!ってなると思ったんだが。

 みんな良かったみたいな感じになってるから言わないけどね。若干釈然としない。


 まあそもそも絶対勝てると思ってた賭けだったからな。

 イオリからヒカルの剣の上達っぷりは聞いていたし、そもそもスライムなんて誰にでも一撃で倒せて当たり前だからな。逆に一撃で倒せなかったこれまでが不思議だっつーの。


 なんかヒカルがスライムを倒してみんな感動してる感じだけど、ぜんぜん感動するような要因は一つもねえけどな。ハハハ。言えないけど。

 俺はみんなの雰囲気を壊さないよう、空気を読んで余計なことを言わないように我慢をしていた。


 そんな空気になっていた俺のところに、億本が近寄ってきた。


「なんだ?」


 文句を言われる筋合いもなければ、何か話すような関係でもない。

 黙って俺の顔を見る億本に対し、俺は戸惑っていた。


「一ノ瀬と言ったな。先ほどまでの失礼な態度を謝罪する。すまなかった」


「お、おう?」


 億本は頭を下げた。プライドの高いこいつが頭を下げるなんて何がどうした?

 いくらヒカルと和解したからといっても、この変わりようは不気味だ。

 俺が億本の思惑を邪推していると、億本は再び話し始めた。


「恥を忍んで頼みがある。一ノ瀬、どうか僕にもランク3ポーションを売ってくれないだろうか?」


「えっ?普通に嫌だけど……」


「……そうだよな。僕と君の間にはまだ信頼関係は構築できていない。そんな僕に売ってくれと言われても困るよな」


 一人で納得する億本。なんだか神妙な雰囲気だ。上手くごまかして逃げなければ。

 俺が反応に困っていると、助け舟を出してくれたのか、ヒカルが億本へと話しかける。


「億本さん、ランク3が必要な理由が何かあるのかしら?」


 ヒカルにそう尋ねられ、億本は顔をゆがませながら答えた。


「実は……僕には妹がいるのですが、昨年交通事故で頸椎に損傷を負ってしまい下半身麻痺で歩けなくなってしまいました。ランク2ポーションで表面的な怪我は治ったのですが、頸椎損傷までは完治できなくて。今も病院で治療を受けていますが、治る見込みがありません。億本家と縁のある探索者にも依頼をかけてはいるのですが、ランク3ポーションが市場に流れてくるのは本当に稀で……」


 億本は泣きそうな顔で妹の話を続けた。

 ランク3ってそんなに手に入りにくいのか。まあ逆を言えば億本の妹のような、ランク3以上のポーションを必要とする人間が多いってことなのかもしれない。

 可哀そうだけど、それとこれは話は別だし。

 億本の話を聞きながら、俺がそんなことを考えていると、


「億本さん、私のランク3を譲るわ」


 と、突然ヒカルが自分のポーションを億本に差し出した。

 これには俺もびっくりした。だって200万円も出して俺から買ったばかりなんだぞ?


「九条さん……!」


 億本は恐る恐るヒカルの差出したランク3ポーションに手を伸ばす。


「クラスメイトが家族の事で困っているのに見捨てるわけにはいきませんわ」


 ヒカルの表情には迷いはなかった。

 俺は思わず忠告してしまう。


「ちょっと待て!世の中にはそういう可哀そうな人間はいくらでもいるんだぞ?会うたびに施しを与えていたら、お前の持ってるものは全部取られちまうぞ?」


 もしもヒカルが、ねだればなんでもくれる人だと勘違いされて、乞食が一斉にたかり始めたら困ってしまうだろう。

 だがヒカルは俺に対して心配はいらないと言う。


「私の事を心配してくれてありがとう、一ノ瀬さん。でも大丈夫よ。私だって人を見る目がないわけじゃない。私から見て大切な仲間だと思えば私の持ち物を提供するし、縁もゆかりもない人であれば、悪いけれど力にはなれないわ」


「九条さん、それは、あれだけ悪口を言っていた僕の事も仲間だと言ってくれているのですか?」


「ええ。だってあなたはA組の副級長。級長の私を助けてくれる立場の人じゃない」


 億本はヒカルからもらったランク3ポーションを両手で大切そうに抱え、じっとそれを見つめた後にヒカルに深く頭を下げた。


「ありがとうございます!」


 お人よしすぎるぞと思ったが、俺が薄情なのだろうか?

 しかしながらヒカルは俺がランク3を量産できると言ったので、俺を頼っているのかもしれない。

 まあばらしてしまったのだから仕方ないか。


「それじゃあ仕方ない。俺のランク3をお嬢に譲るよ」


「結構ですわ」


「え?」


 親切のつもりで言ったのだが、なぜか断られてしまった?


「あ、お金もう無いってこと?それじゃ前回二倍の額もらってるから、これはただでいいよ」


「そうではありませんわ。そんなに何度もあなたに頼るわけにはいきませんわ」


 そう思ってくれたのなら俺も助かるんだけど。本当にいいのだろうか?最初にランク3を譲った時にはあんなに喜んでいたはずなのに。

 俺が戸惑っていると、ヒカルは言葉を続けた。


「それに、あなたとはランク4を譲ってもらう約束がありますわ。そちらに期待しています」


「ちょ、ちょ!ランク4なんて心当たりなんもねえよ!」


 焦る俺にヒカルは笑う。


「フフフ、別に絶対とは言っていませんわ。もしもランク4を手に入れた時には売っていただくというだけの約束ですわ。でもあなたなら本当に手に入れてしまいそうね」


「ぐぐぐ……」


 そう言われたら期待に応えたい。だがランク4なんてどうやって手に入れたらいいんだ?

 ヒカルからの期待に困りつつも、俺の探索者魂に火が付いたのを感じた。

以上で第五章完となります。

ここまでお読みくださりありがとうございました。

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