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東京ダンジョン学園  作者: 叢咲ほのを
第五章 希望の光 -Dawn of Hope-
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第80話 C組

 翌日の放課後、俺は昨日と同じように迷宮へと向かった。

 一人でこっそり探索し、①ランク3ポーションの増産、②治癒魔法のさらなるレベルアップ、③水魔法のレベルアップ方法の模索などをしたいからだ。

 だが、やはり昨日の三人組が後ろをついてきていた。

 昨日はこいつらのせいで探索が全く進まなかった。俺はイライラしながらも、スライム部屋まで進む。

 三人組は俺に気付かれていないとでも思っているのか、部屋の入り口で陰に身を潜めている。

 明らかな俺への尾行だ。

 ムカついた俺は、ついに振り返って声を張り上げる。


「おい、お前ら!何が目的だ!」


 すると「見つかったみたいだ」「どうする?」「ごまかすしかないだろう」という話声が聞こえてくる。

 全部丸聞こえだバカヤロウ!


「ぼ、僕たちはたまたまここで探索をしてただけだ」


「はあ?たまたまで二日連続俺の後ろを付いてくるのか?」


「そ、そうだよ。ここでスライムと戦おうかなと思ってて……」


「ああそうか。じゃあ俺は別の場所に行くよ!ついてくるなよ」


 そう言って俺はそいつらの横を通り抜け、別の場所へと移動する。

 俺が立ち去った後ろからは、「どうする?」「どうするって、こんどこそ見つからないように跡を付けるしかないだろう」「今度は音を立てるなよ」という会話が聞こえてくる。

 こいつらバカか?全部聞こえてるんだよ。

 俺は逆に足音を立てないように歩き、岩陰に隠れる。

 すると、俺を見失った三人組が慌てて歩いて通り過ぎて行った。

「どこに行ったんだ?」「急げ、そう遠くまでは行ってないはずだ」「くそぅ!」

 尾行も素人のようだ。

 このままやり過ごしてもいいが、再び見つかったら面倒だ。その時にばれたくないことを目撃されても困る。しっかりと決着をつけておいた方がよさそうだ。


「おい!おまえら」


「うわ!」「出た!」「ぐぇ!」


 一人変な声を出していたが、そのボケにつっこみたいところを我慢して話を続ける。


「おまえらさっきの場所でスライムと戦うんじゃなかったのか?」


「い、いや、もうスライムを倒したから次の場所へ向かってたんだ」

「そ、そうだそうだ」


「じゃあさっき『そう遠くまで行っていないはずだ』って言って急いでいたのはなぜだ?」


「そんなことは言っていない!」


「……。知ってるだろうけど、俺は1-Dの一ノ瀬だ。てめえらの名前は?」


「な、なんで名乗らなきゃいけないんだ?」


「なぜ名乗れない?やましいことがあるのか?」


「そ、そんなことはない!それより僕たちの名前を聞いてどうするつもりだ?」


「そりゃあ決まってるだろう?迷宮で尾行してくる怪しい生徒がいるって学園に伝えるんだよ」


「尾行なんてしてない!」


「じゃあ先生に聞かれた時にそう答えりゃいいだろう?とにかく名前は?」


「おまえに名乗る名前なんかない!」


「あっそ。じゃあやっぱりやましいことがあるんだな。お前ら三人の顔はダンジョンレコーダーにしっかり録画されてるから、これ学園に提出するわ。じゃあな」


「ま、待て!」


「あ?」


 俺は三人を睨む。その気迫に三人はひるんだ。正直こいつらに襲われても、レベル差があるから負ける気はしない。なんなら痛い目に会わせてやりたいところだ。だけど逆にそれを学園に訴えられたら俺が悪人になってしまうだろう。しかたないので我慢する。

 はぁ、今日の探索もお預けのようだ。


 ・・・・・・・・


 ダンジョンを出た俺は、まっすぐ職員室へと向かった。

 現在の担任の城之内先生に相談するためだ。

 だが俺のダンジョンレコーダーの映像を一緒に確認してくれた城之内先生の回答は、頼りないものだった。


「これだけじゃ特に罰を与えることはできないわねえ」


「何でですか?跡を付けてきたんですよ?ストーカー禁止条例違反じゃないですか?」


「ストーカー規制法ね。何か恨みを買った覚えはあるの?」


「ないです。たぶん俺の探索のやり方を盗もうとして監視してるんだと思います」


「その理由だと特に問題にならないのよね。あなたを傷つける可能性があるのなら別だけれど」


「たぶん返り討ちにできると思います」


「だったらちょっとストーカーとは違うと思うのよね。たぶん警察に相談しても同じ答えだと思うわ」


「じゃあどうしたらいいんですか?」


「うーん……この子たちはC組の子だと思うから、C組の級長と相談してやめさせてもらったらどうかしら?」


「C組ですか?C組の級長っていうと?」


群青ぐんじょう拓実(タクミ)君ね。彼自身は貴族ではないんだけど、貴族主義だから喧嘩にならないように気を付けてね」


 ・・・・・・・・


「群青ってやつはいるか?」


 翌朝俺は登校するなりC組を訪ねた。

 突然の訪問に教室内がざわつく。辺りを見回すとやはりいた。昨日の三人組だ。だが今日用があるのはその三人組じゃあない。


「僕が群青だが、君は?」


「俺はD組の一ノ瀬だ。C組のそこの三人に、連日付きまとわれているんだ。やめるよう言ってくれないか?」


 俺は単刀直入にそう伝えた。

 群青は振り返ると、俺が指摘した三人のうち一人を呼び寄せる。


「井上君、彼が言うのは本当のことかな?」


「い、いや、彼とは迷宮の中でたまたま会っただけなんだ」


「レコーダーの映像見せた方がいいか?」


 しらを切ろうとする井上という生徒に俺は脅しをかける。すると井上は「うっ!」と言ってたじろいだ。そんな彼の態度を見た群青は俺に尋ねてくる。


「一つ聞きたいんだが、もし彼らが君の跡をつけていたとして、それが何の罪に問われるんだ?」


「まだ犯罪ではないな。だけどおまえは跡を付けられることに気持ち悪いと思わないか?気持ち悪いから止めてくれと言っているんだ」


「ふむ。君の言うことも分かる。井上君、なぜ君たちは彼の跡をつけるんだ?別にそれが悪いことではないらしいから、理由だけ教えてくれないか?」


 この群青という生徒、意外と冷静に対処してくれるな。やはり相談してよかったようだ。

 そして井上は俺の跡をつけた理由をついに吐いた。


「それは……A組の億本さんに頼まれたから……」


「億本?!」


 俺はその名前を聞いて思い出す。ヒカルと何やら言い争いをしていた生徒だ。

 そういえばあいつにはランク3ポーションを見られた。どうやって手に入れたか知りたがっているのだろう。


「おまえ、頼まれたからってやっていいことと悪いことが……」


 俺が井上に注意しようとすると、群青がそれを制した。


「それなら仕方がないな」


「……はあ?」


「億本さんといえば伯爵家だ。頼みごとを断るわけにはいかないだろう。億本さんは彼の何を知りたがっていたんだ?」


「高ランクポーションを見つけるコツがあるようなら探ってくれと言われたんだ……」


 井上はべらべらとしゃべる。それを聞いた群青は、井上を注意するどころかその言い訳で納得をした。


「一ノ瀬君、君から億本さんに直接それを伝えてあげた方がいいんじゃないか?」


「はあ?何言ってんのおまえ?」


「億本さんは貴族だよ?それに対して僕たちは庶民。貴族からのお願いに応えないでどうするんだ?」


「おまえバカじゃねえの?」


「何言ってるんだ?バカなのは君の方だよ。貴族に逆らうなんてバカのすることだろう?」


 俺は今日初めてこのC組と絡むが、そのあまりにおかしな価値観に、俺まで頭がおかしくなりそうな気がしていた。

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