第8話 初めてのスキル授業
「今日はスキルについて説明する。まずはこれから座学でスキルについて説明をして、後で迷宮の入り口へ行って実際にスキルを持っている者のスキルを確認を行う。初めてのスキルに浮かれてはしゃぐなよ。真剣に取り組むように」
ダンジョン学園に入学して、初めての授業が始まった。
迷宮に対する興味が尽きない俺は、今日の授業の内容もあらかじめ教科書を読んで予習はしてきている。勉強というよりもゲームの攻略情報を読んでいる気分で、知れば知るほど面白い。
「スキルとはそもそもどういうものなのか。もうすでにみんな知っていると思うが、今一度説明しておく。スキルとは迷宮の中で発現する特殊能力だ。超能力や魔法と言い変えてもいいだろう。大きく分けて、魔法スキル、身体能力向上スキル、そして鑑定や気配察知などの特殊スキルがある」
担任の真島は黒板にそれぞれ代表的なスキルを書きながら説明をする。
「攻撃魔法スキルは、主に火魔法、水魔法、風魔法、土魔法の四種類が一般的だ。マイナーだが光魔法、闇魔法なんてのもあり、もっと珍しいものでは氷魔法や、紫村が持つユニークスキル雷魔法なんてのもある」
紫村がユニークスキルを持っていると聞き、クラスメイトたちから「おお!」という歓声が漏れる。
しかも雷魔法だなんてかっこいいじゃないか!勉強もできて運動もできて、さらにはユニークスキルも持っているなんてヤバいな。才能の塊かよ?
クラスメイトが紫村に羨望のまなざしを送るが、紫村本人はあまり嬉しそうではなかった。至って冷静だ。
教師は説明を続ける。
「火魔法は名前の通り、何もないところに火を発生させる魔法だ。その火をコントロールして安定した火の玉の状態にした後、それを魔物へ向かって高速で射出すると通称ファイヤーボールという魔法となる」
いきなりファンタジー世界の話になった。
ファイヤーボールを使えるなんて想像しただけでも楽しそうだ。ローブを着て杖を持ち白い長いひげを携えた魔法使いにでもなった気分だろう。
だが残念ながらこのDクラスには火魔法スキルを持っている者はいない。
「同じく水魔法は水球を飛ばすウォーターボール、土魔法は空中に石を生成して飛ばすストーンバレット、風魔法は物質を生成するのではなく、空気を操作して真空状態を作って魔物へぶつけるウインドカッターと呼ばれる魔法が使える。これらは本当に何もないところから物質を生成できる。もしも金を作り出す魔法を使えたら、一攫千金も夢じゃないかもしれないな。まあ今のところそういうスキルは見つかっていないが」
本で読んだのだが、火魔法の火は高熱を発してはいるが、酸素を燃焼していないらしい。NASAで行われた実験では、真空状態でも火魔法の火は生成できることが証明された。また、空気がある状態で火魔法の火に紙を触れさせるとすぐに紙は燃えるが、真空状態で火魔法の火で紙を燃やそうとしても熱で黒く焦げるだけで燃えなかったらしい。
ちょっと意味がよく分からなかったが、魔法は科学現象とは全く違うと書いてあった。非常に興味深い。
「魔法スキルにはスキルレベルというものがある。スキルレベルは探索者レベルとは違う。探索者レベルを上げれば自分の身体能力が上がるが、スキルレベルが上がるとスキルの能力が上がってゆく。だがスキルレベルは上げるのが難しいと言われている。たくさんスキルを使うほど上がりやすいとは言われている。だが何もないところに魔法を打ってもスキルレベルは上がらないと言われている。ダンジョンの中で魔物に対して攻撃魔法を使ってゆくとスキル経験値が溜まりレベルアップに繋がると考えられてている。スキル経験値というのは仮説だ。本当にそんなものがあるのかどうかは解明されていないが、おそらくスキルボードでも見ることができない情報が我々の中にはあるという考えが今では主流だ」
スキルボードでは、名前、レベル、所持スキル、パーティーメンバーが表示される。
スキルボードに表示される情報だけでなく我々には、人それぞれの力、体力、敏捷性などの能力値が存在していると考えられているのだ。またレベルアップでの能力値向上もバラバラだと言われている。一説には魔法を使って戦っていると知性が、腕力で戦っていると力が上がりやすいと言われている。
レベルアップについても、魔物を倒した時に隠れパラメーターである経験値を得ることができ、一定の経験値が溜まるとレベルアップすると考えられている。
例えばレベル1から2になるには、スライムをおよそ100匹倒す必要があるらしい。スライムの経験値にばらつきがあるのか、レベルアップに必要経験値にばらつきがあるのかわからないが、ちょうど100匹でレベルアップする者、もっと早い者、レベルアップが遅い者がいる。だが平均するとやはりおおよそ100匹らしく、それが経験値が存在すると言われている理由にもなっている。
スキルレベルはもっと複雑らしく、スキルレベルが上がるタイミングはまだ解明されていない。
「それと攻撃魔法だけでなく、治癒魔法という魔法スキルもある。このクラスでは早坂と鮫島が所有しているな」
早坂ユノ、俺と中学が同じ、幼なじみと言ってもいいだろう。彼女は治癒魔法スキルを持っている。
そして鮫島シヅカ。目つきの悪い彼女は、授業の前に紫村を取り囲んでいた女子の一人だ。
「治癒魔法は攻撃魔法よりもさらにスキルレベルを上げるのが難しい。ダンジョン内で怪我をした人を癒すとスキル経験値が溜まると言われているが、ダンジョンの外や怪我をしていない人を相手に治癒魔法を使ってもスキル経験値は溜まらないと言われている。この学園では大きな怪我をさせないような迷宮探索プログラムを組んでいるので、出番が少ないだろう。だが社会へ出て迷宮探索者になると、非常に出番の多いスキルだ。迷宮探索者にならなくてもスキルレベル2以上になって治癒士という職業に就く者もいる。早坂は確か治癒士になりたいのだったな。魔法スキルはレベル1では迷宮の中でしか使えない。レベル2以上にならないと迷宮の外でスキルを使えないんだ。早坂は頑張ってスキルレベルを上げてくれ」
「がんばります!」
早坂は元気よくそう答えた。
「次に身体能力向上スキルだが、スキルを発動すると一定時間身体能力が向上する。力が強くなるスキル、素早さが上がるスキル、体が硬くなって魔物の攻撃を耐えることができるスキルなどがある」
クラスにも何人か身体向上スキル持ちがいるらしい。
「そして最後に特殊スキルだが、これは様々なスキルがある。解析というスキルはスキルボードと同じ情報を知ることができる。人に使えば名前レベル所持スキルパーティーメンバー。魔物に使えば種族名。ドロップアイテムに使えばその名称が分かる。探知スキルは周囲の生き物の存在、また特殊なアイテムを発見することができる。探知スキルは千堂が持っていたな」
「はい。僕のスキルは気配察知です」
背筋を伸ばし姿勢よく座っている副級長のイケメンメガネの千堂。彼もスキルを持っているのか。
おそらく友人の紫村とパーティを組むだろう。二人して成績も良くスキルも持っている。ちょっと羨ましい。
「うむ。探知スキルは探知方法が違うスキルが何種類かあるようだが、千堂のスキルは名前の通り気配を察知するのだろう。他にも生物の熱を探知する熱探知スキルや動くものを探知する生物探知スキルなんてのもあるらしい。どれも迷宮探索には役に立つスキルだ。千堂もうまく使いこなしてくれ」
「はい」
「他にも毒耐性、麻痺耐性、催眠耐性などの状態異常耐性も特殊スキルに分類される。身体能力向上スキルや特殊スキルにはスキルレベルがなく、ほとんどのスキルが迷宮内でしか使えないものばかりだ。魔法スキルはレベル2から迷宮の外でも使えるようになるが、スキルを使ってトラブルになると普通の犯罪よりも罪が重くなる。治癒魔法以外のスキルは基本的に迷宮外では使わないように」
一通りの説明が終わると、俺たちクラスは学園の迷宮へと移動するのだった。