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東京ダンジョン学園  作者: 叢咲ほのを
第五章 希望の光 -Dawn of Hope-
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第78話 素振り

「よし、次は素振りだ。上段に構えて振り下ろせ」


 コジロウさんの指示により全員が素振りを始める。

 俺も部員たちと一緒になって素振りをする。

 ブン!という音と共に木刀が振り下ろされる。

 コジロウさんはゆっくりと歩きながら、全員のフォームを見て回った。

 そして再びメイの前で足を止める。


「面白いな。そんなに静かに振っているのに力は乗っている」


「ありがとうございます」


「ちょっと肩が力んでいるな、少し肩を落として」


「こうですか?」


「うん、それで振ってみろ」


 コジロウさんの小さなアドバイスで、メイの素振りはさらに静かになった。


「振りやすくなりました」


「それなら良かった。あまり矯正しすぎてもお前の技術を邪魔してしまいそうだしな」


「いえ、ありがとうございます!」


 そして次はその隣のヒカルの素振りを見る。

 その素振りは誰の目から見ても非力だった。


「先生、私はスライムを一撃で倒せなくて。もっと強くなれるでしょうか?」


 そんなヒカルの問いに、コジロウはニヤッと笑う。


「姿勢が崩れてきているぞ。へその下に重心を置いて、そうだ。肩の力を抜いて、木刀ももっとリラックスして握って。よし、それで振ってみろ」


 そうしてコジロウさんからアドバイスを受けた後のヒカルの素振りは、少しだけ鋭くなっていた。


「そうだ、腕力がないなら腕力に頼りすぎるな。自分の体重と木刀の重さをぶつけてやればスライムなんてすぐに倒せるようになる」


「はい!」


 その後もコジロウの淡々とした指示にヒカルは黙って応え、黙々と素振りを繰り返す。

 ヒカルの集中力が増してきたころ、コジロウは黙って次の部員へと視線を移した。

 そして次に足を止めたのは、再び紫村と千堂のところだった。


「腕力に頼るな。もっと肩の力を抜け。お前は踏み込みがあまい。踏み込みと剣のタイミングがあっていないんだ。もっと剣の重さを感じろ」


 二人にそれぞれ支持をだす。

 まじめな紫村と千堂はコジロウのアドバイスを聞きながら素振りを繰り返した。


「おまえらは普段から練習を真面目にやってるな。見れば分かる。で、問題は他のやつらだ。真面目に練習してないだろう?今声をかけなかったやつらは普段から練習していないのが丸出しだ。俺が指導する前にもっと自分なりのフォームを磨いてみろ。まあ強くなりたくないのならそのままでもいいがな」


 なるほど、練習……練習とは?

 もしかして紫村たちは普段からこんな素振りの練習を繰り返してるのか?……退屈じゃないか?

 俺はだんだん素振りに飽きてきていた。

 そんな俺の素振りを見たコジロウさんは呟く。


「おまえ、それでまじめにやってるのか?」


「えっ?いや、だって木刀を振ってるだけでしょ?」


「そんな振り方じゃスライムも倒せんぞ?」


「いや、スライムを倒す時はもっとこう地面をたたく感じだし、上段振り下ろしじゃ倒せないでしょ?」


 俺は思わず口答えしてしまう。


「そうか、実戦の緊張感がないとダメなタイプか」


 でもコジロウさんは俺の言葉で怒ることもなく、なんか納得してくれた。良かった。


「それじゃ緊張感を持って、俺と手合わせしてみるか?」


 突然の提案に驚く。だけど、本物の探索者と手合わせするチャンスなんてまたとない機会だ。


「お願いします!」


 俺はすぐに快諾した。


 俺とコジロウさんの手合わせを見るため、全員素振りを止めて俺たち二人に注目する。

 コジロウさんも俺も防具は付けず、寸止め、または軽く当てるだけというルールでの対戦だ。

 俺とコジロウさんは向かい合って剣を構えた。


「いつでもいいぞ。かかってこい」


 リラックスした表情でそう言うコジロウさん。だがその構えに隙は無い。

 俺は木刀を握る手のひらに汗がにじむのを感じた。こうして向かい合って構えているだけで、すごい緊張感だ。

 俺は前後に小刻みに体を揺らし、懐に飛び込むタイミングを見計らう。木刀の剣先をゆらゆらと揺らして相手の出方を伺うが、コジロウさんはそんな俺の動きに惑う事もなく、ごく自然体で構えている。

 このまま膠着状態になっていても仕方がない、俺は先手必勝と思い、間合いへと飛び込んだ。

 俺の突きに対し、軽く木刀を添えて軌道をずらすと、コジロウさんはそのまま木刀を俺の首筋へとあてがった。

 軽く俺の頸動脈を斬る動きを見せた後、一歩下がってまた構える。


「来い」


 あっけなく一本取られた後、二本目も付き合ってくれるようだ。

 俺は先ほどと動きを変え、コジロウさんの側面を取れるよう、横へと動き出す。コジロウさんも俺の動きに合わせて旋回する。そんなコジロウさんの足が動く瞬間を狙って俺は飛び込み、上段振り下ろしを狙った。

 カン!という音と共に俺の木刀は打ち返され、俺の両手に激しい痺れが走る。次の瞬間目の前に木刀が振り下ろされるのを防御しようとしたがそれには間に合わなかった。

 俺の眉間に木刀が触れる。


「どうだ?」


「うーん……もう一本お願いします!」


「まだ緊張感が足りないか?それじゃあ次から軽く当てていくぞ」


 俺は同じ戦い方では同じ結果しか見えないため、奇策を練る。だが今は木刀以外の武器はない。それなら構えを変えよう。

 俺はバックラーを使っていた時を思い出し、木刀を片手持ちに変える。体を半身にし木刀を相手に向かって突き出して構える。

 そんな俺を見たコジロウさんはニヤリと笑みを浮かべる。

 俺はステップで前後に移動して、飛び込むタイミングを見計らう。コジロウさんの呼吸を読み取り、今だというタイミングで飛び込んだ。

 俺のタイミングずらしによってコジロウさんの反応がほんの少しだけ遅れたはずだが、俺の突きは冷静に受け流す。俺は木刀をくるりと回転させ受け流しをさらに受け流し内側を取ろうとする。

 だが次の瞬間にはコジロウさんの体が内側に入ってきており俺の突きの射程よりも近づいていた。コジロウさんの木刀が俺に迫る。俺は咄嗟にコジロウさんの足に蹴りを放った。

 コジロウさんは一瞬止まり俺の蹴りを空振りさせると、無防備になった俺に向かって木刀を振り下ろした。

 ゴツン!と俺の頭に頭が走る。


「ウゲ!」


 思わず変な声が出てしまった。

 尻餅を付いた俺に、コジロウさんの右手が差し出される。

 俺がその手を掴むと、引き起こされた。


「本当、野生動物だな」


 笑いながら俺にそう言うコジロウさんの言葉は、褒めているのか怒っているのかよく分からなかった。

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