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東京ダンジョン学園  作者: 叢咲ほのを
第五章 希望の光 -Dawn of Hope-
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第77話 外部講師

 第一剣術部はその潤沢な部費で定期的に外部講師を招聘して、剣術の指導をしてもらうらしい。

 それに対し第二剣術部で外部講師を雇うのは非常に珍しい。

 あまりない機会であるし、本格的な剣術は何が違うのか興味があった俺は、ヒカルに誘われるまま久しぶりに第二剣術部に顔を出した。


 部室に入った瞬間、俺の顔を見て嬉しそうに破顔する紫村が視界に入った。


「一ノ瀬君、部活に顔を出してくれるのは久しぶりだね!もしかして今日来るって言う外部講師の話を聞いて?」


「あ、ああ……」


 なんだろう?こないだの一件から紫村の距離感が近い気がする。俺はこいつといるとトラブルに巻き込まれるから苦手なんだが。


「と、ところで、どんな講師が来るんだ?お嬢に聞いても教えてくれなくてさ」


 そう言って、一緒に部活に来たヒカルを見る。ヒカルはニヤリと笑った。


「何も聞いてないのかい?それじゃあ実際に会うのを楽しみにしておいた方がいいよ」


 どうやら紫村も教えてくれないらしい。

 そんなにもったいぶって大した講師じゃなかったときはどうするつもりなのだろう?

 実際第一剣術部の二年生の八戸という人も何か大層な名前の流派を名乗っていたが、大したことがなかった。だからもしかしたら今日来る講師も大したことない可能性があると思っている。その場合はさっさと部活を抜け出して迷宮に行こう。


 持参した木刀を振ることもなく、雑談をしてその講師が来るのを待っていたら、部室のドアが開いた。


 講師か?と思い部室全員が一斉に沈黙し振り返る。

 だが扉から入ってきたのは、イオリだった。

 まあイオリはこの第二剣術部の指導をしているらしく、実質講師みたいなものなのだが。

 そう考えていると、イオリに続いて、若い男性が入室してきた。この人が外部講師なのだろうか?


「おう。そろってるな」


 その男性は部室を見回すと笑顔でそう言った。

 体格はしっかりしていて、腕には適度な筋肉がつき、立ち姿から豪快さが伝わってくる。

 第一印象から、ただ者ではない空気が漂っている。

 そうしてイオリに続いて部室正面の教壇に立ち、挨拶をした。


「今日一日、特別講師としてみんなの指導に来た、瀧川虎次郎コジロウだ。よろしくな」


「瀧川?」


 俺は思わず声を上げる。


「そうだ。瀧川イオリの兄、瀧川コジロウだ」


「ええー?!」


 部員のみんなは聞いていたのだろうか?一人だけ知らなかった俺は思わず大きな声を出してしまった。

 そんな俺にイオリ兄は軽く笑いながら説明をする。


「この部は部費が少なすぎて講師を呼べないと妹から聞いてな、仕方なく俺が無償で講師を引き受けさせてもらうことにした。まあ今日一日だけ特別にな!」


 イオリの兄と言えば、いつもイオリが言っている現役プロ探索者のお兄さんの事だ。

 そして確実に強いイオリが、自分よりも断然強いと言っている人でもある。

 見るだけで分かる。絶対にこの人は強い。たぶん生徒会長の九条カズマよりも。


「こ、コジロウさんはレベルはいくつなんですか?」


 思わず俺は聞いてしまう。


「おいおい、自分のレベルは簡単に言うもんじゃないぜ。もし自分よりも下だと分かったら、襲われる可能性だってある。スキルや装備なんかについてもそうだ。初対面で簡単に人に話すもんじゃないぞ」


「す、すいません!」


 俺は外部講師が期待外れだったらどうしようと思っていた自分を恥じた。


「まあまだ学生だからそういうことを知らないのも仕方ないよな。それじゃ早速みんなの実力を見せてもらおうか。指導内容はおまえらの実力次第だな。この部室じゃ狭いから、外に出るぞ!」


 そう言われて、俺たちは中庭へと移動してゆく。

 木刀を手にした部員たちが一斉に列を作り、足並みを揃えて歩く。


「驚いたでしょう?」


 歩きながらヒカルが意地悪な顔で笑った。


「ああ、驚いた。声をかけてくれてありがとな!」


 俺はヒカルにお礼を伝える。そんな素直な俺の言葉を聞いて、ヒカルはちょっと驚いた顔をしていた。


 中庭で整列した俺たちは、コジロウさんの指示で木刀を構えた。


「よーし、そのまま構えを維持しろ。一人ひとり見てくからな」


 そう言ってコジロウさんは木刀を構える俺たち一人ひとりを確認していった。


「ふ~ん……」


 良いのか悪いのか分からないそんな呟きをしながら、一人ずつ観察してゆく。

 そしてコジロウさんは、ある一人の前で立ち止まった。

 その部員は、如月メイだ。


「君は独特だな」


「え?」


 コジロウさんにそう話しかけられ、メイは動揺した。

 メイの身長は150cmにも満たない。小柄な彼女が剣を持つのがおかしかったのだろうか?


「君は何かやってるの?」


「えっと、その、特別な訓練を受けております」


「なるほどね。君はそのスタイルが良いかもね。俺の指導はあんまり役に立たないかもしれないけど、ごめんね」


「え?いえ、こちらこそすいません!」


 なんだかよくわからない会話をする二人。

 思わず俺は聞いてしまった。


「コジロウさん、メイは何か違うんですか?」


「え?だって、この子は気配を消す剣じゃん。俺の剣は所詮家に伝わってる剣術だから、流派が違うと基礎から違うからさ」


「えっ?そうなの?メイちゃん何かやってんの?」


 驚いた俺の言葉に、メイは若干不機嫌な顔をして答えた。


「うるさい!私はヒカル様を守るために学んでいる戦闘技術があるのだ!」


「へぇーそうなんだ」


 俺が感心していると、コジロウさんが尋ねた。


「ヒカル様って?」


「わ、わたくしです」


「ヒカルは九条公爵家の令嬢なんだ」


 イオリが説明をする。

 コジロウさんは、ふーんと言いながら今度はヒカルの構えを見た。


「もっと方の力を抜いて。握りももっとリラックスして」


 ヒカルはコジロウさんに言われるまま姿勢を矯正する。

 俺はどんな指示をしているのか気になり、剣を構えながらヒカルの方を見ていた。何がどう変わったのかよく分からなかったが、とりあえず構えがリラックスしていくのは分かった。

 同じくそれを見ていたイオリは、なるほど、うん、うんと呟きながらコジロウの指示を観察している。


「まあ、とりあえずこんな感じかな。今の感覚を覚えといて」


「はい!」


 ヒカルは元気よく返事をした。

 その後、コジロウさんはなぜか二年生たちには声をかけず、紫村と千堂を見た時に同じように姿勢を直す指示をしていた。

 そして最後に俺の構えを見て呟く。


「君はまたタイプが違うな」


「兄さん、彼が前に話したクラスメイトの一ノ瀬シロウです」


 イオリの説明に、なるほどと呟くコジロウさん。


「一ノ瀬、今の君は野生動物だな。地道な修行を積むとさらに強くなれるぞ」


 褒めているのか褒めていないのか良くわからないことを言われ、俺は戸惑う。

 だがさらに強くなれる、そんな言葉は俺の心をワクワクさせた。


「地道な修行っていうと、どんなことをどれくらいやる感じですかね?」


「そうだな、まず構えを毎日4時間以上、一年くらいそれだけやって形になってきたら、今度は素振りを同じように一年くらい毎日続けて、それが形になったら今度は組手だな。そういう地道な修行で化けるぞお前は」


 説明を聞いた途端、さっきまで胸を高鳴らせていた気持ちは、目の前の長く地道な修行を想像して、急に重く鈍いものに変わった。

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