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東京ダンジョン学園  作者: 叢咲ほのを
第五章 希望の光 -Dawn of Hope-
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第76話 レベリングの誘い

「いや、それにしても金額が金額だし、半分返すよ」


「気にしなくていいわよ。父が出してくれるから」


「そ……そうか?公爵ってすごいんだな」


 俺はカツの衣をガリっと噛みながら、目の前の二人を見やる。

 同じ学園で机を並べているとはいえ、やっぱり“貴族”ってのは感覚が違いすぎる。俺の親父だったら、二百万円なんて数字を聞いただけで白目を剥いて倒れるに違いない。


 そんなことを考えながらご飯を口に運んでいると、向かいの二人が興味深そうにカツ丼をつついていた。


「……意外と悪くありませんわね。この卵のふわふわ感、調理の工夫を感じます」


「ほんとですね。見た目は庶民的なのに、味付けが妙に癖になります」


 こいつら、かつ丼を食ったことがないのだろうか?

 ヒカルとメイがカツを持ち上げては、恐る恐る口に運ぶ。普段はきっと一流のシェフが作った料理を食べてるんだろうが、妙に真剣な表情で庶民食を分析しているのが逆におかしい。


「それにしても、ご飯の量がすごいですわね。これ、庶民の子たちはみんな食べきれるのかしら?」


「当たり前だろ。大盛り頼むやつもいるくらいだぞ」


 二人とも箸の持ち方は完璧なのに、明らかに慣れてない感じでモタモタしている。その姿を見てると、何だか子供の社会見学みたいで笑えてくる。


「ところで、昨日は人前で聞けなかったのだけれど……ランク3なんてどうやって手に入れたの?貴族ですらなかなか伝手がないというのに、あなたは簡単に手に入れることができるのね」


「か、簡単というか……まあそれは企業秘密だ……」


 本当のことを言えるわけがない。ドロップ直後にヒールをかけるなんて裏技は、当面は俺だけの秘密にしておく。


「そうね。簡単に手に入る方法があったとしても、それは人に話さない方がいいわ」


「だよな……」


 俺は味噌汁をすすりながら、ヒカルの言葉に同意した。

 彼女はやっぱり頭の回転が速い。こういう危険な話題にわざと深入りしないあたり、ただのお嬢様じゃないのかもしれない。


「ところで一ノ瀬さん、あなたゴールデンウィークのご予定は?」


「GW?まだ別に……」


「そう?だとしたら、ポーションのお礼に私たちと一緒にレベリングに行くのはどうかしら?」


「レベリングというと、探索者を雇ってレベルを上げてもらうっていうアレか!楽そうでいいな!」


「そうよ。父に手配してもらった探索者と一緒に迷宮に入ってレベルを上げてもらうの。三日もあればすぐにレベル2に、もしかしたら3に上がるかもしれないわ」


「え?3……なの?」


「どうかして?」


「いや、あの、俺すでにレベル4なんだけど……」


「はあ?」


 ヒカルとメイが同時に声を上げ、箸が止まった。二人の顔は本気で「信じられない」という色を浮かべている。


「う、嘘をつくな!まだ4月だぞ!入学したばかりなのにどうやってレベル4になるというんだ?」


「えっと、たまたまアシッドスライムに遭遇して倒したらレベル2になって、その後毎週新宿ダンジョンに通ってて……それで」


 俺が説明すると、二人は顔を見合わせ、絶句した。


「呆れた……ポーションの事と言い、あなたは本当に規格外ね」


「褒められてるのか?」


「そうよ。でも……だとしたらごめんなさい。レベリングは私たちがレベル2から3に上がる目的で探索するものだから、あなたを招待しても役には立てそうにないわね」


「いやいや、そんな気にしなくても。ちゃんと対価もらってるし、おまえのお兄さんにはこないだ世話になったし」


「兄……B組の件ね。あれは悪いのはB組の生徒だし、兄は兄、私は私。お礼はお礼よ」


 ヒカルはきっぱり言い切った。その真剣さに、俺は苦笑いしか返せない。


「まあ、困った時があったら力を貸してくれよ」


「ええ」


 そう言ってヒカルは小さく微笑むと、口元についたカツの衣をハンカチで拭った。

 ほんのり赤くなった頬は、庶民食堂でカツ丼を平らげたことが相当新鮮だったのだろう。


「そういえば一ノ瀬さん、あなた最近部活に顔を出していないわね?」


「え?だって俺入部してないし」


「仮入部はしてると聞いたわよ。紫村さんなんか毎日練習してるらしいわよ」


 クソ真面目な紫村が毎日練習をする姿が目に浮かぶ。

 あんなやつと一緒にしないでほしいものだ。


「いや~、俺は剣術はもういいかなって……」


「そう?今日は特別に外部講師が来てくれるんだけど……」


「外部講師?どんな人?」


「それは来てのお楽しみかしら?」


 ヒカルはいじわるな言い方をして笑みを浮かべる。

 その巧みな話術に引き寄せられている俺がいた。

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