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東京ダンジョン学園  作者: 叢咲ほのを
第五章 希望の光 -Dawn of Hope-
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第74話 九条ヒカル7

「なぜD組の生徒と仲良くしてはダメなのですか?」


 私は京極先生に尋ねた。

 確かに私はD組の生徒と交流がある。だがなぜそれを咎められるのか理解できなかったからだ。


「決まっているでしょう?D組の生徒は庶民、あなたは貴族だからです」


 私は先生のその言葉に絶句した。


「逆になぜあなたはD組と仲良くしようとするのですか?下々の暮らしを知るためといっても限度があります。あなたが平民の真似をする必要はない。貴族として必要以上に平民と交流してはいけません」


「お、お言葉ですが先生。わたくしは父から身分や階級にとらわれることなく、人とは平等に接するようにと教えられています」


「はぁ……、確かあなたのお父様は貴族院の中でも民主主義派でしたね。いいですか?政治には本音と建前があるのです。貴族よりも一般国民の方が人数が圧倒的に多いのですから、一般国民の支持を得ることが貴族にとっても大切なことになります。国民の支持を得るためにあなたのお父様は表向きはそうおっしゃっているんですよ」


「違います!父は……」


「なるほど。あなたにはまだ理解できないのですね。それは仕方ありません。ですが一つだけ教えておきます。D組と仲良くしても見返りはない。絶対にないんです」


「み、見返りなど求めていません」


 私は精一杯の反論をする。

 だが京極先生には私の思いは伝わらない。


「あなたも貴族令嬢なのですから、そういう建前だけではいけません。いいですか、交流をするのならば、あなたのお父様に利益をもたらす人とのお付き合いを重視するのです。あなたも令嬢とはいえ九条家の一員なのですから、お家のために何をすべきか考えて行動しなくてはいけませんよ」


 この人も重度の貴族至上主義者だ。それもそれが絶対に正しいと思い込んでいる。

 私は父の言葉を思い出した。頭の固い人、特に年長者は自分の考えと違う意見に耳を傾けようとしない。そういう人の考えを変えることはできないと。私は京極先生がまさにそれだと思った。

 言葉を失っている私に対し、京極先生は言葉を続ける。


「それでは最後の一つ、第二剣術部に通っているという件ですが、これは本当ですか?」


 京極先生の言葉に私は答える。


「はい。事実です」


「なぜそんなことをするのですか?第二剣術部は遊びの部活です。もし本当に剣術を学びたいのなら第一剣術部に入部しなさい。九条さんであれば、私が特別に紹介状を書いてあげましょう」


 そんな京極先生の言葉に、メイが反応する。


「先生、ヒカル様は紹介状を書いていただかなくても、第一剣術部から勧誘を受けています」


「そうですか。それでは第一に入部すれば……」


「ですが第一剣術部の戦い方を見て、ヒカル様はこの部活ではないと判断されお断りしています」


「はあ?なぜですか?」


 メイの説明を聞き、不思議に思う京極先生。

 メイは説明を続けた。


「それと第二剣術部は遊びの部活だという話ですが、今年はD組の瀧川イオリが第二剣術部を指導してくれています。私もヒカル様と一緒に指導してもらっていますが、彼女からは学ぶことが多いです」


「はあ?D組から指導してもらっている?そんな恥ずかしいことはお止めなさい!貴族の恥です!」


「そうでしょうか?私は教えを乞うことで強くなれるのならば、それは恥ずかしいことだとは思いません」


 メイは京極先生にそう答えた。

 彼女のその堂々した受け答えに、私は勇気づけられる。

 私は席を立ちあがり、先生に自分の正直な思いを伝えた。


「先生。私もメイと同じ意見です。強くなれると思って第二剣術部に通っていますし、D組と交流することに問題を感じていません」


 私の言葉を聞いた京極先生は口を開けて驚いており、隣の席の億本さんは苦い顔をしていた。ただ一人メイだけが私を信じてくれている表情を浮かべていた。


「わ、分かりました。いくら話し合っても平行線のようですね。いいでしょう。後で後悔するのはあなた自身です。私はしっかりと伝えましたからね。D組との交流はあなたに何の利益ももたらさない!後の責任は自分自身で取ってください。それでは今日のホームルームはこれで終わりにします!」


 私の言葉で京極先生の機嫌を損ねてしまったようだ。京極先生は手早く手荷物をまとめると、すぐに教室から出て行こうとした。

 と、京極先生が教室の扉を開けた瞬間、そこに人がいたために先生は立ち止まった。


「な、なんですかあなたは?」


 教室の一番前の席の私の席からは、その廊下にいた生徒の顔が見えた。

 それはD組の一ノ瀬シロウさんだった。


「あの、九条さんっていますかね?」


 相変わらずのとぼけた口調で話す一ノ瀬さん。私に会いに来たようなので、私も彼の元に行こうとする。だが京極先生は彼をさえぎるようにその場に立ち止まる。


「あなたは確かD組の生徒ですね?九条さんに何の用ですか?」


「いやちょっと……」


「はぁ。いいですか?あなたのような人が調子に乗るから、優しい九条さんは無駄な人づきあいをしなくてはならなくなるのですよ?そもそも公爵令嬢である九条さんは、あなたのような人が声を掛けていい人ではないのですよ!」


「つーか、ちょっと約束してることがあって……」


「何を言ってるんですか!庶民が貴族に約束を取り付けるなんて、あってはならないことです!」


「いや、約束はあっちの方から……」


 一ノ瀬さんと京極先生が押し問答を繰り返しているので、私は一ノ瀬さんに助け舟を出す。


「先生、一ノ瀬さんは私に用件があってきたのです。私に対応させてください」


「お、お嬢!」


 私の顔を見て、ホッとした表情を見せる一ノ瀬さん。反対に京極先生は不機嫌な表情で振り返った。


「九条さん、彼は何者ですか?」


「彼はD組の一ノ瀬シロウさん、私の友人です」


「友人?いけませんよ九条さん!あなたは公爵令嬢の自覚が足りない。こんな庶民と友人になってはいけません!百害あって一利なしですよ!」


「先生、先ほども言ったように、私は損得で友人を選んでいません」


「あのー、すぐ終わるんで、話していいっすかね?」


 私と京極先生の間に一ノ瀬さんが割り込んでくる。そこでやっと私は一ノ瀬さんと話をすることができた。


「あなたが私を訪ねてくるなんて珍しいわね。どうしたのかしら?」


「ああ。お嬢、前にさ、ランク4ポーションが手に入ったら譲ってほしいって言ってたじゃん?」


「え?手に入ったの?」


「いや、ランク4じゃないんだけど……、3なら手に入ったんだけど……いる?」


「もちろんほしいわ。私が持っていたランク2も使ってしまって、今はランク1しか持っていないもの」


「あ、ほんと?じゃあこれ」


 一ノ瀬さんはそう言ってポケットから無造作に出したヒールジェムを私に差し出した。

 それには間違いなく3という数字が浮かんでいた。

 私だけでなく、それを見た京極先生や、近くで見ていた生徒たちもそれを見て固まった。


「はあ?ランク3を君なんかが手に入れられるはずがない!」


 京極先生が大きな声を上げる。

 私は一ノ瀬さんからヒールジェムを受け取ると、疑うわけではなかったが、私の唯一のスキル「解析」でそれを確認する。


--------

ヒールジェム……ランク3

--------


 そして私は答える。


「間違いなくこれはランク3ポーションです」


「まさか?」


 私の言葉を聞いた京極先生は、口を開けて驚いていた。


「一ノ瀬さん、本当にこれを私に譲ってもらってもいいの?」


「ああ、約束したしな」


 私たちのやりとりを聞いていた、億本さんが突然立ち上がってこちらに近づいてきた。


「ま、待ちたまえ。僕がそれを買い取ってあげてもいい。九条さんより高い価格を出そう。いくらだ?」


「だれだよお前?」


 億本さんの突然の提案に戸惑う一ノ瀬さん。そして今度は京極先生が彼に声を掛ける。


「ラ、ランク3なんてどこで手に入れたんですか?」


「企業秘密です」


「な、なんで九条さんに譲るんですか?」


「うるさいなあさっきから、友達に頼まれたから譲るんだよ。百害あって一利なしで悪かったな。一利くらいあることもあるんだよ」


 一ノ瀬さんは、先ほどの京極先生の言葉を逆手に取ってそう答えた。

 京極先生は「ぐぐぐ……」と唸るだけで、言い返すことができなかった。


「ありがとう一ノ瀬さん。先生、ご覧になったように、D組の生徒と交流を持つことは必ずしも無益とは限りません。私は私の意思で友人を選びます。そして私は第二剣術部で強くなってみせます」


「むむむ……か、勝手になさい!」


 そんな捨て台詞を残して京極先生は教室を出て行った。

 一ノ瀬さんも用件が終わると、それじゃ!と一言だけ言い残してすぐに去って行った。

 立ち去る彼の後姿を見ていた私は、先ほどまでの不安や戸惑いが消え、少しだけ勇気づけられたことを感じていた。


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