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東京ダンジョン学園  作者: 叢咲ほのを
第五章 希望の光 -Dawn of Hope-
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第73話 九条ヒカル6

 私が億本さんと揉めたせいで、京極先生を交えた話し合いが始まってしまった。

 京極先生は億本さんが感じている不満を聞き取り、黒板に羅列してゆく。

 黒板にチョークで文字を書く音だけが教室に響く。


ーーーーーーーー

・首席なのに弱いこと

・女性がA組の首席であること

・D組と仲良くしていること

・第二剣術部に通っていること

ーーーーーーーー


「さて、こんなところですね……」


 言葉で言われるのも悲しい気持ちになったが、こうして文字で書きだされるとさらに悲しくなる。

 億本さんの主張を一通り聞いた京極先生は、今度は私に質問してきた。


「それでは次は九条さんの番です。九条さんが億本君に感じている不満は何ですか?」


「私……?」


 私は不満を伝えたつもりはない。どちらかと言えば、一方的に億本さんから不満を聞かされていただけだ。


「私は……、億本さんには、派閥を造らずにもっとクラス一丸となってほしいです……」


 私は思っていることを正直に告げた。


「クラス一丸となるのがあなたの希望なら、僕に級長の座を譲ってくれればそれが一番丸く収まるんじゃないかな」


「それは……」


 億本さんの言葉に私が答えを言いよどむと、雰囲気を察した京極先生が私の気持ちを読み取る。


「九条さんは級長を譲る気持ちはないのですね」


「はい……」


 私は正直に答えた。


「それでは、このままではこのクラスは協調性を失ったまま分断されてしまいそうですから、二人の主張に対してお互いどこまで妥協できるか、どこを理解してもらえるか考えていきましょう」


 京極先生はそう言って、私たちに分かりあう機会の場を設けてくれているのだと私にもわかった。

 だとしたら私は不安になってばかりいたらダメだ。しっかりと億本さんと向き合わないと。


「それでは億本君の主張から考えていきましょうか。まずは首席なのに弱いこと。確かに九条さんは、まだスライムを倒すことに手こずっていますね。億本さん、なぜそれが不満なのですか?」


「はい。この学園は普通の高校ではありません。迷宮探索者を育成するための学園です。そんな私たちの本分である魔物討伐に対しての実力が一番低い九条さんがA組の首席と言われているのはおかしいと思います」


「なるほど。億本君の意見も良くわかります。ですがあなたたち一年生の現在の成績順というのは、入学試験の成績によって順位づけられています。ですから今の時点では強さと成績に矛盾が発生することもあります。ですが一学期の期末試験で迷宮探索を含めた実力試験があり、二学期からは億本くんの希望する順位になるわけです。億本君、それで納得してもらえませんか?」


「いいえ、到底納得できません。なぜ入学試験で迷宮探索の能力を試験しないのですか?」


「それはあなたたちはこの学園に入学して初めて迷宮探索をする資格を得て、そして授業を通じてその方法を学ぶからですね。あなたたちは迷宮探索を学んでいる途中で、まだその力を評価される段階ではないからです」


「……」


 京極先生の説明に言い返す言葉が思い浮かばないという様子の億本さん。

 京極先生はどちらの味方なのだろうか?今の説明は私を擁護してくれているようにも聞こえる。


「まだ納得できないようですね。ですが、学園としては仕方なくそういう仕組みになっているということは分かってもらえますか?」


「それは……分かります」


「ありがとうございます。それでは次ですが、女性が首席を務めていることに不満があるということですが……、まずはこれは九条さんの成績が優秀過ぎるということが一つですね。筆記試験においてはほぼ満点という、これまでにない高得点を取っています。そして先ほど九条さんが弱いという話でしたが、九条さんは腕の力が非常に弱いようですが、決して体力がないわけではないのです。柔軟性、瞬発力、持久力、どれも平均以上でした。ただ握力や投擲力などが特別低かったんですね、それが九条さんの弱点になってしまったのだと思われます」


 京極先生の説明に億本さんが口をはさむ。


「僕はそういうことを言いたいんじゃないんです。将来迷宮探索者になるつもりもない女性が首席というのがおかしいと思うのです。男性が家を継ぐのに対して、女性は他家へ嫁いでいくものですから、男性を差し置いて級長をやっていることに違和感を感じるんです」


 億本さんの説明から、彼が持っている女性蔑視の思想が感じ取られ、私は悲しい気持ちになる。


「確かにそうですね。才能はあるのに迷宮探索者にならない女性は多いです。そもそも迷宮探索者というのは男性がなる職業だという考えが強いんですよね。九条さんはそのことについてはどう思いますか?」


「それは……人それぞれですし、その人の自由だと思います」


「人それぞれというと、あなたはどうですか?」


「私は……、私は……」


 私は答えに言いよどむ。

 私には祖父が決めた婚約者がおり、この学園を卒業後結婚することが決まっている。

 私がもし卒業後、本格的に迷宮探索者になりたいと願ったとして、それが叶うものではないのだ。

 その事情を知っている億本さんが発言する。


「九条さんは卒業後は結婚が決まっており、プロの探索者になるつもりはないのです。僕はそんな中途半端な気持ちの人に級長をやってもらいたくないのです」


 そんな彼の一方的な意見に、我慢ができなくなったのはメイだった。


「億本!ヒカル様は……」


「いいのよメイ」


 私はメイを止める。

 メイは私が望む結婚ではないと知っているので、それを言いたかったのだと思う。だけれどそれは私にはどうしようもできないことなのだから。


「では九条さん、あなたがもしも婚約していなかったとしたら、卒業後プロの探索者になりたいと思いますか?」


「え?」


 そんなこと考えたこともなかった。私がもしも卒業後も自由だったら、どんな選択肢も自分で選ぶことができるとしたら……。私は兄のようになりたくてこの学園に入った。兄の迷宮探索の話を聞いて憧れたからだ。兄は卒業後には迷宮探索者になった後、最終的には父の跡を継いで政治家になるのだと言っていた。だが私は政治家には憧れはない。つまり私がなりたいのは、迷宮探索者なのだ。だからもしも卒業後に選ぶことができるのだとしたら、


「なりたいです。私はなれるものならプロの迷宮探索者になりたいです」


 私は自分の気持ちに正直に、まっすぐ答えた。


「ふむ。だとしたら億本君。九条さんが女性ながらもA組の級長を務めることに問題はないのではないかな?」


「ですが、実際には……」


「実際にプロ探索者になることはできなくても、九条さんはプロになる人と同じ気持ちでこの学園にいるのです。その覚悟さえあれば、私は問題がないと思いますよ」


 京極先生が私の事を認めてくれた。

 私の心の迷いに、少しだけ安堵が訪れる。

 そんな京極先生の言葉を聞いた億本さんは、不承不承受け入れてくれたようだ。


 これで丸く収まった。私はホームルームが終わったと思ってほっとしていたら、京極先生は言葉を続けた。


「それでは次の項目です。D組と仲良くしている。九条さん、これはいただけませんね」


 京極先生の表情が急に変わった。

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