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東京ダンジョン学園  作者: 叢咲ほのを
第五章 希望の光 -Dawn of Hope-
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第72話 A組の混乱

億本(おくもと)!貴様、今日の探索中にヒカル様を見て舌打ちしていただろう!」


 1年A組の教室に、如月メイの怒声が響いた。

 副級長・億本ダイキの机に、ドン!と手が落ちる。教室中の視線が一斉に集まった。

 億本は一瞬だけ目を見開き——すぐに口元を吊り上げる。


「……ああ、見たな。君らのパーティーがスライム相手に手こずってるところを。特に九条さんだ。何度も攻撃してやっと倒す……見ててイラついたのは事実だが、それがどうした?」


「どうした、だと?ヒカル様を馬鹿にするのもいい加減にしろ!」


 メイの声はさらに鋭くなる。

 億本は肩をすくめ、鼻で笑った。


「スライムごときに苦戦するのは、学年で彼女だけだ。D組にもいない。そんな弱い奴がA組の級長? 恥ずかしいとは思わないのか」


「ああ?」


 メイの瞳がぎらりと光る。

 しかし、小柄な体から放たれるその視線は、億本の余裕を崩せない。

 最近の億本は堂々とヒカル批判をするようになってきていた。メイにとってそれは看過できるものではない。

 二人の緊迫に割って入ったのは望月アキヒロだった。


「ふ、二人ともやめなよ。喧嘩は良くないよ」


「喧嘩?一方的に如月が絡んできてるだけだ」


 億本は涼しい顔だ。

 対してメイの方は、拳を握りしめ今にも飛びかかりそうだ。


「お、億本君も言いすぎだよ。九条さんのこと、そんなふうに……」


「はっ。助けられたからって、そっち側の派閥につくのか望月?……後悔するなよ」


 億本の声が低く落ちる。

 望月は思わず息を呑んだ。数日前、第一階層主に挑んで失敗し、九条とメイに救われた記憶が脳裏をよぎる。


「——派閥がどうとか、不毛なことはやめなさい」


 その時、教室の入口から声がした。

 九条ヒカルが帰ってきたのだ。

 ヒカルの顔を見たメイは、はっとして我に返る。


「ヒカル様、お騒がせしてすいません」


「いいのよメイ。一体何があったの?」


「それは……」


 言いよどむメイの代わりに、億本が説明を始める。


「二人は君のことが大好きすぎて、君がみんなからバカにされているのが許せないらしいよ」


「みんなだと?ヒカル様をバカにしているのはおまえだけだろう!」


 億本に対し、再び怒るメイ。

 そんなメイに億本は語る。


「みんな口には出さないけど同じさ。だから僕が代表してはっきりと言ってあげるよ。九条さん、君には級長の座は重い。僕が代わってあげるよ」


「はあ?!」


 億本の暴言に、メイの怒りは止まらない。

 そんなメイをヒカルがたしなめる。


「落ち着きなさいメイ。億本さん、私は特に重荷には感じていないわ。そしてあなたに級長を譲るつもりもないわ」


 あくまで冷静に淡々と答えるヒカル。しかし億本はそんなヒカルの態度も気に入らなかった。


「なんでスライムごときにてこずるあなたがそんなに堂々とできるんだ?どういう神経してるんだ?なあみんな!みんなだってそう思ってるだろう?」


 億本は振り返り、クラス全体にそう問いかける。だがA組の生徒たちは気まずそうに視線をずらすのだった。


「やれやれ。みんなは君の家、九条公爵家に気を遣って、はっきり言えないようだ」


「何を言っている億本。みんなおまえみたいなことは考えていない。ヒカル様も何か言い返してやってください」


 メイにそう言われ、ヒカルは少し考えてから答えた。


「億本さん。あなたが級長を務めたい気持ちも分かったわ。どちらにせよ期末試験の結果で二学期の級長が決まるわ。そこであなたの実力を示したら良いのではないかしら?」


「期末試験では迷宮探索の能力も評価されるのだから、僕が級長になるのは決まっている。僕が気に入らないのは、入学試験における学力試験と体力試験の結果だけで、今君が級長を務めていることなんだ。首席と名乗るのも恥ずかしくないのかい?そもそも女性が級長というのがおかしい。どうせ君たちは卒業後に探索者になるつもりなんてないんだろう。どうなんだ?」


「それは……」


 億本の問いにヒカルは戸惑う。優勢になったと知るや、億本は笑みを浮かべながらさらに問い詰める。


「聞いているぞ。君は卒業後は結婚が決まっているらしいな?最初からプロの探索者になるつもりはないのだろう?そんな人間と真剣に探索をしている僕たちと一緒にしてもらいたくないな」


「きさま!ヒカル様の気持ちも知らずに!」


 メイが億本の襟元を掴む。そんなメイをすぐにヒカルが止める。


「やめなさいメイ!……そうよ。私は卒業してすぐに結婚が決まっているわ。だからこそこの三年間は私の好きなようにさせてもらう約束をしているの。私だって本気よ」


 そう言って億本を見るヒカルの瞳は真剣だった。


「ふん、どうかな。聞いたけど、君はD組の生徒たちと仲が良いらしいじゃないか?A組で相手にされないから、落ちこぼれのD組の方が気が合うんじゃないのか?それに第二剣術部に通っているとか?フフフ、おおかた君の実力では第一剣術部に入部を断られたのだろうけどね」


「違うわ。第一剣術部の勧誘を断ったのよ」


「はあ?なんで第一の勧誘を断って第二に行くんだ?」


「強くなるためよ」


「バカじゃないのか?第二なんてお遊びでやってる部活動だぞ?真剣にやるなら第一しかないだろう?やはり君は学園に遊びに来てるんだな?」


 そんな風に二人が言い争っていた時、教室に担任が入ってきた。


「おーい。九条さん、億本君、そろそろホームルームを始めますよ」


「あ、ハイ!」


「すいません!」


 二人は慌てて自分の席へと着く。そして周りの生徒たちもそれぞれ自分の座席へ戻って着席をした。

 A組担任の京極ハルヒコは教壇に立つと、教室を見回す。


「うーん、なんだか微妙な雰囲気ですね……」


 そう言ってヒカルや億本の顔を見る。


「す、すいません」


 思わず謝罪する億本。


「謝らなくてもいいんですよ。先ほどまで二人は何やら言い争っていたみたいですが、しっかり和解してからの方がよさそうですね。それじゃあちょっとホームルームの前に、皆さんで話し合いをしましょうか……」


 京極の急な提案に、億本もヒカルも驚いた。

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