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東京ダンジョン学園  作者: 叢咲ほのを
第四章 内なる力の目覚め -Awakening Within-
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第66話 モンスターハウス

「いや、あそこは危険だ。俺たちなんかよりも先輩の探索者がピンチになっていたんだ」


 イオリがレベルアップのためにゴブリン多発エリアに行きたがったが、俺はそれを止めた。

 先週の出来事を思い出したからだ。ゴブリンの集団と戦っていたパーティーの中の一人がひどい怪我をしていたし、助けに行った俺も怪我をしてしまった。この三人を危険な目に会わせたくはない。


「その人たちとイオリって、どっちが強そうなの?」


「それは……圧倒的にイオリの方が強いな……」


 あのパーティーはゴブリンを倒すのに苦戦していた。だがイオリがゴブリンごときで苦戦するのは想像しづらい。というか先週助けに行った俺より今のイオリの方が圧倒的に強いだろう。

 だからと言ってユノとイオリまで危険な目に会わせて良いと思えず、俺は簡単に行こうとは言えない。

 すると今度はイオリが俺に聞いてきた。


「シロウは今、何階層まで進んでいるんだ?」


「今は第四階層だな……」


「シロウはレベルが上がるのが早いようだが、どうやってそんなに早くレベルを上げているんだ?」


「それは……俺の場合は推奨レベルよりも一つ下の階層の探索をして多くの経験値を得てるからだと思う」


「それは危険なことじゃないのか?」


「うっ……」


 あまり問い詰められたくないことを、イオリがズバリを言ってくる。


「そりゃあ、危険には危険さ。だけどここまでなら大丈夫っていうラインを引いて戦ってるんだ。だから俺の心配はいらない。それにある程度の危険を乗り越えないと簡単にレベルアップはしないからな」


「なるほど。それじゃあ今から私たちが行く場所も、シロウが危険だと判断した瞬間に撤退するということでどうだろうか?」


「え?」


「正直、私にとってゴブリンと一対一の戦いは、ただの作業でしかない。せっかく四人でパーティーを組んでいるのに連携を見せるチャンスもない。こんなことではいずれレベルが上がったとしても、パーティーとしての成長はしないと思うんだ」


 確かにイオリの言う通りだ。俺はただの臨時メンバーだが、イオリに取ってユノとマイカは普段から一緒に迷宮を探索している正規メンバーだ。三人での連携をして成長したいという気持ちも分かる。


「しかしユノとマイカの実力じゃあ……」


 俺はまだOKを出せない。


「私たちがピンチになったらシロウが助けてよ!」


「お願いします……」


「うっ……」


 ユノとマイカからそう言われてしまうと、俺も困ってしまう。


「分かった。それじゃあ行くだけ言ってみるか?少しでも危険だと思ったらすぐに撤退するぞ」


 俺の言葉を聞いて、イオリがニコリとほほ笑む。ユノとマイカも無邪気な笑顔を浮かべた。

 うーん……心配だなあ……。


 そうして俺は、先週の激戦の地へと再び向かった。

 狭い通路を抜けて広い空間に出る。そこがゴブリンの多発地帯と思われる空間だ。

 既に遠目で三体のゴブリンが目視できた。


「やっぱりいるな」


 俺と同時にゴブリンを見つけたイオリは、黙って目を輝かせていた。


「待て、最初にこれからの連携を伝えておく。前衛は俺とイオリ。基本的に二人でゴブリンと戦う。後衛にはユノとマイカ。マイカは余裕があったら後ろから魔法で援護してくれ。そして万が一誰かが怪我をしたら、ユノ、お前の出番だ」


「任せて!」


 三人は俺の説明に頷く。

 そして俺たちはゴブリンに向かって歩き出した。


 俺たちに気付いたゴブリンたちはいっせいにとびかかってきた。俺は左側のゴブリンに狙いを定める。両手で持った木刀を構えると、ゴブリンの脳天を割るような一撃を食らわせ、一撃で倒した。そしてすぐに二匹目のゴブリンを倒そうと視線を右側に移すと、すでにイオリが二匹とも倒した後だった。


「早……」


 そう呟いた俺の方を見て、イオリはにやりと笑った。

 三匹だけだろうかと俺は周囲を見回す。すると少し離れた岩壁から一匹のゴブリンがこちらへとゆっくりと歩いてきていた。イオリがそちらに向かおうとするが、一旦それを止める。


「待て、他にもいそうな気がする」


 そう言ってさらに周囲を確認する。すると奥の方からさらに数匹のゴブリンが姿を現した。


「ここで迎え撃つぞ」


「おう!」


 イオリが勇ましい相槌を打つ。

 すると、さらに奥から数匹のゴブリンが。

 やはりここはモンスターハウス、魔物が次々と湧いてくる部屋だ。

 ゆっくりと10匹を超えるゴブリンがこちらへ向かって集まってくる。

 あまりに数が多いので緊張してきた。これまで通りすべてのゴブリンを一撃で倒していけばさほど問題にはならないだろう。だが攻撃を外したりしてリズムを崩した時が怖い。

 俺は集中する。

 すると、先ほどまでの好戦的なゴブリンと違って、今回のやつらはゆっくり歩いてくるだけでなく、すぐに攻撃してこないで俺たちの様子を見ている。このままだとゴブリンはさらに数が増えてしまう。


「どうするシロウ?」


 イオリが俺に尋ねる。


「こちらから行こう」


 そうして俺たちは前へと踏み出した。

 同時にゴブリンたちも襲い掛かってくる。

 一匹、二匹、三匹、と、順番にゴブリンを倒す。すると遠くから増援のゴブリンの姿が視界に入る。一体何匹湧いて出てくるのだろうか?

 俺の焦りが出たのだろうか、次の攻撃はゴブリンが後ろに下がって交わした。それ以降ゴブリンが俺から距離を取ってなかなか間合いに入ってこない。俺の隣ではイオリがコツコツゴブリンを倒しているのだが。


「くっ!」


 俺は焦ってさらに踏み出してゴブリンに攻撃をしていく。射程内に入ったゴブリンには俺の攻撃が当たり、順番に倒していく。しかし……


「数が増えてるか?」


 俺たちを囲むゴブリンの数がだんだんと増えている気がする。

 もっと積極的に向かってくれば数を減らせるのだが。

 その時、後ろから悲鳴が聞こえた。


「きゃー!」


 ユノだ。振り返ると、後方のユノとマイカの後ろから二匹のゴブリンが襲い掛かろうとしていた。


「ユノ!」


 俺は思わず後方へ走り出していた。

 俺が下がった瞬間、周囲のゴブリンが一斉にイオリへと襲い掛かる。…しまった、俺の判断が遅れたせいだ!その気配を感じ、俺はミスをしたと思った。しかし、


「ここは任せろ!」


 力強くそう言うイオリの言葉を信じ、俺は再びユノ達の方へ走り出した。

 ユノとマイカは木刀でゴブリンに応戦している。

 俺はダッシュでそこへ向かうと、一匹のゴブリンに飛び蹴りを食らわせた。

 俺の蹴りを喰らって勢いよく吹き飛ぶゴブリン。


「大丈夫か?」


 そう聞きながら、俺はもう一匹を木刀で切り倒す。


「う、うん。大丈夫」


 そう言うマイカは、手の甲に引っかき傷がついていた。


「ゴブリンに引っかかれたのか?ユノ回復魔法を」


「う、うん。ヒール!」


 すぐにマイカの手のひらにユノの回復魔法がかけられる。キラキラ光った後、マイカの手の甲の傷は消えた。


「それよりもイオリちゃんが!」


 マイカに言われてハッとする。

 俺が振り向くとイオリがゴブリンの集団に取り囲まれている。


「くっ!マイカ、離れたゴブリンに攻撃を!」


「うん!」


 俺はマイカに指示を出すと、再びイオリの元へと駆けた。

 イオリの周りには10匹以上のゴブリンが取り囲んでいる。中央にいるイオリは日本刀を振り回して奮戦している。怪我はないだろうか?

 俺は外側のゴブリンを一匹ずつ倒してイオリに近寄っていく。

 そして俺の視界にイオリが入る。イオリの剣が一閃するたび、ゴブリンの咆哮が一つまた一つと上がり、そして静かになっていく。孤独な戦場で、彼女は舞うように敵を斬り伏せていた。流れるような斬撃で次々とゴブリンを切り倒していくのが見えた。


「あ」


 思わず見とれてしまったが、すぐに視線をゴブリンに移し、残るゴブリンを倒していく。

 そして俺たちは何とかゴブリンの集団をすべて倒したのだった。

 先ほどまでずっと聞こえていたゴブリンの呻き声がやみ、静寂が戻る。…しばしその場に立ち尽くす俺たち。張り詰めていた緊張の糸が、ゆっくりと、ほどけていく。


「はぁ……はぁ……」


「大丈夫かイオリ?」


「ああ」


「怪我はしてないか?」


「大丈夫だ……」


 さすがのイオリも疲れた顔をしていた。連戦による疲労で息が切れているのだ。


「イオリー!ケガはないー?」


 ユノとマイカが駆け寄ってくる。


「ああ……大丈夫だ」


「えい、ヒール!」


 大丈夫だというイオリに、念のためヒールを掛けるユノ。こうやって何度も治癒魔法をかけることができるユノの魔力もなかなかのものだ。


「あの……私、あまり魔法が当てられなくて、ごめんなさい……」


 マイカが謝ってくる。水魔法で援護してくれていたが、ほとんどゴブリンを倒せなかったことを謝罪しているのだが、


「いや、混戦していたから、俺たちに魔法が当たらないように慎重に攻撃してくれたんだろう?仲間に当たるのが一番怖いからな。マイカも良い動きをしてくれたよ」


 俺はマイカの援護が的確だったことを伝えると、マイカは恥ずかしそうに頷いた。


「うん……」


 そして呼吸が落ち着いてきたのか、イオリが聞いてきた。


「私たちはレベル3になっただろうか?」


「う、うん……そうだな、それじゃジェムを拾って数を数えてみようか?」


 拾ったジェムは合計33個。おそらくもう数匹倒せば三人ともレベル3に上がるだろう。俺がイオリに、たぶんまだレベル3には上がっていないと伝えると、


「まあ仕方ないな。それじゃ行こうか」


 さっきまで息を切らせていたとは思えないほど元気を取り戻してきているイオリがそう言った。


「じゃあそろそろ戻るか」


「違う。階層主の部屋だよ」


 そう言うイオリの目は本気だった。

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