第64話 イオリ無双
すでに俺たち四人で2回倒したことのある第一階層の階層主ヒュージスライムだが、もはや俺たちの敵ではなかった。
今回はイオリが一人で倒してしまい、俺の出番すらなかった。
というかイオリが持参した武器がすごかったのだ。
「これか?実は、もしもの時のためにと兄からもらったのだ。授業では逆に危ないからなるべく使わないようにと言われていたんだが、使うなら今日しかないと思って持ってきたんだ」
そう言ってイオリは日本刀を俺たちの前にかざした。
そう、日本刀だ。
そんなに高いものではないとのことだが、護身のために日本刀を妹にプレゼントする兄って、頭おかしくないか?
ともかく、何がすごいって、イオリがその日本刀を一振りしたところ、ヒュージスライムがその核ごと真っ二つになったのだ。斬撃って触れてないところまで伝わっていくんだね?
そんな衝撃の映像を見た後、俺たちは第二階層へと続く階段を降りて行った。
「さて、第二階層に来たわけだけど、ここからは出現する魔物の種類が一気に増える」
俺はユノ達に説明を始めた。
三人は、真剣に俺の話に耳を傾ける。
「この階層に出現するのは、爬虫類系の魔物だ。女子には苦手に感じる人もいるかもしれない」
「私、ちょっと苦手かも?」
おびえながらそう言ったのはマイカだ。
そんなマイカにユノが声をかける。
「えー?でもちょっと可愛くない?」
「そうかなあ?」
「いや、可愛いと思われても困るんだが。魔物は倒さなくちゃダメだからな。まあ説明ばかりしてても仕方ない。いろいろな魔物が出てくるから、出てきた魔物に対して対処していこう」
そうして俺たちは歩き出した。
フォーメーションは、自然と俺とイオリが前衛、ユノとマイカが後衛となった。
そういえばイオリだけがまだレベル1だ。でも一撃でヒュージスライムを倒すくらいだし、第二階層でも問題はないだろう。それにもうすぐレベル2に上がるはずだ。
そうして今日第二階層で初めて遭遇したのはビッグリザード。階層主であるジャイアントリザードよりも二回りくらい小さいだろうか。そうは言ってもなかなかの迫力だ。
「私が行ってもいいかな?」
イオリが俺の一歩前に出る。俺は了承し、イオリがこちらに突進してくるビッグリザードを迎え撃った。
イオリが日本刀を一閃する。刀の刃先が地を這うような軌道でビッグリザードの首の下を切り裂く。
急所を切られたビッグリザードは、一撃で死に、姿をジェムへと変えた。
あまりに鮮やかすぎるその一撃に、俺も言葉を失う。
「ん?何か感覚が……」
イオリが何か違和感を感じたようで、刀を軽く振って何かを確認している。
「私もレベル2に上がったかもしれない」
「えー?そんなに分かるものなの?」
自分がレベル2に上がったことに気付いたイオリに対し、ユノが驚きの声を上げた。
「ああ、力が湧いてくるような、感覚が研ぎ澄まされるような、そんな感じがしたんだ」
イオリがレベル2に上がった感覚を説明する。だがユノは不思議がる。
「私の時は、全然違いが分かんなかったんだけどな。マイカはどうだった?」
「私も、正直よく分かんなかった」
「そうか?私は全然違う感じがするんだが。シロウは?」
イオリに聞かれ、俺も答える。
「俺はレベル2に上がった時は怪我しててそれどころじゃなかったけど、レベル3に上がった時にゴブリンが一撃で倒せるようになったから、違うって分かったぞ」
「へえー」
ユノが驚く。そう。戦いではレベルアップすることで、魔物に与えるダメージは確実に増加する。俺がレベル2で初めてジャイアントトードと戦った時など、何回も何回も叩いてようやく倒したのだ。レベルが低いと魔物を倒すのに骨が折れるのだ。
……ん?
「どうしたシロウ?」
「いや、イオリは今、レベル1でビッグリザードを一撃で倒してなかったか?」
「そうだが……」
要するにレベル2の時の俺よりも、レベル1の時のイオリの方が攻撃力が高かったということだ。
今俺はレベル4でイオリはレベル2だ。もしかして現時点でもイオリの方が俺よりも強い?
「次に魔物が出たら、俺にやらせてくれるか?」
「ああ、お手本を見せてくれ!」
お手本というか……、確認したいだけなんだが。
次に遭遇したのがラージスラグ(おおなめくじ)だったのだが、何とか俺も一撃で倒すことができた。
まあ、俺とイオリの攻撃力にはそれほど差がないということだ。……ということにしておいてくれ。
「そ、それじゃあ次はユノとマイカも挑戦してみるか。見ての通り気持ち悪いが、そんなに危険な攻撃をしてくるような魔物じゃない。とにかく頑張って叩いて倒してみよう」
そしてまた少し歩いてようやく見つけたジャイアントトードを、マイカとユノが二人がかりで木刀で叩く。叩く。叩く。
何十回叩いただろうか。俺が叩いた回数を数えるのに疲れて止めて、少ししたところで、ジャイアントトードはジェムへと姿を変えた。
「はぁー、疲れたー」
「スライムと違って、大変だねえ」
ユノもマイカも、ずいぶんと疲れたようだ。
「まあとりあえず第二階層の魔物の硬さが分かってもらったなら、今後はこのパーティーの役割分担をしていこうか。ユノと俺が近接戦闘。マイカが魔法で遠距離攻撃。ユノが万が一の時の回復役だな」
と、俺が戦い方を提案したが、その後現れたジャイアントトードは、イオリが難なく一撃で倒してしまい、特に役割分担の必要もなく戦闘は終了してしまった。
「もの足りないな……」
「もの足りないと言われても、この階層の魔物はこれくらいの強さなんで……」
イオリが何か言いたそうにこちらを見ている。
俺はイオリが言いたいことを何となく察する。
「第二階層の階層主と戦うにはレベル3が推奨なんだけど……」
「シロウは第二階層主にはレベル3になってから挑戦したのか?」
「いや、俺はレベル2で……」
「じゃあ私たちも大丈夫じゃないか?シロウもいることだし」
「いやでも……」
そう言われて考える。今のイオリならたぶんジャイアントリザードより強い……うん、大丈夫だろう。
「あー……たぶん、俺がいなくても大丈夫なんじゃないかな?」
ということで俺たちは第二階層主の部屋に挑戦することにした。
順番待ちをしてやっと入れた第二階層主の部屋だったが、なんと階層主のジャイアントリザードすら、イオリは一撃で倒してしまった。
俺の想像をはるかに超えてきた。認めよう。イオリは明らかに俺よりも強い。




