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東京ダンジョン学園  作者: 叢咲ほのを
第四章 内なる力の目覚め -Awakening Within-
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第62話 第四階層

 俺は迷宮資料室でAI『メイリス』のおすすめしてもらったことに従って、毒消し2個と小型の盾『バックラー』を購入した。

 地味に痛い出費が続くな。

 魔物の糸を切るのには、先週買った短剣を使うつもりだ。

 しかしこんなに買い物をしてばかりで、俺の探索が黒字になる日はいつになるのだろうか?


 そうして準備のできた俺は迷宮の入り口へとやってきた。


「やあ、一ノ瀬君じゃないか)


「え?」


 突然声を掛けられ、俺はびっくりする。

 まさかこんなところで知り合い?と思いながら、振り返った。

 そこにいたのは、先週迷宮で知り合った、三宮という探索者だった。


「あ、三宮さん。こんにちは」


「あの後、僕らも無事にヒュージスライムを倒すことができたよ。君が倒すところを見たおかげで、僕たちの緊張もほぐれて怖がらずに攻撃できるようになったよ。ありがとう」


 そうだ、この人たちと一緒に第一階層主の部屋に入ったんだけど、俺がさっさと倒しちゃったもんだから、この人たちはもう一度階層主に挑戦し直すって言って別れたんだった。


「いえいえ、お礼を言われるようなことはしてないですよ」


「今日も探索かい?」


「あ、はい」


「良かったら一緒に第二階層探索しないか?いくら君でも第二階層をソロじゃきついんじゃないかい?」


「え?いや、俺は今日は第四階層なんで。それじゃ」


「え?」


 驚く三宮とその仲間を置いて、俺はさっさとポータルへと入っていく。

 入る時に後ろから「もうそんなに進んでるの?」という三宮の声が聞こえたが、気にしないようにした。


・・・・・・・・

 第四階層 森林階層。一週間ぶりに訪れたそこは、先週と同じ景色が広がっていた。

 湿った土のにおいと、濃密すぎる緑の空気が俺の鼻腔を満たす。どこからともなく、低い羽音のようなノイズが響いている。 一歩踏み出すごとに、靴の裏が微かに沈む感覚。三階層までの洞窟階層と違う景色に、若干の緊張を感じた。

 緊張して立ち止まっていても仕方がない。俺はゆっくりと歩き出した。

 進んでいくと魔物の気配だけでなく、そこかしこで行われている戦闘音も聞こえる。ここにも探索者は多くいるのだろう。人の気配に俺の緊張も少しほぐれてきていた。

 と、目の前に木陰からゆっくりと動き出してくる生き物の気配を察する。

 もぞもぞと這い出して来るそれは、巨大なイモムシだった。


「キャタピラーか……」


 写真を見てはいたものの、実際に動く実物を見るとまた違って感じる。

 一言で言うと気持ちが悪いのだ。

 ゴブリンを殺す時に感じた気持ち悪さとはまた違った気持ち悪さ。昆虫という生き物の気持ち悪さだ。

 そうは言っても逃げていては先に進めない。俺は木刀を強く握りしめた。


 全高は俺の膝よりも高く、全長は2m以上あるだろうか。そんなデカいイモムシがもぞもぞとこちらに這ってくる姿を見て、覚悟は決めたとはいえ腰が引ける。

 どういう攻撃をしてくるのか知らないが、好戦的なようで俺に向かって一直線に這ってくる。

 俺はキャタピラーの側面へと移動すると、木刀を振り下ろした。

 硬い表皮の下のぶにょっという柔らかい感触が木刀の衝撃を吸収する。

 俺の攻撃を確認したからだろうか、突然キャタピラーは背中から毒針を伸ばした。

 俺は慌てて距離を取る。

 あれに触れたらいけない。

 俺は方向転換するキャタピラーのさらに側面へ先回りし、攻撃しては離れるを繰り返す。毒針を出した瞬間は動かないようだ。毒針を引っ込める瞬間を狙って木刀の一撃を繰り出す。

 一方的に俺の攻撃を食らわせることを繰り返しているが、なかなか倒せない。昆虫の幼虫のような柔らかい体を想像していたが、魔物であるキャタピラーの表皮は意外と硬い。そしてもう一つは、レベル4以上推奨の第四階層を、俺はレベル3で探索しているということだ。若干の俺の力不足も否めない。

 だがこの調子なら数多く攻撃を繰り出せばなんとかなりそうだ。……と、俺が一瞬油断した瞬間だった。

 びゅっ!

 キャタピラーは口から液体を吐き出した。


「やばっ!」


 俺は慌てて半身をひねりそれを交わす。

 紙一重で交わしながら、片手で握る木刀でキャタピラーの顔面を思い切りぶん殴る。

 キャタピラーは再び棘を伸ばして硬直するので、俺はキャタピラーの側面へと移動した。


「危ねー!」


 先ほど予習した内容に、キャタピラーは強酸性の液体を吐き出すという情報があった。今のがそうだろう。正面に立たない方が良いと知っていたのに、油断していた。

 同時に予習しておいて良かったと、ほっとする。勢いだけできたら大けがするだけだっただろう。

 俺には早めに探索で黒字にするという目標があるのだ。怪我をしていたら怪我の治療で赤字が嵩む。怪我をしている場合じゃないのだ。

 攻撃を喰らい続けてキャタピラーの動きは鈍り、そのせいで俺の攻撃の手数が増える。

 そして最後の一撃を受けたキャタピラーは、唐突に姿が消滅してマジックジェムをドロップした。


「はぁ、はぁ、疲れた……。でもまあなんとかなりそうだな……」


 と戦闘が終わりほっとした瞬間。ブウウンという羽音が聞こえ、俺は慌てて臨戦態勢を取る。

 茂みの中から飛び出してきたのは、巨大なバッタだった。

 羽をはばたかせ、俺に向けて一直線に飛んでくる。俺はバックラーを構えてそれを受け止めた。

 ドン! 

 鈍い音を立てて衝突する。バッタの突進を受け止めて俺の体全体に衝撃が走る。幸いしっかりと受け止める姿勢で防御したため、大事には至らなかったが、不意打ちを喰らっていたら転倒したり怪我をするところだった。

 すぐに羽音に気付けて良かった。


「このやろう!」


 俺は木刀でバッタの脳天を叩く。

 バッタ(よく見ると見た目はトノサマバッタだ)は、今度はジャンプして突撃してきた。

 慌ててバックラーで叩くようにして避ける。まじかでその姿を見ると、体の表面にとげとげした毛が生えていた。

 俺は迷宮資料室で調べた知識を思い出す。

 こいつはニードルホッパーだ。

 キャタピラーと違って毒はないが、この棘が刺さるとめっちゃ痛いやつだ。さっきはバックラーで受けられて良かった。

 ニードルホッパーはキャタピラーほどしぶとくはなく、攻撃をかわしながら木刀で数発ぶん殴ったら倒すことができた。

 そうして倒した二体のマジックジェムを拾う。第四階層の探索は始まったばかりだ。

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