第61話 メイリス
第四階層に行く前に、まずは第四階層の情報を確認しなくてはいけない。
今日はユノたちと第二階層の探索をする予定だったので、なんの予備知識もなかったからだ。
そもそも学園で第四階層の探索を始めるのは二年生になってからだ。だから俺たち一年の教科書には第四階層の事は何も載っていない。
まあこれだけ大きな施設なのだから、どこかしら資料があるだろう。
俺は受付で聞いてみた。
「すいません」
「はい、なにか御用ですか?」
「先日第四階層まで行ったので、今日その続きの探索をする予定なんですけど、第四階層の事を調べる資料ってないですかね?」
「それでしたら、迷宮資料室をご利用ください。本館の9階が迷宮資料室となっておりまして、登録されている探索者ならば無料でご利用いただけます」
「そんな便利そうなところがあるんですか?」
「はい」
受付のお姉さんは笑顔で答えた。
俺は地下一階にある迷宮の入り口ではなく、エスカレーターに乗って9階へと向かった。
9階に着きエスカレーターから降りる。
雰囲気は完全に商業ビルかデパートなので、迷宮の入り口にあるビルであることを忘れてしまいそうだ。
すぐにこの階の受付らしきところがあり、そこにいたお姉さんに話しかける。
「すいません、迷宮資料室を利用したいんですが」
「いらっしゃいませ。ご利用は初めてですか?」
「はい」
「ご利用方法をご案内しましょうか?」
「お願いします」
「はい、こちらが迷宮資料室になります。奥にある書棚には迷宮に関する資料があります。どれを読んでもらっても構いませんが、室外への持ち出しは禁止されています。持ち出しは禁止ですが、ノートに書き写したり、写真撮影される分には構いませんので、ご自由にご利用ください」
「なるほど」
俺は部屋の中を覗きながら説明を聞く。
部屋の中央には机と椅子が並んでおり、その奥にある本棚にはぎっしりと本が並んでいた。
「室内では私語はなるべくお控えください。お話する際は大きな声を出さないように注意してください。電話などをご利用の際は、一度退出して室外でご利用してください」
その辺りは図書館と同じだな。
「ちなみに最近、新しいデバイスも導入されたんですよ。使い方、説明しましょうか?」
「あ、はい。お願いします!」
俺がそう答えると、お姉さんはタブレット端末を取り出した。
「こちらのタブレットには、迷宮探索者組合が開発した最新のAI『メイリス』がインストールされています。メイリスにはこちらの資料室にある資料の情報が学習されており、紙の資料を探す手間を省くだけでなく、あらゆる状況における対処法を一緒に考えたり、迷宮以外の話題についても人間と会話するような雰囲気で回答してくれたりできます」
「AIですか!いまどきですね!」
「はい。年配の探索者には、紙媒体の情報を重宝される方が多いのですが、若い方には電子データのご利用や、こういったAIの便利さも分かっていただけると思い、紹介させてもらいました)
「めっちゃ面白そうですね!」
俺は興味津々だ。
「はい。またAIに新しい情報を与えると学習しさらに賢くなっていくのですが、時に間違った情報を与えてそれを覚えてしまったり、AIの特徴として間違った回答をする場合もございますので、それだけはご注意ください」
「分かりました。そのタブレットを貸してもらえるんですか?」
「はい、どうぞ。退室の際にはご返却くださいね」
「分かりました」
「またメイリスは音声入力にも対応しているのですが、資料室は私語厳禁となっておりますので、文字入力のみのご利用をお願いします」
「これって、ここ以外では使えないんですか?」
「実はリリースされたばかりのダウンロードできるベータ版がございます。個人のタブレットやスマホなどのスマートデバイスでのご利用が可能ですよ」
「そうなんですね!それじゃ使ってみて気に入ったらダウンロードしてみますね」
「はい、ありがとうございます。また何かご質問がございましたら、お声がけくださいませ」
「はい、ありがとうございました」
俺は元気よくお礼を言うと、タブレットを持って資料室の開いている机へと座った。
俺はワクワクしながら電源を入れる。
そこにはシンプルなテキスト表記の画面に『はじめまして。私はメイリスです』と表示されていた。
『こんにちは。あなたはどんなことができますか?』
俺の入力した文章にメイリスが答える。
『私は迷宮探索用に特化されたAIです。迷宮探索者組合のデータベースを参照し、迷宮の情報をお答えしたり、あらゆる状況における解決法を一緒に考えるのが得意です。日常会話もできますよ』
おお!なんか感動。そして俺の今日確認したかった本題について質問する。
『俺は今日初めて第四階層の探索をする予定です。第四階層にはどんな魔物が出て、どんな準備が必要ですか?』
『初めての第四階層探索なのですね。新しい階層の探索はワクワクしますね。それと同時にそれまでと違う魔物や迷宮のギミックは気を付けなければいけません。
第四階層からは森林階層になり、出現する魔物も変わります。第四階層には昆虫型モンスターが登場します。
もっともよく遭遇するのはキャタピラーです。この魔物は動きは遅いのですが、気を付けなければならないことが三つあります。
一つ目は毒です。背中から毒の針を伸ばして攻撃してくる時があります。強い毒ではありませんが、毒を受けると体力が急激に奪われてしまいます。毒消しを忘れずに持参してください。
二つ目は強酸性の液を口から噴射してくることがあります。これはスライムとは比べ物にならないほど強い酸性で、目に入れば失明の危険があり、普通の布製の服であれば溶けてしまいます。キャタピラーの顔の正面近くに立たないこと、攻撃するときは横から攻撃し、万が一酸の攻撃を受けてしまったら、すぐにヒールジェムで治療しましょう。
そして三つめは、糸を吐き出して探索者を拘束して動けなくしてしまう攻撃をしてくることがあります。糸を切るには鋭いナイフ、火などが有効です。また糸は軽いため、体に巻き付く前に風魔法で吹き飛ばしてしまうやり方もあります。
他にも毒を持った魔物、糸を吐く魔物がいます。体当たりをしてくる魔物が多いです。
毒対策の毒消し、糸対策のライター、火魔法、または糸切りナイフ、体当たり対策の盾の準備をしておくことを推奨します』
めっちゃ長文で説明してくれた!
そしてこれはあれだ!第四階層は準備が必要だ!第三階層までは勢いで何とかなったけど、毒消しや糸対策の道具を揃えなきゃだめだ。特に俺みたいなソロは毒や糸による拘束を受けたら致命的だ。
探索する前に調べといてよかった。




