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東京ダンジョン学園  作者: 叢咲ほのを
第三章 剣と誇り -Sword and Pride-
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第57話 断罪

 医務室を出た俺はある場所へと向かっていた。

 頭に来た。真島にしろ灰島にしろもう我慢の限界だ。

 そっちが貴族の威光をかざすなら、こっちだって貴族を利用してやる。

 そうして俺は生徒会室へとやってきた。

 ドンドンと、ドアをノックする。

 そしてドアを開けようとしたタイミングで中からドアが開いた。


「何のようだ?」


「えっと……」


 この人は誰だっけ?


「私は生徒会副会長の山縣(やまがた)だ。君は?)


「一年D組の一ノ瀬です。生徒会長……九条さんはいますか?」


「カズマならいるが、何の用だ?アポはあるのか?私たちは今忙しい。急ぎでなければ来週出直してくれ」


「火急の要件です!」


 山縣を押し分けて入室しようとすると、慌てて止められた。


「待て待て!私たちは本当に今忙しいんだ。今週中に各部の予算を決めなければいけないんで、帳簿と格闘してるところなんだ。邪魔しないでくれ!」


「こっちこそ本当に急いでいるんです!会長と会わせてください!」


 入口で山縣と押し問答をしていると、中から声がした。


「山縣、誰が来たんだ?」


 俺は山縣の脇から部屋を覗いて声を掛ける。


「カズマさん!一ノ瀬っす!」


「一ノ瀬シロウか?なんの用だ?」


「カズマ、今は接客している暇はないはずだぞ!先週末だってお前、妹が危ないと言って途中で出て行っただろう!そのせいで余計に予算計上が遅れてるんだぞ!」


「彼はその妹の恩人なんだ、話だけでも聞かせてくれ。一ノ瀬、入れ」


「失礼します!」


 渋い顔をする山縣の横を通って俺は生徒会室に入った。


「まあ座れ」


「いえ、急いでいるのでこのまま。すいませんがカズマさん、今から俺と来てくれませんか?」


「おいちょっと待て!」


 俺の言葉を聞いて山縣が慌てて止める。忙しいと言っているのにカズマを連れて行くなと言いたいのだろう。

 カズマは俺に尋ねる。


「そんなに慌ててどうした?私に何の用だ?」


 俺はできるだけ簡潔に、事の顛末を話した。


「実は先ほどクラスメイトの紫村キョウヤが、B組の灰島とその手下に襲撃を受け、重傷を負いました。その直後同じくクラスメイトの赤石が救出し灰島とその仲間を倒したところ、灰島は二人に襲われたと虚偽の説明をして被害者ぶって騒ぎ、その姿を多くの人に目撃されました。紫村たちが違うと言っても、灰島は貴族としての威光をかざして紫村を退学させると言っています。その後騒ぎを聞きつけた俺たちのクラスの担任の真島が来たのですが、あいつは灰島の肩を持って、紫村を責めるんです。真島は信用できません。カズマさん、どうか助けてください」


 俺の説明を聞いて、カズマは難しい顔をする。


「君はその場面を見たのか?」


「いえ、俺がそこに行ったのは赤石が紫村を助け出した後です」


「君の話を聞くだけじゃ本当のことは分からないな。もしかしたら灰島君の言うことが本当かもしれないと思わないか?」


「それは絶対にないです。紫村は嘘をつくような奴じゃないです」


「紫村君は入学式で貴族に喧嘩を売った男だぞ?あの気性の荒い性格なら、先に手を出してもおかしくないんじゃないか?」


「いえ、それは絶対にないです。あいつは怒りっぽいけど、曲がったことが大嫌いだし、辛抱強い男です。……たぶん」


 話しながら俺は紫村のイメージで語ってると気づいてちょっと自信がなくなってきた。

 それを見抜いたのか、カズマは俺の顔を見てにやりと笑った。


「私はどちらか一方の味方をするつもりはない。それが例え妹を助けてくれた人間だとしてもだ」


「味方になってくれとは言いません。どうか公平な判断をしてほしいだけです」


 俺の話を聞いたカズマは、膝に両手をついて立ち上がった。


「山縣、後は任せた」


「カズマ!貴様金曜だって同じことを……!」


「行くぞ一ノ瀬!」


「はい!」


 そうして俺は強力な仲間を手に入れ、教育指導室へと向かった。


・・・・・・・・


 俺たちが教育指導室に入ると、真島は驚いて呆けた顔をしていた。


「九条さん……何をしにこんなところへ?」


「この一ノ瀬君から呼ばれましてね。ところでさっき、一ノ瀬君にも退学だと言っているのが聞こえたけど、聞き違いじゃないですよね?どういうことですか?」


「いえね、実はこいつらがさっき1-Bの灰島さんたちを襲って怪我をさせたんですが、一ノ瀬もそれに加担していたんですよ」


「そうなのか?」


 カズマは僕に聞く。


「んなわけないでしょ!俺が行った時には全部終わって人混みができてましたよ」


「だそうですけど?」


「いや、被害者の灰島さんから聞いてるんだ!お前たち三人に襲われたってな!」


「真島先生、その話ですが、一ノ瀬君が言うには襲ったのは灰島君の方で、そしてそこの赤石君が襲われている紫村君を助けたのだそうですよ」


「それは嘘だ!九条さん、そいつに騙されないでください!一ノ瀬!貴様いい加減なことを言いやがって!」


「ふむ。話を聞いているだけではどちらが本当か分からないな。灰島君は今どこに?」


「は、灰島さんは被害者ですので先に帰ってもらいました」


「帰ってもらった?話を詳しく聞かずに?」


「話はしっかりと聞いています。あとはこいつらの処罰を決めるだけで」


「処罰も何も、まだ事実が確認できてないでしょう?目撃者はいないんですか?」


「目撃者は灰島の仲間たちです。彼らも一緒に襲われました」


「それは目撃者じゃなくて当事者じゃないですか。灰島君が嘘をついていたとしたら、その仲間もそれに合わせるでしょう?つまり第三者の目撃者はいないのですね」


 そこで紫村が発言する。


「そうです。誰もいないところに連れていかれて、襲われました」


「嘘をつくんじゃない!」


「九条さん、本当です!そして赤石君は僕を助けてくれただけなんです!彼は悪くない、だから彼が退学にならないよう助けてください!」


 それを聞いた赤石もカズマへと懇願する。


「俺は確かに手を出した。それは認める。だが紫村は手を出していない、やられてただけなんだ。紫村が退学になるなんておかしい!」


「まあまあ二人とも落ち着きなさい。真島先生。退学とはどういうことですか?」


「いえ、あの、暴力事件を起こしたので、二人は退学になるしかないと思います」


「思います?なんだか二人からは退学が決定したかのような物言いだったんですが。紫村、真島先生から何と言われたんだ?」


「僕たちを退学にすると……」


「真島先生が君たちを退学にすると?」


 紫村は頷く。


「真島先生、あなたにそんな権限があるのですか?生徒を退学にするのであれば、職員会議で決定しなければいけないことですよね?しかも決定する前に生徒に宣告するなんてどういうつもりですか?」


「いえ、決してそんな……。そいつらは嘘をついているのです」


 真島は自分の意見を変えない。どうせこんなことだろうと思って、俺は城之内先生に紫村の診断書を書いてもらったのだ。


「紫村!診断書は?」


「あ、それはそこに……」


 紫村が指さした先には、破れた紙が床に散らばっていた。


「あっ、真島てめえ!破りやがったな!紫村、そいつに見せるために書いてもらったんじゃねえよ!」


「す……すまん」


 慌てて拾い集めてくしゃくしゃにする真島。

 とっさにカズマが制止する。


「真島先生!見せなさい!」


「これは、お見せするようなものじゃ……」


「見せろと言ってるんだ!」


「ひっ!」


 カズマの覇気に当てられ怯む真島。

 そしてカズマは歩み寄り、破れた診断書を奪い取った。

 しわを伸ばし黙々と読むカズマ。


「紫村君は頭にひどい傷を負ったみたいですね。それに体中に殴打された跡があったと」


「灰島君たちも必死で反撃したのでしょう。ですが彼らの方がよりひどい怪我をしていました」


「であればその診断書は?」


「いえ、大けがだったので、そんなもの書いてもらう暇はなくて……」


「後で城之内先生に聞いてみましょう。しかし、紫村君のこぶしには人を殴った跡はなかったと書いてありますが?」


「城之内先生が見逃したんでしょう?」


「そんなわけないでしょう?わざわざ拳の状態を確認して記しているんだから」


「それは……」


 もうだいたい察したのか、カズマは真島を断罪を始める。


「真島先生、あなた確か灰島男爵の推薦で学園に就職されたんでしたね」


「そ、それは今は関係ない……」


「関係大ありでしょう?灰島男爵のご子息をかばっているのですから」


「……」


 真島は何も言い返せない。


「そういえばあなた、最近勤務態度の悪さが問題になっていますよね?一ノ瀬君が怪我をした時に引率をさぼって上でコーヒーを飲んでいたとか?」


「あ、あれは怪我をする一ノ瀬が悪い!普通第一階層で大けがするやつなんていないんだ!」


「でも起きてしまった。その時のための引率ですよね?それだけじゃない、聞いていますよ。あなた今月放課後の迷宮の管理当番ですよね?でも一度も見てないとか?」


 初めて聞く話だったので、俺はカズマに尋ねる。


「何ですかその管理当番って?」


「放課後に迷宮に潜る生徒のために、入り口で誰が入ったか確認したり何かあった時に対応する当番なんだ、教師が毎月交代で担当しているんだが、今月は入り口に誰もいないという報告を聞いてね」


「え?そんな当番があったんですか?放課後、俺も何回か迷宮に入ったけど、一度も真島と会ってないですよ?」


「だそうですよ、真島先生」


「そ、それは……」


「あなた入学式で紫村君が問題を起こしたことや、一ノ瀬君が迷宮で怪我をしたことを愚痴っていたらしいですね?面倒をかける生徒はいらないとか?」


「そ、そんな話、誰に聞いたんですか?」


「いろいろな先生から聞いていますよ。真島先生は自分の責任も果たさずに、問題を生徒のせいにしてばかりいると」


「嘘だ!」


「はあ、もういいでしょう?今回の件は校長に報告しておきます。行くぞ紫村、赤石」


「あ、あの、俺たちは?」


「悪いことを何もしてないお前たちが退学になる理由などないだろう?帰るぞ」


 俺たちが部屋を出るとき、後ろを振り返ると、真島は焦点の合わない目でハハハと笑っていた。


・・・・・・・・


 教育指導室から退出し廊下を歩いていると、紫村がぽつりと呟いた。


「……ありがとう、九条さん。助かりました」


「礼などいらん。当然のことをしたまでだ。……真島先生の件だが、灰島男爵には私の父――九条公爵から正式に抗議を入れてもらおう。男爵の後ろ盾がなくなれば、彼はもうこの学園にいられなくなるだろうな」


 紫村は返す言葉が見つからなかったのか、黙り込んだ。

 そんな中、俺はついクスクスと笑ってしまった。


「何がおかしい? 恨みが晴らせてうれしいのか?」


「いや……その……九条公爵が苦情を……ククク……九条が……苦情を……クッ……!」


「……」


「……」


 紫村と九条が、そろってため息をついた。


「ふざけてる場合じゃないだろ……」


「まったくだ」


「す、すいません。でもちょっとツボっちゃって……」


 俺は肩を震わせながら謝った。すると二人も、ようやくほんの少しだけ笑ってくれた。


 ――その笑顔が、俺たちのちいさな勝利の証だった。

これにて第三章完結です。

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