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東京ダンジョン学園  作者: 叢咲ほのを
第三章 剣と誇り -Sword and Pride-
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第54話 事件

「シロウ!昨日はいつのまにいなくなったんだ?」


「悪い悪い!ちょっと疲れてたんで、先帰らせてもらったよ」


 火曜日の朝、俺は昨日こっそり逃げて帰ったことをイオリから責められていた。


「えー、何?何があったの?」


「何どころじゃないぜ、昨日はいろいろありまくりだったぜ」


「えー!聞きたい」


 そこにユノとマイカが絡んでくる。

 俺は何もしてないのだが、イオリの活躍を自慢気に語ってやった。

 第一剣術部で紫村が灰島にやられた後、イオリが灰島と二年生を倒したこと。第一剣術部主将とも戦って、残念ながら敗れたこと。そしてその後第二剣術部に行き、みんなで強くなるためにイオリの指導の下修行を始めたことをだ。


「そんな大げさに言われると恥ずかしいな」


「えー!見たかった!私も一緒に行けばよかった」


 マイカが残念そうにつぶやく。

 あ、そういえばこの三人が一緒にいるんで頼んでみよう。


「そういえばさ、ポーションを何個かほしいんで、また迷宮探索みんなで一緒に行ってくれないかな?マイカの水魔法があれば効率がよさそうだから」


「私はもちろん良いよ。シロウ君にお返ししたいし」


 マイカは水魔法が上手く使えるようになったことで俺に感謝してくれているみたいだ。

 そんな大したことをしたわけじゃないのに。


「私も役に立てるか分からないけどいいよ」


 ユノも了承してくれた。さすがは幼馴染。

 そしてイオリは、


「私も部活がない時なら大丈夫だ」


 と、答えた。


「あ、そういえば結局入部したの?」


「入部はしたのだが、なぜか私だけ講師としての入部となってしまった」


「ああ、それがいいかもしれない」


 はっきり言って第二剣術部とイオリは技のレベルが違い過ぎる。イオリが一方的に教えるだけになるだろう。イオリにとっては指導するだけなので、時間の無駄とも考えられる。


「昨日父と電話で話したのだが、人に教えることで自分の技術を再確認できて良いらしい。私が上手に教えることで、私自身のレベルアップに繋がると言われたんだ。だから講師としてもがんばってみるつもりだ」


 時間の無駄ではないらしい。しかし真面目だね。俺はどうもコツコツ練習をするのが苦手だ。もっと積極的に体を動かすなら楽しくて好きなんだけどなあ。


「紫村と千堂も正式に入部したよ。シロウはどうするんだ?」


「俺は止めておくよ」


「そうか。それじゃあ仮入部扱いにして、いつでも遊びに来てくれ」


「それなら良いよ」


 そんな他愛のない約束をして、その一日は始まった。

 穏やかなその雰囲気は昼に起きたある事件で覆されることになった。


・・・・・・・・


 昼休み、俺がいつもの席で飯を食おうと食堂から出ていこうとすると、紫村から声を掛けられた。


「あっ、一ノ瀬君!一緒に食べないか?」


 紫村は千堂と二人で昼飯を食べていた。


「いや、俺はいつも一人で食べてるんで。じゃ」


「そうか」


 なんか紫村が親しく話しかけてくる。あいつ俺の事友達と思ってないだろうか?不安になってきた。あいつと親しくしてるとトラブルに巻き込まれる。昨日だってそうだ。一緒に部活見学なんて行くんじゃなかったと今では後悔している。

 悪い奴じゃないが、少し距離感を持って付き合った方がいいだろう。

 そうして俺は今日も食堂のテラス席で、一人で昼食を食べたのだった。


 昼食を食べ終わり、食器を片付けに行こうとした時だった。

 食堂の外で何か騒がしい。

 あっちは建物の陰で、あまり人が集まるようなところじゃないはずだけど……。

 俺は食器を片付けると、気になるその場所へと向かった。


 食堂をもう一度出ると、なんだか人だかりができていた。野次馬根性丸出しで、人込みの向こうを覗く。

 するとそこには、喧嘩をしたと思われる生徒たちが騒いでいた。


 何人かが血を流しながら倒れていた。

 そして一人棒立ちでいる男……赤石だ。俺と席が隣の赤石テツヤ。

 そして倒れている男の中によく知る顔がいた。


「紫村?」


 紫村は頭から流血をしていた。

 大丈夫だろうか?そしてその他は知らない顔だ。

 野次馬をかき分け、俺は紫村たちのところへ近寄っていく。


「紫村!大丈夫か?どうした?赤石にやられたのか?」


「ち、違うんだ。僕はそこの灰島たちにやられて、赤石君は僕を助けてくれたんだ」


「そうなのか赤石?」


「ああ……、すまん」


「すまん?」


 すると倒れていた生徒の一人、その顔を見て俺は思い出した。昨日第一剣術部にいた性格の悪い男、1-Bの灰島だ。灰島がこちらを見て言った。


「おまえたち、ただで済むと思うなよ。父に言って、お前たち全員退学にしてやるからな」


「くっ……」


 紫村は歯を食いしばる。

 詳しいことがよくわからない。なんで加害者の灰島がそんなに偉そうで、被害者の紫村が悔しがっているんだ?悪いのは灰島じゃないのか?

 俺が混乱していると、誰かが呼びに行った教師が、人込みをかき分けてやってくる。


「何をしているお前たち!」


 って、俺たちの担任の真島じゃねえか。こいつのことあんまり好きじゃないんだよなあ。特にこういうトラブルの時、役に立たないんだよ。


「立て!とりあえずおまえたち、指導室へ来い!」


 いや、血を流してるのにそうじゃねえだろ!

 俺は怒りを抑え、真島に忠告する。


「先生、先に怪我をしている生徒は医務室で治療を受けさせてください」


「む?灰島さん、大丈夫ですか?医務室だ。手が空いている生徒は連れて行ってやれ!」


 こいつ……貴族の生徒には"さん"付けかよ。

 まあいい。


「紫村、立てるか?」


「あ、ああ……」


 俺は紫村に肩を貸し、一緒に医務室へと向かった。


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