第52話 第二剣術部
前回のあらすじ
紫村、千堂、イオリ、ヒカル、メイと、なぜか俺も一緒に第二剣術部に見学に行くことになった。
「こっちの方で合ってると思うんだが……」
千堂が、スマホで第二剣術部のパンフレットを確認しながら、俺たちを部室へと案内する。
だが俺たちはなぜか部室がある建屋ではなく、校舎へと戻ってきていた。
「あった。ここだ」
その教室には、確かに『第二剣術部』という表札が掛けられていた。
千堂が扉をノックしてから開ける。
「失礼します」
お辞儀をして千堂から順に部室へと入って行った。
その教室には、机と椅子が後ろへ片付けられており、数名の生徒が談笑していた。
なんだか空気感が第一と違い過ぎる。部室が狭いだけではない、雰囲気が緩すぎるのだ。
「はい、何か御用ですか?」
腰の低い生徒が俺たちを迎える。
千堂が要件を伝える。
「僕たちは第二剣術部の見学をさせてもらいに来ました」
「見学?入部希望なの?」
「はい、そうです」
「部長ー。入部希望者だって!」
部長と呼ばれた男が俺たちの方にやってくる。
「うわー、こんなにたくさん来てくれて、うれしいな。ようこそ第二剣術部へ。それじゃあ早速入部届を書いてよ」
見学に来ただけなのにいきなり入部届を書かせようとする部長に、紫村がストップをかける。
「すいません。入部する前に練習風景を見学させてもらえませんか?」
「え?見学だけしてどうするの?そんなの面白くもなんともないでしょ?」
「しかし、雰囲気もどんなことをするかも分からずに入部するのは早いと思いますので」
「あっそう?それじゃ風間ー。みんなに説明してやってよ 」
そうしてさっきの人がまた呼ばれる。
「あっ、はい。良いっすよ。と言っても何から説明したものか……。とりあえず僕は2年D組の風間シンイチです、よろしく。部長は3ーDの高山さん、副部長はあっちの人、3ーDの堂島さん。今年は君たちが初めての新入部員だよ」
「まだ入部すると決まったわけではありません」
「あっ、そうだったね。ごめんごめん。それじゃ君たちの自己紹介も聞かせてよ」
そう言われ紫村たちは順番に名前を名乗る。
「1ーDの紫村キョウヤです」
「あっ!君は知ってるよ。入学式でやらかした子だよね?」
紫村は学園の有名人らしい。
「1ーD千堂マモルです」
「1-D瀧川イオリです」
「あ、俺?1-D、一ノ瀬シロウです」
そして、
「1ーA、九条ヒカルですわ」
「えっ?1-A?えっ?九条?もしかして……」
「生徒会長の九条カズマは兄ですわ」
「えっ?!生徒会長の妹さんがなぜこんなところに?えっ?えっ?もしかしてそちらも?」
「はい。私は1ーA、如月メイです」
「なんで君たちA組がこんなところに?」
「部活動見学ですわ」
「そ、それは聞いたけど、こんなとこ、貴族の人が来るような場所じゃないですよ?」
「そうなのですか?」
「はい」
全力で肯定する風間。ネガティブな方向に自信満々だ。
「では、見学することも許されないのですか?」
「いや、許す許さないじゃなくて……」
「?」
首をかしげるヒカル。
「では見学してもよろしいのですか?」
「も、もちろんです!」
「良かったわねメイ」
「はい」
何なんだこの緩い感じ?俺はちょっと居づらくなってきた。
俺たちが名前を名乗り終わった頃、部員が練習を始めた。
「それじゃ始める?」
「あっ、それ俺の竹刀」
「あっ、ごめんごめん」
緩い、もう嫌だこの雰囲気。
そして素振りを始めるが見てて退屈だ。
そして俺以上に退屈な人もいた。
「全然ダメだな。見るところもない」
イオリだった。
ダメと言われ、第二剣術部の部員たちも少し不満そうな顔だ。
空気を読んだ風間が、険悪にならないよう優しく質問をする。
「な、何がダメなのかな?」
「そんな剣の振り方では力が入らないだろう」
「そ、そこまで言うなら見本を見せてもらってもいいかな?」
部員が苛立つのを心配しながら風間が気を遣ってそう言った。イオリはその提案を快諾する。
自ら持参した木刀を構える。
「こうだ。そしてこう振る」
実際にイオリが構えを見せた後、素振りを見せる。
第二剣術部の全ての部員が注目する。
イオリの素振りを見て、最初に感想を言ったのはヒカルだった。
「なるほど、全然違うわね」
「えっ?」
どうやら風間には違いが分からないらしい。かく言う俺も違うのは分かるが、具体的にどう違うのか聞かれても説明できない。とりあえずイオリの素振りはすごいことは分かる。
キョトンとする風間に対し、ヒカルが説明をする。
「あなたたちの素振りは腕力で刀を振り回してるだけですわ。対して瀧川さんの素振りは軸がぶれず、それでいて打ち込みの時に剣に体重が乗っているのが分かります。エネルギーの流れが目に見えるような美しい素振りですわ」
ヒカルの後ろでメイがうんうんと頷いている。
しかしさすがヒカルだ。説明を聞くとなるほどと思う。
「腕力で刀を振って何が悪いの?」
だかヒカルの説明を聞いても風間には理解できなかったらしい。そして風間の言葉に後ろの部員もうんうんと頷いている。何なんこいつら?
「腕の力で振り続けたらすぐに疲れてしまうでしょ?瀧川さんのような身体操作であれば、もっと力強い攻撃ができるだけでなく、スタミナが切れずずっと動き続けられますわ。正に迷宮探索者の理想だわ」
「なるほど」
紫村と千堂が同時につぶやく。二人にはその言葉が理解できたらしい。だが第二剣術部の面々には、まだ良くわからないという表情が浮いていた。
「よく分からないのであれば、一度瀧川さんと手合わせしてみたらどうでしょう?」
「ど、どうしますか部長?」
風間に言われて、部長の高山が前に出てくる。
「じゃ、じゃあちょっとお願いしちゃおうかな」
なんだか自信のなさそうな声だ。
そしてイオリもその提案を快諾する。
「私はヒカルのような言語化が苦手なので説明は上手くできないが、手合わせで良ければ承ろう」
さりげなくヒカルのことを呼び捨てにしているが、ヒカルも気にしてなさそうだから大丈夫だろう。俺ですら気を遣って呼び捨てにできないのに。
その後何度か高山と剣を交えながらイオリが説明をするが、何度やっても高山を圧倒するばかりでイオリの伝えたいことはなかなか理解してもらえなかった。
そして高山は悲鳴を上げる。
「もー!僕の代わりに部長やってよ!」
何なんこいつ?!




