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東京ダンジョン学園  作者: 叢咲ほのを
第三章 剣と誇り -Sword and Pride-
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第51話 模擬戦を終えて

前回のあらすじ

イオリが第一剣術部部長の磐座に負けた。

 俺はイオリの割れた面を外すのを手伝いながら、イオリの怪我がないか確認をする。


「本当に大丈夫か?首は痛めてないか?」


「心配をかけてすまない、シロウ。特に痛みはないが、念のため後でユノに治癒魔法をかけてもらうことにするよ」


「ああ、そうしよう」


 いくら強いと言ってもイオリは女性だ。女性に対しこんな思い切り攻撃をするなんて信じられない。


「瀧川さん、本来僕が戦う役目だったのに……すまない」


「僕からも謝罪させてくれ。申し訳なかった」


 紫村と千堂がイオリに謝罪する。

 そんな二人に対し、イオリは笑って答えた。


「謝らないでくれ。私は楽しかったぞ」


 その言葉を聞いて二人は顔を見合わせて驚いた顔をしていた。俺もびっくりして尋ねる。


「楽しかったのか?」


「ああ。父や兄とも違う強さだった。やはり世界は広いな」


 やはりこのイオリは戦闘狂なのだろう。

 その言葉を聞いて俺は笑ってしまった。


「フッ」


 少し落ち着いた雰囲気の俺たちの元に、まだ用がありそうな男が一人いた。

 ──まだいたのか、灰島。

 自慢の付与魔法突き木刀を手に持ち、こちらを睨んでいる。


「まだ何か用か?」


「D組のくせに調子に乗るなよ」


 先ほどイオリに蹴散らされたのを根に持っているのだろうか?それとも磐座からイオリが褒められたのが気に食わなかったのだろうか?いずれにせよこちらに向けている殺気が不快だ。

 俺はイオリと灰島の間を遮るように立つ。


「な、なんだ貴様……」


「もう模擬戦は終わった。俺たちは帰る。そこをどけ」


 睨む俺に対し、プルプルと震えながら睨み返す灰島。

 俺はもう争う気はない。灰島には立ち去ってもらえればそれでいいのだ。

 だが振り上げた敵意のやり場を失った灰島は、突然木刀を振り上げた。


「うるさい!」


 そして俺へと振り下ろした。

 バシッ!

 木刀に欠けられた、衝撃付与のエンチャントが作動した音が道場に鳴り響く。

 俺がその木刀を手で握り受け止めたからだ。


「な……素手で……」


 灰島は震える声で驚く。

 俺は痛みを感じる右手を強く握りしめると、灰島は動けない。


「もう一度言う。どけ!」


 灰島はへなへなと腰から崩れ落ちる。

 さすがにもう襲い掛かってはこないだろう。木刀を手放し、俺たちは道場を出て行った。


 ーーこの時の俺たちは、この灰島がのちにあんな事件を起こすなんて想像もしていなかった……。


・・・・・・・・


 防具を外し終え、更衣室から戻る瀧川を待ってから、俺たち四人は武道館を出て行った。


「まあ、あれだ。あんな部活入らなくて正解だったんじゃないか?」


 もともとは紫村と千堂が入部したくて見学に行った第一剣術部だった。想像はしていたがあまりにも強い敵意を持って迎えられたため、万が一紫村たちが入部できたとしても、まともな練習などさせてもらえなかっただろう。

 俺にそう言われた紫村は、少し考えた後に答える。


「ああ。今日は講師が来ていないようだったから、普段どんな練習をしているのかまだ気にはなるが、やはり僕たちには貴族たちと一緒に部活動をするのは無理があったようだ」


 俺は内心、そんなの最初からわかってただろう!と思いつつ、口に出すのは我慢した。

 貴族たちも無理だが、俺は紫村たちともウマが合わない。


「じゃ、そういうことで!」


 そう言って俺が立ち去ろうとすると、再び紫村が声をかけてきた。


「待って、一ノ瀬君」


「な、なんだよ?」


 何だか嫌な予感がする。


「第一剣術部は無理だったけど、第二剣術部へ見学へ行こう」


「今から?」


「もちろん」


「おまえ、第二剣術部は同好会みたいな集まりだから興味ないって言ってなかったか?」


「考えが変わったんだ。僕たちはまだ入学したばかりだ。無限の可能性がある。だから第二剣術部に入って強くなって、第一剣術部を倒すのもいいと思ったんだ」


「いや無理だろ!」


 いくら紫村ががんばっても、周りがやる気がなければだめだし、そもそもあの磐座には、最初から対人戦闘向きのスキルを持ってなかったら敵いっこない。努力では越えられない壁だってあると思い知らされたばかりだろう。

 俺が紫村に呆れていると、千堂が目を輝かせて言った。


「さすがはキョウヤだ。それは最高のアイデアだ。瀧川さんも一緒に行ってくれるかい?」


「ああ。それは構わないが……」


 千堂のやつ、イオリまで巻き込みやがって……。

 俺は断ろうとしたその時、俺たちが歩いている廊下に二人の人影があった。


「面白そうな話をしてるわね」


 九条ヒカルだった。


「お嬢、先に帰ったんじゃなかったのか?」


「あなたたちを待っていたのよ。それより面白そうなことを言っていたわね。第二剣術部に入って第一剣術部よりも強くなるとか。紫村さん、そんなこと本当に可能なの?」


 無理に決まってるでしょうが!と、やはり俺は心の中だけで突っ込む。声に出さないのは、俺が我慢しているからだ。


「もちろんさ」


 なぜか自信満々に答える紫村。こいつ夢ばかり見ていて、現実を見ないタイプだ。俺の苦手なタイプだ。俺がこいつが苦手なのは、こういうところなんだと再認識した。

 だがヒカルはそんな紫村の事を苦手ではないらしい。


「面白そうね。私たちも付いて行っていいかしら?」


「え?お嬢も第二剣術部に見に行くの?」


「そうよ。行くわよメイ」


「はい」


 歩き出す紫村、千堂、ヒカル、メイの四人の後姿を見ていると、イオリに背中を叩かれる。


「行くぞシロウ」


 いや、俺行くって言ってないんですけど?

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