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東京ダンジョン学園  作者: 叢咲ほのを
第一章 迷宮と少年たちのはじまり -The Beginning of Labyrinth and Youths-
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第5話 入学式

 その後HR内で入学式の段取りの説明があり、そして俺たちは会場となる講堂へと移動した。

 すでに教員と在校生たちは集合しており、主役となる俺たち新入生がAクラスより順番に入場してゆく。

 列の順番も教室と同じ成績順で、俺は一番最後の入場となる。

 あれ?Dクラスで一番最後っていうことは、実質学年で最も成績悪かったのって……?自分では普通だと思っていたのに……。


 全員が入場し終えたのを確認すると、檀上に上がった校長より挨拶が始まった。


「新入生の皆さん、入学おめでとうございます。この入学式の後、教室で皆さんに配られる学生証が迷宮探索者証を兼ねています。その学生証を受け取った瞬間から、皆さんは世間の人たちよりも三年早く迷宮探索者の仲間入りを果たす事になります。迷宮は危険な場所です。命を落とす人もいます。皆さんはまだ迷宮探索を始めるばかりの初心者ですから、特に危険です。ですから学園では皆さんをできるだけ安全に成長させるための教育プログラムを持って学んでもらいます。しつこいようですが、皆さん怪我に気を付けて、迷宮探索者として成長していってください」


 まあとにかく怪我には気をつけろという内容の話をした校長に続き、在学生代表、三年生生徒会長九条(くじょう)一馬(かずま)からの新入生への挨拶が始まる。

 朝掲示板の前で出会った人だ。彼が檀上に上がるとその存在感の大きさを感じる。なんというか迫力があるのだ。


「皆さん、入学おめでとう。我々は皆さんの入学を心から歓迎します。迷宮探索というものは、残念ながらみんなが思っているほど楽しいものではない。我々三年生の中にも、過酷な迷宮探索についてこられず学園を去っていった者も多い。迷宮探索をするということは手に入れたジェムやアイテムを売ることでお金を稼ぐことができるということだ。お金を稼ぐという意味では皆はいわゆる社会人と同じ立場に立つことになる。中学までの浮かれた学生気分を捨て、気を引き締めて学業、そして探索に打ち込んでもらいたいと思う」


 新入生は、皆真剣に彼の言葉に耳を傾けている。先ほどまで教室では和気あいあいとした雰囲気だったが、今はみな表情を改めていた。

 そして生徒会長は言葉を続ける。


「ところでこの後の新入生代表の挨拶だが……」


 生徒会長が神妙な面持ちになる。


「これまでこの学園が設立されてからずっと、入試総合主席となった皇族または貴族家の者が勤めてきたが、今年は一般市民である新入生が主席となった」


 それを聞いた会場がざわつく。

 俺たちDクラスは、先ほどのHRで紫村が新入生代表の挨拶をすると聞いていたが、おそらく二、三年生は聞いていなかったのだろう。ざわつき具合から、皆動揺しているのが伝わってくる。


「これまでの一般市民の誰よりも努力してきたのであろう、新入生主席の紫村キョウヤ君には賛辞を贈りたい。それと同時に中学まで一般市民より厳しい内容の教育を受けてきたはずの貴族子弟の者たちが、一般市民に負けたという事実を恥じてもらいたい」


 生徒会長の言葉に若干の怒気が籠る。

 その言葉を聞いた生徒たちはさらにざわつく。

 たぶん紫村君の成し遂げた一般市民による入試主席は前人未踏の偉業なのだろう。そして、それをよく思わない者たちが多くいるのだ。


「君たちが卒業するまでには、これから三年ある。三年間の努力の中で、みんなの成績順も変わってくることだろう。君たちの学年の卒業式での挨拶は、貴族の誰かがしてくれるものと信じている。これからの学園生活をがんばってくれたまえ」


 そう言って生徒会長は挨拶を終える。

 こういう挨拶って、もっと無難なことを言って終わりじゃないのか?こうもハッキリと貴族と庶民の違いを知らしめつつ、庶民に対して敵意を剥き出しにされるとは思わなかった。俺も驚きを隠せない。

 生徒会長が舞台袖に下がると、司会をしていた教師も少し慌てたような口調で進行を続ける。


「そ、それでは、次に新入生を代表して、本年度入学試験総合主席、紫村キョウヤ君からの挨拶です。紫村君、檀上へ」


 俺たちの並ぶDクラスの列の一番前にいた紫村が、名前を呼ばれ檀上へと移動しようとしたその時だった。


「ブーブー!」


 驚き声のする方を見る紫村。誰ともなく始まったブーイングは、次第に周囲の貴族たちに広まり講堂にこだました。中には帰れと罵声を浴びせる者もいる。


「静かに!騒ぐのをやめなさい!」


 教師たちが慌てて注意するが、紫村に対するブーイングは止まらない。

 あっけにとられて立ち止まっていた紫村に、生徒会長が静かに近寄っていく。


「この中では話しにくいだろう。騒ぎが収まるまで少し待っていろ」


 だが紫村は生徒会長をにらみつけてこう答えた。


「あんたの仕業だろう!正々堂々と勝負して負けたらこういうやり方をするのか!俺はこんな卑怯なやつらには負けない!」


 その返事に驚く生徒会長をしり目に、鳴り響くブーイングの中、紫村は檀上へと上がった。


「静かにしろ!」


 紫村の第一声に一瞬静寂が訪れるが、すぐに再び騒ぎ出す。

 ブーブーという声から、次第に帰れ庶民だの貧乏人だのというののしり声が混じる。


「貴族というのはずいぶんと品がないんだな!レベルの高い学園だと聞いていたが、この程度か!」


「紫村君、上級生をあおるのは止めなさい!」


 司会の教師が制止するが、紫村は会場の左右に広がる上級生ににらみつけるのをやめない。


「僕は今日から卒業まで、このまま学年主席を取り続ける。そして僕が将来世界一の迷宮探索者になったら、日本の貴族制度を廃止させる。君たちが大きな顔をしていられるのはそう長くないと思え!」


 もはや新入生代表の挨拶ではなくなっていた。紫村の貴族たちへの宣戦布告だ。

 紫村の宣言に、罵声だけでなく笑い声も聞こえる。そんなことできるはずがないと、バカにした笑い声だ。

 大惨事だ。もしかして紫村に挨拶を代わろうと言った九条ヒカルはこれを見越して言ったのか?

 貴族であり生徒会長の妹である九条ヒカルが挨拶をしたのであれば、こんなことにはならなかったはずだ。

 言いたいことだけ言って満足した紫村はさっさと檀上を降りて行った。

 本来これで入学式は終わりのはずだが、騒ぎが収まらないため、教師たちが騒ぐ生徒たちを制止するのに必死でどう終わるのかわからない。一年生だけでもさっさと退場させてほしい。


 すると、すでに在校生代表の挨拶は終わったはずの生徒会長が再び檀上に上がっていった。生徒たちは何が起きるのかと、そんな檀上の生徒会長に注目し、騒がしさが徐々に収まっていっく。


「静粛に」


 生徒会長のその一言で、先ほどまで収拾のつかなかった騒ぎ声が完全に沈黙に変わった。


「紫村キョウヤ。世界一になって日本を変える。良いじゃないか。私たちはまだ十代。可能性の塊だ。あれは無理、これも無理、そんな風に思っていたら自分で自分の可能性をつぶしてしまう。みんなどんな夢を持ったっていいんだ」


 驚いた。貴族である生徒会長が庶民の紫村をほめるだなんて。

 だが生徒会長の言葉はそこで終わらなかった。


「だが発言には責任が伴う。紫村、君の夢を叶えるにはかなり苦難が待ち受けているだろう。せいぜいがんばりたまえ。そして先ほどまで彼に罵声を浴びせていた諸君。君たちはそんなことをするよりも、君たちなりに優秀な力を見せつけ、そして実力で紫村のような優秀な一般市民を超えてゆけばいい。そのために残された学生生活を有意義に切磋琢磨していきたまえ。以上だ!」


 演説を終えた生徒会長に、どこからともなく拍手が起こる。それは連鎖し講堂は生徒会長をたたえる歓声に包まれた。

 先ほどまで紫村が主役だったが、最後は全てを生徒会長に持っていかれた。

 なんだこれ?新入生が主役であるはずの入学式は、なぜか生徒会長を讃える式典として終わった。

 もしかして最初から彼のシナリオ通りだったのではと思わせるほどだ。


「そ、それでは本年度の入学式をこれにて終了します。新入生退場」


 慌てて担任が俺のところへ来て、クラスの退場を先導する。


 それにしてもなんなんだこの学園は?

 俺は迷宮探索がしたいだけなんだ。

 面倒臭い貴族と庶民の確執とかやめてほしい。

 とにかくこういうやつら、特に紫村とか生徒会長とかには関わり合いにならないようにしようと、俺は心に誓うのであった。


 こうして、波乱の入学式は幕を閉じた。

 そして――学園の、迷宮探索者としての始まりの三年間が、静かに幕を開けたのだった。

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