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東京ダンジョン学園  作者: 叢咲ほのを
第三章 剣と誇り -Sword and Pride-
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第48話 模擬戦 -2-

前回のあらすじ

イオリと剣術部二年生が戦うらしい……

「いや、危ないって!相手はレベル4なんだぞ!」


 イオリも試合用の防具に着替えて更衣室から出てきた。だがイオリと剣術部二年生が戦う事になる流れで、周りが何も言わないので、俺が止めた。

 イオリは未だレベル1、対する二年はレベル4.この差は大きい。

 俺は迷宮探索で一つレベル上がるごとの変化を感じてきた。明らかに攻撃力が上がり、魔物に与えるダメージが増えた。身をかわすスピードも速くなったし、体力が増して疲れにくくなったのも感じている。それだけレベルが上がることの恩恵は大きいのだ。

 そして同時にレベルが違う者との闘いは恐ろしい。ましてやイオリは女性だ。女性にしては背も高く力も強いのだろうけれど、相手は屈強な男、しかも一つ年上。フィジカルで完全に負けているのに、レベルまで三つも差が開いている。危険だ。俺が代わりに戦うしかないだろう。


「いや、大丈夫だ」


 イオリは軽く答える。そして、他の誰も止める気配がない。

 そして実力のありそうなメイまでもイオリの後押しをする。


「一ノ瀬、何を心配することがある?瀧川はおそらく私たちの中でも一番の強者だぞ」


「それは俺よりも強いってこと?」


「当たり前だ。お前のメチャクチャな剣と違って、瀧川の剣はしっかりとした剣術だ」


「でもレベルが……」


 とにかくレベル差を心配していた俺に、イオリが尋ねてくる。


「シロウ、レベルが上がると何が変わるのだ?」


「そりゃあ何もかもさ。力も強くなるしスピードも上がる。体も丈夫になるし頭の回転も早くなる。一つくらいのレベル差なら気合いでなんとかなるかもしれないが、三つ差はまずい」


「持っている技術も変わるのか?」


「技術……?いや、上がるのは肉体的なことと頭の回転で……」


「なら私の剣術と相手の剣術の勝負となれば、レベル差は関係ないな」


「えっ?いやそんな簡単な話じゃ……」


 実際どうなんだろう?確かにレベルアップで技術力が上がることはないと思う。器用さは上がると思うが。

 俺がイオリを止めていたら、しびれを切らしたのは灰島だった。


「やるのかやらないのかどっちなんだ!怖気づいたなら謝って出ていけ!」


 うるせえなこいつ……。

 灰島はイオリに食って掛かる。例の付与魔法がかかった木刀をイオリに突き付けてバカにしたような言葉を浴びせてくる。


「そもそもD組の女なんかに八戸先輩が出るまでもないですよ。さっきと同じように僕が瞬殺……」


 灰島が話している途中で、突然灰島の木刀がはじけ飛ばされた。

 カランと道場の床を跳ねる木刀。


「退け」


 イオリがそう言って灰島を押しのける。

 見えなかった。イオリの早すぎる一撃が灰島の剣を弾き飛ばしたのだ。

 灰島は驚き動くこともできない。


 先ほど灰島にやられて苦しんでいた紫村が、瀧川に声をかける。


「瀧川さん、恥ずかしいが、仇を取ってくれ」


「もちろんだ!」


 そうして道場の真ん中で、剣術部二年とイオリが向き合った。

 だが今の剣を見た今、ついに俺にも理解ができた。瀧川は強い、おそらくレベル3の俺よりも。もしかしてイオリならレベル4とも互角の戦いができるのかもしれない。

 もうこうなったら二人の戦いを止める者はいなかった。


 イオリと向かい合って立つ二年生が声をかける。


「貴様の名は?」


「一年D組、瀧川イオリ」


「二年B組、八戸はちのへヘイジだ。貴様も多少は剣の腕に覚えがあるようだが、残念だったな。俺には通用しない。驚くなよ、俺は北斗天元流を習っている」


「……そうか」


「東北地方に伝わる、荒くれ武士の必殺剣だ。貴様も聞いたことがあるだろう」


「……すまん」


「な……?」


 よくわからないが、この八戸とかいう二年生、なんか習っている剣術の流派があるようだ。

 悪いけど俺も良く知らない。有名なのか?

 ちょっと気まずい雰囲気になった後、八戸は気を取り直して場外の俺たちの方を見る。


「ゴホン。では、この試合で私が買ったら、九条さん、あなたは第一剣術部に入部してくれるということでよろしいですね」


「ええ、いいわよ」


 イオリとしては、卑怯な手段で負けた紫村の敵討ちなのだが、なぜか九条ヒカルの入部を賭けた代理戦争の役もかっていた。

 ヒカルの入部するしないはどうでもいいし、紫村の敵討ちももうどうでもいい。俺はイオリに怪我をしてほしくない気持ちだけを強く感じていた。

 そんな人それぞれの思惑が交差しながら、ついに瀧川イオリ対剣術部二年八戸ヘイジの模擬戦が始まろうとしていた。


 審判役の部員が声をかける。


「それでは双方準備はよろしいか?」


 イオリと八戸が頷く。


「はじめっ!」


 試合開始の掛け声とともに、二人は前に出る。双方の射程距離に近づいた瞬間、二人同時に剣を振り下ろした。

 剣と剣がぶつかるつばぜり合いになったら、イオリが圧倒的不利だ。

 そう俺が思った瞬間、なぜか二人の木刀は衝突せず、ふわっと軌道を変化したイオリの木刀は、するっと八戸の木刀をすりぬけ、八戸の首筋へとあてがわれていた。


 八戸の額に冷や汗が流れる。

 イオリはゆっくりと木刀を横へとスライドさせる。

 その間、八戸は動くことができなかった。

 真剣であれば、八戸は首を切られ、殺されていた。


 道場に静寂に包まれた。

 

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