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東京ダンジョン学園  作者: 叢咲ほのを
第三章 剣と誇り -Sword and Pride-
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第46話 なんで入部できないんですか?

前回のあらすじ

紫村と千堂が第一剣術部への入部を断られた。

 先に異論を唱えたのは千堂の方だった。

 メガネをくいっと上げながら、剣術部員に抗議をする。


「ダメ?なぜ僕たちが入部を希望したらダメなのですか?学園の規則にも、第一剣術部の規則にも目を通しましたが、第一剣術部に貴族以外の入部を禁止するという内容の規則はどこにもありませんでした。ですから僕たちが入部してもいいはずです」


 千堂と紫村がどや顔で剣術部員を見つめる。

 ねちねちした千堂の言い方にムカついたのか、二人のそのどや顔にムカついたのか、剣術部員は怒りの形相で答えた。


「そういう事を言ってるんじゃない!おまえらに入部する資格がないと言っているんだ!」


「ですからその理由を聞かせてください。まさか一般庶民だからだと言うわけじゃないですよね?それでは理由になっていませんよ」


 千堂の顔が喜々としている。こいつ性格悪そうだなあ。

 そして剣術部員はさらに怒鳴りつけた。


「庶民のくせにこの誇り高き第一剣術部に入部しようなどと、何を考えているのだ!貴様ら庶民は第二剣術部に行けばよかろう!」


「ですから、なぜそうなのですか?庶民が第一剣術部に入部できず第二剣術部にしか入部できないというなら理由を教えてください」


「貴様あ!生意気だぞ!」


「生意気?それはそうかもしれませんが、それでは私の質問に対する回答になっていません。あなたの方こそ言っていることに筋が通っていませんよ?」


 どう言っても納得しようとしない千堂に対し、剣術部員は少し沈黙し、冷静になると説明を始めた。


「……規則には確かに書かれていない。しかし第一剣術部は代々、名家の子息たちが鍛錬の場としてきた部活だ。庶民が加われば、部の伝統と品位が崩れる!」


 千堂はちょっと口元に笑みを浮かべながら答えた。


「なるほど……“品位が崩れる”と。つまり、第一剣術部における“強さ”とは、剣の腕前ではなく、生まれのことなのですね?」


「ふざけるな!貴様ら一年ごときが強さを語るなど笑止千万!この俺と戦って勝ってからにしてもらおう!」


「僕たちが先輩に勝てるわけがないではないですか。先輩はレベルいくつですか?レベル4以上ですよね?レベル4の二年生がレベル1の新入生に勝てるのは当たり前じゃないんですか?」


 今にも喧嘩が始まってしまいそうな雰囲気だ。止めた方がいいだろうか?

 同じ貴族なんだから止めてくれないか?という期待も含めて、俺は九条ヒカルの方を見る。

 だが彼女もこのいざこざの顛末がどうなるのか、腕を組んで見守っていた。止める気はないらしい。

 どうしてもヤバくなったらすぐに止めに入ろうと思いながらも、俺も彼女に習って千堂を見守ることにした。


 剣術部員はため息を吐いて言った。


「じゃあどうすればお前は納得すると言うのだ?お前が何と言おうが、第一剣術部への入部は認められん」


 千堂は今だとばかりに、自らの要望を伝えた。


「あなたが第一剣術部員が剣の腕前が優れた者だけが入部できるというのなら、僕たちより先に入部している一年生はあなたも認める実力ということになる。ならば同じレベルの僕たちと、その新入部員が戦って、僕たちが勝ったなら入部を認めてください」


「ああ?」


 おそらくこれまでの会話は、全て千堂の狙い通りだったのだろう。

 最初から、先に入部している新入部員と戦わせろ、勝ったら入部を認めろと言うつもりだったのだ。

 入部したばかりの新入部員の強さなど、たかが知れている。

 しかし今の話の流れでは、対戦を断れば第一剣術部が逃げたように捉えられるし、対戦に千堂が勝てば入部を断れないはずだ。

 この二年の部員は、千堂の作戦に負けたのだ。怒らずに無視してあしらえばよかったのに、千堂の煽りに対して怒った時点で負けていたのだ。


 千堂の提案に、剣術部員はしばらく黙っていたが、ついにその重い口を開いた。


「いいだろう。もし貴様が勝ったら入部を認めてやろう。その代わり、もし負けたら今までの失言を土下座して詫びろ」


 まさか本当に自分の要求が通るとは思っていなかったのか、千堂の顔に喜びの表情が浮かぶ。

 そして千堂は答える。


「いいでしょう。ですが戦うのは僕ではなく、キョウヤが戦います」


「はあ?」


 今まで部員と交渉をしていた千堂に代わり、紫村キョウヤが一歩前に出る。


「僕の事も入部を認めてくれないんですよね?だとしたらどっちが戦っても同じですよね」


 これも千堂の作戦だったのだろう。一年首席の紫村の事は知られているはずだ。いきなり紫村が出ていたら試合を断られる可能性もあったため、千堂が交渉し、最後に紫村が出てきたのだ。主席として同じ一年には絶対に負けない自信と共に。

 紫村が今まで黙っていたのは、あらかじめ千堂からこの作戦を聞いていたからだろう。

 部員は忌々しそうに紫村の顔を睨む。

 その時、一人の別の部員が声をかけてきた。


「貴様の事は知ってるぞ。入学式に貴族全員に喧嘩を売ったやつだよな」


 その部員は細い目で紫村を睨みながら近寄ってきた。


「先輩、そんな下賤の民の相手をしてやる時間がもったいないですよ」


「灰島……」


 灰島と呼ばれた新入部員が一歩前に出る。


「僕が代わりにやりましょう。この程度の庶民、僕がちゃちゃっと叩きのめしてやりますよ。少しくらい痛い目にあえば大人しく帰るでしょう」


 不敵に笑う灰島の顔は、明らかに見下しきっている。


「まったく、育ちの悪い連中は声だけは大きいから困りますよね。お仕置きしてあげるのが、貴族の務めってやつでしょうか」


「分かった、灰島。おまえがこいつに現実を思い知らせてやれ!」


「はい!」


「お前たちの要望は聞いてやろう。防具も貸してやるから、更衣室で着替えてこい!灰島、貴様も自分の装備を整えてこい」


 こうして、紫村と千堂の第一剣術部入部をかけた戦いが行われることとなった。

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