第44話 バレたっぽい
月曜日の朝。
昨日ホブゴブリンにやられたところが痛む。昨日風呂に入る時に確認したら、やはり青あざになっていた。肋骨の当たりを触るとひどく痛む。ヒビが入っているかもしれない。
ポーションを使うのはもったいないので、後で医務室に行って城之内先生に治してもらおうか、それともユノに治してもらおうか、なんてことを考えながら教室へと入る。
扉を開けると、なんだかクラスメイトたちから見られていた。なんだか注目されている気がする。いや、自意識過剰か?
俺は黙って教室の一番後ろの自分の席へと着席した。
「一ノ瀬君!」
座った俺のところにやってきたのは、紫村キョウヤだ。
「おはよう」
「あ、ああ。おはよう!」
紫村とセットの千堂マモルもいるのは分かるとして、なぜかクラスメイト達が俺を囲うように集まりだした。
「何なんだ?」
取り囲まれたことに対する少しの恐怖心と、みんなの中心になることに慣れていない陰キャな俺の戸惑いで混乱を覚える。
集まっている人間を代表して紫村が俺に話しかけてくる。
「大変だったらしいね」
「え……何が?」
土曜日にゴブリンに囲まれて大立ち回りしたこと?昨日第三階層主のホブゴブリンを倒したこと?でも何でそれそ知ってるんだ?
俺は混乱して言葉が出ない。
「隠さなくても良いじゃないか。聞いたよ、金曜日にA組の生徒を助けるために、ヒュージスライムと戦ったんだってね」
「あ、ああ……そっちね」
土日が濃すぎて、金曜日の事など遠い過去の話になっていた。
「そっち?それ以外になんの話があるんだい?」
紫村が突っ込んでくる。面倒くさいからごまかそう。
「いや、何もないよ、ハハハ……」
とりあえず笑ってごまかしてみる。
「早坂さんに聞いたよ。まだ入学したばかりだというのに君はもうレベル2になっていたんだってね。だからヒュージスライムも簡単に倒したとか」
「あ、ああ。今は3だけどね……」
「え?」
「あっ……」
紫村の驚く顔を見て、口を滑らせたことに気づく。
たぶんまだ入学したばかりなのにレベル3っていうのは、やらかしてる。
俺は全力でごまかすことにした。
「あ、いや、すぐに3になってみせるって話。レベル2なんて通過点だぜ!ハハハ……」
「そうか……。すごい向上心だよ。首席で入学した僕は卒業するまでずっと学年のトップでいるつもりだったけれど、君に抜かれてしまったみたいだ。でもすぐに追いついてみせるよ!」
「は……ハハハ……。お互いがんばろうぜ」
どうも俺は紫村が苦手だ。真面目過ぎてやりづらい。
紫村との話に区切りがつくと、今度は他のクラスメイトから質問攻めにあった。ヒュージスライムはどうだったとか、A組の生徒は感謝したのか?とか。まあ適当に答えつつ、早く解放してくんねえかなあと内心面倒くさい。
その時、別の生徒が教室に入ってくると、俺の周りの生徒たちがざわつきだし、そちらに視線が集中した。
誰が来たんだ?俺だけ椅子に座っているので、入ってきた生徒が見えない。
さっきまでうるさかった奴らが沈黙したせいで、急に教室が静かになった。
いや、本当に誰が来たんだ?
俺は人込みの隙間から、入ってきた生徒を見る。
「あっ、マイカじゃん」
マイカは俺の方に歩いてきて、俺に挨拶をした。
「あ、あの、シロウ君、おはよう」
「おう、おはよう!」
「また痩せた?」
「う、うん。土日で一気に痩せちゃったみたい……」
「そっか!良かったな」
魔力堆積症による肥満を治すため、木・金と一緒に迷宮で魔法を使いまくったマイカ。
その成果が出て、一気にダイエットに成功をしたらしい。特にあご回りやウエストが別人のように細くなっていた。
「ええ!百田さんなの?」
遅れて周りの生徒たちが騒ぎ出す。
「めちゃめちゃ可愛くなっちゃったじゃん!どこかのアイドルが転校してきたのかと思ったよ」
「そ、そんなことないよ……」
「そんなことあるよー!なんでいきなりそんなに痩せちゃったの?」
「そ、それは……」
今度はマイカの周りにクラスメイト達が集まりだし、質問攻めをし始める。
週末の間にここまで変わってしまえば、何も知らない人からしたら確かに驚きだろう。
マイカの周りがとても賑やかだ。
そして、俺の周りにはだれもいなくなった。
……別に寂しくなんかないよ。
「そうだ、一ノ瀬君」
「へっ?」
声をかけられ俺はビックリする。クラスから完全に忘れ去られたかと思っていたら、紫村がまだ俺に言いたいことがあったらしい。
「今日一緒に部活動見学に行かないか?」




