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東京ダンジョン学園  作者: 叢咲ほのを
第二章 独り立ちの週末 -A Weekend of Independence-
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第39話 ゴブリンとの連戦

 第一ゴブリンさんと遭遇後、俺は第二ゴブリンさんを探し歩いていた。

 だが二体目のゴブリンと出会う前に、俺は通りすがりの他の探索者と遭遇したのだった。

 俺と違いしっかりとした革鎧を装備した三人組だ。俺は会釈をして通り過ぎようとした。その時、


「おい、君」


 三人組の一人が俺に声をかけてきた。

 あまり人と関わりあいたくないソロ探索者の俺。第一階層の階層主の部屋の時もそうだったけど、面倒くさいなあと思いつつ振り返る。


「何ですか?」


 面倒くさいなあという感情は表に出さない。心は大人だからだ。


「君は一人かい?」


「そうですけど」


「大丈夫かい?ソロということは腕に自信があるからなのだろうけれど、この階層に出るゴブリンは群れることがある。そういう時に一人だと危険だよ」


「まあ、その辺は上手くやります」


 それじゃ、と言って立ち去ろうとする俺に、彼はさらに声をかけてくる。


「待ちなさい。若い時は大人の忠告が面倒くさいと思うかもしれないが、聞いてくれ。二階層は一人でも大丈夫だったかもしれないが、ここは一人じゃ本当に危ないんだ。いったん帰ってパーティーを組んでから出直した方がいい。何なら僕たちと一緒に……」


「大丈夫です。危ないと思ったら逃げますんで」


「……そうか。どうしても一人で探索を続ける気かい?」


「ええ、まあ……」


「分かった。それじゃあ危ないと思ったら、大声で助けを呼ぶんだよ。僕たちが近くにいたら駆けつけるし、他のパーティーの人が助けに来てくれるかもしれない。本当に気を付けて」


「はい。ありがとうございます」


 俺はそう言って頭を下げると、彼らと別れた。

 なんというか……、いい人なんだろうけど、おせっかいなんだよなあ。

 まあそこが日本らしいというか。

 それに悪い探索者もいると聞くし、できるだけ知らない探索者とはかかわらないようにしていきたい。

 決して俺がコミュ力がないからではない。


 そんなことがありつつ、俺はこの日二匹目のゴブリンさんと遭遇するのだった。


 今度は前回と違って、お互い同時に視界に入った。ゴブリンはすぐに戦闘態勢だ。

 俺も木刀を正眼に構える

 恐ろしい顔で襲い掛かってくるゴブリン、だが二度目の戦闘のため、前回ほどの恐怖心は感じない。

 初めての戦いで分かったのは、頭蓋骨は固く脳天を狙うのは効果的ではないということだ。急所を狙いたい。

 俺はゴブリンの喉に向けて突きを放った。

 小さい的に的中させるのは困難かと思われたが、運良く的確にゴブリンの喉元に俺の木刀が突き刺さる。


「グエエエエ!」


 倒れて苦しむゴブリンにとどめを刺すため、首を狙って木刀を振り下ろす。


 二回目のゴブリン戦となる今回は冷静に戦うことができた。おそらくレベル3になればもっと力任せに戦えばいいのだろうけれど、レベル2の俺が戦うために必要なのは、弱点を的確に狙う事だと思った。

 喉や首、目やみぞおちなど、ピンポイントで攻撃が当たれば割と簡単に無力化できる。逆にそれを外してしまった時にゴブリンに死に物狂いでつかみかかられたりしたら怖いと思った。

 落ち着いて戦っていこう。


 二戦目の反省を終えると再び歩き出す。

 次に出会った三匹目のゴブリンには、蹴りも使いながら倒した。だんだんゴブリンとの戦いにも慣れてきた気がする。

 そしてその次に俺はついに出会ってしまった、二匹組のゴブリンと。


 俺は息をひそめる。

 まだこちらの姿は見つかっていない。

 どうする?撤退するのもありだ。レベル3になるまでは単体のゴブリンとだけ戦うなら、今の調子でいける。

 だけどゴブリンに見つかって逃げられない時は結局戦わなければいけない。だとしたら3体と戦うよりも2体と戦っておいた方がいいだろう。

 やるか!


 そうは言っても無鉄砲に向かっていく気にはなれない。できれば奇襲をしかけたい。

 迂闊に歩いていくと最初の時のように足跡で見つかってしまう。

 俺は壁沿いに体を潜ませ、チャンスをうかがう。

 キョロキョロとあたりを見回しながら二匹のゴブリンはこちらへと歩いてくる。攻撃を仕掛けるとしたら、俺の攻撃が届く範囲に入った瞬間だ。俺は再び木刀を強く握った。

 俺はふと思いつく。しゃがみ込み足元の小石を拾う。そして一匹が俺の攻撃できる距離に来た時に、俺はその小石をゴブリンたちの向こう側に投げた。

 何かが頭上を越えていくのに気付いたゴブリンは、それが後ろにカツンと落ちるのを目で追う。

 その瞬間、俺に対して背中を見せた。


 今だ!


 俺は飛び出し、近くにいたゴブリンの後頭部を思い切り攻撃する。


「ギャッ!」


 悲鳴を上げ転倒する一匹のゴブリン。もう一匹は何が起きたか分からず振り返ってこちらの状況を確認する。

 俺はその間にさらに踏み出し、立っているゴブリンの喉元に木刀で突きをくらわす。


「グエエ!」


 激痛で後方に倒れるゴブリン。

 いいぞ。何だか思ったように体が動く。やはりレベル2でも1の時より段違いで体が動くのだと感じる。

 先に転倒させたゴブリンにとどめを刺すと、もう一匹を見る。そちらもまだ激痛でのたうち回っていた。

 スイカ割りのように、地面に寝転ぶゴブリンの首の骨を折ると、二匹目も難なく倒すことができた。

 今の感覚で行くと、レベル3に上がって急所を狙えばゴブリンを一撃で倒せるかもしれない。

 無事に二匹のゴブリンを倒した俺は、さらに自信をつけるのだった。


「これでゴブリン5匹目。目標まであと5匹……」


 今日中にレベル3にアップする可能性が見えてきた。


「ふぅ。今なら3体でもなんとか……」


「誰かー!」


 俺がワクワクしているところに、突然悲鳴が響く。俺は耳を澄ます。


「助けてくれー!」


 誰かがピンチになっているのだ。

 これまで自分のペースで戦ってきた俺だったが、アクシデントに遭遇してしまった時に対処できる自信はない。俺はまだレベル2なのだから。

 だからこの悲鳴を無視することもできた。そちらの方が賢明だろう。助ける義理などないのだ、迷宮探索者という仕事は自己責任なのだから。


 と頭の中で考えながらも、もし今見捨てたとして、今日の事をこの先思い出すことがあったら、それはきっと俺の中の何かを壊す気がした。

 俺は悲鳴のする方へ走り出していた。

 危険な目にあっている人を見捨てることができなかったから。


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