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東京ダンジョン学園  作者: 叢咲ほのを
第二章 独り立ちの週末 -A Weekend of Independence-
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第34話 都会の迷宮 -Urban Labyrinth-

 土曜日の朝。俺は荷物をまとめて寮を出ていた。

 探索服などを入れたリュックと木刀袋を背負い、俺は電車に乗る。

 目指すは新宿駅だ。


 ダンジョン学園の最寄り駅から新宿駅までは快速電車でおよそ30分。距離は遠いが電車を使えば比較的行きやすい場所だ。俺が目指しているのは、新宿駅から出て徒歩で15分程度のところにある地下迷宮、通称新宿ダンジョンだ。

 新宿駅に降り立った俺は、人の多さに飲まれる。土曜だと言うのに仕事なのかスーツ姿のサラリーマン、休日遊びに来ているおしゃれした若者、そして俺と同じ目的地であろういかにも探索者風の人たち。様々な人たちと一緒に出口へと歩く、都会の駅は出口がたくさんあるみたいで、俺の目的地は南口だ。頭上の看板を見ながら俺は歩く。田舎者の俺にはすでにこの駅がダンジョンだぜ……。

 新宿駅ダンジョンではモンスターと遭遇することなく、無事に駅を出て空が見えた時、俺はほっとした。

 だが目の前にある広い道路と今いる歩道を左右に大勢の人が歩いている中立ち尽くし、どちらに歩いてゆけばいいのか分からない俺は地図を見るためスマホを取り出した。


 地図アプリにナビゲートしてもらいながら、俺は目的地へと辿り着く。こんな都会のど真ん中にある新宿ダンジョンの入り口には、立派なビルが建てられていた。

 少々緊張しながら入口の階段を登り、ロビーへと入っていく。迷宮探索などという泥臭い仕事とはとてもかけ離れているように感じるほどその建物は綺麗で、より一層俺の緊張感は高まっていった。


 受付の列に並びながら、俺は手のひらに汗をかいていた。

 登録がうまくいかなかったらどうしよう――とか、誰かに『あれ、学生じゃね?』って言われたらどうしよう――とか、くだらない妄想ばかり浮かんでくる。

 だけど、いざ目の前にいた受付のお姉さんが優しく微笑んでくれて、ちょっとだけ肩の力が抜けた。


「すいません」


 俺は受付で声をかける。


「はい。本日はどのようなご用件ですか?」


 受付の制服を着た綺麗なお姉さんは、俺にそう答えた。俺は今日の要件を説明する。


「今日初めてここのダンジョンの探索をするんですが……」


「はい。新規登録ですね。探索者証はお持ちですか?」


「はい」


 俺はテーブルの上に探索者証を差し出す。

 受付のお姉さんはそれを受け取り、手元の機械に刺して登録の手続きをしてくれた。


「お若いようですけど、お年はいくつですか?」


「あ、はい。15歳です」


「15歳?ダンジョン学園の生徒さんですか?」


「そうです」


「お休みの日にも探索だなんて、がんばりますね。でも無理したらダメですよ」


「はい」


 受付のお姉さんは、俺の緊張を和らげるように笑ってくれた。

 少し明るめのブラウンの髪に、柔らかい声。こんな綺麗な人が、命がけの仕事に関わってるんだと思うと、なんだか不思議な感じがする。

 俺の登録が終わると探索者証を返してもらい、俺はそれをしまう。


「それではその探索者証を掲示してもらえれば、今後この新宿ダンジョンへの入場ができます。パーティーメンバーの募集やアイテムの募集などはあちらの掲示板へどうぞ。掲示板の右下にあるQRコードを読み取れば、スマホでも確認ができますのでご登録ください」


 その後、この施設の説明などを聞き俺は受付を後にする。

 当然パーティを組むつもりはなく、俺はソロでこの迷宮にもぐるつもりだ。授業ではいろいろと制約があるが、ここにはそんなものは何もない(注:多少はあります)

 更衣室で探索服に着替え、荷物をコインロッカーに入れる。

 木刀を片手に迷宮の入り口へと歩いてゆくと、この迷宮に潜る他の探索者たちを見て、学園との違いを感じていた。

 まず、俺の学園から支給された探索服はダサい。

 学園の探索服はグレーのツナギに蛍光ラインが入ったやつで、見た目は完全に工事現場の作業着だ。

 ズボンの裾はマジックテープで締めるタイプで、シャツの袖口も同じくバリバリ音がする。

 デザインの欠片もない。動きやすいのは認めるけど、やっぱり気分が上がらない。


 それに比べこの大都会東京のど真ん中の新宿ダンジョンへもぐる探索者の人たちが来ている服は、なんというかスタイリッシュだ。機能性だけでなくデザインもかっこいいのだ。

 なんだか周りの探索者から、俺の服装を笑われているような気がしてきた。

 そんな時、俺の目の前を甲冑を着た戦士と、魔法使いと思われる杖を持った女性が歩いてゆく。まさにゲームから出てきたような装備だ。俺たちのような学生とは違う、高レベルの探索者なのだろう。かっこいい……。

 そういえば学園でも自分で用意した探索服を着ている生徒もいる。俺も早くお金を貯めて、かっこいい探索者服をそろえようと心に誓った。


 装備チェックも済ませ、いよいよ迷宮の入り口に立つ。

 たった一人で階段を下りていくのは、今までにない孤独だった。

 でも、それが逆にいい。誰にも頼らず、自分の力だけでやれるって証明できる気がする。

 迷宮の仕組みは学園のダンジョンと変わらないようで、迷宮に入ってすぐのホールの中央にはスキルボードがそびえ立っていた。別に今のステータスを確認する必要もない俺はそれをスルーして、第一階層へと続く階段を降りてゆくのだった。


 ダンジョン学園の外での探索は、これが初めてだ。

 しかも先生も仲間もいないソロ探索。一人で敵と向き合うなんて、ぶっちゃけ怖くないと言ったら嘘になる。

 だけど――それ以上にワクワクしている自分がいるのも、また事実だった。


 俺がこの週末に、わざわざ新宿まで出てきた理由はただ一つ。学園ではまだ探索してはいけないと言われた第二階層に挑むためだ。

 それじゃ行くぜ!レッツエンジョイ第二階層!

 ただし、このダンジョンは初めてなので第一階層の踏破からだけれど。

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