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東京ダンジョン学園  作者: 叢咲ほのを
第一章 迷宮と少年たちのはじまり -The Beginning of Labyrinth and Youths-
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第33話 木刀で何が悪い

 ヒュージスライムを倒した俺たちは、助け出した九条ヒカル、如月メイと一緒に迷宮の入り口へと引き返していた。

 階層主であるヒュージスライムを倒した後に出現した第二階層へと続く階段に俺は興味津々だったが、学校の許可を得る前に勝手に第二階層に行くわけにもいかず、後ろ髪を引かれながらも階層主の部屋を後にした。

 帰り道でユノは持ち前のコミュ力を全開にし、九条ヒカル、如月メイと仲良くおしゃべりをしている。すげえなと横目で見ながらも、俺は黙って歩いた。


「へえ、じゃあその望月って人が悪いんだね」


「そうなのだ」


「メイ!早坂さんも、あまり望月さんを責めないであげて」


「ヒカル様は優しすぎます」


「本当だねえ」


 ユノはお嬢様たちが階層主の部屋に入ったいきさつを聞いていた。それを俺たちも横で聞いていて、なんとなく何があったかを察した。

 今日もヒュージスライムと戦えたイオリは満足げで、平和なマイカもニコニコしている。

 まあみんな元気で戻れるのなら、特に問題ない……と、俺は思っていた。


「それにしても皆さんD組なのですよね?」


「そうだよ」


「みなさんとても優秀でびっくりしましたわ。早坂さんの治癒魔法も素晴らしかったですし、百田さんが水魔法をあんなにたくさん使えるのもびっくりしましたし、瀧川さんと一ノ瀬さんの戦いも見とれてしまいましたわ」


「それほどでもあるよ」


 ヒカルの言葉に謙遜しないユノ。

 そこは”それほどでもない”だろう?なんだよ”それほどでもある”って……


「A組も負けていられませんわ。メイ、私たちも早坂さんたちに負けないようにがんばりましょうね」


「はい。ヒカル様」


 二人は俺たちの戦い方を見て、闘志を燃やしていた。


「それにしてもヒカルさんって、貴族なのに話しやすいね」


「そう感じてもらえて私もうれしいですわ。私の父が庶民派ですから、私も父の影響を受けていると思いますわ」


「庶民派?」


「ええ。貴族院には、貴族第一主義の貴族派と呼ばれる人たちと、父のように庶民の意見にも耳を傾けるべきだと言う庶民派の議員がいるのですわ」


「もしかしてヒカルさんのお父さんって、議員さんなの?」


「ええ。そうですわ」


 お嬢様の言葉に、なんかやっぱり住む世界が違うなあと耳を傾けながら、俺たちは迷宮を出た。迷宮を出てすぐの入り口のロビーに着いた俺たちを待っていたのは、ヒカルたちに助けを呼びに戻った望月とかいう生徒と、ヒカルたちを助けに行こうとしていた教師たちだった。


「ヒカルさん!」


 俺たちを見つけ、一人の生徒が声をあげて駆け寄ってきた。


「無事だったんですね!」


「ええ、心配をおかけしましたわ」


 たぶんこいつが暴走して階層主の部屋に入って行ったA組の望月という生徒だろう。

 続けて教師たちが俺たちに歩み寄ってくる。


「九条さん、ご無事でなによりです。怪我は大丈夫なんですか?」


「ご心配をおかけしました。怪我の方はこちらの早坂さんに治していただきましたわ」


「それは良かった。なんとか逃げてこられたんですね」


「いいえ、階層主なら一ノ瀬さんと瀧川さんの二人で倒してくれましたわ」


「え?」


 お嬢様の説明を聞いて教師が固まる。そして俺たちを凝視する。


「君たちは一年じゃなかったか?」


「そっすね、一年D組一ノ瀬っす。他の三人も同じクラスです」


 俺に言われて、ユノ、イオリ、マイカも頷く。


「D組のくせになんで?」


「くせってなんだよ?」


「あっ、いや、どうやって倒したんだ?見たところ普通の武器しか持っていないようだが?」


「どうやってってこれで倒したんですけど?」


 俺は木刀を教師にかざす。

 それを見た教師は不思議そうな顔をしていた。その時、ホールに走って入ってきた人物がいた。

 その人物は俺たちを見て、声をあげる。


「ヒカル!無事だったか!」


「お兄様!」


 その人物は九条ヒカルの兄、生徒会長の九条カズマだった。その手には何やら強そうな剣を持っている。服装は制服のままだった。

 カズマの後ろからは副生徒会長もついてきていた。


「良かった……」


 妹の顔を見て安心したカズマ。彼がなぜここに来たかを教師が説明し始めた。


「私が連絡したんだ。一般生徒ならともかく、九条さんが遭難したとなったら大事だからね」


 さりげなく差別発言があったが、ともかく連絡が遅れると怒られるからすぐにお嬢様の兄貴へ連絡したということだな。

 その後、改めてお嬢様から生徒会長へ何があったのかを詳しく説明がなされた。

 黙って聞いていた生徒会長だったが、話を聞いて教師が俺に質問してきた。


「本当に君たちがヒュージスライムを倒したのか?」


「証拠もありますよ」


 そう言って俺はヒュージスライムを倒してドロップしたマジックジェムを見せる。

 教師は驚きながらそれを見つめていた。

 そして九条カズマが俺に質問をしてきた。


「どうやって倒したんだ?見たところ槍も弓も持っていないようだが。火魔法を使えるのか?」


「え?だからこの木刀で倒したんですけど?」


 そう言って俺はもう一度木刀をかざす。


「どういうことだ?ヒュージスライムを倒すには、槍か弓矢でその核を貫くか、火魔法で焼き殺すしかないはずだが?」


 そういうことか!俺はやっとヒュージスライムの倒し方を知った。剣で倒すにはやけに大変だと思ったんだ。ちびちび削っていくのが本当に面倒だったのだ。火魔法は使える仲間がいないから仕方ないとして、リーチの長い槍や弓矢で核を狙えばよかったのか。


「そ、そうだ!木刀なんかで倒せるわけがないだろう!嘘をつくな、嘘を!」


 あれ?教師は俺たちがヒュージスライムを倒したことを信じていないようだ。


「いや、だから木刀で表面を削ってヒュージスライムを少しずつ小さくしてから核を狙って倒しただけですよ」


「はあ?そんな倒し方聞いたことないぞ!」


 説明しても信じてもらえない。そしたらお嬢様がフォローしてくれた。


「先生、本当ですわ。彼は本当に今言ったやり方でヒュージスライムを倒しましたの」


「そ、そんな……」


 教師だけでなく、生徒会長も少し疑問に思ったらしい。


「しかしレベル2にならなければ少し荷が重いとおもうのだが……」


「あっ、それなら俺はレベル2なんで!」


「は?」


 それを聞いた俺たちクラスメイト以外の全員が驚きの声を挙げた。

 そういや言ってなかったっけ?俺がアシッドスライムを倒してレベル2になったことを。

 それを説明すると、全員呆れた表情をしていた。


「なるほど、事情はわかった。今年のD組はこれからが楽しみだな」


 生徒会長だけはそう褒めてくれたが、教師たちはまだ納得がいかないようだった。


「あ、そういえば先生。俺はレベル2になったし、第一階層の主も倒した。だからもう第二階層の探索をしてもいいですよね?」


「だ、ダメに決まってるだろう!」


「え?なんで?」


「二学期にならないと第二階層の探索はできない決まりだ!」


 まだ四月なのに入学早々第一階層主を倒してしまった俺は、二学期まで何を楽しみに生きてゆけばいいのか分からなくなってしまった……。

これにこれにて第一章、完結です!


シロウの成長を追いかけてくださり、本当にありがとうございました。

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