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東京ダンジョン学園  作者: 叢咲ほのを
第一章 迷宮と少年たちのはじまり -The Beginning of Labyrinth and Youths-
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第32話 九条ヒカル 5

「一ノ瀬……さん?」


 ヒカルは目を疑った。なぜこんなところにDクラスの生徒がいるのだろうか?不思議だったが、だが実際にそこに彼はいた。


「大丈夫か?!助けはいるか?」


 シロウの声にメイが大きな声で答える。


「助けてくれ!ヒカル様が怪我をしている!」


「メイ?っ、だ、ダメよ!危ないわ!助けに来ないで!」


 助けに来てくれたとしたら、それはとてもありがたい。だがレベル1の自分たち一年生にはこのヒュージスライムは似が重すぎる。一ノ瀬シロウも巻き込んではいけないとヒカルは思った。

 だがメイは助けを求めた。


「一ノ瀬!ポーションを持っていないか?」


 シロウはおおよその状況を把握し、部屋の中へと乗り込んできた。


「悪ぃ、ポーションはない。マイカ、誘導できるか?」


 ポーションがない事を告げると、シロウは後ろにいた仲間へと指示を出した。


「ユノ、お嬢様の怪我を頼む!イオリ、行くぞ!」


 シロウは次々と指示を出しながら部屋の中へと突入してきた。

 マイカが水魔法を放つ。一発目はヒュージスライムに、二発目はヒュージスライムのすぐ横の地面に、そしてさらにその横に三発目を。

 ヒカルはそれが何の意味があるか分からず、無駄なことをしているのかと思った。だが次の瞬間、ヒカルの目の前のヒュージスライムが動きを変え、マイカが打った水球が落ちた水たまりの方へと移動を始めた。

 ヒカルはスライムが水がある方へと移動する習性があることを知らなかったため、その挙動が不思議に思えた。

 次々と水魔法を打ち、ヒュージスライムをヒカルたちから離れた場所へと誘導するマイカ。

 そしてヒュージスライムが離れると、ユノがヒカルたちのところへと駆け寄ってきた。


「大丈夫ですか?どこを怪我してるんですか?」


「あ、あの、右足首が痛くて……」


 ヒカルがそう伝えると、ユノはしゃがみ込み、ヒカルの足首に向けて両手を開いた。


「ヒール!」


「えっ?」


 ユノが治癒魔法を唱えると、ヒカルの足首が温かい光に包まれる。


「どうですか?」


 ユノにそう言われ、ヒカルは足を動かしてみた。痛くない!ユノの治癒魔法によって、ヒカルの怪我は完治した。


「すごい、あなた、もうスキルを使いこなせるのね」


 ヒカルのいるAクラスにも治癒魔法スキル持ちはいた。ヒカルが驚いたのは、ユノがそれを実戦でつかいこなしていたからだ。Aクラスの治癒魔法スキル持ちは、まだ実際に上手く治癒ができず、練習をしているところだった。

 ユノはメイにも声をかける。


「あなたは怪我はしてないですか?」


「ああ、私は大丈夫」


 メイもユノの治癒魔法の鮮やかさに驚いていた。


「ありがとう……あなたも確か一ノ瀬さんと同じDクラスでしたわね?確か……早坂さん?」


 ヒカルは入学した日に、一度ユノと会っていたことを思い出した。


「覚えててくれたの?うれしい。私は早坂ユノだよ。九条ヒカルさん。ヒカルさんって呼んでもいいかな?」


「え、ええ。兄と間違わないように、名前で呼んでもらっても構わないわ」


「あなたの名前は?」


「わ、私は如月メイ……」


「メイちゃんだね。よろしくね」


 階層主との戦闘中だというのに、そのコミュ強ぶりを発揮して距離を詰めてゆくユノ。

 そこにマイカが駆け寄ってきた。


「ユノちゃん、大丈夫~?」


「大丈夫だよ!ヒカルさん、彼女は百田マイカだよ」


「あ、あの、百田です。よろしく……」


「早坂さん、百田さん、助けに来てくれてありがとう。お礼を言うわ。それより、一ノ瀬さんは大丈夫なのかしら?」


 こんな風に穏やかに自己紹介をしていてよいのだろうかとヒカルは思い、すぐにシロウへと視線を移す。

 そこには、勇敢にヒュージスライムに立ち向かっていくシロウとイオリの姿があった。

 先ほど自分たちが戦った時、どれだけ攻撃しても通用しなかった恐怖が蘇り、ヒカルはユノにそれを伝えた。


「ヒュージスライムには物理攻撃が効かないの。いくらあの二人が強くても……」


「大丈夫だよ!心配しないで!」


 ユノは笑顔でそう答えた。

 いやしかし、大丈夫なはずがない。

 そう思い、ヒカルは再びシロウ達へと視線を移す。

 その闘いは、二人が少しずつヒュージスライムの体を削るような攻撃をしており、そしてそれによってヒュージスライムの体が削られただけ小さくなっているようだった。


「何なの?あの戦い方は……」


 それは先ほどまでヒカルたちが戦っていたのとは全く違う戦い方のように見えた。

 シロウが振るう木刀は、高速で連続してヒュージスライムを切り刻んでゆく。イオリの剣は無駄のない滑らかな動きで、同じくヒュージスライムを切り刻んでいる。


「すごい……」


 二人の戦いぶりにヒカルは目を奪われた。

 自分と同じまだ入学したばかりの一年生とは思えない。

 それに先ほどの素早く的確なシロウの指示。四人はそれぞれの役割を分担し、ヒカルたちを救出しながらヒュージスライムと戦っていた。

 ヒカルは、それを見てこれが自分が目指したい姿だと思った。


「よっしゃ!今だ!」


 その時シロウの声が上がる。目の届くところまで来たヒュージスライムの核を、的確に木刀で突く。

 その瞬間、スライムはその体を保つことができなくなり、水となって形が崩れたあと消滅して消えた。


「た……倒したの?」


 ヒカルは驚きの声を漏らす。自分たちがいくらやっても太刀打ちできなかった第一階層の階層主を、Dクラスの生徒がいとも簡単に倒したことが信じられない。しかも戦っていたのは四人のうち二人だけなのだ。


「今度はシロウに先を越されてしまったな」


「ふふふ、イオリにばかりかっこいいところは譲れないぜ」


 シロウとイオリは軽い雑談をしながらヒカルたちの元へと歩いてくる。さっきまでの激しい戦いと違い、とても穏やかな会話をしながら。


「お嬢様、大丈夫か?」


「あ、ありがとう。本当に助かったわ」


――知らなかった。

Dクラスに、こんなにすごい人たちがいるなんて。


兄さまのように、すべてを背負える強さ。

わたしも……きっと。


今のままではいけない。

このままじゃ、あの人たちの背中は遠すぎる。


わたしも、前に進まなきゃ。


 シロウの戦う姿を見たヒカルは、何か感じるものがあった。そして心の中で、強くなることを決意するのだった。


 この時ヒカルはまだ知らなかった。

 今日のこの出会いが、彼女の運命を大きく変えていくことになることを――。

ここまでお読みいただきありがとうございます。いよいよ次話で第一章完結となります。

もし読んでみて面白いと感じたら、ブックマーク、評価をぜひお願いします!

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