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東京ダンジョン学園  作者: 叢咲ほのを
第一章 迷宮と少年たちのはじまり -The Beginning of Labyrinth and Youths-
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第31話 マイカのスキル特訓二日目

 俺たちは今日も放課後にダンジョンへとやってきていた。


 昨日はヒュージスライムとの闘いを楽しんでしまい、ダンジョンを出るのが19時を過ぎてしまった。

 基本的に放課後の探索を許されているのは17時から19時の間なので、出てくる時に入り口の受付の人に怒られてしまった。

 例年19時をオーバーする生徒はいるらしく、多少の事は目をつぶってもらった。だが毎日19時過ぎていたら教師へ連絡すると言う話なので、今日は早めに上がりたいと思っている。


「今日もがんばろうね!」


 マイカがご機嫌だ。いつもおとなしいのに珍しい。

 ニコニコした顔のマイカに、俺は何があったのか尋ねる。


「楽しそうだな、何か良いことでもあったのか?」


「え?気づかないの?」


 そう言ってきたのはユノだ。

 何か彼女の気に障ったのだろうか?


「そうだな。もうちょっとで水魔法をものにできそうだもんな。今日こそ成功させよう!」


「そうじゃなくて!」


「’は?」


 どうやらマイカの機嫌がいいのは、水魔法が上手く使えるようになりそうだからではないようだ。

 ユノに言われて、何が間違ったのだろうかとマイカの顔を見る。

 少し恥ずかしそうに伏し目がちになるマイカ。

 ……ん?


「あれっ?」


 俺はやっとマイカの変化に気が付いた。


「マイカ、少し痩せたか?」


「やっと気づいたのー?」


 俺の答えが正解だったことをユノが告げる。

 よくよくマイカの顔を見ると、昨日までのふっくらしていた顔の輪郭がシャープになっているし、体の線も昨日より断然ほっそりとしていた。

 驚いている俺にユノからお叱りの言葉をいただく。


「シロウ、鈍すぎだよ!」


「ご、ごめん、マイカ。気づかなくて!」


「う、ううん、大丈夫。でも気づいてくれてありがとう」


「それにしても、よく見ると昨日と全然違うな」


「うん……、制服のサイズも全然違っちゃって……」


 照れながら説明をするマイカ。

 魔力堆積症――体内に溜まった余分な魔力が体脂肪として蓄積されてしまうという迷宮探索者特有の体質――だったマイカ。痩せたのは昨日の探索で思い切り水魔法を使いまくったせいだろう。だとしても、びっくりするほどの変化だ。


「服のサイズが変わるのは大変だな」


「う、うん。でも学園に入ったら痩せれるかなと思って、ファスナーで調整できるように制服を作ってもらってあったから……」


 恥ずかしいのか、なんだかしどろもどろな説明を始めるマイカ。

 そしてユノが俺に声をかける。


「マイカかわいくなったでしょ?」


「あ?ああ。でも元から可愛かったけどな」


「えっ?」


 俺の答えに驚いたのはマイカだ。


「いや、痩せる前だって可愛かったじゃん?」


「そ、そうなんだ……あの……シロウ君は太ってる私と痩せてる私とどっちがいいと思う?」


「そうだなあ。まあ痩せてる方が男子にモテるだろうけど、俺はどちらかというと元の方が可愛いらしく感じるかなあ」


 何というか、ぽっちゃりしていたマイカは子供っぽさが残っていて、お菓子をあげたくなるような可愛さだった。マイカが痩せて少し大人びてきている気がする。

 俺は前世の記憶が蘇ったせいか、同級生のマイカを見て(前世の)自分に娘がいたらこんな感じなのかなあという感じがしていたのかもしれない。

 俺ちょっとおっさん臭くなっているかもしれない。気を付けよう。


「そっか……シロウ君はちょっとぽっちゃりしてる方が好きなのか……」


 マイカは小さい声でぶつぶつと独り言を言っていた。


「もー!シロウったら、素直に痩せて可愛くなったよって褒めてあげればいいのに!」


「ごめんごめん!」


 そして俺たちの中に、もう一人ご機嫌な人がいた。


「さあ!マイカ、今日も水魔法を使ってみようか!」

 

 イオリである。

 いつもクールなイオリが珍しくテンションが高い。


「イオリもなんだか楽しそうだな……」


「ああ。昨日のヒュージスライムとの闘いは緊張感があって楽しかったからな。正直普通のスライムを倒してるだけだと、なんだか作業をしてるだけのように感じてたんだ」


 イオリも俺と一緒でダンジョンが好きなようだ。

 だがイオリの場合、ただの戦闘狂なのかもしれないが。

 ちょっとイオリを見る目が変わった俺の横で、マイカが今日も水魔法を使う。

 マイカの両手の先には、野球のボールサイズの水の球体が浮かんでいた。


「お!小さくできたじゃん!」


「うん!」


「それじゃあ飛ばしてみなよ!」


「うん!」


 マイカは水球を前方へと飛ばす。

 勢いよく飛んでゆくそれは、ダンジョンの岩壁へとぶつかると、バシャっという音を立て飛散した。


「できたじゃん!」


「うん!」


 満面の笑みを浮かべるマイカ。昨日の特訓の成果がついに出たのだ。

 そこに、イオリからの質問があった。


「マイカ、昨日のように大きな水は作れないのか?」


「う、うん。やってみるね!」


 イオリに言われ、今度は大きな水を作り出そうとするマイカ。

 両手を上げ、空中にふよふよと波打つ水が現れる。

 だがそれは昨日のように風呂桶一杯分もなく、フライパンの中に入るくらいのサイズの円形の平べったい水だった。


「ん~!これ以上大きくできなさそう……」


 マイカはそう言ってその水を前方に放り投げる。

 今度は勢いもなく、バシャっとただ水をまいただけのようになった。


「これだけじゃあヒュージスライムは現れないな……」


 イオリは残念そうにつぶやく。やはり彼女は戦闘狂なのだろう……。


「でもいいじゃないか。当初の目的である、マイカのスキル特訓もうまくいったわけだし、ダイエットもできたわけだし」


「……まあ、マイカがうまくいったなら、それで来た甲斐はあったけどさ……、これで終わりじゃあ今日もダンジョンに来た意味がなくないか?」


 イオリは物足りなさそうにそう呟き、先ほど撒いた水に集まってきたスライムを叩く。そして、


「そうだ。階層主の部屋にいるヒュージスライムと戦わないか?」


 イオリが突然提案する。だがそれはダメだ。学校に無許可で勝手に階層主の部屋に挑戦したら怒られる。


「それじゃ明日学校に申請して、階層主に挑戦する許可をもらおう。俺がもうレベル2になったからOKもらえるんじゃないかな」


「今日はダメなのか……?」


 さっきまでテンションが高かったイオリがしょんぼりしている。


「そ、そうだな。マイカの魔法はもう上手く使えるみたいだし、今日は一度階層主の部屋の場所だけでも確認しに行こうか。道中スライムを倒しながらいけば、そのうち皆もレベル2になるかもしれないし……」


 俺はなんとかイオリを元気づけようと提案する。


「場所の確認だけか……」


「しょうがないだろ?」


「まあ、仕方ないか……」


 しぶしぶ納得してくれたイオリ。それから俺たちは階層主の部屋の入り口だけ見に向かう。道中の予習みたいなもんだ。時々現れるスライムを倒しながら歩くが、しかしなかなかポーションはドロップしないな。

 そして15分くらい歩いたところで、俺たちは目的地へとたどり着いた。


「あそこにこの階層唯一の扉がある。そこが階層主の……」


 俺は途中で言葉に詰まった。なぜなら、その扉が開いていたからだ。


「何で開いてるの?」


 ユノもその違和感を言葉に出す。

 一つしかないその理由を俺は呟く。


「誰か入ったな……」


「入っちゃいけないんじゃなかったか?」


 俺から散々止められたイオリが呆れるように言う。

 もちろん二年生と三年生はすでに通ってきた道なので、この部屋に入ってよいはずだ。だが二年生と三年生が今更この退屈な第一階層の探索をするはずがない。

 だとすると結論は一つ。無謀な一年生が勝手に入ったのだ。

 次の瞬間だった。

 部屋の中から走り出てくる一人の男子生徒の姿があった。

 俺はその生徒に声をかける。


「お、おい!お前何してるんだ!」


「おまえたちは……同じ一年か?俺は先生を呼びに行く!」


「は?」


 そう言い残して、男子生徒はすぐに走り去っていった。


「まだ誰か中にいるのかね?」


 俺は階層主の部屋を覗いた。


「おーい!誰かいるのかあ?」


 俺は部屋の中へと声をかけた。

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