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東京ダンジョン学園  作者: 叢咲ほのを
第一章 迷宮と少年たちのはじまり -The Beginning of Labyrinth and Youths-
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第29話 九条ヒカル 3

「はぁ、はぁ、こんなはずじゃ……」


 望月アキヒロは息が上がっていた。


「大丈夫か望月?そんな不相応な装備なんかつけるからだぞ、ふふふ……」


 そんな望月をあざ笑っているのは如月メイだ。

 メイが笑っているのは、ヒカル、メイと一緒に迷宮を探索することになり、はりきった望月が鋼鉄の剣だけでなく、プレストプレート…鉄の胸当てを購入し装備してきたことだ。

 金属製の装備は素人が思っているよりも重い。普通に装備して歩く程度のことはできるだろうが、足場の悪いダンジョンで、モンスターと戦いながら移動するには思った以上に体力を消耗してしまうのだ。

 まだ成長期である望月には、いくら男性だとは言え鋼鉄の剣と鉄の胸当ては過ぎた装備だった。


「本当に大丈夫?望月さん、やっぱりもう探索を止めて帰った方が……」


 バテている望月を心配するヒカルに対し、バカにされたと思った望月はその提案に反対する。


「何を言ってるんですか、まるで僕が二人の足を引っ張っているみたいじゃないですか」


「みたいじゃなくて、実際にそうだろう?」


 メイが望月を批判すると、望月はメイをにらみ返した。


「お!スライムがいたぞ。次は望月、きさまの番だったな」


「ふん!」


 メイがスライムを見つけると、望月が自慢の鋼鉄の剣を構える。

 今日は三人が順番にスライムを倒すという約束で探索をしていた。

 メイは望月が想像していた以上に機敏で良い動きをしており、スライムを見つけるたびに瞬殺していた。それに比べ望月はこれまでメイのような華麗な動きはできていない。


「うおお!」


 鋼鉄の剣を上段に振りかぶり、スライムへと駆け寄っていく。そして望月は鋼鉄の剣を力いっぱい振り下ろした。男の力強さを二人に見せつけるために。


 ガキン!


 鋼鉄の剣が地面に強くぶつかった音がした。

 スライムはそーっと横方向へ移動してゆく。


「くっ!」


 望月はもう一度剣を振り上げ、スライムへと振り下ろす。

 今度こそ県はスライムに当たり、スライムはその姿を黒いジェムへと変えた。


「おいおい、ちゃんと当てろよ。どんどん命中率が下がっているぞ!」


 後ろからメイの冷やかしの言葉が聞こえた。

 如月メイはこれまで目にもとまらぬ速さで確実にスライムを仕留めてきていた。明らかに自分よりも優秀だ。だが望月はそれを認めたくはない。

 そして悔しいことに、九条ヒカルも望月ほどバテた様子はない。最初はスライムを一撃で倒せず、望月はそれを大笑いした。だがヒカルはメイからアドバイスをもらいながら、だんだん動きが良くなっていた。どんどん動きが悪くなっている自分とは正反対に……。


「望月さん、疲れているのなら……」


 ヒカルが望月を心配する。それが余計に望月のプライドを傷つけた。

 このまま帰って、翌日クラスでこの事を話されたら、みんなから笑われてしまうだろう。九条ヒカルが話さなかったとしても、あの如月メイなら人前で言うはずだ。重い装備を付けて動けなくなっていたと。今朝までクラスのヒーローだった自分が、最もバカにされる存在になってしまう。それだけは避けたい。


「疲れているわけないでしょう!そもそも第一階層のスライム程度じゃ、僕の実力が発揮できないんだ。僕の実力はもっと強い敵と向かい合った時に真価を発揮するんですよ!」


「そんなこと言ったって、私たちはまだこの第一階層しか探索できないんだから仕方ないだろう」


 望月の悔し紛れの言い訳に、メイが冷たく言い放つ。

 望月は悔しくて何か言い返したい。


「くっ、君たちのように安い武器を使ってる人たちには分からないだろうね。僕のこの剣と鎧は……」


「はいはい、お高いんですってね。何回も言わなくてもわかるよ」


 からかうようなメイの声に、ヒカルが小さくたしなめた。


「メイ、言い過ぎよ……」


 口喧嘩でもメイに完敗する望月。惨めな望月を見て、メイを止めるヒカル。悔しい望月の暴言は止まらない。


「あんただって、いくら生徒会長から譲ってもらったって言ったって、ただの木刀のくせに!」


 論点をずらし、とにかく優位に立てることを探す望月。だがそんな望月に、呆れたメイの冷たいひとことが突き刺さる。


「あのな、ヒカル様がカズマ様からいただいた木剣は、銘を『紅桐こうとう』と言い、魔力浸透処理がなされた紫檀の木剣だ。鋼鉄と変わらぬ硬度と木剣ならではのしなやかさを合わせ持っているんだぞ。買うとしてもお前の剣よりも断然高いぞ。そもそもそんな簡単に手に入らないがな」


「はあ?」


 驚きの事実に、言葉を失う望月。必死で悔し紛れの言葉をひねり出す。


「だ、だって……だとしたら、なんでそれを黙ってたんだ?」


「剣がすごいかどうかなんて自慢することではないわ」


 ヒカルのその一言は、望月のプライドのすべてを否定する一言だった。

 望月はキレて絶叫する。


「いくらすごい剣だと言っても、それを使いこなせなきゃ意味がないじゃないか!」


「おまえもな」


「くっ、きさま……」


「何だ望月?男の強さを女の私たちに見せてくれるんじゃなかったのか?」


 調子に乗って望月を挑発するメイ。ずっとこの調子のため、ヒカルもメイを止めるのに疲れてきていた。

 ヒカルが止めなかったため、ついに望月はメイの挑発に乗ってしまった。


「僕の強さを見たいんだな、じゃあ見せてやる!こんなザコスライムじゃあダメだ!もっと相応しい敵が必要だ……階層主に挑戦しよう!」


「えっ?」


 レベル2になるまで入ってはいけないと教師から説明された階層主の部屋。入ってはいけないと説明されたため場所は全員知っていた。


「待って!」


 ヒカルが止めるのが間に合わず、頭に血が上りもう引き返せない状態になっていた望月はその部屋へ向けて走り出していた。

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