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東京ダンジョン学園  作者: 叢咲ほのを
第一章 迷宮と少年たちのはじまり -The Beginning of Labyrinth and Youths-
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第26話 第一階層の異変

 明らかにいつもよりスライムの出現数が多い。これは何か異常が起きているのか?


「イオリ、ちょっと待ってくれ!」


 わらわらと湧いて出るスライムを倒そうとした瀧川イオリを止める。少し観察する必要があると思ったからだ。


「どうしたシロウ?」


「スライムが大量発生している。何か原因があるはずだ。マイカのスキル練習の前にそれを探ろう。何かが起きてからでは遅いかもしれない」


「なるほど、確かに。でもまあ所詮スライムだし、そんな心配するほどではないんじゃないか?」


 そう、それはイオリの言う通りだ。大量発生と言っても所詮スライム、一撃叩くだけで倒せる。何匹湧いて出ようが、もぐらたたきの要領でどんどん倒してゆけばいいだけだ。

 と考えながらスライムを観察していると、さきほどマイカの魔法でばらまかれた地面の水たまりへとスライムが集まっているのが見えた。それを見た俺はすぐに、一つの推論に至る。


「もしかしてこいつら、水に寄せられて集まってきてるのか?」


 スライムはその体細胞上、水を好むのではなかろうか?体の水分を補給するために。第一階層に水場はない。そのためにこうした貴重な水分を見つけると集まってくる習性があるのではなかろうか。

 俺がそう考えている間にも、集まってくるスライムの数は増えていっていた。


「シロウが言う通りかもしれないな」


 イオリが水たまりにたかるスライムの群れを見ながら、俺の推論を肯定する。

 つまり、マイカが水魔法の練習で水をばらまきすぎたので、ばらまいた水にスライムが集まってきてしまったということか。

 そしてそれと同時に、俺は驚きの事実に気が付いてしまった。


「だとしたらだよ。普通の探索でスライムを探して倒すより、こうやって水を撒いてスライムを集めた方が、よっぽど効率的じゃないか?」


「確かに」


 なるほどという顔をするイオリ。

 俺の迷宮を楽しみたいという気持ちが高揚する。これはみんながレベルアップするチャンスだ。


「よっしゃ!イオリ、ユノ、スライムを倒しまくるぞ!運が良ければヒールジェムがドロップするかもしれないぞ!そしてマイカ!どんどん水をばらまいてしまえ!」


 俺の大号令により、モグラたたきならぬ、スライム叩きゲームが始まった。


 マイカの水魔法が10回くらい行使されただろうか。何回やってもマイカの水魔法は風呂桶一杯分くらいの大量の水を発生させた。すごい魔力量を溜めていたのだろう。

 俺たちの足元には、倒したスライムがドロップしたマジックジェムがゴロゴロと転がっていた。拾うよりも倒すのを優先したせいだ。何十匹倒したか覚えていないが、スライムが湧き出るのは止まる様子もない。もしかして永遠に出てくるのだろうか?

 その時、あることに気づいたイオリが俺に話しかけてきた。


「シロウ、なんかあのスライム、水を吸って大きくなっていないか?」


 イオリが指さした場所を見ると、確かに一回り大きいスライムの姿があった。


「だ、大丈夫?」


 マイカが心配して声をかける。


「ちょっと確認してくる」


 俺は確認のため、そのスライムのところへ行き、一撃を食らわせた。

 通常のスライムと同じく、一回り大きなスライムも一撃で消滅し、マジックジェムへとその姿を変えた。


「大丈夫みたいだ。所詮スライムだな」


 俺の返答に三人は安心した表情を見せる。

 このようなスライムの大量発生は今まで聞いた事がない。だから何が起こるかも予測がつかない。気を付けるに越したことはないだろう。

 それにしても、これはマイカの多大な魔力量があってのことだ。水魔法を使える人でも普通の魔力量なら野球のボール程度の小さな水球を数回飛ばすのが精一杯だろう。こんなに地面をびしょびしょにするほど水を出す人なんていないはずだ。

 しかしたかがスライムと油断せず、もう少し慎重になっても良かったかもしれない。


「ところでマイカ、魔力操作はどうだ?少しは小さな水球を出せそうか?」


「え、う、うん、じゃあちょっと挑戦してみるね」


 そう言って、マイカは小さな水球を出そうとしてみた。

 マイカの目の前にふよふよと水の塊が浮かぶ。それはこれまでの大量な水ではなく、バスケットボールほどの大きさまで縮小化が進んでいた。


「だいぶコントロールできるようになってきたじゃん!じゃあそれを前に飛ばしてみなよ!」


「う、うん!」


 俺の指示に従い、マイカは浮かべた水球を飛ばす。

 スピード感はないが、両手でボールをトスする程度の速度で、水球は前方へと飛んで行った。


「ま、まだまだだね」


 攻撃魔法になるには、この水球を魔物にぶつけてダメージを与えられなければならない。今の速度ではなんのダメージを与えることはでいないだろう。


「すごい進歩したじゃん!」


 横からユノが歓喜の声を上げた。

 まだ攻撃魔法と呼べるほどに至ってはいないが、最初よりも格段の進歩を見せたのだ。


「もうちょっと頑張れば攻撃魔法として使えそうだな!」


 そんな俺の言葉に、マイカは微笑みながら照れ笑いを浮かべた。


「シロウ!」


 その時だった。イオリが焦る声で俺の名を呼んだ。俺が振り返り、イオリが指さしていた方向をみると、そこには先ほどよりもさらに一回り大きなスライムの姿があった。


「なんだありゃ?」


 そうしている間にも、そのスライムは地面の水たまりから急速に水を吸収し、水たまりが消えるとそのスライムの体は一回り大きくなっていた。水だけに飽き足らず、近くにいた普通のスライムまで吸収して巨大化していっている。


「なんかヤバいんじゃない?」


 不安そうなユノの声を聞きながら、俺の頭の中には目の前の魔物について思い当たる名前があった。


「ヒュージスライム?」


 その名前は他の三人も聞いたことがあったはずだ。


「それって、第一階層の階層主ってやつ?」


 ヒュージスライムについては授業で軽く説明があった。一学期後半になればもう少し詳しい説明があるだろう。各階層にいると言われている階層主という名のボスモンスター。ヒュージスライムはこの第一階層の階層主であり、階層主の部屋と呼ばれる場所に行くと遭遇し、倒すことによって第二階層へと続く階段がオープンする。


「でもここって階層主の部屋じゃないよね?」


 マイカが怖がりながら、俺にそう問いかける。

 そう、ここは階層主の部屋ではない。学校の許可がなければまだ階層主には挑戦してはいけないことになっている。そして階層主がその部屋から出てくることはない。だとすると、こいつは同じ種類ではあるが、階層主ではないのだ。


「たぶん俺たちが水を撒いていたら、その水分やザコスライムを吸収した個体が進化したんじゃないかな」


 俺の予想はたぶん当たっているだろう。

 俺たちは学校の指示を守っていたが、仕方なく階層主と同じモンスターと遭遇してしまったのだ。

 目の前にいるモンスターがヒュージスライムだと理解したユノが、困惑した声をあげる。


「どうしようシロウ?だってレベル2にならないと階層主とは戦っちゃいけないって言われてたじゃん?」


 そう、それは担任から口うるさく言われたことだ。いくらスライムでは物足りないからと言って、勝手に階層主の部屋に入ってはいけないと。ヒュージスライムはレベル2になって初めて戦ってよいと言われているのだ。

 だが俺たちにとってその事実は特に大きな問題ではなかった。


「大丈夫だ」


「何で大丈夫なのよ?」


 自信満々の俺に対してユノが問う。ならば俺は答えよう。


「なぜなら俺はレベル2だからだ!」

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