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東京ダンジョン学園  作者: 叢咲ほのを
第一章 迷宮と少年たちのはじまり -The Beginning of Labyrinth and Youths-
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第21話 職員会議に呼び出された

 職員会議に呼び出された俺は、真島に連れられこの会議室へと入室した。

 職員会議は職員室でやっているものと思っていたが、この学園には職員室と別に会議室というのがあるらしい。前世の記憶と比べても今世の記憶を基準にしても、この学園は建物自体もやたらとでかい。こういうなくてもいいけど、あると便利な部屋が他にもたくさんありそうだ。部室とか。


「一ノ瀬を連れてきました」


 真島に紹介されて、会議室の前方へと案内されると、室内の全員の注目が俺に集まる。

 呼び出された理由は分からないし、何も悪いことをした自覚はないのだが、なんか緊張してきた。


「わざわざ呼び出してしまってすまないね一ノ瀬君」


 そう言ったのは校長だ。

 入学式で顔は見たが、直接話す機会があるとは思わなかった。


「実は昨日のダンジョン授業の事故の件でね、君にいくつか確認しておきたいことがあるんだ」


「昨日の?」


 昨日の初めてのダンジョン探索の授業で、落ちてきたスライムでパニクった紫村に崖に落とされたことか。怪我したのは痛かったが、アシッドスライムを倒したお陰でレベル2になれたし、前世の記憶も取り戻せた。俺としてはネガティブな出来事ではないのだが。


「まずは授業中に大怪我をさせてすまなかった。学園を代表して謝罪させてもらう。申し訳なかった」


 校長はそう言って深々と頭を下げた。俺はその姿を見て慌ててしまう。


「校長先生、頭を上げてください!俺はこの通り大丈夫です」


「結果的に怪我は完治したようだが、もしかしたら君が死んでしまう可能性もあったんだ。私は学園の責任者として責任を感じている。本当にすまなかった」


「分かりました。校長の謝罪を受け入れますから、頭を上げてください」


 あれは不幸なアクシデントだから校長が責任を感じることはないと思うのだが、学園としては生徒を安全にレベルアップさせるように運営しているので、アクシデントもあってはならないことだという認識なのだろう。俺は安全な迷宮探索なんてないと思っているし、校長が謝罪するほどのことじゃ無いと思う。どちらかといえば校長よりも引率していた担任の真島の方が責任が重いと思うのだが、こいつからはまだ謝罪の言葉が無い。


「ありがとう一ノ瀬君。君たちから聞いた話と、君が付けていたダンジョンレコーダーの映像を確認させてもらった。まず転落の原因だが、あれは明らかに紫村君の過失だ。君が望むなら、紫村君を過失傷害で訴えることもできる。学園としてはできれば穏便に済ませてもらいたいのだが、一ノ瀬君の意思を確認させてくれないか」


「過失傷害?いや、あれは俺があいつを助けたからで、あいつのミスで俺が落ちたわけじゃないですよ!」


「それじゃあ、一ノ瀬君としては紫村君を訴えるつもりはないということでいいんだね?」


「もちろんですよ。こんなことでクラスメイトを訴えるつもりはないです」


「ありがとう。そう言ってもらえるなら、今回の件は大事にならずにすみそうだ」


 ダンジョンの中と言っても無法地帯ではない。その国の法律が適用される。ダンジョンの中で犯罪を犯せば法律によって裁かれるし、怪我をさせたら傷害罪になってしまう。

 その証拠を残すためのダンジョンレコーダーなのだが、今回の件は紫村に対して訴えるとかいうのはありえないことだ。

 だが人によっては今回のようなケースで訴える場合もあるのだろう。やはり俺は誰かとパーティーを組むのは面倒くさいと感じてしまう。基本的にはソロでやっていきたい。


「次の話なんだが……」


「まだあるんですか?」


「ああ、時間を取ってしまってすまないね。崖からの転落した後の話だ。君を襲ったアシッドスライム。あれは本来もっと下の階層で出現する魔物なのだが、実はこれまでも第一階層で、アシッドスライムやポイズンスライムが現れたことが確認されていた」


「いわゆるユニークモンスターですね?」


「ああ。一匹だけいる特殊な個体だ。ポイズンスライムについては討伐済みだったのだが、アシッドスライムに関しては、これまでも倒そうとしたことが何度かあったのだが、あの個体は臆病であまり人前には現れないし、見つけたとしてもすぐに逃げ出してしまっていたのだ」


「臆病?めっちゃ攻撃的でしたけど?」


「うむ。君を執拗に攻撃していたのは不思議だったのだが、君が大けがをしていたため弱そうに見えたのかもしれない。そういう意味では不幸が重なった事例だった。今後は、今回のようなことがあるということを踏まえて、指導を行っていきたいと思っている」


「……」


「次は、そこにいる真島先生についてだ」


「?」


「実は君たちがダンジョン探索をしている間、真島君は生徒の引率を放棄して、ダンジョンを出て食堂でコーヒーを飲んで休憩していたのだそうだ。だから君が崖に転落して、紫村君たちが助けを呼びに行った時、真島君が見当たらなくて探すのに時間がかかってしまったらしい」


「それは……まさか第一階層で大けがをする者が出るなんて思わなかったもので……」


 真島がとっさに言い訳をする。

 確かにその通りだが、だからといって自分の仕事を放りだすのは間違っているだろう。


「それは俺じゃなくて学園が処分を決めるべきじゃないんですかね?」


「ああ、その件についてはそうだね。それでだね、崖に落ちたと聞いて縄梯子を用意して助けに行ったのはいいが、怪我をしていると想像できたはずなのにポーションも持たずに行ったこと」


「それは!急いで助けに行かないといけなかったので……」


 必死で言い訳をする真島を、校長は無視して話を続ける。


「そして極めつけは、君が入手したランク4ポーションを、売れば1000万円はするということを伝えずに使うことを促したことだ。君にはランク4を使わずに怪我を我慢して真島君に救出してもらい医務室で治療を受けるという選択肢もあった。もしそちらを選んでいれば、今、君の手元には現金1000万円があったんだ」


「まあそれは確かに多少の後悔はありますけど……」


「私たちは真島君の責任も重いと考え、いくらかは君に弁償させるべきという意見もある」


「そんな!使ったのは一ノ瀬自身の判断です!私は関係ない!」


「まだ一度もポーションを見たことすらない生徒に、説明の義務を怠ったのだ。教師としての義務を果たさないで、なぜ生徒に責任を押し付けられる?」


 校長に怒られ、真島は委縮する。

 こいつ、なかなかの無能な教師のようだ。

 やはりしょせんDクラスということで、こういう無能な教師が担任としてあてがわれているのだろうか?

 俺は真島の反応に呆れてしまった。

 だが、校長の提案した、ランク4ポーションの弁償は言い過ぎだと思う。

 実際ランク4を使ったおかげで、怪我が治っただけでなく記憶もよみがえり、結果『スキル偽装』のことを思い出すことができた。まあ使い物にならないスキルではあったが、ランク4を使わなかったら永遠に忘れたままだったかもしれないと考えると、今回ランク4を使ってよかったと俺は思っている。だから、


「まあ弁償はしなくていいですよ」


「本当か一ノ瀬!」


 真島が嬉しそうにそう言う。こいつが嬉しそうになるのはちょっと癪だ。


「いいのかい一ノ瀬君?」


「まあ将来がんばってもっと稼ぎますよ」


 迷宮探索者はレベルが上がるほど儲かる。第一階層でスライムを倒しているだけでは数百円しか稼げないが、がんばっていけば一千万円もそう遠くない未来に稼げるようになるだろう。だから今回逃した一千万円はもったいないと思わないようにする。


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